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転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?  作者: 山下小枝子


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51~60話

 51.やったぜ!順調な進行だ!反則したかいがあったな!



 その日の夜、神薙くんからメッセージアプリがきた。

 私は珍しいな。と、アプリを開く。


『速水さんこんばんは。

 今、父さんが幹部会議から帰ってきて、幹部の中に昔、御神体の前に宝玉を戻す方法を書いた文献があると聞いた人がいると聞かされました。詳しいことは明日のお昼に話します。その後、放課後、うちの神社で父さんからみんなに話があるそうです。それもお昼に話します。ありがとう、速水さん。』



「やったぁ!」



 私はベッドでうつ伏せになっていた体勢から跳ね上がり、座ると、嬉しい声を上げた。

 今日はついている!


 きっと神薙くん動揺してるだろうな・・・。

 私はふふっと笑いながら明日の昼を楽しみに、また部屋の隅に現れた穢れに触れないように明日の支度をした。



「神薙くん!やったね!」


 教室につくと、私はおはようも言わずに、神薙くんのところへ行き、そう話しかけた。

 来る途中合流した一凛に、鈴もいるので小声でやったね!と言ったら、何が?と言われたので、一凛にはまだ話していないようだった。


「あ・・・う、うん・・・何か・・・まだ信じられなくて・・・・。」


 神薙くんは見るからに動揺している。

 そりゃそうだよな、一生このままだと思ってただろうしなー。


「何か・・・速水さんの言った通りになったね・・・まるで・・知ってたみたいな・・・。」

「え!」


 神薙くんの鋭い発言にわたしはあせる。


「んー・・・まぁ、古い神社だから何かヒントあるかなって!私、勘鋭いから!」


 しかし、そう言って笑ってごまかした。


「そう・・・。」


 小さくそう言い、神薙くんは納得いかなそうだが、そこで予鈴がなった。


「じゃあまたお昼休みに!」

「あ、うん。」


 そうして私は神薙くんの元を後にした。



 昼休み。



「ええ!!??」



 みんなも大声を出して驚いていた。

 うんうん。ここスチルであったなぁ。と、私は思い出してにこにこする。


「まじかよ!そんな方法あるのかよ!」


 麻日くんが驚いた顔で叫ぶ。


「そんな話は・・・聞いたことがないけど・・・七斗、詳しく聞かせて。」


「はい。」


 臣先輩の言葉に、神薙くんは話し始めた。



「幹部会議で、ある幹部が幼いときに、昔、祖父が宝玉が盗まれて遠くへ行ってしまったり、どこかへなくしてしまったりした時に、御神体の前へ戻す方法があると言っていた・・・と、幼いときに軽く聞いただけだから間違いかもしれないが・・・と・・・で、その方法がのった文献が神社の蔵にあるともいっていた・・・・と。」


 神薙くんは落ち着いた静かな声で言う。


「それが本当なら・・・凄いことだね・・・・。」


 臣先輩は顎に手をあて、神妙な顔をする。


「はい・・・。」


「やったね、一凛!宝玉、体の中から出せるかもしれないよ!」


 私は一凛にほほえむ。


「うん!」


 一凛も嬉しそうだ。


「マジか・・・。」


 麻日くんが呆然としている。


「だからいったでしょー。麻日くん将来のことちゃんと考えなよ!」

「まだわかんねーだろ!そんなもんあるか!ボケたじじいのたわごとかもしれねぇし!」

「・・・・・・・」


 私はニタニタしたがら麻日くんを見ていた。

 あるんだなー、蔵に。


「それでっ・・あの・・・今日の放課後、父さんがみんなに神社に集まってくれって・・・・きて・・・もらえますか・・・・?」


 神薙くんがおどおどという。


 神薙くんもこの性格、最後何とかなるんだけど・・・最後のトゥルーエンドで・・・一凛が何とかするんだけど・・・・何かそんな様子もないし・・・どうなるんだろう。


「ああ・・・わかった。」

「わかったよ。」

「はい。」

「私も行くの?」


 と、私が問うと。


「あ、うん・・・・特に速水さんは・・・父さんが会いたがってる・・・。」

「え?」


 そんなことをぼそりと言われた。


 あの攻略不可イケオジキャラに会ったのはいつぶりだっけなー。と、私は思い出す。

 確か鈴と一緒に神社に行って絆創膏貼ってもらったっけ。

 と、私は思い出しながら、またイケオジに会える・・・。

 と、少し嬉しく思っていた。




 続。




 52.2人だけの秘密。



 放課後、みんな徒歩なので、珍しく先輩も徒歩で行く。と、みんなで歩いて神社へと向かった。


 相変わらず穢れや魔物もいるが、みんな会話して歩きながらザバザバと、ごく普通のことのように退治して歩いていく。

 その光景がちょっと異様だった。


 でも、なんかみんなで歩いているのが楽しい。

 うん、なんか青春だなー。二度目の高校生活!すっごく楽しい!

 あ、でもここに彪斗くんもいたらなー・・・ってちょっと思う。


 彪斗くんいつものけ者だし・・・でもね・・・私知ってるんだ。

 多分、ゲーム通りならそう。




「・・・よう。」



 ほらいたーーー!!!


「あ?彪斗も呼ばれてたのか?」


 神社に着いて、御神体の前に通された私たちは、柱に寄りかかっていた彪斗くんを見つける。


 麻日くんが問うと、ああ。と答えた。

 ちらっと私を見る。

 私は笑顔で手を振った。

 じとっとした目で見られた。ははは。


「マリア・・・彪斗と知り合いなの?なんで?いつの間に?」

「ヒッ!」


 耳元で声がして私は声を上げた。


「びっくりしたー・・・先輩なんですかもう!」

「今、彪斗に嬉しそうな笑顔で手振ってたよね?二人、知り合いじゃないはずだよね?いつ知り合ったの?知り合う機会なんかあった?」


 先輩は光のない瞳でまくしたてる。


「え・・・っと・・・。」


 と、私がどこから何を話そうかと思っていると、


「あ?何?お前、彪斗と会ったことあるのか?」


 と、麻日くんまでやってきた。


「え?」


 なんで麻日くんまで?と、思いつつ、


「いつ会ったんだ?こいつと会う機会なんてなかったろ?」


 と、麻日くんも同じことを聞いてくる。

 え?え?と、困っていると、


「九五に頼まれて、見えるようになってからこいつの見張りしてたんだよ。そしたら案の定こいつ好奇心で穢れに手つっこんで、のまれそうになったから引き抜いて説教したんだよ。そんとき知り合った。」


