悪役令嬢のヒロインを断罪する前に牢屋に籠もらせていただきます♡
(不味いですわ!!早くしないと1限目が始まってしまう!!)
私こと、フワフワで長い金髪、美しい桃色の瞳の子爵令嬢マリア・フロリアムは寝坊して遅刻寸前だつた。
「きゃあっ!!」
「!!!」
走って角を曲がろうとしたら人にぶつかってしまった。
「痛たた、あっ、大丈夫ですか?」
私とぶつかったのは長い黒髪で栗色の瞳をした、見た目が超地味な伯爵令嬢クロリア・アスカルト。我が国の第2王子の婚約者だ。
(あぁ、何か既視感があるわ…。この後、私が『コイツがぶつかってきたわ!!』って騒ぐのよね。あれ?何で分かるのかしら?そうだ…この世界は前世で読んだネット小説の中だわ!!しかもこの小説の国境に近い学園が舞台で悪役令嬢が主人公。卒業パーティーの人が集まる中で第2王子のケール様と私でクロリア様を『マリアに悪質な嫌がらせをした罪』で国から追放し、クロリア様は隣国の王子と結婚する。その後、追放した私達をこの国の王様の前で断罪して断頭台に登らせる。って言う物語だったわね。となると私は…死ぬ!!!!転生出来たのにまた死ぬのは嫌だな…。でも、この出来事(私が走ってクロリア様にぶつかる)があったのはクロリア様を追放する前日!!ど、どどど、どうしましょう!!?取りあえずぶつかった事を謝りましょう!それが良いわ!)
「私の不注意でぶつかってしまい申し訳ありません!!」
貴族は絶対にやらないであろう床に頭を擦り付け、完全完璧な『土下座』をする。
「あ、頭を上げてください…!私は怒っておりませんので、それよりお怪我は御座いませんか?」
「あぁ、何とお優しい!!私はゴミの化身みたいな汚れた者なのに…!そんな私の心配をしてくれるなんて…!!」
この会話を見れば分かると思うが私の前世は何ていうか、良い意味で『謙虚』悪い意味で『自分を卑下する』性格だった。更に細かく言えば『決めた事はやる』気質でそれに拍車を掛けていた。その性格による『私はゴミです』発言にクロリア様は大分引いていた。それはそうだろう。傲慢で自分勝手な貴族、ましてはクロリア様を目の敵のようにずっと睨んでいたマリアがこんな事を言うなんて思ってもいなかっただろう。
「君達何してるんだ!?もうとっくに1限目の鐘は鳴っているぞ!!」
「すいません。直ぐに教室に向かいます」
クロリア様が教師に向かって謝る。
「そんな…!私が時間を取ってしまったばかりに…。私は命を絶とうと思います」
因みに前世は尊敬している会社の先輩に『お前要らないから自殺したら?』と言われた直後に会社に置いてあったハサミで自殺したのが死因だ。
「い、命を捨てては駄目です!!」
「止めてくださるのですか…!私ごときに…!そんなに寛大でお優しいなんてまるで女神ですね…!」
お世辞ではなく本気で心の底から思った。
「『私ごとき』なんて言っては駄目です!!貴方の尊い命を大切にして下さい!!」
「はい…!」
膝を床につけ拝むようなポーズで返事をした。
誰がどう見てもヤバイ奴である。
◇◆◇◆◇◆
教室に到着し、先生から説教と反省文を書かされ、あっと言う間に夕方になった。
(学生は大変だな…。じゃない!どうしましょう、明日の卒業パーティーでクロリア様は国から追放される…!嫌、待てよ。私が関わらなければ良いわよね…?そうすれば、私の言質が無いから証拠不十分で国から追放は出来ないはずだわ。サボっても呼ばれたら行くしか無くなってしまうし…。そうだわ、この学園の地下にある牢屋に行きましょう!!そして、そこに籠もりましょう!そうなると、明日の朝早にコソッと寮を抜け出しす準備をしなければ…!)
先ず、鞄と装飾のない黒いローブを用意した。ローブは直ぐ着れるように分かりやすい場所に置き。鞄には水とパンとお金を大量に入れた。これで最悪逃げられる。
「これで、良いんじゃないかしら?ふぁぁ、もう寝ましょう」
◇◆◇◆◇◆
翌朝5時に起き、ローブに着替え、鞄を持つ。コソコソと寮を抜け出し、地下に行ける階段を降りる。
(牢屋はどう開けようかしら…?確か、ここの牢屋は1つしか無くて囚人全員を同じ牢屋に捕まえているのよね…。あ、そうだわ。見張のとこから鍵を盗んで、牢屋に入ったら穴から手を出して鍵を閉めれば良いわ!)
