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転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?  作者: 山下小枝子


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71~80話

71.ウキウキからのどん底へ。



「もっどりまっした~~~~!」


私は、とう!と言いながら機嫌よく蔵の入口に入る。


『・・・・・・』


「ん?」


そんな私を見る視線はあまりいい物ではない物ばかりだった。


「アホ・・・。」


後ろからやってきた彪斗くんに後頭部をぺしんと叩かれる。


「え!?」


私は叩かれた頭を押さえながら蔵の奥へと去っていく彪斗くんの背中を見ていると・・・・


「ご機嫌だね~、マリア。彪斗とそんなにいい話をしてたのかなぁ~。」


うわっ!臣先輩またドス黒オーラ出してる!


「早く巻物探ししろよ・・・・。」


うっわ・・・麻日くん超機嫌悪・・・こっち見たりしないけど不機嫌撒き散らかしてる・・・。


「彩衣ちゃんのバカ!」


一凛が何やってんの!?という風に小声で言ってきた。

バカ!?一凛がバカって言った!へ!?この子そんなこという子!!??

と、思っていると、


「・・・彪斗と話せた?」

「あ・・・うん。」


七斗くんがそばにやってきた。

メカクレじゃない、短い髪の目の見えるイケメン七斗くんはやはり見慣れないが、

もうこれがずっと続くんだよな・・・と、思いながら答える。


「そっか・・・怒ってなかった?」

「うん・・・嫌われてもなかった・・・。」

「・・・よかったね。」

「・・・・うん、ありがとう。」


私が笑顔で返すと、七斗くんは少し悲しそうにほほえんだ。

そして去っていく・・・・。


ん?


ちょっと待て?


あれ?


もしかして、私が彪斗くん好きなの・・・・バレ・・・バレ・・・?




「うわああああああああああああ!!!!」




と、叫びたいのを必死でこらえた。


ち、違う!!違うよ!!!これはみんなの勘違いから、バレてしまったパターンで。

というか、最推しだったけど、この世界にきて、本当に・・・こ、恋?してる?

とか、実感したの、今さっきだし!!!!


違うの!!!違うんだよみんな!!!


みんなの勘違い!!!あ、でももう勘違いじゃない・・・え!?何これ!?何これ!!!??

どう釈明すればいいの!!??


え・・・・ちょっと待って・・・・・ていうかさ・・・・・




これ、彪斗くんに私の気持ちバレてる・・・・?




「うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!」




そう叫んで、のたうち回りたいのを私は必死でこらえた。

代わりにしゃがみこんだ。


え、え?・・・え?バレてる?

え・・・・でも・・・・さっき蔵の奥から連れてかれたり、

アホとか言われたりとか考えたら・・・・バレ・・・・てるよね・・・?


うっわ、マジかよ・・・・これ死ねるわ・・・・自覚した途端バレてるとかなんなん。



「彩衣ちゃん?」

「マリア?どうしたんだい?」

「速水さん?」

「彩衣?」



私がしゃがみこんでいると、不機嫌だったみんなもさすがに心配してやってきて声をかけてきた・・・。


彪斗くんだけが我、関せずで奥で探し続けているようだ。

そんなあなたがありがたい。


「どうしたの?」


そんな言葉に私は顔を上げられない。


みんなにもバレてる。



本人にもバレてる・・・・・・。




「死にたい。」




私はつぶやいた。



『え!?』



当然、返ってきたのはそんな言葉だった。




続。




72.山田一凛ちゃん。



少し、一凛と二人にしてくれ・・・・と、元気よく蔵に入ってきてからの死にたい発言で、男子たちは許してくれた。


一凛の脇腹にへばりつく私に動揺しながらも、一凛は私を連れ、先程、彪斗くんと話していた蔵とは反対側の社の段差へと連れてきた。


「彩衣ちゃん?もうみんないないよ?」


と、一凛が言うので私はそっと離れ、段差に座り横になり、顔を冷たい石にふせた。


「あ、彩衣ちゃん?どうしたの?さっきまで元気だったのに・・・。」


立ったまま一凛が心配している声が聞こえてくる・・・・。


「・・・一凛の大好きな恋バナがはじまるよ・・・・。」


と、私が言うと・・・


「え!?」


という明るい声が聞こえてきた。

この野郎。と、思った。


「え!?さっき不知火くんとなんかあったの!?え!?ていうかさ!みんな彩衣ちゃんのこと好きじゃん!?でも、彩衣ちゃん不知火くん好きじゃん?どうするの?どうするの??」