 ボスンと大きな手が私の頭を掴み、彪斗くんの声が横から聞こえてきた。


「・・・ふーん・・・って、お前、穢れに手突っ込むとかすんなよ。」


「・・・彪斗。彩衣ちゃんの頭から手離してくれるかな?」


 麻日くんはなんだかどこかおもしろくなさそうに納得した後、私の肩を小突いて注意した。

 臣先輩は笑顔で背後に黒いオーラを漂わせている。


「あ?ああ・・・。」


 彪斗くんはそういうと私の頭から手を離し、また柱へと戻っていった。

 説明してくれたのは助かったな・・・てか、最初の出会いは言わなかったな・・・まぁ、自分が大怪我負って介抱された話はされたくないか・・・。


 2人だけの秘密だな。と、思い、私は嬉しくて、へへっと少し笑った。


「なんか嬉しそうだな。」

「なんか嬉しそうだね。」


 すると目の前の2人に突っ込まれた。


「!」


 私はびっくりする。


「ていうか、2人ともなんなの!なんでそんないつまでも近くにいるの!一凛と神薙くん座ってるよ!座りなよ!」


 私は叫ぶのだった。




 続。




 53.夏合宿!からの・・・呼び出し・・・?




 機嫌悪そうに座った2人に続いて私も座る。

 彪斗くんは柱に寄りかかっていた。


 神社の御神体は綺麗な鏡で、その前に年季の入った屋根付きの観音開きの木製の箱のようなものがあった。


 そう、それが宝玉を納める場所。


 きっと今は空だろう。

 宝玉は神薙くんと一凛の中にあるのだから。


 すると神主姿の九五さんがやってきた。


「やー、みんなお揃いで。ありがとねー。」


 相変わらずフランクだ。

 そして御神体に礼をして、みんなの前に立つと、話し始める。


「いやー、みんなもびっくりしたよねー。まさか宝玉、七斗と一凛ちゃんの身体の中から取り出せる方法があるかもしれないなんてさー。俺も幹部会議で聞いてみたらそんな答え返ってきたからびっくりしたよ。でね!ここからが本題!文献が蔵の中にあるかもしれないんだけど、みんな忙しいし、俺一人じゃできないしさー・・・みんなこれから夏休みじゃん?というわけで!『文献探し合宿IN神内神社』を開催します!」


 はあ!?や、え!?という声が聞こえてきた。

 うんうん、これから楽しい合宿なんんだよ。ここで最終的に誰ルートになるか決まるんだよ・・・って一凛、今、誰ルートなんだろ・・・。

 と、私は思いながら、にこやかにその光景を見ていた。


「8月から見つかるまで31日まで粘るよ!この町の運命をかけた探し物だからね!あ、ご家族がいる人は途中で少し返ってもいいから。あと、夏休みの課題は持ってきてね、ちゃんとやるよ。勉強も食事作りも掃除も探し物も全部やるよ!みんな覚悟してね!」


 じゃ、かいさーん。


 と、九五さんは立ち去ろうする。

 しかし、あ。と、立ち止まった。


「速水・・・彩衣ちゃん?君、ちょっとこっちきて。」


 と、にこやかに言われる。


 私は、うなだれるみんなをふふふと、見ていたのだが、へ?と驚く。

 しかし、手招きされて立ち上がり、正座でしびれる足をなんとか動かし、ついて行った。


 背後から神薙くん・・・息子さんの方、七斗くんね。と、彪斗くんが来るのもわかる。


 え?何?何?


 私は凄く怖いようなあせりを感じた。




 続。




 54.信じてもらえないと思うけれど。



「はい、どうぞ。」

「・・・ありがとうございます。」


 そこは社務所の一部屋だった。

 私は通され、座ってと言われる。

 そして冷たい麦茶を出された。


 前には、にこやかに座る九五さん。

 背後には斜め横に座る神薙・・・七斗くん。

 そしてもう一方の横の壁には彪斗くんが瞳を閉じて寄りかかっている。


 え?何?この包囲網。何?何?


 私は恐怖を感じた。


「えー・・・っと、会うのは二度目だよね?おてんばお嬢さん。膝の傷は大丈夫?」

「あ、はい!」

「そっか。いやー、まさか君が何故か大怪我した彪斗を助けたり、魔物退治に同行したり、見えるようになっちゃったり、何故か七斗に文献がないか俺に聞くようにとか、幹部会議で聞くようにとか言ったり、実際に文献があるような話題が出てきたりしたりしたりするようなお嬢さんになるなんてあの時は思わなかったよー。」


 あははは。と、九五は笑う。

 しかし、その言葉からはっきりと伝わってくる・・・。


 私は・・・・疑われている・・・・。

 なんというか・・・・その・・・・・存在を。


 やばい・・・やっぱり反則技を使うのはまずかったか・・・。

 私はやっちまった・・・と、冷や汗だらだらで顔をうつむかせていた。


 しかし・・・。



「そうですねー!」



 と、笑ってみた。



「・・・そうだねー!」



 笑い返された。


「アホなことやってんじゃねぇ。」


 しかし彪斗くんに頭をがしっとつかまれた。

 彪斗くんは頭を掴むのが趣味なのかな?と、私は思う。


「彪斗!」


 七斗くんが焦っている。


「お前はなんで公園で、初対面の俺を知っていた。なんで、まるで予知するかのように文献のことを七斗に言った。お前は何を知っている。お前は何者だ。」


 彪斗くんに顔を近づけられ問われる。


 近い近い近い!イケメン近い!でも怖い!


 私は目をそらす。いろいろな意味で。


「彪斗は直球だなー。でも助かるよ。」


 九五さんは私たちを眺めている。

 知っている。九五さんはそういう人だ。実は冷酷。


「父さん!ちょっと彪斗!」


 神薙くん・・・お父さんもいるから七斗くんと呼ぶが、七斗くんだけが優しい・・・。

 どうしよう・・・どうすればいいかな?