早速、作業に取り掛かる。見張の所から牢屋の鍵を盗み、囚人が捕まっている牢屋に入る。そして穴から手を出し鍵を閉める。
「失礼。皆さん」
この牢屋に4人入っていた。
「な、なんじゃ!!?」
いち早く気付いたお爺さんが目をひん剥き私を見てきた。
「あ、新しく捕まったのかお嬢ちゃん…?じゃが、お主は自分から入って来たよな…?」
「ええ、少しの間居させてくれないかしら?」
「か、構わんが…」
「ありがとう御座います」
私達のやり取りに気付いた全員が布団から起き上がる。
「あっ、皆さんパンと水はいかが?」
鞄から大量のパンと水を取り出す。
「えっ?」
「お嬢さんも捕まったのか?」
「いえ?私は、パーティーで人を断罪しようとしているのが嫌で逃げてきたわ」
「なら、部屋でも居れば良いじゃないか」
「部屋に居ると万が一、人に見つかったら引きずり出されてしまうわ」
「な、なるほど?まぁ、パンと水は頂くぜ」
私は各々にパンを3つずつ渡す。それでも鞄には後パンと水それぞれ20個は残っていた。
◇◆◇◆◇◆
「あぁ、食った食った!」
「美味かったな!」
「俺等は全員冤罪で捕まってるのに飯も1食だしな!」
(冤罪か…。可哀想だな。でも、私じゃどうにも出来ないし…)
「お嬢ちゃんや」
お爺さんがパンと水を食べ終わった途端に話しかけてきた。
「どうしました?」
「少しの間、儂の話を聞いておくれやしないか?」
「あぁ、全然構いませんよ」
「ありがとう。儂がここに居る理由は嫁を守ろうと貴族を刺したからなんじゃ。その貴族は突然儂らの家に来て、儂らに『金と作物がまだ届いてないぞ!!』って怒鳴り散らした。儂は農家では無く商家だったからあげられる作物も無く只々、その怒号を聞いていた。その貴族はその後『金と作物が無いなら女を貰っていくぞ』と嫁の手を強引に引いて連れ去ろうとしたから、儂は咄嗟に売り物のナイフで横腹を刺した。それで、殺人未遂でここに居る。儂にも丁度お嬢ちゃんと同じ年の孫が居たから聞いて欲しかったんじゃ…。それに、後少ししたら儂が刺してしまった貴族が来る…。儂はここから出たいとは思うが、アヤツの横暴はもう沢山じゃ…」
「おい!俺を刺した爺さんは何処だ!!!」
若い男性の怒鳴り声がする。
「あぁ、今怒鳴ってる奴が儂が刺してしまった貴族じゃ」
「そうなんですか…。では、お爺さんの代わりに私がクソ貴族に怒鳴って差し上げます」
「え?」
「爺〜さん!来てやったぜ?少し殴らせろや」
子爵の1つ下の男爵の若い男性。
「ちょっと、貴方!!お爺さんのお嫁さんに手を出したんでしょう!!ひっっっどいですね!!!最悪!!クズ野郎!!私よりゴミ!!貴方が殴られた方が良い!!」
取りあえず思いついた罵詈雑言を貴族に浴びせる。
「何だと!!?んん?お前…嫌、貴方様はマリア様ですか?」
「はっ!ん゙ん゙っ、あ゙ーあ゙。ん゙ん゙、わたしゃ、ただの老婆じゃあ゙〜!」
しゃがれた声で惚ける。
「「…………」」
絶妙な空気が流れた。
「マリアですからどうか沈黙しないで!!」
「そうですよね!?マリア様ですよね!?どうか、無礼をお許しください!!」
「許してあげますが条件があります。このお爺さんに謝り、もう2度と横暴な態度を取らない事と殴らない事を約束して下さい!!」
「分かりました。お爺さん、申し訳ありません。もう2度と横暴な態度を取らない事と殴らない事をサーバ・サニルエムの名に置いて誓います」
「その言葉を忘れないようにして下さい!!」
「は、はい〜〜!!」
頭をあちこちにぶつけながら走って帰っていった。
「お嬢ちゃん、ありがとう。儂の気も済んだわい」
「良いんですよ、お礼は。私がモヤモヤしたからやっただけなので」
「優しいなぁ」
「さっさと、歩け!!」
「か、髪を引っ張らないで下さい!!」
「「「ん?」」」
衛兵に髪を引っ張りながら来たのはクロリア様だった。
「キャアッッッ!!」
そのまま、私達が居る牢屋に投げ込まれる。
「クロリア様!!!?」
「え?何でここにマリアさんが居るの?」
私は『ヤバッ!』っと言う気持ちが顔に全て出る。
「え〜っと、ぱ、パーティーが嫌で…」
「そうなの…?」
「そうです!あっ、クロリア様。少し良いですか?」