畳み掛けるように一凛が私の肩を掴んで揺さぶり、傷をえぐる・・・・。


「・・・・私が彪斗くん好きなのって・・・・そんなにバレバレだった?」

「・・・・うん。」

「あーーー!!もうやだ!死にたい!!!!」

「あー・・・それでかぁ~。」


一凛は納得いったようだった。


「まぁ、さっきまでは全然気づかなかったけどね。さっき蔵で、不知火くんの背中見つめてため息ばっかりついてるの見て、ああ・・・って思って、その後、ルンルンで帰ってきてやっぱりか。って確信した。」

「そんな短期間で・・・・いや、私も自覚したのさっきなんだけど・・・。」

「え!?さっきなの!!??何があったの!!??」


あ、口滑らせた。

私が黙っていると、一凛が、教えて~~~!!!と、ガックガク肩を揺さぶってくる。

この女ほんとに一凛か?一凛ちゃんなのか?中の人、私みたいに入れ替わってないか?


私はそう思いながら話すか話すまいか悩みつつも、あー・・・・話せる内容じゃないわ。と、気づく。


「んー・・・なんかね・・・・。」


しかし、そう切り出す。

ガクガク揺らしていた手が止まった。

代わりにキラキラと一凛の瞳が輝いている。


「嫌われてるんじゃないか、怒ってるんじゃないか。って今まで思ってて、嫌っても怒ってもねぇよって言われて、少し話して、笑いかけてもらって・・・・すごく嬉しくて、ああ、好きだな・・・って、思った・・・の。」


私は少し上の、宙を見てぼんやり言う。


「青春ーーーーーーー!!!!」


すると一凛がたまらんという様子で叫んだので私はビクッとする。

青春って何。あんたが青春するはずだったんだからね。

ていうか私、BBAよ。あんたが青春でしょう。


「恋だね!恋に落ちゃったね!彩衣ちゃん!まぁ、その分じゃ前から落ちてたみたいだけどね。」


一凛は嬉しそうに、楽しそうにニコニコと微笑みながら言う。


「あー・・・そうだね、前から落ちてたね・・・・。」


落ちてた落ちてた。最推しだったもん。


「そっかー・・・みんなに好かれて、誰とくっつくのかなーと、思ってたけど不知火くんかー・・・。でも、不知火くん振り向いてくれるかなー・・・一番難しいの選んじゃったね。」


一凛は隣に座りながら話してくる。


「・・・・・・。」


その言葉に私はきょとんとする。


「いや!別に振り向いてもらおうなんて思ってないよ!」


そして、私は、ふは!と笑う。



ここはゲームの世界。

そしてゲームは8月31日で終わる。

その先は自分がどうなるのかわからない。

世界がどうなるのかも。


もしこのまま世界が続いても・・・・。

彪斗くんとどうこうなろうなんてだいそれたことは思っていない。

こんなアラサーBBAが・・・・。


「えー!なんで!?がんばろうよ!!不知火くんだって、彩衣ちゃんのこと嫌ってないんでしょ?見たところ好印象だよ?」

「ないない。私、印象悪いもん。」

「なんでー!?悪くないよ!嫌ってないって言って笑いかけてくれたんでしょ?」

「・・・・・・。」


そう言われ、彪斗くんの笑顔を思い出す。


「でも・・・でも、ダメだよ・・・・私なんか・・・・。」


私みたいな異世界のアラサーBBAなんか・・・・・


「彩衣ちゃん!」


一凛に下げていた顔を掴まれ、引っ張り上げられて一凛の方を向かされた。



「彩衣ちゃんらしくないよ!!それに私なんかなんて言っちゃダメ!

彩衣ちゃんにみんなどれだけ救われたか!

だから、美空先輩も、麻日くんも、神薙くんも、彩衣ちゃんのこと好きになったんだよ!?

私だってどれだけ彩衣ちゃんに救われたか!

人はね、自分は何気なくした、簡単なことでも、相手をすごく救ってることがあるんだよ!

