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転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?  作者: 山下小枝子


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41~50話

 41.ババアと小僧。



「あー・・・うまかったけど、物足りねー。」

「麻日くん大食いだからね。」


 私と麻日くんは唯一あったインスタント珈琲と牛乳でカフェオレを作って飲みながら、食後の一服をしていた。


「よかったねー、おいしくできて。意外と作れるもんなんだね。」

「そうだな・・・久しぶりにまともなもん食ったよ・・・あんがとな。」


 麻日くんは少しほほえんで、また家族を思いだしているのだろうか、少しうつむいて、少し悲しげに言った。


 そうだ。私はただハンバーグを作りに来たわけじゃない。

 本来の目的があるのだ。

 そこではたと思い出した。


 こんな表情をしている少年をそのままにしていいわけがない。


「麻日くん・・・私がここにきた理由・・・・わかる?」

「あ?・・・あー・・・。」


 すると麻日くんが屋上でのことを思い出したのか、嫌そうな顔をした。


「真面目な話になるけど。麻日くん、このままでいいの?人生、全て退魔師に費やして。」

「いいに決まってんだろ。」


 少しムッとしたような感じに麻日くんはカフェオレを飲む。


「退魔師しながら他の仕事してる人だっていっぱいいるよ?それに、この部屋だって何もないし・・・お金ないのはわかるけど、高校生ならもっと高校生楽しみなよ。そりゃ、麻日くんはご両親がいないけどさ・・・普通とは違うかもしれない。でも、ご両親殺されたからってそれに麻日くんが捕らわれても」

