表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?  作者: 山下小枝子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/24

81~90話

 81.みんなが女子トークならぬ男子トークしてたら面白いな。



 その後、またもや見つかる予定ではない巻物探しをしていると、七斗くんと臣先輩が夕飯作りにさって行った。


 夕飯楽しみにしててねー!と、臣先輩はめっちゃ嬉しそうだった。

 ある意味夕飯が怖い。


 その後、三人で探していると・・・・。


「なぁ、本当に明日の朝、帰るのか・・・。」


 と、麻日くんが聞いてきた。


「え?うん。一時帰宅。お母さんとの約束だから。」

「・・・・そっか。」


 何?そんなに淋しいの?ちょっと朝日くん、いい加減にしてよー。

 おばさん嬉しいじゃんー。と、思っていると、


「赤ん坊か・・・・。」


 と、二階の狭いスペースで探していた彪斗くんがボソっとつぶやいた。


「ああ!?」


 麻日くんが案の定噛みつく。


 あーあーあー。やめてやめて。

 私は心の中でつぶやく。


「・・・・・・。」


 彪斗くんはガン無視。


「おいてめぇ彪斗!お前、あれだろ?ちょくちょく俺に突っかかってくるのは羨ましいからか?お前は無愛想だからろくに会話もできねーもんなー!」


 お?お?なんだこの展開。


「・・・・・。」


 彪斗くんが立ち上がる。

 麻日くんがかまえるが・・・・。


 階段を下り、蔵の外へと行ってしまった。


「なんっっだ!あいつ!!!!!」


 麻日くんはダンダンと床に足を叩きつける。


「あーあー、ほこり立つから。喧嘩売るのやめなよー。」

「売ってきたのあいつだろ!」

「まぁそうだけど・・・・。」

「なんなんだよ!あいつだって・・・!」


 と、言いかけて言葉を止める麻日くん。


 え?あいつだって?


 後に続く言葉は・・・え?何?期待していいのそれ?

 それとも麻日くんの勝手な思い込み?

 それとも男子トークでもたまにしてんの?

 なんなの?激しく気になるんだけど・・・。


 と、思いながら私は立ったほこりでせき込んだ。


「あ、わり。」

「うん、大丈夫・・・でも、後先考えようね。」

「・・・・おう。」


 もう本当、母と息子だな。と、思いながら私はほほえむのだった。




 続。




 82.ご飯はおいしいが作った人は残念だ。



「わー!すっごーーい!」

「マリア!今日は腕によりをかけたよ!」


 座卓の上を見て声を上げた私に、臣先輩は近寄ってきて背後から私の両肩をつかんで嬉しそうに言う。


「はい!すごいです!ありがとうございます!」


 私が嬉しそうに満面の笑みで返すと、


「っ・・・・七斗!」


 臣先輩は目元を押さえながら台所付近にいた七斗くんの元に行ってしまった。

 ちょ、先輩。泣くなよ。


「おー、うまそー。」

「うまそー。」


 と、食べ物に目がない二人がやってきてそわそわしている。


「つまみ食いしたら殺すよ・・・マリアが一番先に食べるんだからね。」


 臣先輩が久しぶりに私以外にドス黒オーラを出して、2人を威嚇した。

 2人は見たことのない臣先輩に驚いて、つまみ食いはしなかった。

 ほらみろ!ドス黒臣先輩怖いだろ!!!