そんなことを彩衣ちゃんは簡単にたくさんしてきた!それでみんな救われた!彩衣ちゃんはすごいんだ!だから、自信持って!最後のひと押し!不知火くんのハートもゲットだよ!」



一凛はそう言って笑った。



ああ・・・やっぱりそうなんだ。と、私は思った。



やっぱり一凛はこのゲームの主人公なんだ。



と。



私は今までの人生で、こんなことを友達に・・・親兄弟友達に言われたことなんて一度もない。

それを一凛は私の両頬を掴んで、真正面から目を見て、はっきりと言ってくれた。


そう、一凛はそういう女の子だった。


だからみんなを救い、この街を救った・・・。



私の大好きな大好きなゲームの主人公・・・・。




「ありがとう・・・・山田一凛ちゃん・・・・。」




私は瞳を閉じ、溢れ出る涙を伝わせながら、そう言った。



「え!?彩衣ちゃん!?なんで泣くの!!??何も泣かなくても!!」


「ふふ・・・・。」



慌てふためく姿も可愛い・・・。



そう・・・私は一凛ちゃんも好きだった。


可愛くて、強くて・・・・やはりここは私のいる世界じゃない・・・・。




主人公は、一凛ちゃんなのだ。






続。




73.ごめんね、ありがとう。



大丈夫かな?私、普通の態度できるかな?と、わなわなして、蔵へと戻りたがらない私の背を押して、一凛と私は蔵へと戻る。


「みんなに普通の態度でね!彩衣ちゃん!」


と言われ、


「う、うん・・・・。」


と答えながら、少し深呼吸をして心を整えた。

そして蔵の入口へとドキドキとしながら足を踏み入れる。


「も・・・戻りました・・・・。」


「マリア!もう大丈夫かい?」


すると臣先輩が駆け寄ってきた。


「あ、は、はい!大丈夫・・・です。」


私はちらっと蔵の奥を見ようとするのを寸でのところでこらえた。

あぶねー!!!


「お前、何、突然、ぶっそうなこと言ってんだよ。暑さで頭やられたか。」


ほれ。と、麻日くんは冷たいスポドリをくれた。

ぶっきらぼうに隠された優しさがいつも通りだな。と、思う。


「あ、あの!もうすぐお昼だから!無理しないで先に休憩入ってもいいからね!今日の食事当番は俺と麻日だし・・・。」


七斗くんは髪を切ったイケメンでも相変わらず優しい・・・。


「・・・・みんな・・・ありがとう・・・・。」


私は瞳を閉じてしみじみと言った。


こんな私を好きでいてくれて・・・。


あ、こんなとか使ったらまた一凛に怒られるな。と、思いつつふっと笑った。


私はこの世界にきてとても恵まれている。

優しい美しい家族に優しいかわいい友人。

そしてこの優しいかっこいい、私を好いてくれる男の子たち。


ありがとう・・・ありがとう・・・・・。


でも、ごめんね・・・・私が好きなのは・・・・。


「大丈夫!元気になったから巻物探し続けるよ!」


私は笑顔でそう言うと、スポドリを持って蔵の奥へと向かった。

そして、蔵の奥へいく風を装って彪斗くんの背中を見る。




私が好きなのは・・・・この人なんだ。





続。




74.なんか腹が立った。現場からは以上です。



その後、みんなで巻物探しを再開した。

するとすぐ、七斗くんのスマホのアラームが鳴り、七斗くんと麻日くんが蔵を出て行った。


蔵には私と一凛と臣先輩と彪斗くん・・・・。


わたしは考えた。


彪斗くんに好かれるには・・・恋愛的に・・・好かれるにはどうすればいいんだろう・・・と。


他のみんなはいつの間にか落としていたが・・・いざ、好きな人を落とすとなると難しいな・・・・一凛はどうしていたっけ。と、思い出す。


元々がなー・・・小さい頃、彪斗くん一凛のこと好きだったし・・・。

それで、彪斗くんが一凛のストーカー(見守り)してたのがなぜかわたしのことしてて・・・彪斗くんルートだと見守りでイベント発生。その後・・・・


「おい・・・。」

「おわぁ!?はい!!!」


と、彪斗くんのことを考えてたら彪斗くんの声が横から聞こえ、真横を見ると、彪斗くんが立っていた。

わたしはびっくりして、少し横に飛び退いて返事をした。


ああああ!平常心平常心!いつも通り!好きなのばれてるけど!


「・・・お前、手、止まってるぞ。何考えてんのかしらねぇけど、手動かせ。」

「あ・・・すみません・・・。」


彪斗くんに眉間に皺を寄せて注意をされた。

わたしは、真顔で答えるしかできず。一言謝った。


すると、するっと横を通り、行ってしまった。

後ろ姿を追うと、階段の飲み物を取りに行ったようだった。

また戻ってきたので、慌てて顔を戻し、手を動かす。

巻物、巻物!