「あー!うるせぇなぁ!!」


 ダン!と麻日くんがマグカップを置いた。


「お前は担任かよ。同じこと言うのな。」

「大人なら今の麻日くん見てたら誰だって同じこと言うよ!」

「大人?一つしかちがわねぇだろ。」

「あ・・・まぁ・・・そうなんだけど・・・・。」

「俺は別に捕らわれてねぇよ。捕らわれてたとしても俺にはこれしかねぇんだよ!これ以外何していいかわかんねぇし・・・・。」

「・・・・・・。」


 すこし麻日くんの本音が見えた。


「でもさ・・・もし、穢れや魔物がいなくなっちゃったら・・・麻日くんどうするの?もう退魔師の仕事なくなるよ?」


 その言葉に麻日くんは予想してなかったのだろう、少し驚いた表情をする。しかし、


「ハッ!いなくなるわけないだろ!あの二人の中に宝玉入ってんだから。」

「いやいや案外あるかもよ、方法が。」

「・・・あんだよ、しってんのかよ、なんか。」

「いや、知らないけど。」

「なんだよ!」


 麻日くんは怒鳴る。


「でもさ、そういう可能性もあるわけじゃん?むしろ私これからその方向に向けて動き出すから。」

「あ?」


 麻日くんが怪訝な顔をしている。


「もし、方法が見つかって、穢れや魔物いなくなったらどうする?」

「・・・・・・」


 麻日くんは黙り込む。


「ね?困るでしょ?」

「でも・・・わかんねぇんだよ!お前等の普通とか、普通の高校生とか!なんかそういうの!!!」


 麻日くんがぐしゃっと髪をつかむ。


「・・・そっかー・・・そんじゃさ、これから普通の高校生を知っていこう!」

「は?」


 怪訝な顔で麻日くんがまた私を見た。


「とりあえず今度、うち来なよ。私の部屋とか、お兄ちゃんの部屋とか見たり、普通の家ってこんななんだなーって知るといいよ。」

「いや・・・」

「お母さんには私から話しつけとくから。ね!それで、私の家の次は・・・そうだな、神薙くんの部屋見せて貰おう!」

「何であんなやつのところに!」

「まぁまぁ、勉強のためということで。あたしも行くから。で、こんなんなんだなーってわかったら放課後遊ぼう!」

「あ!?・・・金ねぇ。」

「お金のかからない遊び方もある!」

「はぁ・・・・」


 麻日くんはげんなりしてきた様で、もうどうにでもしてくれという状態に入ってきている。


「いろんな物見て、聞いて、体験して、普通の高校生知ろうよ。それで、麻日くんが趣味とか持ってくれたら私は嬉しいなぁ。」


 私は、ほほえんだ。


「・・・・おせっかいババア。」


 ぼそっと麻日くんが顔を背けながらつぶやいた。


「・・・・どうせババアですよ!でも一つしか違わないけどね!おせっかいで悪かったわね!この小僧が!」

「いへ!いへーな!!!」


 私は身を乗り出して麻日くんの頬を両手で引き延ばした。


「わー!麻日くん頬ぷにぷに!高一男子ってこんなぷにぷになの!?かわいいーーーー!!!」


 本性ダダ漏れで私が麻日くんで遊んでいると、


「お、おひ!ばばあ!いいかげんにひろ!!!」


 と、かわいい幼い麻日くんが頬をぷにぷにされながらにらんでいた。

 その気になれば払うことなどたやすいのに・・・・。

 私は大声で笑いながら、麻日くんはかわいいなー!と、手を離し頭をなでた。


「やめろ!何なんだてめぇは!ほんとにババアみてぇだぞ!ったく!」


 そういうと麻日くんは立ち上がった。


「どこ行くの?」


 と聞くと、


「片付けすんだよ!もう片付けて早く帰れ!あんま遅いとお前の母ちゃん心配すんだろ!」


「・・・はーい!」


 私はくすりと笑いながら麻日くんの後を追ったのだった。




 続。




 42.報われない恋と不穏な空気。



 昨日はあの後片付けて、家まで送るという意外な麻日くんの言葉を素直に受け、家まで送って貰った。

 私の家を見ると麻日くんは少しやさぐれた表情をしながらお前んちでかいな。と言った。

 そんな麻日くんに私は、上がっていきなよ!ついでに部屋とか見ていきなよ!!と引きずり込もうとしたが、いいよ!と今度は本気で断られ、腕を振り払わられると、麻日くんはじゃあな!と、去っていった。


 いっそ家族ぐるみの付き合いにしてしまおうかと思ったのだが、おせっかいだろううか、酷だろうか・・・と思いつつ、私も少ししゅんとして家へと入った。


 で、今日はもうすぐお昼なわけだが、まだ麻日くんには会っていない。

 屋上で会うかなーと、思っていると。

 昼休みになり、すぐに、


「マリアー。」


 と、先輩がやってきた。


「・・・・・」


 もうお決まりの光景に誰も何も言わなくなった。


「こんにちは先輩。」

「こんにちは、今日もかわいいね。」

「どうも。」


 と、いつもの挨拶をして、一凛も合流して私たちは屋上へ向かう。


「あ、ねえ・・・変な話を聞いたんだけど・・・。」

「なんですか?」


 階段を上りながら私たちは話す。


「マリアが昨日、麻日と踏切で大荷物持って二人で歩いてたって・・・」


 私はドキッとした。

 先輩を見ると・・・。

 瞳に光はない。

 だが、これは教育・・・調教だ。


「あー、昨日、麻日くんの家に行きましたよー。」

「え・・・」


 先輩の足が止まった。


「麻日くんの家でハンバーグパーティーしました。話しもあったんで。」

「・・・ハンバーグパーティー・・・・?」


 よくわからないらしい。まぁ、わからないだろう。私もわからない。


「え?マリア、麻日の家に上がったの?二人きり?」


 先輩が私の腕をぎゅっと掴んでまくし立ててくる。


「・・・はい、そうです。」

「・・・・・・」


 先輩の手に力が入るのがわかる。


「でも、別にご飯食べて話して帰っただけで、何もありませんよ。麻日くんと私は友達・・・ってわけでもないですし。先輩と後輩?ちょっと心配だったんで先輩としておせっかいしただけです。」