 そんなこんなで夕飯が始まる。


「それでは・・・今日からしばらくマリアがいなくなるけど・・・マリアが帰ってきたらもっとご馳走作るから・・・みんながんばって耐えようね・・・・。」

「うるせぇよ!早くしろよ!」


 なぜか乾杯することになり、グラスを持ったまま泣いている臣先輩のスピーチを聞いている私達。


「それじゃあ、マリアの無事帰還を祈って!乾杯!」


『か、かんぱーい・・・。』


 無事帰還って何。私、家に帰るだけなんだけど・・・まぁ、穢れや魔物がいないここの方が安全だけど・・・。


「よし!食っていいな!食っていいな!」

「ダメだよ!まだマリアが手をつけてない!」

「いいですよー。」

「チッ!お前早く食え!!」

「あー!はいはい!いただきます!あっ!おいしい!」


 臣先輩と麻日くんのやりとりにおされて、そばにあった物をパッと口に入れた私は、あまりのおいしさに声を上げた。


「先輩おいしいです!」


 私が先輩に言うと、


「よし!食ったな!いただきます!」


 と、私達の会話など気にせず、麻日くんが料理に手をつける。

 彪斗くんもいつの間にかもう口に含んでいた。


「おいしい!?マリア!」

「はい!すっごいおいしいです!この間よりも!」

「よかった~!嬉しい!」


 臣先輩は箸を持った私の手をいつの間にか握り涙目になっている。

 おう・・・相変わらず美しいお顔だな・・・。


 目尻に涙をためた嬉しそうなほほえみに、私は美しすぎてノックアウトしそうになる。


 この人そういえば、キラキラハーフ王子様だったんだよね。残念だけど。

 あ、残念王子キャラ?ゲームやってるときはそんな感じしなかったけど。


 まぁ、なんでもいいけど・・・・。


「先輩、手、離してください。ご飯食べられません。」

「え?いつまでも握りあってようよ。」


 語尾にハートマークをつけて言う残念王子に、やっぱりこの人病んでるわー。と、思うのだった。




 続




 83.まさかの私に・・・。



 その後、夕飯を食べ終え、まったりする私達と、てきぱき後片付けをする七斗くんを見て、あ、手伝わなきゃ・・・と、立ち上がろうとすると、


「あ、マリアは今日は片付けしなくていいよ。ボクがやるから。」


 と、先輩にウインクしながら言われた。

 今日はいたせりつくせりだなぁ・・・。

 なんか・・・本当、愛されてんなぁ・・・あたし・・・・。

 なんか申し訳ないけど・・・自分でいうのもなんだが・・・と、

 思いながら、食べ過ぎて大の字に寝ている2人を見て、麦茶を飲む。


(明日帰るのか・・・さみしいな・・・・。)


 私も少し、しんみりしてきた。


 合宿、楽しいなぁー。このまま一生、合宿してたい。

 ループ世界で31日が終わったらまた合宿始まらないかな。

 あ、そういうこと言ってると31日終わったらこの世界に来た時のあの日に戻ったりするパターンになるからやめよう。


 ループ世界はちょっと嫌だ。怖い。


 どうなるのかなー・・・この先・・・。


 そう思いながら、私は明日の帰宅の準備をするため離れに戻るため立ち上がった。


「じゃあ、片付けすみません、私、離れに戻りますね。」

「えー!マリア行っちゃうの!?」


 すると臣先輩が嘆く。


「荷造りしないと。帰るのは明日の朝ですから。」


 私は苦笑いする。


「でも・・・。」

「先輩、あんまり無理言っちゃ悪いですよ。荷造りもあるでしょうし。」


 そこへ髪を切ったイケメン七斗くんがフォロー!ナイス!

 やっぱりいいオトコだ!


「じゃあ、私戻ります。先輩、ご飯とってもおいしかったです。ありがとうございました。また明日。」

「・・・・・・・。」


 何か言いたげに黙ったまま先輩はうつむいていたが私はそのまま離れへと戻った。





「・・・・・。」


 一人の離れは静かだ。

 テレビもないので音が何もない。

 あ、スマホで音楽流そうかな・・・あーいいか。


 なんとなく荷造りをしながら私はしんっとした離れにいた。

 風の音と、葉がこすれる音。

 虫の音。

 ああ、十分音あるや。


 荷造りを終えて、私は布団の上に大の字になる。


「はー・・・。」


 明日ここを出たらまた穢れと魔物いるんだよなーやだなー。

 二週間くらいまた家かー。

 一凛は先に帰ってくるんだよなー、何か進展あるかなーその間に。

 ・・・・ノーマルエンドで終わるのかなぁ・・・。


 などと私が思っていると、トントンと、扉が叩かれた。


(ん?誰だ?お風呂の順番かな?)


 と、私は起き上がり、髪を整えて、はーい。と、歩いていく。

 ガララと、引き戸を開くと・・・・。


「よう・・・・。」


 そこには麻日くんがいた。


「どうしたの?お風呂空いた?」

「いや・・・ちょっと・・・いいか。」


 麻日くんはなんか気まずそうにうつむいている・・・。


 ん?


「ちょっと・・・話しがある・・・。」



 ん???



 待て・・・待て待て待て!!!!



 これは!!!