 本当のことを言う?

 この世界は私がやっていたゲームで。

 私は本当はアラサーの宮本恵名っていう人間なんです。

 事故おこして気付いたら彩衣ちゃんになってました。って。



「・・・・・・・・」



 いやいやいや、言えないだろう。

 信じてもらえない。

 信じてもらえたとしても、自分たちが生きている世界がゲームの世界だなんて・・・。


 そんな事実伝えたくない・・・そんな・・・残酷な・・・・。



「彩衣ちゃん・・・」


 九五さんの静かな声が部屋に響いた。


「君もこの町の本当の姿を見ただろう?穢れや魔物が跋扈し、退魔師が戦い、麻日の両親の様に亡くなる人は今だっている・・・この町を・・・救うためにはどんな情報も欲しいんだ・・・・。」


 彪斗くんが私の頭から手を離す。

 九五さんは珍しく真面目な表情だった・・・。

 私は意を決す・・・。



「・・・信じて・・・もらえないと思いますけど・・・・。」



 私は口を開いた。


「うん、いいよ。」


 冷酷で、人たらしで、腹では何考えてるかわからない九五さんが優しくほほえむ。

 でもこれは九五さんのためではない・・・戦う退魔師、一凛、町のみんなのため。


 私は話した。

 全てを。




 続。




 55.なんとか切り抜けたけど・・・疲れたわ。推し二番目の優しさが染み渡る。




「なんだそりゃ。」


 吐き捨てるように彪斗くんが言った。


「ゲーム・・・の世界・・・か。」


 九五さんも表情はかえずに両手を組み、眉間にあてる。


「・・・・・。」


 七斗くんは黙っていた。


「だから・・・私は最初から彪斗くんのことも知っていて、文献のことも・・・・この先のことも知っています。でも、8月31日までです。ゲームはそこで終わりですから。」


 彪斗くんに吐き捨てるように言われ、暗い面持ちで私は言う。


「8月31日で終わりか!じゃあその先はどうなるのかな?世界滅亡?あ、この町滅亡かな?」


 九五さんがおちゃらけて言う。


「九五!」


 彪斗くんが吼えた。


「冗談冗談。まぁー・・・信じられない話だよね。この世界が・・・俺たちが生きてきた世界が君の世界でのゲームだなんて。」


「・・・はい。」


 私はうつむいて答える。


「俺たちは昔からここで暮らしてきたし、生活してきたし、生活している。生きている。」


「・・・はい。」


「それが、たった一つの作られたゲーム。」


「・・・・でも!あの!ゲームでは描かれてなかった彩衣ちゃんの家族や、町の人や、退魔師幹部会議とか、そういうのもあって!だから・・・ちゃんとこの世界は・・・この世界として存在してると・・・思うんです・・・・してほしいです・・・。」


 最後の方は小声になりながら、私は言った。


「・・・速水さん・・・確かに少し変わったんだよね・・・。」


 そこで黙っていた七斗くんが小さく声を発した。

 皆が七斗くんを見る。七斗くんはうろたえている。しかしぎゅっと正座していた膝に拳を握り。


「4月・・・ごろかな・・・あんまり意識してなかったんだけど、確かに速水さんの身体に・・・宮本さん・・・が入った?意識がなった?頃から、速水さん変わったな・・とは思ってた・・・それから・・・山田さんの為に色々してあげたり、先輩や麻日の為にも・・・きっと本当の速水さんだったらしてあげなかったと思う。」


 七斗くん・・・フォローありがとう・・・心の底から私は感謝した。


「うん・・・私は4月の頭に事故を起こして彩衣ちゃんになったから・・・・その変化に気付いたのは正しいよ。鋭いね。」


 私は七斗くんに苦く笑う。


「臣先輩や麻日くんに優しくしたのも・・・先輩や麻日くんの過去の事情や、現在の状況も未来のことも知ってるからです。だから何とかしたくて・・・ちなみに、彪斗くんと神薙くん・・・七斗くんの色々な事情も知っています。」


「っ・・・」

「え・・・」


 2人が動揺するのがわかる。


「ごめんね・・・ほんとごめん・・・でも誰にもいってないから。」


 私は振り返らずに肩をすぼめて謝る。


「そんなわけで!私の秘密は全部お話ししました!私は8月31日まで、精一杯この世界で行きようと思います!なので、蔵の中に文献は必ずありますので、探すのがんばります!それで、一凛と神薙・・・七斗くんの中から宝玉取り出して、元の御神体の前に戻して、町に平穏を戻して・・・・その後はどうなるかわかりませんが・・・とりあえず!そこまでこのままでいさせてもらえませんか?お願いします!」


 私は頭を下げる。


「・・・・・・」


 部屋には沈黙が流れた。

 ふぅ。と、九五が一つ息をつく。


「ま、文献は必ずあるらしいし、君が彩衣ちゃんだろうが恵名ちゃんだろうが害はないし、君が知ってる未来も8月31日までだし・・・別にかまわないだろ。お前等もいいか?」


「あ、うん。」


 九五さんの言葉に七斗くんが答える。


「・・・気にくわねぇが・・・まぁいい。」


 彪斗くんもそういってくれた。

 少し怒ってる風なのが心に響く。


「じゃあお疲れさまでした。あ、このことは一応4人の秘密ね~。あんまり大人数に知られるとめんどくさいことになりそうだし。」


 ああ。うん。と彪斗くんと七斗くんは答え、九五さんと彪斗くんは出て行った。


「・・・速水さ・・・・あ、宮本・・・さん?大丈夫?」

「はぁー・・・・」


 私は目の前の座卓に突っ伏した。

 宮本さん・・・久しぶりに呼ばれたな・・と、思いながら七斗くんを見る。おろおろとしている。


「今まで通り速水さんでいいよ。ていうか彩衣ちゃんでも彩衣でも名前呼びでいいよ。私もさっきからお父さんも神薙さんだから七斗くんって呼んじゃってるし。」


 腕に顔をのせてのんびりと七斗くんと話す。


「あ、いや、名前呼びはぜんぜんかまわないけど・・・俺は・・・速水さんのままで・・・いいや。」

「七斗くんらしいね。」


 私はほほえむ。


「あー・・・疲れた。精神的に。」


 私はぼやく。


「だ、大丈夫?何か・・あったかいものでも・・・」

「大丈夫・・・七斗くんは優しいね・・・こんな私に・・・。」


 自嘲的に私は笑う。


「え・・いや・・・別に・・速水さんは悪くないと思うし・・・。」

「・・・そう?」


 七斗くんの言葉は以外だった。


「うん・・・ただ・・・好きなゲームがあって・・・事故を起こして・・・気付いたらそのゲームの世界にいただけで・・・まぁ・・・この世界がゲームだっていうのは・・・まだあんまり自覚ないけど・・・・責任があるとしたら・・・・速水さんをこの世界に送り込んできた何かしらの・・・たとえば神様とか・・・そういう物の責任というか・・・・。」