「おせっかいって・・・そんな・・・男の部屋に一人で・・・麻日の・・・。」

「先輩。先輩が私を好きでいてくれるのは嬉しいですし、独占欲が強くなるのもわかります。大好きな人は独り占めしたいですよね。でも、そうはいかないものです。相手は人間ですから。社会で生きてますから。今度、先輩の家にもご飯食べに行きますね。でも、閉じ込めたりしないで下さいね。」


 私がそう言って笑うと。


「・・・うん。」


 先輩はどこか悲しそうに、けれど、最後のご飯を食べにいく。ということでしぶしぶ納得したのだろう、ほほえんで返事をした。


 報われない恋をしている先輩はつらいよなぁ・・・。

 と、その想い人である私だが思う。

 でも、答えられないんだよ。

 でも、まだきっぱり諦めろというには早い段階だろう・・・。

 次第に諦めてくれるような・・・そんな気がする・・・。


「あ、三人一緒にきたんだ。」


 屋上に着くと、神薙くんが机を並べて待っていた。


「神薙くんまた先にいってー!一緒にいこうよー!」

「あはは・・・でも・・先輩いるし・・・。」


 神薙くんは小声でいう。


「気にしない、気にしない。」

「はは・・・。」


 困った様子で笑っている神薙くん。


 麻日くんを見ると、いつもの大量の総菜パンではなく、大きなおにぎりを4つ机に置いて頬張っていた。


「あれ!?麻日くんおにぎり作ってきたの!?」

「・・・ああ・・・昨日、お前が米置いてってくれたから・・・。」

「偉いねー!」


 私はいつもの麻日くんの隣の席につくと、麻日くんの頭をなでる。


「やめろ!」


 照れながら麻日くんは手を払う。


「じゃあこれはいらないか・・・どうしよう。」


 持ってきたおにぎり三つを見てつぶやく。


「それも食う。」

「へ?」

「彩衣の母ちゃんのおにぎりの方がうまいからな。」

「そんなに食べれる?」

「持ってくると思って4つにした。」

「どんだけ食べるのよ!」

「でも明日からは自分で全部持ってくるから・・・もういい。あんがとな、今まで。母ちゃんにもありがとうって言っといてくれ。」

「・・・・お米買える?大丈夫?」

「大丈夫だよ!」

「そう・・・。」


 私と麻日くんがそんな会話をして、私が前を向くと、皆がきょとんとして私たちを見ていた。


「え?」

「あ、いや・・・彩衣ちゃん・・・いつのまに麻日くんとそんに仲良くなったのかなって・・・。」


 私を呆然と見ていた一凛があわてて言う。


「あー・・・」

「仲良くねぇよ。」


 おにぎりを頬張りながら悪態をつく麻日くん。


「今・・・麻日・・・彩衣って・・・。」

「あー・・・・。」


 私は先輩がどす黒いオーラを出してきて困り果てる。


「まぁまぁ、それより今日はどこに退治しに行きますか?」


 話をそらそうと、私は今日の退治の提案をした。


「あー・・・今日なー・・・昨日、どこ行ったんだ?」


 そんな話を麻日くんが神薙くんにふる。


 よかった、話しがそれた・・・と、思いながら私はふと屋上の出入り口の横の薄暗い場所に、何か黒いもやっとしたものがあるのが一瞬、視界に入ったような気がして再度見た。

 しかし、そこには何もなかった。

 なんだろう・・・と、思いながらも、私は今日の退治場所の相談に意識をむけたのだった。




 続。




 43.もう見えない時には戻れない。見えるようになってしまった私。



 そうして、私は楽しいお昼休みと、見えない穢れ魔物退治を過ごして、麻日くんを家に招いたり、遊んだりして月日は流れ、もうすぐ夏休みという日までやってきた。


(確か、そろそろ九五さんから退魔師幹部会議で神社の蔵に身体の中から宝玉を取り出す文献があるって情報が入ったって知らせが来る頃なんだけどなー・・・。)