 これはもしや!!!



「はな・・・し?」

「いいからちょっとこいよ!そこのベンチでちょっと話すだけだから!」


 麻日くんは顔を赤くして身体を反転させ、歩き出した・・・・。




 おい・・・おいおいおいおいちょっと待てーーーーー!!!!



 これは!!!!




 これは一凛にあるべきはずの、エンディングを決める、通称・夜のベンチイベントじゃないかああああああああああ!!!!!!



 え!!??しかも、麻日くんが来た!?


 え!?麻日くんエンドなの!?


 え!!??ていうか私がエンディング決めるの!!??


 え!!??何!!?どゆこと!!??



 と、動揺しつつも・・・遠のいていく麻日くんの後を追うしかなく・・・・私は、動揺し、おぼつかない足下でサンダルを履き、力なく麻日くんの後を追い、イベント内でもっとも興奮した、夜のベンチイベントへと向かうのだった・・・・。




 続




 84.通称、夜のベンチイベントと呼ばれているイベント。



 麻日くんの後についていくと、手水舎の向かい側にある、少しさびついた何の変哲もないベンチに、麻日くんはドガッ!と座り、両手を組んだ。


 えー・・・なんで私に夜のベンチイベントがくるのー?

 しかも、麻日くんが来たってことは、麻日くんエンド?

 いや・・・まぁ、麻日くんもユキ。先生のイラストで三次元に比べればぜんぜんかっこいいし、何だかんだ面倒みたいからいいけどさ・・・・。と、思いつつ私はとなりに座る。


『・・・・・・。』


 2人の間に沈黙が流れる。


 その間に私は麻日くんエンドってどんなんだっけ・・・と、思いだそうとしていた。

 すると。


「あー・・・なんだ・・・その・・・」


 と、麻日くんが顔をうつむかせながら貧乏揺すりして話し出した。

 ちょっと笑える。言い出せないんだなぁ。らしいなぁ。と。


「あー!!!あのな!!」


 麻日くんは立ち上がり、私の前の斜め前に立った。

 電灯の逆行で影ができるが顔が真っ赤で必死な顔をしているのはわかる。



「俺はっ!お前が好きだ!!!」



 おっと直球。


「なんか!恋とかそんなんよくわかんねぇけど!!お前がいろいろしてくれて、いつの間にかお前といると嬉しいし楽しいし!お前が他の男と仲良くしてると気にくわねぇ!!誰かと、つ、つきあうとか考えたら頭かきむしりたくなる!!!だから俺はお前が好きなんだと思う!!!勉強もがんばる!いい会社に入れるかわかんねぇが、金は稼ぐ!不自由な思いはさせねぇ!!だから俺を選んでくれ!!!以上だ!!!」


 麻日くんは一気にそうまくし立てると、荒い息をついて、口元を拭った。大量の汗をかいている・・・それだけ・・・必死なんだな・・・。と、私は思った。


 それだけ思われてるなら・・・いっか。


 と、私は瞳をふせて答える。


「麻日くん・・・・。」

「あー!!!答えるのは合宿最終日でいい!!!巻物が見つかるか見つからないかわからねぇが、もし見つかったら、全部終わった後で、見つからなかったら、最終日に・・・これから他のやつも順番に来るから!!」


「え?」


 最後の一言に私はキョトンとした。



 今なんと?



「え?他のやつ?が、順番に来る・・・って・・・何?」



 私が問うと、


「お前がさっき、居間からいなくなった後、みんなで話し合ったんだよ、いい加減はっきりさせようぜって。臣もちょうど一週間家に帰るし考える時間ができるからちょうどいいね・・・って、みんなで順番に・・・こ、こくはく・・・しよう・・・って・・・。」



 みんなで順番に告白しよう!!??



 夜のベンチイベントオールメンバーかよ!!!!



 私は心の中で突っ込んだ。


 あ、でも、彪斗くんはいるのかな?

 いなさそー・・・と、思っていると、


「俺と、臣、あと七斗と・・・彪斗はわかんねぇ。聞いてたけど何も言わず去ってったから。ずりーよな!一番有利なくせに!」

「あ、はは・・・。」


 オールメンバーじゃねーか。おいおいどうなってんだ。

 そりゃ想い寄せられてたのわかってたけどさ・・・。


「てわけで・・・次は臣が来るから待ってろ。俺の言葉も忘れんじゃねぇぞ!!!必ず、し、幸せにするからな!!!」


 恥ずかしがりながらそういうと、麻日くんは赤い顔で走って去っていった・・・・。



 やべえ・・・これからすごい時間がはじまる・・・・。



 私はそう思いながら空を見上げた。




 続




 85.臣先輩のターン!