 七斗くんは後頭部をゆっくりかきながら途切れ途切れに言う。


「・・・そうだね・・・そう言われれば。」


 私はくすっと笑う。


「ねぇ、七斗くん。」

「え?」

「髪。切った方がいいよ。私知ってるの。七斗くんが実はイケメンだって。髪切ったら超イケメンでびっくりしたわ。ゲームの最後で。」

「え・・・。」

「ふふ。」


 戸惑う七斗くんを見て、私は笑った。


 穏やかな推し二番目は旦那さんにするなら一番いいな。と。




 続。




 56.夏の青春の一ページ。



 それから私は、美女母に神社での合宿のことを伝えた。


 勉強合宿で、一凛や先輩や後輩などもいると伝え、男女部屋は別だから!と伝えたが、いかんせん31日間もの間は無理だったので、二週間で一旦帰ることでOKをもらい、母は九五さんにお世話になります。と電話をかけていた。


 それから七斗くんと彪斗くんと九五さんだけが私の秘密を知るが、学校では七斗くんが知るだけで、七斗くんは特に何も変わらないし、誰にも言ったりしなかったので、私の日常は変わらなかった。


 変わったのは秘密を共有しているからか、ちょっと七斗くんと仲良くなったことくらい。


「あの・・・速水さん・・・屋上、行く?」

「!」


 昼休み、いつもなら先に行く七斗くんが、初めて声をかけてきて、一緒に行こうとしてきたのだ。


「あ、うん!一緒に行こう!今、一凛がおべんとう・・・」


「マーリアー!」


「・・・・・・」


 私と七斗くんが入り口に入ってきた先輩を見る。


「やっとマリアに会えたよー!寂しかったよー!」

「そうですか・・・」


 この先輩もどうしよう・・・。

 と、私は思っていた。


「ん?七斗どうしたんだい?先に行って準備しないのかい?」

「あ・・・えっと・・・」

「七斗くんも一緒に屋上行くんです。」

「・・・七斗・・・くん・・・そういえばマリアいつの間にか七斗のこと名前で呼んでるよね・・・何か2人の間にあったのかな・・・?」


 またどす黒いオーラを発してぶつぶつ言い出す先輩。


「何もないですよー!九五さんも神薙さんだから神薙くんって呼ぶとややこしいじゃないですか!だからです!あ、一凛お弁当用意できた?」

「あ、うん!」

「じゃあ、屋上行こう!ほら!七斗くんも!」

「え、あ・・・!」


 私は七斗くんの手首を持ち、引っ張り、先輩から逃げるように屋上へと向かった。


「ボクを置いていかないでよー!マリアー!!」


 先輩の嘆き声が聞こえる。


「ぐだぐだ言ってる人は置いていきますよー!先輩!」

「ふふ」


 一凛も笑っている。

 七斗くんも少し笑っていた。


 私の第二の高校生活は変わらず楽しかった。




「七斗おせーよ!なんで俺が一人で机並べなきゃ・・・お前等何この暑いのに走ってんだよ。」


 屋上に行くと麻日くんが一人で日陰に机を並べながら呆れた顔でぜぇはぁ言っている私たちを見て言った。


 そう、季節はもう夏だった。

 7月下旬。梅雨も明け、日差しもきつく、気温も高い。夏である。

 屋上の日の当たる場所での昼食もきつくなってきたので、日陰の場所で食べている。


「あ?何?七斗も彩衣たちと一緒に屋上くんのかよ。俺が毎回机並べるのずりーじゃねえーか。」


 机を並べてお昼をお食べながら、麻日くんが機嫌悪そうに言う。


「ご、ごめん・・・じゃあ、やっぱり先に・・・・。」

「・・・いや!いい!じゃあ俺もお前等の教室行く!」

「は!?」


 私は卵焼きを掴もうとしていて叫びながら顔を上げた。


「・・・なんかずりーから、俺も臣みたいに彩衣たちの教室寄って屋上行く。」

「え?え?」

「だめか・・・」


 麻日くんがなぜか私を見る。

 みんなも私を見ていた。

 何故、私が可否を決めるの?と思いながらも否定する理由もないので、


「別に・・・いいけど・・・・」


 と、答えた。


「よっし!じゃあ、明日から行くからな!」


 どことなく麻日くんは嬉しそうだった。


「麻日まで・・・麻日まで・・・・。」


 先輩がぶつぶつ言ってるよーーーー!


「何か・・・ごめんね・・・」


 七斗くんが謝る。


「いや!七斗くんが謝ることじゃないから!別に大丈夫だよ!」


 慌ててわたしは手を振る。


「彩衣ちゃんモテモテ~。」

「は!?」


 一凛がなんか言ってきた。

 は!?先輩はわかるけどさ!

 麻日くんが舌打ちして機嫌悪くなる。

 ほら!嫌がってるじゃん!

