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第5話:襲撃

 先に立って歩く雷雨ライウを追う傍ら、フユは道中に存在している民家へも適時視線を向けていく。

 見える範囲に真新しい家屋はなく、それぞれにある程度の時間経過を感じさせるものばかり。

 外から移住してくる者がいれば新居を立てるか、古い家ならリフォームをするのが一般的だろう。そうした手の入りを感じないため、昔からの住民だけで閉ざされた生活をしている空気がある。

 天気が悪いといっても、昼間に往来する者を一人として見ないのもおかしい。

 雷雨がボヤいていた部外者に無関心というよりは、島外からの人間を警戒し、距離を置いている気が冬にはしていた。

 閉鎖的な湖上の独島。渡るには冬自身がそうしたように、湖岸からボートを使い自力で入るよりない。何かを隠すには理想的な立地とも考えられる。


「なんだか雲行きが怪しいな。思った以上に厄介な仕事かもしれない」

「まぁワイらも、護衛対象とまだ口も利けてへんよって。ホンマにただ傍で見とるだけや。楽は楽やけど、ちぃと気味悪いで」

西葛ニシカズラ将軍からは、どう聞いてる?」

「琵琶湖の沖島に行って、枝和エダワ太砂タイサを護れ。そんだけや。誰から、何時までなんか、詳しいことはなーんもナシや」

「僕も太砂君について何も教えられてない。仕事内容は現地で確認ということだし。僕の啓示けいじが必要とは言われたけど」

「天下の四敬将軍に名指しで頼まれたら嫌と言えんわ。ワイの啓示は防御型、猫山ネコヤマの啓示は攻撃型や。冬のは後方支援型やったか?」

「そんな感じだね。それぞれに役割分担を企図して人選してるみたいだけど」

「せやかて、現場になんも伝えてへんのはどういうこっちゃ。最初は強く当たって後は流れでっ、ちゅうんか?」

「もしくは僕達が敵に捕まっても、情報を抜かれないようにしているか。何も知らなければ割る口がないからね」

「アカン、悪い想像しか出てけぇへん。巧くやれば将軍に恩売って、出世街道大爆進。人生安泰マングースやと思うて、気楽に受けるんやなかった」


 雷雨は盛大に肩を落とし、脱力の仕草で背を丸めた。

 長々とした溜息も後に続く。

 期待通りにいかない現状を嘆きつつ、額に手を当て天を仰いだ。

 万事が芝居がかっているというか、オーバーアクションな男である。


「今の太砂君の状態が将軍にとって想定外なのか、それとも折り込み済みなのか。それによっても取るべき対処が変わってくるだろうね」

「そもそも何者なんやろなぁ。護衛がいるっちゅうことは、偉いさんの関係者なんか?」

「西葛将軍が個人として持ってきた話だから、入り組んだ背景がありそうだ」

「将軍の隠し子なんちゃう?」

「子供だったとしたら大きすぎるよ。何歳で産んでるのさ」

「歳の離れた愛人とか?」

「だったら尚更誰にも関わらせないでしょ」

「そらそうか」

「現時点ではどうとも言えない。啓示で固まってしまうのが珍しいことでないなら、じきに解けて日常生活へ戻る筈だ。その時を待って本人に聞いてみるしかないね」

「そうやな。島のもんはどーも非協力的やし、頼れるんはワイら自身だけやで」


 初対面ながらも任務を同じくする軍人同士、冬と雷雨が打ち解け合うのは早い。

 出会って間もない関係だが、既に仲間意識と気安さが生まれている。両名の性格に依る部分も大きく、能力的観点のみならず協調のスムーズさも考慮される配置だった。

 どれほど優れた人間を集めても、根本的に反りが合わなければチームワークは発揮されない。特に少数でことに当たる場合は、部隊の軋轢が任務の成否にさえ直結しかねない。人員間の予想影響含め精査した采配なのだと、二人もやり取りを交わす過程で理解する。

 そうして言葉を重ねつつ歩いている時、彼等の進路上に一羽の鴉が舞い降りた。


「お、なんやカー公が来たで。餌んなるもんは持ってへんけどな」

「いや雷雨、なにか様子がおかしい」


 浅く笑う雷雨に冬が注意を促した瞬間、鴉の体へ異変が起こる。

 突如として羽毛が抜け落ちだし、合わせて全身が盛り上がり膨張を始めた。

 クチバシが罅割れて口部が引き裂け、細い足が異様に蠢き太くなっていく。

 見る間に人間大にまで巨大化すると、全ての羽が無くなり、代わりに重厚な筋肉で覆われた怪物が誕生した。

 さながらローストチキンの化け物である。

 異形に変態を遂げた鴉は、耳障りなガナリ声で鳴き上げるや駆け出した。

 驚き抱くも身構える二人に向け、全力で突進してくる。

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