 まだ蒸し暑い夏の夜空の下、ベンチに一人残され、私はどうしよう・・・と、呆然と臣先輩を待っていた。

 すると、ガララと、神薙家の玄関が開く音が響いて、私はビクつきながら玄関をみる。


 そこから歩いてきたのは、そう、キラキラとした・・・


「やあ、マリア。お待たせ。」


 暗闇でも笑顔が眩しい臣先輩だった・・・・。


「ど、どうも・・・。」


 私が緊張しながら立ち上がり、会釈すると、


「何、緊張してるのマリア。座って。」


 臣先輩はクスクスと笑いながら私の肩にそっと手を置き、着席を促した。


「緊張するのはボクの方でしょ?まぁ、してないけどね。結果は分かってるようなものだし・・・・ただ・・・けじめ・・・だよね。」


 臣先輩は座ると長く綺麗な足を組み夜空を見上げそう言った。


 その一連の動作は何かの映画のシーンのようだった・・・。

 私はこの人に想いを寄せられている・・・。

 でも、今、先輩が言ったように・・・私が好きなのは・・・。

 先輩は何もかも悟っているようだ。


「せんぱっ・・・。」

「おっと、ダメだよマリ・・・彩衣ちゃん。ここはボクが話す所。」


 先輩は私の唇に人差し指を当てた。

 マンガか!

 いや、二次元の中だけど!!


「懐かしいねー・・・彩衣ちゃんがボクの家に来た時のこと。何の疑問も抱かずうかうか男性の家に上がるものじゃないよ?思い知っただろ?」


 その言葉に私はあのときのことを思い出し・・・・


「はい・・・。」


 と、答えた。


「でもま!あの時からボクって変わったよね。まぁ、変わったのはごく最近なんだけど・・・ボクを変えたのは君だよ、彩衣ちゃん。」


 先輩は今夜は私をマリアではなく彩衣ちゃんと呼ぶ。

 そして私に美しい、にこやかなほほえみでほほえんだ。


「君の強さに惹かれた。優しさに惹かれた。ボクにもそのあたたかな強い優しさで包んでほしい・・・って。ボクには少し、君が嫌がる部分があったみたいだけど・・・それも君と接しているうちに君が自然に節してくれるのが嬉しくて、なくそうと努力したし、今はもう自然になくなった。ボクは本当に君に救われた・・・あの広い広い家で母に捨てられ一人ぼっちだった。周りに媚びなきゃいけなくてつらかった・・・でも・・・それから解放された。彩衣ちゃんのおかげでね。」


 空を見ていた先輩はまたもや私にほほえんだ。

 私はそんなたいそうなことはしていないけど・・・と、思いつつ、いつかの一凛のことばを思い出した。


「彩衣ちゃん・・・。」


 先輩がそっと私の手を取った。


「君がボクを選んでくれるなら、何不自由ない生活を保証するよ。どんなわがままも叶えてみせる。そして、ボクからの永久の愛も・・・だから、ボクを選んでくれたら嬉しいな。」