 そんなことを考えながら、私は今日も可愛い部屋のふかふかのベッドに入る。

 そしたらみんなで神社で合宿しながら巻物探しだな。

 ていうかこれ最後どうなるんだろう・・・・。

 何回目のそのことを思いながら私は眠りについた・・・。



 ピピピピというスマホのアラームで目を覚ます。


「うー・・・起きますよ・・・・。」


 と、言ってベッドから半身を起こしてぼんやり部屋を見て、私は目を見開いた。


「うわあああああああ!!!!!!」


 私は目を見開いて大絶叫する。

 そして、タオルケットをつかんで、ベッドの隅まで下がり、縮こまった。


「彩衣!!!どうした!!??」


 バタン!と扉を開き、私の叫び声に、兄が飛び込んできた。


「おおおおお兄ちゃん!!な、なんかいる!!!!」


 私はそれを指さした。


「なんだ!?ゴキブリか!?」


「違う!!!そこに!!!黒い!もやもやが!!!」


「黒いもやもや・・・?」


 兄は部屋をきょろきょろと見て不思議そうな顔をしている。

 そこで私はハッとした。


「・・・お兄ちゃん・・・そこ・・・鏡の前に・・・黒いもやもやしたの・・・見えない?」


「・・・彩衣・・・大丈夫か・・?何もいないぞ?寝ぼけてるのか?熱でもあるのか?」


 そう言った兄の後ろをちょろちょろっと、何か妖怪みたいな、小さな生き物が走って行った。

 私は肩に力を入れ、息をのむ。

 そしてタオルケットをバサッとかぶり、スマホを手に取った。


(違う!これはあれだ!!穢れや魔物だ!!!何で!?何でいきなり見えるようになったの!!??)


 私は急いであわててスマホのメッセージアプリを開いた。

 誰に・・・誰になんて言えばいいんだ・・・。

 落ち着け・・・落ち着け・・・とりあえず一凛に・・・。


 そう思い、一凛に『起きたら部屋に黒いもやもやがいた!廊下になんか妖怪みたいな小さいのが走ってた!多分、なんか急に穢れや魔物が見えるようになっちゃったみたい!どうしよう!!!』と、送った。