 一凛が萎縮する。


「そ、そんなことよりさ!みんな神社合宿大丈夫そう?私、二週間で一旦帰ってこいって言われちゃったよー!」


「マジか、俺は一人暮らしだから31日までいられるけど。」

「ボクも一人暮らしみたいなものだからね、平気だよ。」

「・・・私も寮だから平気。」


「・・・私だけか!一時帰宅!」


 だね、とみんなに言われる。


「じゃあ、みんながんばってね。すぐ戻るから。」


 しゅんとする私。


「あ、でも私、両親が一時帰国するから数日両親と過ごすから離れるね。」


 すると一凛がそう言った。


「あ、了解ー。よかったね。」

「うん。」


 一凛は嬉しそうだ。


「じゃああとは8月を待つだけかー。」

「そうだなー。」

「そうだねー・・・まぁもうすぐだよ。」

「だな。さて、んじゃ今日の退治場所決めるか。」

「あ、うん。」

「なんか忙しいね。」

「ほんとうだね。」


 私達は笑いながら次々と話を進めていく。


 学業に退魔師の仕事や夏の予定。


 忙しいのはいいことだ。


 それが楽しい高校の青春の一ページなら尚更。




 続。




 57.いざ夏合宿!って、この場所は・・・・。



「ボクが先に行くんだよ!」

「るせぇな!どっちだっていいだろ!」


 一人増えてぎゃいぎゃいとした声が聞こえてくる。


「マリアー!お昼だよー!」

「彩衣!屋上行くぞ!」


 昼休みになると上級生と下級生が迎えに来て同級生と一緒に屋上へ向かうという日々を繰り返し、私の一学期は終わった。


 夏休みに入り、7月中はまったりと、たまに夏休みの課題でもしたり、麻日くんに高校生の遊びを教えるべく遊びに行ったりしながら過ごし、ついに八月になった。


「いい?ちゃんと失礼のないようにね。」

「はいはい。」

「ぐーたらしないで、テキパキ動くのよ。」

「わかってるよ。人様のお家だもん。」

「あと、何かあったらすぐ連絡してね。」

「うん、一日一回はメッセージ送る。」

「じゃあ気をつけてね。」

「はーい、行ってきますー!」


 私は家の扉を開ける。

 強烈な太陽がまだ午前中だというのに照りつけていた。


「あっつ・・・」


 大きな荷物を持ち、思わずつぶやく。


 今日から文献探しの神社合宿!

 これが終わればゲームは終わりだが・・・一体どうなるのだろう・・・。


「まぁ、なるようになるか!」


 私は大荷物を担ぎ歩き出した。




 途中で一凛と合流し、神内神社へと向かう。


 もう見慣れた鳥居に階段。


 階段を上ると、麻日くんと臣先輩がいた。


「あ、おはようございますー!」


「おっす。」

「おはよう、マリア、一凛ちゃん。」


 すると神主さんたちが住むごく普通の一軒家の扉が開いた。

 中から出てきたのは七斗くんだった。


「ご、ごめんね、今、父さん出てくるから!」


 そしてその後ろから彪斗くんも出て来る。


「はよ・・。」

「お、おはよう・・・」


 私は微妙な心境で挨拶する。

 少しうつむく。


 そして今更だがふと気づく。


「ねぇ・・・そういえば、神社の中って、穢れや魔物・・・いなく・・・ない?」


 そうなのだ。

 鳥居までの階段まであれだけうようよいた穢れや魔物が、鳥居に入った途端、ぱたりといなくなったのだ。まるで結界でもはられているように・・・・。


「あー・・・境内は、御神体の力でさすがに穢れや魔物は入ってこれないんだよ。」


 七斗くんがにこやかに言う。


「え!?そうなの!?」

「うん。」

「宝玉はなくても御神体だけの力でそのくらいはできるんだよ、神社の中だけならなー。」


 と、嫌味っぽく麻日くんが言った。

 私は麻日くんを睨む。


「すごいねー!わー!本当だー!いなーい!」


 そしてきょろきょろと辺りを見渡した。

 本当にいないのだ。

 慣れたとは言え、目障りだったあいつらが。


「しばしのバカンスだね!」


 そして嬉しそうにそういうと、七斗くんはなんとも言えない表情で、少しほほえんだ。

 あ、しまった。

 穢れや魔物を蔓延らせる原因作った人にちょっとはしゃぎすぎたか・・・と、思っていると。


「おおー、みんなあつまってっかー。」


 九五さんが家から出てきた。


「集まってるよ。」


 麻日くんが言う。


「みたいだな。よっし!じゃあ、泊まる場所説明するぞー。男どもは俺たちと同じこの一軒家の空き部屋だ。で、女の子たちはさすがに野郎共と同じ屋根の下って訳には行かないから離れを使ってもらう。今から案内するからなー。」

「はい。」

「はい。」


 私と一凛は返事をした。


「あ、でも食事とお風呂はこの家の使ってね。悪いね。トイレは離れにあるから。」


 私達は再度、返事をする。


 そのまま九五さんの後に付いていく。

 一軒家から社の前を通り、蔵を通り過ぎ、さらにその奥。


(え・・・離れって・・・あれって・・・え?まさかあそこ!?)