 先輩は結果が分かってると言う風に、少し眉を寄せて、悲しそうにほほえんだ。


 私はぐっとこみあげてくるものがあった。

 先輩とはいろいろあった。

 そしてこんなにも想ってくれている。

 そして結果も悟っている。

 結果の分かっている告白なんて辛いだけだ。

 でも、先輩はけじめと言った。

 なんなんだこのイベントは。

 みんなへの拷問じゃないか。

 確かに元の世界にいるときは逆ハーレムいいわーとか思ったけど、

 実際に二次元・・・じゃないけどゲームの世界にきて、

 その状況になったら、一人一人の想いはちゃんとあって、

 みんなこんなに真剣に私を想ってくれてる。

 そして苦しんでる。



 つらい。



 こんなのってない。



 こんななら逆ハーレムになんてならなくていい。

 一人だけに好かれるだけでいい・・・。

 私の目に涙があふれた。

 それは、ぽたりとこぼれ落ちた。


「え!どうして泣くの!?」


 先輩は慌ててポケットからハンカチを取り出す。


「っ・・・みんなの・・・気持ちが・・・ありがたくて・・・。」


 私はハンカチを受け取りながら言葉を返した。

 臣先輩は瞳を見開き、少し悲しそうな、切なそうな表情で、ふっとほほえんだ。


「彩衣ちゃんは、やっぱりマリアだね・・・・。」


「え・・・?」


 涙を拭いながら私が答えると、先輩は首を振り、


「それじゃあボクは行くよ。このままここにいたら君を抱きしめてしまいそうだからね。」

「!」

「次は七斗だから!おやすみ!彩衣ちゃん!」


 先輩はそう言うと手をひらひらと振り、後ろ姿も美しく去っていった。


 私は夜風で境内の木々の葉が重なり合う音を聞きながら、

 涙を拭いその美しい後ろ姿を見つめていた。




 続




 86.七斗くんの番。



 私が先輩から貸してもらったいい香りのするハンカチで涙を拭い、息を吐きながら夜空を見上げると、控えめな玄関を開ける音が聞こえてきた。


 また、拷問タイムが始まる。


 私は憂鬱だった。


 しかし、やってきたのは・・・。


 顔を真っ赤にして、肩に力が入っているのが見てわかる、両側の手足を同時に出して歩いている七斗くんだった。

 私はキョトンとしてしまう。


「こ、こんばんは!」


 そして私の前に来ると、腰を九十度に折り、挨拶をした。

 これには憂鬱もどこかへ行ってしまう。


「七斗くん、リラックス、リラックス。」

「へ!?」

「大丈夫、ゆっくり話は聞くから。」


 私は七斗くんの肩に手を置いて苦笑した。


「あ・・う、うん、ありが・・とう・・・。」


 七斗くんはまだ少し緊張気味にぎこちなく笑った。


 二人でベンチに座っていると、少し沈黙が流れた。

 七斗くんをチラ見すると、また緊張でガチガチだ。

 やれやれ。


「さて、何を話してくれるのかな?」


 私は少しほほえんで言った。


「!」


 すると七斗くんは私を見て、しばし何か思い詰めた顔をしたあと、急に立ち上がり、私の前に立つと、



「は、速水彩衣さん!好きです!俺とつきあってください!!!!」



 と、頭を下げ、手を差し出してきた。



 これには私も驚いた・・・王道・・・・・。



「あ、いや!返事は!全部終わったあとでいいんだけど!!」


 しかし、真っ赤な顔を上げると、あわあわとそう言う。

 そんなところが七斗くんらしい。


「はい。考えておきます。ありがとうございます。」


 私はお辞儀をしながらそう答えた。


「あ・・・うん・・・ありがとう・・・。」

「すこし話さない?」


 私は七斗くんに提案をした。


「え!」

「あ、嫌ならいいよ!」

「あー・・いや・・・うん、話そうか・・・。」


 七斗くんは一通り終わって落ち着いたようで、ベンチの私のとなりに座ってくれた。


「七斗くんって、一凛のことが好きだったんだよね?」

「へ!?」


 いきなり直球すぎたか?七斗くんは顔を赤くして驚いている。


「一凛が戻ってきて嬉しくなかったの?なんで私のことを・・・。」


 と、私が問うと、


「あー・・・うん、山田さんが戻ってきたときは・・・やっぱり嬉しくて・・・好、き・・・かな?とは思ったよ。でも、その後、速水さんがいろいろ世話を焼いてくれたり、あと、俺たちの事情全部知ってたりして・・・何て言うんだろう・・・ああ、この人にはいろいろ隠さなくていいんだなっていう安心感・・・かな?が、生まれて・・・その後も・・・うち、母さんが早くに亡くなっちゃって・・・なんか・・・母さんぽさも感じたというか・・・はは、マザコンかな・・・。」


 七斗くんは少し情けなさそうに笑った。


 そうか・・・お母さん早くに亡くなってたんだ・・・初めて知った。

 ゲームでは説明なかったぞ。と、思いながらわたしは答える。


「マザコンじゃないよ。お母さん早くに亡くしてたら恋しくなるのは当然だよ。」


 私は七斗くんにほほえむ。


「・・・そういう・・・ところ・・・なんだよね。」

「え?」

「なんだろう・・・否定しないでくれるところ?母さんみたいにかまってくれたり、夜のスーパー行くときに話したとき、俺のせいじゃないって言ってくれたり・・・そういう・・・優しさに・・・いつの間にか一凛ちゃんよりも・・・速水さんに惹かれていった・・・。」