すると、ぼこん。と、中身のだいぶ入ったペットボトルで頭を、な、なぐられた・・・・。

これは・・・ちょっと・・・・。


「ちょっと!彪斗くん!それ中味、結構入ってるでしょ!結構痛いんだけど!」


わたしが首を押さえながらいうと、


「さぼってた罰だ。」


とペットボトルをひらひらとさせながら蔵の奥へと行く彪斗くん。


「ん~~~!!!サボってないもん!ちょっと考え事してただけじゃん!」


わたしはじたんだを踏む。


「ほこり立つからやめろ。」

「・・・・・・。」


真顔の彪斗くんに言われ、わたしはこの人のこと好きなんだっけ。と、なんだか思ってきた。


あ、なんだか普通に接してる。

ていうか何かもーーーーーーもーーーー知らない!

恋愛なんかしたことないもん!落とし方なんて知らないもん!


「ふん!」


わたしはわざとらしくそっぽ向いて違う場所へ行き、探し始める。


「おや~?いちゃついてたと思ったら喧嘩しちゃったみたいだねぇ?」


嬉しそうな臣先輩がやってくる。


「いちゃついても喧嘩もしてません!」

「そっかー!それはよかった!」

「臣先輩!巻物探してください!」


わたしはなんだかくだらないことに腹が立っていた。


「彩衣ちゃん!」


と、階段の上で一凛がまずいよ!という風に名前を呼んできたが、知らん!知らん知らん知らん!好きな男でも腹立つものは腹が立つ!それがアラサーBBAだ!


と、思っていると、みんなのスマホアラームがなった。


「お昼だ。いこー、一凛。」


わたしは一凛を誘い蔵を出る。


「彩衣ちゃん・・・・。」

「今日のお昼は何かなー・・・。」


一凛の声を無視して、まぶしい太陽に目を細めながらわたしはさっさと蔵を後にした。




続。




75.まさかの謝罪と宝物の冷えピタ。



「彩衣ちゃんー!なんであのくらいで怒るのー?」

「なんか真顔が腹立った。」

「えー?」


わたしと一凛は離れで着替えたり手荒いうがいをしながら先ほどのことを話す。


「だって、わたし、彪斗くんのこと考えてたんだよ?どうやって落とせばいいのかなーって。まぁ、それは関係ないとしてさ、それを手動かせって言ってきて、まぁそれもいいとして、中身大量に入ったペットボトルで頭なぐる?結構重さあるから痛いってか首にきたんだよ?それをぼーっとしてた罰だとか・・・わたしは好きな人でも腹立つことは怒るんです!」


バサッと脱いだ服を投げ捨てて言い放つ。

彩衣ちゃんほこりが・・・と、いいながら一凛は言う。


「んー・・・好きな人のことならなんでも許しちゃうってのはあれだけど・・・今は大事な時期だし・・・・。」

「いいのいいの!ダメならダメでいいし!」

「またそういうこと言う!」

「お昼先に行ってますーーー!」


一凛のお説教はもういいー!と、わたしは着替え終えたので離れを出た。


「あっつ!」


外に出ると、気温と日差しとまぶしさに目を細めながらも、少し駆け足で、神薙家の入り口へと向かうと、


げっ・・・。


入口に彪斗くんが立っていた。


え?何々?何してんの?

今、会うの気まずいんだけど・・・・。


と、思いながらも行くしかないのでわたしがゆっくり玄関へと向かっていくと、向こうがこちらに気がついた。


「・・・な、何してるの?」


と、おそるおそる聞くと、


「・・・・・・。」


黙って冷えピタを渡された。


「え?・・・熱中症じゃ・・・ないよ?」


彪斗くんは、はぁ・・・と、息を吐く。


「・・・さっき・・・中身の入ったペットボトルで頭叩いたから・・・首痛めただろ・・・はっとけ・・・。」


「!」


えーーーーー!!!???

まさかの気遣い!!!

しかも頭じゃなくて首を痛めたのお見通し!?


少し瞳を見開いてわたしは硬直する。



「・・・頭・・・そんなに痛かったか・・・・?」



彪斗くんは・・・・彪斗くんは・・・・・




少し悲しそうな、辛そうな表情で・・・・わたしの後頭部を・・・・・なで・・・て・・・・いる・・・・・・・・。





これは現実だろうか?