 私は驚愕した。


「ここ。古いけど中はちゃんと掃除してるから。電気も通ってるし、この離れ使って。」


 九五さんはガチャガチャと引き戸の鍵を開ける。そしてガラッと中へと入った。


「おじゃまします。」


 と、一凛は入っていくが、一凛!あんた覚えてないの!?と、わたしは心の中で突っ込む。だってこの場所は・・・。

 私が入口に立って動揺していると・・・・


「ん?どうしたの彩衣ちゃん・・・・あ。あ~・・・そっか。もしかして・・・知ってる?この場所のこと。」

「っ・・・・」


 九五さんにそう言われ、私は、はいと言っているような物の動揺の仕方をした。


「ははは!マジか~。そのことも知ってるのかー。いやー参ったね。じゃあここを使ってもらうのは気まずいなぁ・・・平気?」

「だ、大丈夫・・・です・・・私は・・・。」


 と、答え、私は離れの小さな部屋の中へと入る。


 その離れは、八畳ほどの和室だった。

 トイレ以外はほぼ何もない、簡素な部屋。



 私はこの場所を知っている。

 一凛だって知っているはずだ。

 でも、彪斗くんルートじゃないと思い出さないのかもしれない・・・。



 だってここは、彪斗くんが幼少期に、閉じこめられていた部屋・・・。



 彪斗くんは私達がここを使うのを知っているのだろうか。

 平気なのだろうか。



 そんなことを思いながら呆然と入り口で立っていると、


「彪斗なら大丈夫だから、気にしないで。」


 と、出て行こうとする九五さんにぽんっと肩を叩かれ、耳元で囁かれた。


「え、あ・・・そうなん・・・ですか・・・。」

「ああ・・・もう平気みたいよ。昔のことだからって。」

「・・・・そう・・・ですか・・・。」

「しかし君、やっぱり・・・あれなんだねぇ~。」

「え?」

「いやいや。それじゃあ、俺は戻るから、荷物置いて一段落したらまた戻ってきてねー。」

「あ、はい。」

「はい。」


 私と一凛が答えると、ひらひら手を振り、九五さんは行ってしまった。


 久々に、スチルで何度も見たという光景を目の当たりにして、わたしは動揺を隠せない。

 しかも最推しの重要な部屋だ。ここは。


 力の強かった彪斗くんが、親に棄てられるような形で九五さんに預けられ、その強い力や、穢れや魔物を惹きつけてしまう力も持っていたため、結界を張ったこの部屋に隔離され、力のコントロールができるまで、ここで一人で育ったのだ。


 窓の柵から空を見上げる幼い頃の彪斗くんのスチルが忘れられない・・・。



 その場所に、今わたしはいる・・・・。



(なんてこった・・・どうしよう・・・・。)



「彩衣ちゃん?早く荷物置いて、向こう行こう?」

「う、うん・・・・。」


 一凛に言われ、一凛は神社で遊んでて!ボール探しに来て!柵越しに彪斗くんに会って!何度か訪れてるんだよ!!覚えてないの!?と、言いたいのをぐっとこらえて靴を脱ぎ中に入り荷物を置く。


 ああ・・・最推しの重要な場所に入ってしまった・・。


 嬉しいような・・・場所が場所だけに複雑で・・・。

 しかもこれからここで過ごさないといけなくて・・・・。


 わたしは九五さんの嫌がらせかな?っと思うまで少し参っていた。




 続。




 58.彪斗くん。



 荷物を置き、動揺したまま神薙家の一軒家に入ると、居間に通された。


 少し広めの居間には畳の床に、座卓とテレビ、エアコンと扇風機など、純和風のごく普通の居間だった。

 彪斗くんが部屋の隅に座っていて、わたしはドキリとしたけれど、なるべく見ないようにして、そっと離れたところに座った。

 今はまだ、心の準備ができていない。


 九五さんがきて、これからの説明を受ける。


 朝は6時起き、7時にみんなで朝食を食べ、それから蔵で文献探し。

 ちょっと早いけど11時にお昼ご飯を食べて、12時から3時まで夏休みの課題。

 3時から6時まで蔵でまた文献探し。

 その後は夕飯食べたりお風呂入ったり、みんなでまったりしたり、ご自由にどうぞ。ということだった。

 でも、12時には寝てね。と言われた。


「今日は布団干したり、荷物ほどいたり、みんなゆっくりしたらいいよ。蔵の様子見たりとか。大変だぞー。中見たらうんざりするからな。」


 と、九五さんは脅してくる。

 実際、私も蔵の中は見たことないので、どんなものかと気になった。


「じゃあ解散ー!」


 そう言われ、私達は荷解きに戻ろうかな・・・と、一凛に声をかけて立ち上がろうとした時、


「あの・・・速水さん、山田さん。」

「はい?」


 七斗くんが声をかけてきた。


「あの・・・布団を用意したから、持って行ってくれるかな。まだ干してないから、干さないといけないんだけど・・・。」

「ああ、うん!どこで干せばいいの?」

「二階のベランダと家の外に物干し台があるから、そこで。先輩や麻日もお願いします。」

「布団なんか干さなくてもしなねーよ、めんどくせぇ。」

「布団を干す・・・か。」

「みんなぶつくさいってないでやりますよー!」


 困っている七斗くんを見かねて、私が声をかけて立ち上がると、皆がしぶしぶ立ち上がってくれたので、七斗くんはほっとしたようだ。

 彪斗くんは何も言わず、すっと部屋から出ていった。


 そう言えば、彪斗くんはどこに住んでいるんだろう・・・この家かな?と、思いながら、布団干しに向かう。


 みんなできゃっきゃ言いながら布団を干し終え、私と一凛はあの離れへと戻る。


 離れの外観が見える位置で立ち止まる。


「彩衣ちゃん?」

「・・・ねぇ一凛・・・この離れに見覚えない?」


 私はそんなことを一凛に聞いてしまう。


「え・・・・いや・・・ないけど。」

「・・・そう・・・。」


 彪斗くんルートじゃないから・・・・思い出さないのかな。と、思いながら、わたしは何度も彪斗くんルートをプレイし、スチルで見たこの建物を見て感慨に耽る。


 小さな離れ・・・平屋の建物。

 小さな窓が二つあって、木の柵がしてある・・・。

 私は布団を入口に置くと、先に中に入って。と言い、彪斗くんルートを思い出しながら、噛み締める様に、離れの周りを見て回る。


(あ・・・。)