 七斗くんはしみじみと、何かを思い出すように正面を向きながら少しうつむき加減に語った。


「だから・・・俺を選んでくれたら嬉しいな。」


 そういうと、少し悲しそうな表情で私にほほえんだ。


 またこのほほえみ・・・結果がわかっているほほえみ・・・。


 ありがとう・・・ごめんなさい・・・。


「ありがとう・・・。」


 私は、ほほえみ返しながらそう言う。


「じゃあ・・・彪斗に声かけてくるね。来るかわからないけど・・・。」


 その言葉にわたしははっとする。


「あー!いい、いい!そんな敵に塩送るようなことしなくていいよ!彪斗くん何にも言わず部屋に帰ったんでしょ?少し待ってこなかったらわたし部屋戻るから。気にしないで!」

「でも・・・。」


 わたしの言葉に七斗くんは困った表情をする。


「もう!本当、七斗くんは優しいなぁ!そんなんじゃ損ばっかりするよ!しっかり!」

「・・・はい。」


 そういうと、七斗くんは困った顔で去っていった。



 はぁー・・・残るは彪斗くんか・・・来るかわからないけど・・・大本命。

 きて・・・くれるかな・・・。


 わたしはそう思いながら腕時計を見て30分だけ待とう。と、思った。




 続




 87.彪斗くんの番は・・・。



 三十分・・・たった。


「やっぱりこないかーーー!!!」


 私は盛大にため息と声を漏らし、頭を抱えた。


 最推し・・・私の好きな人がこない告白イベントはなんなんだ。

 ただの拷問じゃないか・・・。


 そう思いながら立ち上がった。


 諦めも肝心。

 あの三人に好かれているだけありがたいことだ。

 それにこの先私がどうなるかわからない。

 そう思って私は離れに戻ることにした。




 うつむいて歩きながら離れに戻ると、


 え?嘘でしょ?



 私は立ち止まって呆然とした。

 神様仏様ありがとう。

 神社だから神様だけにしとく。


 と、思ってから第一声が出ないその姿を見つめた。



 彼は離れの入り口ではない、窓がある方の、少し開けた場所に立っていた。

 そしてポケットに手を入れ、夜空を見上げている。


 今日はあまり月が大きくないが、それでもここは電灯も何もないため、わずかな月明かりが彼にそそいでいた・・・・。


「いつまで黙って見てるんだ・・・。」

「!」


 こっちを向かれ、声をかけられた。

 そりゃそうか、彪斗くんなら気配ですぐわかるか。


「ご、ごめん・・・びっくりして・・・・な、何・・・してるの・・・。」


 私は何となく、確信には触れずに会話をした。


「・・・・・。」


 彪斗くんが困っている。

 え、マジで?

 告白しにきてくれたの?

 ほんとに?


 私の心臓はバクバクと高鳴った。


「あ、中、入る?」

「いや・・・いい。ちょっと話がある。こっちこい。」


 するとそう言われた。


「え・・・あ、うん・・・。」


 私は彪斗くんのそばにいった。


「空、見ろ。」

「え?」


 そう言われ夜空を見上げる。

 夜空にはふくらみかけた月が光っていた。


「月が・・・綺麗だな・・・。」

「・・・・うん。」


 私と彪斗くんは夜空を見上げて、月を見て、そんな会話をした。



 ん?

 待て。

 待てよ?

 これってあれ?

 どっかの文豪さんのI LOVE YOU?