「うわあああああああ!!!!!」




と叫んでしゃがみ込みたい今日三回目である。

もちろん動けなくて真顔で真っ赤な顔をして硬直している。

若干震えている。


え?なんなん?

なんなん?


こんなんされたら・・・・落ちるやん。


いや、もう落ちてるけど。


いや、さっき嫌いってか、怒ってたけどもう好きですよ。大好きですよ。


ちょろいなわたし。


いや!だって、こんな!!!こんな表情で後頭部、頭撫でられたら誰だってちょろく落とされるわ!!!!元々、好きなのに!!!


「・・・だ・・・大丈夫!大丈夫だよ!!ちょっと、痛くて、首ぐきってしただけだから!!!でも、冷えピタはもらっとくね!ありがとう!!」


わたしは真っ赤な顔の笑顔で顔を上げ、長身の彪斗くんに答える。


「・・・顔赤いぞ。暑いか?冷えピタもっといるか?」


違う!!!そこは鈍いのな!!!!


「う、ううん!!大丈夫!中入れば!!!!」

「・・・そうか・・・・まぁ・・・悪かったな・・・・。」


彪斗くんはそう言うと、少し気まずそうに、うつむいて、中へと入っていった・・・・。


彪斗くんが・・・謝った・・・・。

わたしを気遣って暑い中玄関で冷えピタ持って待っててくれた・・・。


おおおおお!!!なんだ!?これは脈ありか!!??


怒ったのに!わたし怒ったのに!?

なんで!?怒ってよかったのか!?

よくわからないが!!!


この冷えピタは使わないで宝物にしよう!!!!


わたしは冷えピタを大事におりたたんでポケットに閉まった。




続。




76.臣先輩の穏やかな笑み。



「なぁ、冷えピタまだあるか・・・?」

「え?冷えピタ?まだあるけど・・・。」

「いいって!もう大丈夫だから!」


彪斗くんが七斗くんに聞くので、わたしは必死に止めた。

彪斗くん以外と過保護?


すると、台所でそんな一悶着をやっていたのを見て、


「なーんだ。喧嘩はもう終わってしまったのかな?」


と、臣先輩が残念そうに座卓に両肘をついて、両手にその綺麗な顔を包み、残念そうにつぶやいた。


「あ?喧嘩?誰か喧嘩してたのか?」


エプロン姿のかわいい麻日くんが不思議そうな表情で聞く。

七斗くんも気になっているようだ。


「なーんでもないよ。ただの痴話喧嘩さ。」

「ち、痴話喧嘩じゃありません!」


わたしが慌てて臣先輩に少し顔を赤らめて言うと、


「ちわげんかってなんだ・・・?」


と、彪斗くんが七斗くんに聞いていた。

は!?何!?知らないの!??ていうか聞くなよ!!!!

七斗くんは案の定苦笑していて、麻日くんは不機嫌そうにお皿をダンッ!と置いた。


ああああ!!!どうしよう。どうしよう!と、思っていると。


ガラガラガラ。と、引き戸の開く音がした。

そして、


「すみません、遅れました・・・。」

「一凛ーーー!!ほら!一凛きましたし、お昼にしましょう!わたしもうお腹ぺこぺこ!」

「え!?」


そういいながら座卓に一凛と座るが、


「なぁ、ちわげんかって・・・・」

「彪斗くん!いいからご飯食べよう!!!」


わたしは痴話喧嘩の意味を知りたがる彪斗くんを大声で呼びつける。


「臣先輩!余計なこと言わないでください!」


こそっとわたしが言うと、


「ささやかな復讐だよ。」


と、先輩は笑った。

ぐっとわたしは言葉に詰まる。


でも、なんだか先輩は・・・・もう、わたしのこと諦めてる・・・?