 私はスマホを握り早く早く!と返事を待つ。


「彩衣?おい、大丈夫か?」

「お兄ちゃん!大丈夫だから部屋から出てって!ほっといて!」


 パニクった私はタオルケットをかぶったままそう叫ぶ。


「大丈夫じゃないだろう!どうしたんだ!」

「いいから!!!」


 すると電話がかかってきた。

 一凛からだ。


「一凛!?」


 私はすぐさまとる。


「お兄ちゃん電話するから出てって!」


 私はタオルケットから顔を出し、立ち上がり兄を押して部屋から追い出した。

 扉を閉めると、部屋の中央に黒いもやもや・・・・穢れはいた。

 ゲームで見慣れてはいたが、実物をみると、おどろおどろしいものがある。


 私はすぐにベッドに戻り、タオルケットをかぶり一凛と電話始めた。


『彩衣ちゃん大丈夫!?』

「一凛!なんか起きたら部屋にもやもやがいて!お兄ちゃんの後ろの廊下に小さいなんか妖怪みたいなのが走ってって!!」


 私は泣きそうになりながら話した。


『うんうん、たぶん・・・穢れと魔物だね・・・・。』


 一凛は残念そうな暗い声で言った。


「何で急に見えるようになったの!?わけわかんない!!!」

『・・・多分・・・私たちといたから・・・・』

「え・・・」

『力のある人、強い人と一緒にいると見えるようになっちゃうって・・・聞いたことある。』

「あ・・・・。」


 そこで私は美空先輩のお母さんのことを思い出す。


「そっ・・・か・・・・・」

『大丈夫?怖いよね?』


 一凛が心配そうな声で話しかけてきた。


「うん、怖い!黒いもやもやがずっと部屋の中央にいるの!!」

『えっと・・・どうしよう・・・誰かに退治してもらおう・・・か・・・一時的な処置だけど・・・。』

「退治・・・・あ!ねぇ!美空先輩退治できるよね!?」

『え、うん・・・』

「退治の時いつも迎えに来てもらってお母さんと面識あるから呼ぶ!!」

『あ、うん。とりあえず、部屋の中のはそうした方がいいかも・・・。』

「ありがとう!美空先輩に電話するね!また後でかける!」

『うん、また後でね。』


 そういうと私は電話を切り、既に屋上メンバーとは連絡先を交換していたので、美空先輩に電話をかけた。

 いつも邪険・・・とまではいかないが、冷たくしているのにこんな時だけ・・とは思うが、今は藁にもすがりたい時なのだ。


 私が電話をかけると、数コールで先輩は出てくれた。


『マリア!こんな朝早くにどうしたんだい!朝から君の声が聞けて嬉しいよ!しかも電話なんて!はじめての電話!どうしたんだい!?』


 とても嬉しそうな声だった。

 私の今の気持ちとは真逆の。


「先輩!私、穢れと魔物が見えるようになっちゃって!部屋に穢れがいるんです!!!多分!すみませんが、退治しにきてくれませんか!怖くてベッドから出られません!!!」


 私がそう言うと、


『・・・いいかいマリア、絶対に穢れに触れてはいけないよ。そこから動かないで。穢れはこちらから触れなければ何もしないから。あと、魔物がくるかもしれないからそのままタオルケットかぶってじっとしてて。すぐ行く。』


 スッと真面目な声音になり、そう言うとすぐに電話を切った。

 美空先輩に好かれていてよかったと思った日はこの日以上になかった。


(ありがとうございます!美空先輩!!いつも冷たくあしらってすみませんでした!!!でもしかたなかったんです!!)


 そんなことを思いながら少し、冷静になった私は、それでもタオルケットから顔は出さずに、そのままで、スマホを握ったまま、どうしてこんなことになったのか・・・と、思う。


 でも、この世界の設定上、力のあるみんなといれば見えるようになるのは当たり前で、それに気づかなかったのか、見えてもまぁいいか。と、思っていた私が愚かだったのだ。


 まさか、リアルで見る穢れや魔物が、こんなにおどろおどろしく、悪寒が走る物だったなんて・・・・。


 いつかの自分の『私だけ見えないのは残念だなー。』という言葉を思い出す。


 そしてその言葉に対する一凛たちの言葉・・・。


 確か、ゲームで一凛も、この街にやってきて、穢れや魔物が見えてパニクっていた。今の私みたいに。

 同じ思いをしたのだ・・・・。


(これは・・・つらいね・・・・。)