 私は今、多分とても困った顔をしているだろう。


「なんかあいつらが盛り上がって騒いでたけど・・・俺には幸せになる資格はねぇ・・・。」


 すると彪斗くんがそんなことを語り出した。


「お前は知ってるだろ、俺がこの離れで七斗にした元凶を。」

「・・・・・。」


 その言葉にわたしは難しい顔をする。


「俺がいっちょ前に幸せに何てなっていいわけねぇんだ。だから俺は何も言わない。お前も期待するな。」

「で、でも!宝玉が戻って、穢れや魔物が消えたら?」

「それでもたくさんの散った命がある。それは消えない。俺の罪は消えない。七斗はいい。でも、俺はダメだ。」

「それは・・・。」


 私は言い返せなかった・・・彪斗くんの言っていることは正論な気がして。


 あれ?彪斗くんルートのベンチイベントどんなんだったっけな・・・。


 私は必死に思い出そうとする。

 すると、


「悪いな・・・他の奴と幸せになってくれ・・・。」


 そう言われ、頭に手を乗せられた。

 去っていく足音に・・・私は呆然とそこに立ち尽くしていた・・・。


 こんなんなら・・・来ないでくれた方がいいのに・・・・。



 けじめ。



 という臣先輩の言葉が頭をよぎった・・・。

 ああ・・・けじめか・・・けじめつけたんだ・・・。


 しかし同時に思い出した。



『月が・・・綺麗だな・・・。』



 ねぇ、あれは何?

 ただ、月が綺麗なだけ?

 それとも隠喩?

 せめてもの愛の言葉?


 どっちなの・・・なんなの・・・・。



「ふっ・・・ううっ・・・。」



 私の目から涙があふれた。


 初めてのリアルでの恋。


 告白はしなかったけれど、失恋・・・。



 だからリアルは嫌なんだ・・・・・。




 続




 88.聖人、神薙七斗。



「さってと、一時帰宅するか。」


 昨日の夜・・・あれから私は布団の中で一人で泣いた。

 盛大に泣いた。

 ずっと泣いて、気が付いたら寝ていて朝だった。

 一凛がいなくてよかったと思った。


 そして顔を洗うも、目は充血し、まぶたは腫れていた。

 これはまずい・・・と、思いつつも、どうなるわけもないので、そのまま帰り支度を始めた。


「あ、ご飯の時間だ。」


 朝食の時間に気が付いて、私はうなだれる・・・。

 あ~~~~もう!クソ彪斗!

 フラれると相手を恨むって本当なのね。と、ちょっと思いつつ、

 いや、彪斗くんは悪くない。ただ、みんなにとやかく言われたくなくて・・・と、思いつつ、

 私はこの目で、というか、昨夜の今朝でみんな、特に彪斗くんと会わなきゃいけないことに気づき硬直した。


「ムリムリムリムリ!!!」


 私は頭を抱えてしゃがみこんで丸々。


「無理だよ~~~行けないよ~~~~~。」


 ごろごろと私が畳の上でのたうち回っていると、トントンと、扉を叩く音がした。


「・・・・・。」


 え?と、思い私が恐る恐る扉を開くと、


「あ・・・はや、み・・さん・・・・。」


 七斗くんがいたが私の顔を見て、硬直している。


「・・・・ご飯・・・?」

「う、うん!遅いから来づらいのかな・・・って・・・・。」


 七斗くんは下を向きどうしよう・・・という感じに目を泳がせている。

 七斗くんになら話してもいいかな・・・。と、私は思った。


「あのね・・・。」


 と、私は昨夜のことを話す。

 詳しくは話さなかったけど、彪斗くんが離れにきたこと。

 フラれたこと。

 一晩中泣いて寝落ちしたこと。

 起きたら目がこんなことになっていて、正直みんなにも、特に彪斗くんには会いたくないこと・・・。


 すると、


「あー・・・だから彪斗、部屋で食べるって食事持ってったのか・・・。」


 と、七斗くんは納得していた。


「え!」


 私は思わず叫んだ。


「ん~・・・彪斗がどういう理由で・・・その・・・速水さんをフったのかはわからないけど・・・きっと本心ではないと思うし・・・きっと何らかの解決法はあるよ・・・とりあえずご飯食べよう!それで一週間、時間あるから!お家でゆっくりして!・・・先輩とか、麻日にはなんか聞かれると思うけど・・・話したかったら話せばいいし、話したくなかったら蚊に刺されたって言っておけばいいよ。俺もフォローするから。ね?」


 七斗くんは慰めるようにほほえむ。


 天使かこの男は!!!

 聖人か!!!


 ほんとなんでこの人好きにならなかった私!!!

 バカか!!!

 今からでも乗り換えろ!!!