「いいけど…」
「私達でこの国から逃げましょう」
「えっ!!?分かったわ!」
「よろしいですか?」
「勿論!」
「良かったです。皆さんはどうしますか?」
「逃げるのを手伝うぜ!」
「老いぼれで良ければ同行させてくれ」
「逆について行って良いのか!?」
「あぁ、勿論一緒に行きたい!」
「決まりです!」
穴から手を出し鍵を開ける。
「さぁ、逃げましょう!」
「あぁ!」「おう!」「はい!」
牢屋から抜け出し、近くの森に入る。
「この学園から直ぐに国境が有るはずです。少し歩きましょう」
私を先頭に歩く。
「失礼かと思いますが、クロリア様はどうして牢屋に連れてこられたんですか?」
「ケール様を陥れようとした罪よ。全て言い掛かりなんだけどね」
「酷いですね。女神の様に優しいクロリア様を…」
「お嬢さんの言うとおりだ!」
他の皆もうんうんと頷く。
「それより、この方達は…?」
「全員、貴族の野郎に嵌められたり、冤罪を被せられてあそこに居た!後、俺の名前はラハだ!」
「僕はサイ」
「我はカーク」
「儂はダーリア」
「そうなんですね…。我が国の貴族に…。申し訳ありません」
「謝んなよクロリアさん!俺等はもう仲間だぜ!」
「ありがとうございます…!」
「ここで一度、昼休憩にしましょう」
「そうね!」
鞄からパンと水を出し皆に配る。
◇◆◇◆◇◆
「食べ終わったから、また歩きましょう!」
「ねぇ、何でマリアさんは国境への行き方が分かるの?」
「私はパーティーが終わったら逃げるかも知れなかったので道筋を覚えてきました」
「す、凄いわね…」
「あはは。私、記憶力は良いんです。大体目を通せば覚えられる…。でも、こんな能力要りませんけどね…」
「いいえ!!才能だわ!その能力は必要なのよ!!そうだ!私、隣国に着いたら結婚する相手がいるんだけどその…マリアさんさえ良ければ私の補佐をしてくれない?」
「貴方をずっと睨んでいた、こんな私で良いんですか!?」
「『こんな私』じゃなくて『素敵な私』って言ってあげてよ?昔の事は昔の事。それに、私がこう言ったんだから貴方は素敵なのよ?」
「あ、あ゙りがとうございまず!!」
「お嬢さん。泣いてんのか?」
「大丈夫か?」
「転けたか?」
「そっとしておいてやれ」
(やっと、認められた気がする…!)
◇◆◇◆◇◆
「国境に辿り着いた〜!」
皆でバンザイして喜ぶ。
「居たぞ!!」
隣国の王子が乗った馬車が近付いてきた。
「クロリア!!無事か!!?」
「あ!アーサー!!」
(あっ!ネット小説で見たクロリア様の未来の婚約者!!そうそう、この第1王子はクロリア様に戦争の時、助けてもらってそこから愛が育まれたんだよね。互いに想い合っているなんてロマンチックだなぁ〜)
「マリアさん達が助けてくれたの!!」
「そうか…!礼を言う」
「礼は要らねぇから俺達に仕事をくれ!」
「僕も!」
「我も…」
「お主ら、相手は王族だぞ。仕事は儂も欲しいが…」
「ハハハ、良いぞ!仕事位なら紹介できる!」
「あざます!」
「ありがとうございます!」
「助かります」
「有難うございます…!」
「構わん!そちらのご令嬢は…?」
「前世の記憶が最近戻ったマリア・フロリアムです!!!」
「え?前世の記憶があるの?」
クロリア様が恐る恐る聞いてきた。
「はい!!」
「日本って分かる?」
「はい!前世に居ました!」
「本当!!?」
(そう言えば、クロリア様の設定は日本から来た子だった…!)
「あの…よろしければ、後でお茶会でも…」
「はい!」
「仲が良さそうで何よりだ!」
__その後、クロリア様とアーサー様は結婚し、小説の内容通りにケール様を処刑。(私は関与していなかったから処刑されなかった)
元囚人の皆はそれぞれ今の王様に与えられた仕事をやっているらしい。たまに顔を合わせて話をした時は愚痴を言いつつも皆、生き生きとしていた。
かくいう私はクロリア様の王妃補佐の仕事につき今も楽しくやっている。3年位でクロリア様のお腹は膨らみ、新しい命が来る…
『とても、とても待ち遠しい』
ここまで読んで下さった皆様には感謝しか無いです!!
面白かったな良いなと思ったら☆と私が書いている連載小説『悪魔と自殺した俺』をよろしくお願いします!