そんなことを思っていると、


「おい!座ってねぇで皿取りに来い!!!」


と、不機嫌な麻日くんの怒鳴り声が響いたので、私たちは台所へと慌てて立ち上がったのだった。




続。




77.彪斗くんの実力と将来。



『ごちそーさまでした!』


みんなで昼食を食べ終えた後、一凛がおずおずと口を開いた。


「あ、あの・・・わたし、明日の朝から一時帰宅したいんですが・・・すみません、ギリギリまで言い出せなくて・・・。」


その言葉にわたしもふと思い出す。


「あ!わたしも明後日から帰らなきゃ!!」


一時帰宅のことを。


「おー、もう二週間経つか。早いな。」


すると立ち上がり、皿を下げようとした麻日くんが上げかけた腰を戻し、私達に話しかける。


「そうだねー・・・もう半月探してるのにまだ見つからない・・・。」

「ははは・・・まぁ、速水さんたちがいない間だ俺たちががんばって探すから。」


と、七斗くんが笑う。


「マリアは一週間で帰ってこれるんだよね?」


淋しそうな臣先輩に、


「多分・・・お母さんはなんでそんなに・・・とか言ってたけど了承ギリギリしてくれたから特に問題なければ・・・・。」

「帰ってこれなかったらボクが迎えに行くから大丈夫だよ。なんたって、速水家ではボクはマリアの彼氏だからね。」


語尾に星マークをつけて臣先輩は私に肩をこつんとつけて上機嫌に言う。


「ああ!!??」


麻日くんが叫んだ。


またややこしいことを・・・・。


「便宜上そのようなことになっているだけです!!!ていうか先輩が勝手にそうしたんです!!!でも確かに便利です!!!帰ってこれなかったらよろしくお願いします!偽彼氏さん!!」


私はそういって頭を下げる。

えーい、茶化してやれ。と、思ったのだ。


「・・・偽彼氏さんは傷つくなぁ・・・・。」


臣先輩はたそがれていた。


「やーい、偽彼氏!」


麻日くんが笑いながら言う。


「麻日は偽彼氏にもなれないけどね?お母様にあって彼氏です。って言ったこともないだろう?」

「ぐっ・・・べ、別に言う必要ねぇーし!」


そんなやりとりを見て、一凛と私と七斗くんは苦笑し、彪斗くんは呆れてため息をついていた。


「まぁ、とりあえず、明日の朝、山田さんが・・・二泊三日?」

「はい。」

「で、一時帰宅。明後日の朝、速水さんが一週間ね。了解。」


七斗くんはそういうと立ち上がった。


「さー、麻日くん!勉強タイムだよー!最近少しずつ分かるようになってきて偉いねー!」

「うるっせぇな!!!ガキ扱いすんじゃねぇよ!!!」


そして、立ち上がり、去ろうとする彪斗くんに、私は試しに声をかけてみた。


「彪斗くん。彪斗くんは勉強時間何してんの?」

「・・・・・・。」


お皿を持った彪斗くんに注目が集まる。


「・・・部屋で寝てる。」


そう言い彪斗くんは去ろうとした。


「彪斗くん、この家の二階に住んでるんだよね?」

「・・・・そーだよ。」


めんどくさそうに振り向かないで歩き出して答える。


「・・・彪斗くんて勉強できるの?」

「・・・・・・。」


その言葉に場が張り詰めた。

いや、なんとなくそうなるのは分かってたけど。


「いや、学校行ってないのは知ってるけど、勉強はしてるのかな?してないのかな?とか・・・学校行かなくても勉強できるし。あ、別に勉強してなかったらいいんだよ!別にそれを責めるわけでもとぼすわけでもなんでもないし!」


私は慌てて言う。


「・・・・・・。」


彪斗くんはそのまま歩きだし、流しに皿をおくと、去って行ってしまった。

お、怒ったかな?


「彩衣ちゃん・・・。」


一凛に肘で小突かれる。


「あは・・・まずった?」


一凛はうなずいた。

まずったかー・・・後で謝るか・・・。

そう思いながら私も流しに皿を置き、七斗くんにいいよ。といい、彪斗くんの分も洗う。


そしてみんなで勉強の時間が始まった。


「おい、臣、ここ・・・。」

「ああ、ここはね・・・。」


麻日くんが真面目に勉強してくれて嬉しい。頑張れよ。


そう思っていると、引き戸が開いた。

みなが見ると、そこには何か、勉強の本を持った彪斗くんがいた。


「え・・・・。」


と、私含めみなが唖然としていると。


「・・・勉強すりゃあいいんだろ。バカにすんなよ。」


彪斗くんが不機嫌そうにそういい、どさっと空いている七斗くんのとなりに座った。

そして何かの分厚い本を広げ、ノートを広げる。


「え!?何これ!大学生用!?」


すると七斗くんが驚いて声を上げる。

え?と、みながそのまま彪斗くんを見る。


「・・・彪斗くん・・・彪斗くんは今、何の勉強をしていますか?」


私がおそるおそる聞くと・・・。


「よくわかんねぇけど、高校用の数学は終わったから大学の数学やってる。」


顔を上げずにそう答えた。


おいおいおい!!!ゲームでこんな場面あったか!?なかったよな!!??頭よかったのか!?