 と、思い涙があふれてきて、抱きつきたくなった。


 おにいちゃーん!とか、パパー!とか言って抱きつきたかった。

 自分でもよくわからんが。

 あたしの方が年上だっての。


 でも、それはできない・・・気を持たせるのは失礼だ。

 私はにじんできた涙を拭い、もう早く家に帰ろう!

 と、食事に行くことにした。


「うん!ご飯食べようか!」


 そしてそう言って、七斗くんに腫れた目でほほえんだ。




 続




 89.麻日くんの単純さに救われた、楽しい食卓。



「お前、その目どうしたんだよ!」


 居間に行くと案の定、麻日くんに大声で突っ込まれた。


「い、いや・・・蚊に刺されて・・・。」


 私はうつむいて言う。


「マジかよ!病院行かなくて平気か!?今日帰ったらいっとけよ!やべぇぞそれ!」


 麻日くんはとりあえず冷やしとけ!と、冷蔵庫に向かったようだ・・・。

 マジか・・・本気でだまされてる・・・この理由に・・・。


「麻日が単純で助かったね。」


 臣先輩は瞳を閉じて苦笑している。

 ああ・・臣先輩にはお見通しだ。


「あ?」

「なんでもないよ、冷やしとくのはボクも賛成だよ。」


 戻ってきた麻日くんが少し臣先輩の言葉を聞いたようで、聞き返すも、臣先輩は言わないでくれた。


 正直、私も麻日くんがこんなにバカ・・・ゲフン、単純・・・純粋・・・単細胞・・・ともかく、簡単に嘘に引っかかってくれて助かった。

 本当のことを知ったら多分、彪斗くんの部屋に殴り込みに行くだろう・・・多分ね。


 私は麻日くんが持ってきてくれたタオルに包まれた保冷剤を片方の瞼に当てながら隣の七斗くんを見た。

 七斗くんもこちらを見て、少しほほえんだので、私もほほえみ返した。


 よかったよかった。穏便に帰れそうだ。


「じゃあ、ご飯食べましょうか。」


「おう。」

「はーい。」

「今、温めるね。」


 そうして、私は穏便に、4人で、楽しく、しばらく離れるこの食卓を満喫したのだった。




 続




 90.涙の一時帰宅。



「よいっしょ、それじゃあみなさん、しばらく帰ります。」


 私は持ってきた鞄を持ち、下る階段の前の鳥居で並んでいるみんなに言う。

 もちろん、彪斗くんの姿はないが。


「送ってかなくて平気か?」


 麻日くんが言う。

 優しいなー、甘やかしすぎだぞ年下のくせにー。と、私はほほえましく思う。


「ボクの家の車で送ろうか?外は・・・穢れや魔物がいるから。」


 臣先輩も心配そうにしている。


「じゃあ、みんなで送ってくか!てか、彪斗のやつなんでこねーんだ?朝飯んときもなんか部屋で食べてたし・・・きの・・・。」

「速水さんは一人で帰りたいよね!」


 麻日くんの言葉に、七斗くんが慌てて口を挟んだ。


「う、うん!そうだね!一人でゆっくり歩いて帰るわ!」

「うん!そうした方がいいよ!あ、待って!」


 そういうと七斗くんはポケットからなにやら取り出し・・・


「これ、うちのお守り。昨日の夜から今朝までご神体の側に置いておいたから、多分、持ってたり、部屋に置いておけば部屋に穢れや魔物は入ってこないと思うよ。・・・多分、一週間くらいなら。」


 控えめに七斗くんは言った。


「マジで!?お守りそんな効果あるなら早く言ってよ!!!毎週買うよ!!」


 いや・・・それはちょっと・・・と、七斗くんは言う。


「・・ありがとね・・・。」


 私はつぶやくように言い、それを両手で受け取る。


「麻日くんも臣先輩もありがとう!それじゃあ、一旦戻ります!またね!」


 私は荷物を持つと、手を振り、笑顔で階段を駆け下りた。


「あ、おい!気をつけろよーー!」

「またねー!彩衣ちゃん!」

「気をつけてねー!」


 私は背後に手を降りながら振り向かないで階段を駆け下りる。

 鳥居をくぐった瞬間から、穢れや魔物が見えたけど、今はもうそんなの気にならない。

 今はただ、みんなにあふれて泣き出しそうな涙を気づかれずに立ち去るのが先だった。



 どうして私は、あんな優しい人たちを好きになれなかったんだろう・・・。




 続

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