 と、一凛に心の中で話しかける。

 本当に、見えなければいい。

 見えなければよかった・・・・。



 でも、もう見えるようになってしまった・・・。


 私はこれからどうすればいいんだろう・・・・。



 そう思っていると、玄関のチャイムが鳴った。




 続。




 44.戦闘姿は美しかった・・・結婚してくださ(マテ



「何だお前!お前だな!?彩衣の彼氏とかいうのは!俺の目が黒いうちは・・・」

「お兄様、緊急事態なんです、失礼します。」


 そんなやりとりが聞こえ、階段を駆け上がる音が聞こえる。

 私はベッドから出て部屋の扉を開けた。


「先輩!!!」

「マリア!!大丈夫かい!?」

「彩衣!」


 兄がうるさいので扉を閉めて鍵を閉める。


「先輩!あの黒いもやもやが起きたらずっとあそこに!あれ!穢れですよね?」


 私はまだうねうねと立っている人の身長くらいの黒いもやもやを指さす。

 先輩はため息をついた。


「穢れ・・・だね・・・ついにマリアも見えるようになってしまったのか・・・・。」


 そういうと先輩は穢れに近づき、手を振り、どこから出したのか、たくさんの水で穢れをかき消した。

 きらきらとした水はそのまま空中で消え、先輩はきらきら消えていく水を背後にこちらを振り向いた。

 その姿は唖然とするほど美しかった。


「ほら、もう大丈夫だよ。」


 そしてほほえむ。

 結婚しようかと思った。


 と、ハッと冷静になり、あっけない穢れの消滅に、私は何とも言えずその場にたたずむ。


「あ・・・ありがとうございました・・・・。」


 そしてぽつりとそう言う。


「マリア・・・彩衣ちゃん、いきなり見えてびっくりしたと思うけど、怖いときはいつでも呼んで。君のためならいつでも駆けつけるよ。今日は一緒に学校に行こう?外の車で待ってるから。」

「え・・・。」


 そう言われ、私は、ああ、学校・・・と、思い出す。


 しかしそこで、ちょっと待て。と、思う。

 確かゲームでは穢れや魔物は町中にあふれていた・・・・。


 え?外、地獄やん。


 私は硬直する。


「とりあえず、お兄様がちょっとピークみたいだからボクは外にでるね。印象悪くしたくないから。」

「あ、はい・・・。」


 そう言うと、先輩は部屋を出て行った。


 外ではぎゃーぎゃーやっているが、私はとりあえず、学校へ行く支度をした・・・。




 続。




 45.ゲームとリアルの違い。



「よし・・・。」


 支度を終え、部屋の扉の前に立つ。

 そして扉をそっと開ける。


 廊下をきょろきょろ見るが何もいない。


 ほっとして階段を下りる。


「きゃあ!」


 階段を下りたところで足下をさっきお兄ちゃんの背後を走っていった魔物らしき物が足下を走った。

 私は叫び声を上げて片足を上げる。


「彩衣?・・・大丈夫?」


 すると母が心配そうな表情で私を見てきた。

 先輩はなんと説明したのかわからないが、リビングに入ると、家族が全員私を心配そうな表情で見ていた。


「うん・・・ちょっと・・・疲れてて・・・。」

「うん・・・臣くんもそう言ってた・・・大丈夫?今日休む?」

「無理しなくていいぞ。」

「無理するな!彩衣!体が第一だ!!」


 優しい家族に本当のことを言っても信じてもらえないつらさ・・・。

 病人扱いか・・・。

 私は朝食を食べずに椅子に座るのをやめ、そのまま家を出ることにした。


「やっぱりご飯いいや、もう行く。先輩、外で待ってるから。」

「あ、そうなの?いい彼ね。」

「・・・うん。」


 彼じゃないんだけど・・・気持ちには答えられないんだけど・・・。

 罪悪感が胸を襲う。


「あ、じゃあ、おにぎり作るから車の中か学校で食べて!ちょっと待ってて!」


 母はそういうと、キッチンへ向かい、ぱぱっとおにぎりを一個作ってくれた。

 それを受け取ると、私は玄関へ向かい外へ出た。


「・・・・・」


 しかし、外に踏み出ることなくすぐに扉を閉めた。



 何だこれは。


 何だあれは。



 何だこの世界は。



 私はうつむいて呆然とした。



 いや、私は知っている。

 だって、ゲームをプレイしてたから。

 でも、ゲームと実際に体験するリアルな世界は違う。


 空には変な生き物・・・魔物が飛び、小さい魔物もいたるところにちょろちょろして、穢れもちらほらいた。


 見える人たち・・・一凛や退魔師のみんなはこんな世界で生きてるの?生きてきたの?

 私は愕然とする。


 それであんな普通に生きてたの?


 どんな神経してるの?


 生まれたときからそれが当たり前だったから?


