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05.推しに会えたのなら悔いも未練もない。

 その後、体を震わせてしこたま泣いている私を見ながら、ひそひそと一凛ちゃんと神薙くんは何かを話していた。

 多分、本当に穢れか魔物がついてないか相談してるんだろう。


 ごめんね、ごめんね。

 もう少しで落ち着かせるから。


 と、私は思いながら、いい加減泣き止まないと。

 こんなんじゃ、最推しに会ったら私どうなんだよ。

 と、ずびっと鼻水をすすり上げ顔を上げた。


 涙を拭い、はーっと息をつく。

 ちらりと二人の方を見た。


(うわー……まじで神薙くんいるよ……メカクレverだけど……)


 私は体育座りしながら、ぼーっとする。


 うん、少し慣れてきた。

 本当にイラストレーター、ユキ。先生の神薙くんがそこにいる。

 かっこいいなぁ……美しいなぁ……。


 と、眺めていたら、一凛ちゃんが恐る恐る近寄ってきた。


「あ、彩衣ちゃん……大丈夫?」

「うん、大丈夫。ごめんねー、心配かけて。神薙くんも」


 あはは。と、笑いながら立ち上がる。


「あの……私の心配はなくなったんだけど……お祓い……してく?」


 一凛ちゃんが困った様子で言う。


「あー!いいよいいよ!ちょっと今日、私、情緒不安定なだけだから!ほら……あれなだけだから」


 と、そうではないが最後は一凛ちゃんに小さく小声で言い、安心させようとする。


「あ、そっか。よかった。」


 一凛ちゃんはほっとした様子だ。

 よし!任務完了!


「……神薙くんもごめんね!なんか変人相手にさせて!」


 あはは!と笑って前に行く。

 だが、やはり、まともに顔は見れない。


「いや……俺は大丈夫だけど……」



(神薙くんの声が耳にいいいいい!!!!)



 私はしゃがみこんでまた泣き叫びたいのを必死にこらえた。

 もうほんと限界。早くここ離れよう。


「じゃあ、私、帰るね!あ、一凛は神薙くんが送ってあげて!またね!」


「え!あ!彩衣ちゃん!」


 困ってる様子の二人を置いて、私は階段を駆け下りる。

 ハッピーエンドに向けての応援だー!


 というか、一人になりたかった……だって……。





「うっ……うううあああああ!」



 私は階段を降りて少し走り、止まり、歩き出すと……私は声を上げて泣き出した。

 たまに通り過ぎる人が何事かと見ているが気にしない。

 だって……だって……こんな時に正気を保ってなんてなんかいられない。




 二次元の推しに会えたのだから。




「かっこよかったよーーー!美しかったよーーー!!尊かったよーーーー!!!」



 私は歩き、泣きながら嗚咽と共に叫ぶ。

 そして袖で涙を拭う。



 嬉しい。

 嬉しい。



 こんなに嬉しいことってあるだろうか。



 20代後半で死んじゃったのは悲しいけど。

 この世界に転生できたのなら、悔いも未練もない。


 本気でそう思った帰路だった。

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