ていうか!?確か彪斗くんって・・・・。


「あの・・・確か彪斗くんって、高校生だったら二年生だよね?」

「・・・そうだよ。」


うっわマジかよ。ちわげんかの意味わかんなかったのに、数学は大学生レベルとか何。


「大学生の勉強してるの?頭いいの?」

「暇だから勉強してたら、ここまで進んだだけだ。試験とかしてねーから頭いいか悪いかなんてしらねーよ。」


彪斗くんはテキストを見て、爪をかみながらぶっきらぼうに答えた。


「・・・・・・・・。」


みな呆然・・・。

何となく、七斗くんを見ると、七斗くんは視線だけで気持ちを察してくれたらしく、ぶんぶん!っと、知らなかった!という風に、頭をふった。


すげぇな・・・学校行かなくてもやっぱりやれば勉強ってできるんだな・・・ゲームの世界だからかな?いや、でもここでは現実だし・・・・と、思っていると。


「あーーーー!!!!なんだよ!!!勉強できるのがそんなに偉いのかよ!!!」


麻日くんが切れた。


「俺だって今がんばってんだろ!!!!」


立ち上がり、叫ぶ麻日くん。


「う、うん!!麻日くんはがんばってるよ!!!心入れ替えて必死にがんばってるよね!苦手なこと!!偉いよ!!偉い!!!」


私は突然、怒り叫びだした麻日くんをなだめる。


「くそが!!!やりたくねぇのにこいつのた・・・!あ~~~!!!!」


何かを言い掛けて言葉を止めて、朝日くんは髪をかきむしる。


「麻日くん!休憩しよう!休憩!」

「しねぇよ!!勉強すんだ!!!」

「え・・・・。」

「俺だってやればできんだよ!!!スタートが遅かっただけだ!!!」

「・・・そう・・・・。」


そう言うと、ドスンと座り、歯ぎしりをしながらテキストと向かい合っていた。


「愛の力はすごいね・・・。」


横にいた一凛が私にこそっと言った。


愛の・・・力・・・・。


私の・・・ため?


私はぽかんとしながら麻日くんを見つめる。



こんなに苦手なことを退魔師をやめることになった後のことを考えて・・・私のため?なんで?え?将来とか?将来・・・結婚と・・・か・・・・・。


いやいやいや!!!!

麻日くん!!!正気になって!!!!


私は逆にこっちがパニックになるが、でも・・・・それが今の朝日くんのモチベーションになって、将来の役にたつならいいかな・・・と、思った。


将来かー。


将来・・・・8月31日がきたら・・・ほんとに私はどうなるんだろう。




続。




78.とあるイベント。



「あ。」


「何?彩衣ちゃん。」


離れでご飯もお風呂も終え、ゆっくりしていた私と一凛。

私は布団に寝転がりながらあることを思い出し思わず声を上げた。


「いや・・・なんでもない・・・・。」


しかし、慌てて首を振り一凛に返す。


今日って・・・あのイベントの日だよな・・・?


しかし布団にもぐりながら、私はこっそり一凛を見た。


もうすでに終わったのか?いや、しかし一凛にそんな様子はない・・・。

隠してる?いやでも恋バナ大好き!とか言ってるなら話してくるだろうし・・・。

ていうか、みんな・・あ、彪斗くんはわからないけど私のこと好き・・・だから、あのイベントは起きないのかなぁ・・・。


え?じゃあ、どうなるんだろう・・・あれは・・・最後に向けての最終イベ・・・・と、私が考えていると、


「彩衣ちゃん、もう電気消していい?」


と言われた。


「あ、う、うん!」

「寝ようか。」

「うん・・・・。」

「あー!明日、お母さんとお父さんに会うの楽しみだなー!」


一凛はそう言いながら電気を消した。




続。




79.イベントとかエンドとか終わりまでの日程とか。



「それじゃあ、ちょっとの間、帰ります。みんながんばってください。」


一凛はまぶしい、清楚なお嬢様みたいな格好で、荷物を持ち、鳥居の前でみんなに頭を下げると、両親に会いに神社を後にした。


「おーっし、じゃあ今日もやるかー。」


麻日くんがそう言いながら腕のストレッチをして蔵へと向かう。

それに続いてみんなも歩き出した。


「・・・・・。」


やっぱり・・・あのイベントはなかった・・・みたいだよね。

一凛とみんなの挙動や態度を見ていたが何も変わった様子はなかった。


えー!あれないとエンディングこないじゃん!!!