 確かこの窓で、柵越しに、一凛と彪斗くんが初めて会話したんだ・・・・。


 私はスチルを思い出す・・・。


 ずっと一人で隔離されていた彪斗くん・・・そこに現れた一凛は唯一の異性の友達だった・・・。

 たった3、4回しか柵越しに話したり、あやとりで遊んだりしかしなかったけれど、それでも大切な時間だっただろう・・・。


 わたしは中に入る。


「あ、彩衣ちゃんおかえり。」


「・・・・・」


 なんで一凛は覚えてないのか・・・彪斗くんは・・・彪斗くんは・・・。

 全部、話してしまいたい衝動に駆られる。

 涙目になってきた。


 涙をぬぐい、中を見る。


 ここが・・・彪斗くんが幼少期を過ごした場所・・・。


 狭いなぁ・・・夏なのに若干、薄暗い・・・・冬はもっと薄暗いだろうなぁ・・・いつまで隔離されてたんだろう・・・それは知らないからなぁ・・・。


 私は天井をみて、壁に触れ、棚などを見て思いに耽る。



 段々心が落ちついてきた。



「彩衣ちゃん?何してるの?」


 すると一凛が声をかてきた。


「んー・・・点検。」

「点検?」


 おかしそうに一凛は笑う。


 彪斗くんは、今どんな心境なんだろう・・・。

 大好きな、大好きだった思い出の少女が、こんな側にいて・・・しかも忌まわしき自分のあの部屋にいて・・・・。


 私は悲しいというか・・・切ないというか・・・彪斗くんの気持ちを想像するともう涙があふれてきて、泣きそうだった。


 私はもう嫌われてるかもしれないけれど・・・ゆっくり話がしたいなぁ・・・。



 私はそう思いながら、いつか彪斗くんが眺めていたであろう、柵越しの空を見上げたのだった。




 続。




 59.蔵とカレーと嫉妬と一凛の言葉。



「あ、一凛その化粧水使ってるんだ。CMしてたよね。」

「あ、うん・・・。」


 少し恥ずかしそうに一凛はうなずく。


「彩衣ちゃんは?」


 そんな会話をしながら荷解きをしていく。

 するとコンコンと離れの扉がノックされた。

 はーい。と言って私が立つ。

 開けると七斗くんが立っていた。


「あの・・・邪魔してごめんね。みんなで蔵を見ようってなったんだけど・・・行けるかな?」

「ああ!うん、私は平気。一凛は?」

「私も!」

「そっか・・・じゃあ、行こうか。」


 エアコンを消し、私と一凛はまだ荷解き途中の鞄をそのままに、離れを出た。


 七斗くんについていくと、蔵の前にみんなが集まっていた。彪斗くんもいたのでちょっと動揺した。


「2人を連れてきたよ。」

「おう。」

「ご苦労様。」

「・・・・。」


 三人は社の影に立っていた。

 もうすぐ夕方だが、まだ強烈な日差しが照りつける。


「鍵は父さんから預かってきたから・・・開けるね。」


 私は蔵を見上げる。


 結構というか、かなり立派な蔵で。

 そりゃ宝玉がある神社なんて立派な歴史を考えれば当然か。と思いながら、七斗くんがガチャガチャと鍵だけで重そうな錠前を開け、重い扉を開く。


「どうぞ、中・・・入って。」


 そう言われ私達は中へ入る。

 蔵になんて入るのは初めてだ。しかもこんな立派な蔵。


「けほ・・・。」


 中は薄暗くてほこりくさかった。

 けれどひんやりしていて気持ちいい。


 しかし・・・。



「・・・・広い・・・ね。」



 私は呆然とした。


「おいおい・・・マジかよ・・・。」

「この中から・・・一冊の書物を・・・。」

「・・・見つけるのが夏休みの宿題だ。」


 彪斗くんがため息と共に茶化す様に言う。


 そう、蔵の中は二階建てで、物もかなりあれば、広さもかなりあり、この中から一つの巻物を見つけるのは・・・かなりの至難の業だ。


「夏休み終わるまでに・・・見つかるかな・・・。」


 私も思わずつぶやく。


「ていうかほんとにあんのかよ!こんなとこ探して実はありませんでしたじゃ許さねぇぞ!」


 麻日くんがほえる。


「・・・あると・・・は、思うよ。」


 七斗くんが控えめに言う。


「なんでわかんだよ。」

「・・・・。」


 私のことで、私のことを信じてくれているらしい七斗くんはつぶやくようにいい、麻日くんに詰め寄られ黙り込む。


「身体の中の宝玉が反応でもしてんだろ。ぐだぐだ言ってねぇで覚悟決めろ。明日からがんばんぞ、ちみっこ。」


 長身の彪斗くんが、わりかし小さい麻日くんの頭を掴みぐらぐらと回す。


「なっ!やめろよ彪斗!!それすんなって言ってんだろ!!」


「・・・・・」


 自分以外にもあれをやっている姿を見て、彪斗くんは自分より小さいとか格下とか認定した相手にあれをやるのかな?と思いながら、七斗くんをフォローしてくれてありがとう。と、心の中でお礼を言った。


 しかし、場所までは私もわからないので、こりゃ大変だな。と、思うのだった。



 その後、離れに戻り、荷物を片すと、夕飯だと呼ばれた。

 みんなで居間で座卓を囲み夕飯をいただく。合宿ってかんじだなあぁと私は思う。


 しかしハッとする。優雅に座っている場合じゃない!手伝わないと!と、思ったが、


「今日はとりあえずカレーにしたよ。人数多いからね。

 明日からは当番で手伝ってもらうことになってるから・・・父さんがそう決めたから。」


 そう言って、みんな好きなだけご飯よそって。と、七斗くんがエプロン姿でお皿を持ってきた。


「え・・・もしかして、毎日、七斗くんがご飯作ってるの?」

「え・・・あ、うん。うち母さんいないから。」


 七斗くんは少し恥ずかしそうに長い前髪の下で笑う。


「えー!凄いね!凄いし偉い!いいお父さんになりそう!」

「そう・・・かな・・・。」

「優しいし、穏和だし・・・それでいて料理もできる!あ、もしかして掃除とか家事全般してる?」

「え、あ、うん・・・一応。」

「うわー!一凛!これ結婚するなら七斗くん超いいね!」

「うん!」


 私と一凛が笑いながらそう言うと、パキン!と音がした。

 え?と振り向くと、割れたお皿を持ち、


「おや・・・お皿を持っただけなのに割れてしまったよ・・・古かったのかな?」


 と、ほほえむ臣先輩の姿・・・このヤンデレがーーーー!!!!!


「家事なんて女々しいだけだろ・・・男は強くて金稼いできてなんぼだ。」


 そしてぼそりと不機嫌そうにそう言い、皿を持ち、立ち上がり台所へ向かう麻日くん・・・・。


 な・・・なんなの?家事できる七斗くんを誉めたから?