 意味わかんない意味わかんない。


 私は外に出られなかった。


 ガチャッと玄関が外から開かれる。


「・・・彩衣ちゃん・・・外・・・出られる?」


 美空先輩が少し悲しげにほほえんでいた。


「先輩・・・・外・・・すごいいっぱい・・・。」


 私は泣きそうになりながら伝える。


「とりあえず・・・家を出よう?ご家族に心配をかけるよ。」

「・・・・・。」


 私はハッとして振り返ると、母と兄が心配そうな表情でこちらを見ていた。


「・・・はい。」


 美空先輩が一緒なら退治してくれる。

 私そう思い、先輩の夏服の袖を握りながら家を出た。




 続。




 46.私だって・・・・。



 車に乗ると、私はほっとした。


「大丈夫?」


 先輩は優しい。

 その優しさが申し訳ない・・・。


「はい。」


 少し落ち着こう。


 少し心を強く持とう。


 あれだけゲームしてたじゃないか。

 穢れも魔物も一凛になって倒していたじゃないか。

 大丈夫。だいじょうぶ・・・・。


 私はそう言い聞かせ、落ち着いて、心を強く持とうとつとめた。


 一凛にはメッセージアプリで先輩の車で学校に向かうことを伝えた。

 そして学校について・・・。



「無理・・・・」



 と、私はつぶやいた。


 至る所に穢れや魔物がわんさかいる。

 なんだこれは。

 ホラー映画か怪獣映画か?

 私はこんな中で生活していたのか。と、唖然とする。


「先輩!私、こんな学校入れません!」

「うーん・・・でも、穢れは基本触れなければ問題ないし。魔物もそうそう凶暴なのはいないから・・・。」

「無理です!」

「・・・でもねぇ・・・彩衣ちゃん・・・この街に穢れや魔物がいない場所はないんだよ・・・宝玉を・・・あの二人が飲み込んで以来・・・ね。」


 その言葉に私はこのゲームの世界設定を思い出し、なぜこのゲームが好きなのかを思い出し、このゲームのつらさを思い出し、それを乗り越えてきたみんなを思い出した。


「・・・・・・・」


 私はぐっと口を引き結ぶ。


「・・・外に・・・出ます・・・・。」


 その言葉と同時に運転手さんがドアのロックを開けてくれ、ドアが少し開いた。

 私は押して外に出る。


 一凛だって、乗り越えたじゃないか。

 みんなだってこの現状を生きている。

 私だって、この現状を、この世界を受け入れて、乗り越えてみせる。


 そう思って歩き出した。




 続。




 47.みんなの優しさに感謝と、再決意。



 学校の門をくぐるまでに既に足が震えた。


 両脇には魑魅魍魎。

 足下にもちょろちょろ魔物が走る。

 きゃっ!とか叫んで飛び上がったりしたので、周りの人に何事かと見られた。


 でも、頑張って進む。先輩も背中に手をあてて支えてくれる。

 そして昇降口へ。

 階段を上って教室へ。


「彩衣ちゃん!」

「速水さん!」


 教室へ行くと事情を聞いていた、神薙くんと一凛が入口にやってきてくれた。


「一凛ぁ~~!!!」


 私は一凛に抱きつく。


「あそこにもあっちにもいるよー!怖いよー!」


 泣きそうになりながら私は言った。


「うん、怖いね・・・教室までよく頑張ったね。」


 一凛は優しく背中をさすってくれる。


「先輩が・・・いてくれたから・・・・。」


 先輩を振り返った。

 先輩は神薙くんと何か話していたようだ。

 こっちに気づくと、にこっとほほえむ。


「先輩・・・本当に朝からありがとうございました・・・私・・・いつも先輩に酷いことばかり言ったりしたりしてるのに・・・・。」


 泣きそうになりながら私は言う。


「・・・泣かないでよ、君はボクのマリアなんだから。いつもほほえんでいて。」


 先輩は綺麗な笑顔でほほえむ。

 聖人か・・・・ヤンデレだけど。


「じゃあ、七斗。彩衣ちゃんのこと、あとはくれぐれも頼むよ。」

「は、はい!」


 真剣な表情で言われ、神薙くんは少し焦りながら答えた。

 二人で何を話していたのかはわからないが、先輩は私のことを頼んでくれたのだろう。愛されていてありがたい・・・そしてそれを引き受けてくれた神薙くんの優しさにも感謝だ。


 そのためにも私も頑張らなければならない。


 慣れるんだ。


 みんなも慣れているんだから。


 この、穢れ、魔物だらけの世界に・・・。




 続。




 48.ゲームの本筋を忘れていた。そうだ、そうだったね!ありがとう麻日くん!