あ!ノーマルエンド!?

そうか!ノーマルエンドか!!!


なーるほどね!


私は納得すると、今日も巻物探しがんばろーと、蔵へ向かった。

しかしそこではたとする。


あ!そうだ!忘れてた!!

巻物、8月31日ギリギリにならないと見つからないんだ!

ゲーム通りなら多分!


あれ何日だっけ・・・28日?29日?

で、30日に儀式して、31日に、告白されてEND・・・。

だったよね?


まじかよーーー、見つからない巻物探しを続けるのか・・・手抜こ。


そんなことを思いながら蔵へつくと、みんな必死に探している・・・ああ、伝えたい。この事実を。


でも、ゲームと違う場合も今まであったから見つかるかもなー。

どうなんだろう・・・まぁ、真面目に探しますか。

私も明日、一時帰宅するしな!


そう思いながら私も探し出すのだった。




続。




80.今日の夜はパーティーだ!



「あ~~~見つからねぇ。」


麻日くんが畳の上に大の字になる。


「麻日・・・運べ。」


昼食を持った彪斗くんがテーブルに置きながら麻日くんに言う。

わーい!エプロン彪斗くん!何度見てもミスマッチ!似合わない!だがそれがいい!


私はニコニコしながらテーブルにお昼ご飯を運ぶ。


「エアコンが涼しいなー・・・俺んち節約してるからあんまつけねーからうらやましい・・・俺も七斗ん家、住もうかなー・・・・。」


「え!?」


麻日くんの言葉に髪を切ってさっぱりした七斗くんが動揺している。


「・・・あからさまに嫌がんな。冗談だよ、バーカ。」


けっと、麻日くんが言い放つ。


「あ、いや!嫌がったわけじゃ!」

「うるせぇ、前髪ないから表情でモロバレなんだよ。」

「え!?」

「七斗・・・拗ねた麻日の言うこと真に受けないの。ほらこれで最後だよ。」

「麻日くんやめなよー!」

「だってこいつ嫌がっただろ!」

「驚いただけでしょ。」

「おい・・・飯食うぞ。」

「あ、はい!」


『いただきます。』


そんな楽しくにぎやかな空間が広がる。

神社で合宿して早二週間。

当たり前になりつつある光景。


明日からこれともしばらくおさらばかー・・・。

私は少しセンチメンタルな気持ちになりながら、彪斗くんと七斗くんという一番と二番の推しが作った昼食をいただく。


はー!帰りたくねぇ!!家も本当の家じゃないし!

むしろ私もこの家に住みたいわ!!

穢れも魔物もいないし!推し、1、2がいるし!!


はー!はーーー!!!!


私は思わず心の中で叫びつつも、小さく溜息をもらす。


「マリア?どうしたの?」


するとすかさず臣先輩がつっこんできた。


「いや・・・今日でこのにぎやかなお昼ご飯ともしばらくお別れだな。って思ったらなんか・・・。」


その言葉に、部屋がしん・・・と、静まりかえる。


え、え!?そんな静まりかえらなくても!!!

私は焦って言葉を継ぎ足す。


「あ、でも!すぐ戻ってきますけどね!一週間で!」


そしてあはは!と、笑った。


「そうだね・・・明日の朝からマリアも一時帰宅か・・・・。」

「だな・・・。」


臣先輩と麻日くんがつぶやくように言った。


なんでそんなに暗くなるの~~~!!???

そんなに私いなくて淋しいの!?

さみしいか!おばさん嬉しいな!でもちょっと困る!!


「ま、まぁ!すぐに帰ってくるし!今日の夜はまた先輩にごちそう作ってもらおうよ!」


は!?七斗くん何言い出すの!?また冷蔵庫空っぽになるよ!?

私もう夜の買い出し嫌だよ!?


と、七斗くんを見ると、七斗くんはにこやかに笑っていた。


・・・一凛の時は何もしなかったのに・・・。

ほんとに愛されてるなあたし・・・自分で言うのもなんだが・・・・。


と、思い、本当に帰るのがつらくなってきた。


「うん!任せて!じゃあ今日の夜はパーティーだね!」


「酒はあるのか?」


「ないよ!」


彪斗くんの言葉に七斗くんがすかさずつっこんだ。


え?何?彪斗くんたまに飲酒してるの?

高校生だろ!




続。

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