 そして、はぁ・・とため息をついて彪斗くんも皿を持ちご飯をよそいに台所へと行ってしまった・・・・。


「な、なんかごめんね・・・七斗くん・・・でも、七斗くんは偉いと思うよ・・・。」

「う、ううん。大丈夫。ありがとう。それより、臣先輩の手当しなきゃ。」


 そういうと七斗くんは立ち上がり救急箱を取りに行った。



 その後、何とかみんなでカレーを食べた後、後かたづけも俺がやるから。という七斗くんと一悶着したが今日だけ今日だけ。という言葉に、私と一凛は身を引き、離れに戻った。


「わー!ふかふかお布団!」


 私はボスン!と、敷いておいた布団にダイブする。


「彩衣ちゃんまだお風呂があるよ。」

「わかってるー。」


 そう言って身を起こした私に、一凛は向かいに座り、


「しかし・・・彩衣ちゃんは鈍いなー。」

「へ?」


 そんなことを言ってきた。


「美空先輩は彩衣ちゃんのこと好きなのはもうわかってるけど・・・麻日くんも、あれ、きっと彩衣ちゃんのこと好きだよ?」

「は!!??」


 私は大声を出してしまった。


「あと神薙くんもちょっとなびいてる~。」


 一凛はにこにこしながら恋バナを楽しんでいるようだ。


「へ!?え、な・・・え・・いや、なんで?そんなことは・・・。」

「みてればわかるよー。さっき麻日くんが機嫌悪くなったのは確実に嫉妬だし。」

「え・・・・。」

「まぁ、本人も自覚あるかどうかわかんないけどね。あの性格だし。家に行ったりしたんでしょ?」

「え・・・なんで知って・・・・。」

「・・・私・・・・たまに先輩から相談されてるから・・・。」

「え・・・?」

「マリアはマリアはマリアはーーーーって。」


 一凛は瞳を伏せて、少し何かに同情するかのように笑って言った。

 そして私は、私の知らないところでそんなことが2人の間で行われていることに驚いていた。

 私の知らないところで・・・2人で私のことを話していたなんて・・・。


「先輩も・・・麻日くんも・・・神薙くんも・・・みんな彩衣ちゃんが好きなんだね・・・・でも、わかる気がする。彩衣ちゃん頼りになるもん!」


 そう言って一凛は顔を上げてほほえむ。


「いや・・・・・」


 違うよ一凛・・・。

 このゲームのヒロインは・・・主人公は・・一凛だよ?

 私は一凛の友達のモブで・・・・なんで私が・・・・。


「ま、私の推測だけどね!」


 そう付け足して、一凛はお風呂の用意しようー。と言い、支度をする。


 私はただ呆然としていた。

 臣先輩に好かれていたことはわかっていた。

 でも麻日くん?しかも七斗くんも?

 いやいやいや、一凛の推測だ。本人から言われた訳じゃない。


 でも、自分を三十路のおばさんで、主人公の友達のモブだと思ってたから全然そんなこと思わなかったけど・・・確かに客観的に・・・・ゲーム的に見れば・・・私は各男子を攻略していっているようなことをしているし、嫉妬のようなことを麻日くんはしたり言ったりしているし・・・辻褄が合うような・・・・・。


 ヤバい・・・私がモテてどうすんだ。

 先輩だけで手一杯だよ。

 気をつけなきゃ・・・。


 私はそう思いながら布団に突っ伏した。




 続。




 60.イチャついてすみません。かーらーの!最推しの手料理!



 翌朝、私は一凛とドキドキしながら朝食へと向かった。


「あ、おはよう、速水さん、山田さん。」

「おはようございます。」

「っ・・・おは・・よう・・・。」


「おはようマリア」

「はよー。」


「・・・おはようございます・・・。」


 まともに七斗くんと麻日くんの顔が見れない!!

 一凛と私の勝手な思いこみかもしれないのに!!!

 私はおとなしく座卓の隅に正座して座り、俯く。


「あんだよ、彩衣。どうした?」

「!」


 麻日くんが声をかけてくる。

 顔・・・が、見られない・・・・。


 だって!!!私、彼氏いない歴、年齢で!!!

 リアル恋愛とかに関わりなかったオタク女だもん!!!

 こんなユキ。先生の二次元イケメン男子に好かれてるかもなんて意識しだしちゃったらどうしたらいいのかわかんないよ!!!


 私はバクバクする心臓を抱えながら言葉を考え返す。


「い、いや・・・なんでも・・・ないよ・・・。」


 ありきたりなセリフを俯いて言う。


「・・・・おい。」

「はい・・・。」

「おい!」

「・・・なーにー!!!」


 私は顔を上げて叫ぶ。


「やっと顔見た。何なんだよお前。朝から人のこと避けるように。腹立つだろ。やめろよな。俺なんかしたみたいじゃねぇか。」


 不機嫌そうな麻日くんの顔があった。


「っ・・・ごめんなさい・・・。」

「だから顔ふせんなって!」

「いた!」


 バチンとデコピンされる。


「いたーい!何すんの!!」

「彩衣が悪い。」

「私、悪くない!」

「悪いー!」


「イチャつくのはその位にしてもらえるかな。」


「・・・・・」

「い、イチャついてなんかねーよ!」


 ジト目の臣先輩に、私と麻日くんは顔を赤くする。


「はぁ・・・。」


 臣先輩はため息をついた。

 その隣で一凛は苦笑している。


 ああ・・・確かにこれはイチャついていたな・・・。

 現実だとなかなかないけど、二次元ではこのあと恋愛に発展する関係だ・・・。

 やばいやばいやばい・・・確実に・・・・ん?

 これは果たして麻日くんルートに向かってるのか?

 ていうか私にルートって、エンドってあるの?

 でも、臣先輩・・・いや、臣先輩のことは拒否してるから臣先輩エンドはないし・・・。

 んー・・・どうなんだろう。


「はーい、朝食できたよー。取りに来てー。」


 と、考えていると、台所にいた七斗くんが声をかけてきた。

 そこで私はハッとする。


 そういえば!!今日の朝食担当は七斗くんと彪斗くんじゃん!!!!

 わー!!彪斗くんのエプロン姿!!!!


 私は朝食を取りに行きがてらチラチラと彪斗くんを見る。

 彪斗くんがエプロン・・・ミスマッチだがかわいい!!!


 私はにこにこしながら席へ戻る。

 そしてまたハッとした。


 この朝食は!!


 彪斗くんの手料理!!!


 わーーー!!!と、思いながら、私は麻日くんや七斗くんを意識することも忘れ、彪斗くんの手料理をゆっくりと味わったのだった。




 続。

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