 ホームルームのあと、一限目が始まったが、私はもうずっと一人、挙動不審でみんなに不審がられた。

 だって、魔物が教室の天井飛んでるし、床ちょろちょろしてるし、机の隅走ってきた時は叫んじゃったよ・・・。


 穢れも、うようよ立ってるし・・・なんで一凛と神薙くん平気なの・・・慣れ?

 ホームルームの後、聞いたら「慣れだね~。」と一凛は言っていた。


 慣れるのか!こんなもん!


 神薙くんは少し退治してくれてるけど、みんながいる手前なかなか退治できないんだ・・・ごめん・・・。と言っていた。その気持ちだけでいいよ。ありがとう。と、私は言って一限目を受けていたけど授業なんて頭に入ってこない。ずっとビクビクオドオドしていた。


 一限目が終わると、意外な訪問者がやってきた。


「速水さん、一年生が呼んでるよ。」

「へ?一年生?」


 頭からタオルをかぶって顔を伏せていた私が顔を上げて入口を見ると、なんとそこには、


「麻日くん!どうしたの?」


 ビクビクオドオドしながら入口に行き、そういうと、


「どうしたのじゃねぇだろ。お前が・・・見えるようになっちまったって臣から聞いたから・・・その・・・様子見に来たんだよ・・・。」

「・・・・・・」


 その言葉に私はぽかんとする。

 あら意外、心配してくれたんだ。


「まぁ、平気じゃねぇだろうが、これが俺たちの普通だ。早く慣れるこったな。」


 麻日くんは私を見てそういう。


「・・・うん。」


 しかし、覇気なくうつむいて返事をした私に、少し表情を変える。


「な、なんだよ!らしくねぇな!お前言っただろ!穢れや魔物がいなくなる方法見つけるために動き出すって!それやればこいつらだっていなくなるんだからな!早くそれやって頑張れよ!」


 麻日くんは私の二の腕をぽんと叩く。


「あ・・・・」


 そっか。と、思った。

 早く宝玉を神薙くんと一凛の中から出して元の神社の御神体の前に戻せば・・・いなくなるんだ!!!!


「そうだ!そうだったね!!!ありがとう麻日くん!!!」


 麻日くんの肩をがっとつかんだ。


「お、おう・・・。」


 希望が見えてきたら人間は強い!というか私は強い!!はず!

 お前等がうようよできるのも今のうちだからな!


 私は宙を飛んだり、うろちょろしたり、うようよ立っている穢れや魔物をにらんで心の中でつぶやいた。




 続。




 49.反則技ですが使わせていただきます!待ってなどいられません!



 それからお昼休み屋上に行き、先輩が退治してくれようとした穢れや魔物をあえて残して貰った。

 いいの?と心配げな先輩だったが、いいです。早く慣れるためですから。と、私は答えた。


 そして私は少し反則だったが神薙くんにこんな質問をした。


「ねぇ、神社の蔵とかに・・・なんか一凛と神薙くんの体に入った宝玉取り出す文献?っていうの?ないかなぁ・・・巻物とかで残ってたりしてない?」


「えっ・・・・」


 神薙くんは驚いた表情をしている。

 まぁ、長い前髪であまりよくわからないが。


「なんだそれ。そんなもんあんのか?」


 麻日くんが自分で作ってきたおにぎりを頬張りながら言う。


「うーん・・・聞いたことないけど・・・あるの?七斗。」

「えっと・・・聞いたこと・・・ありません・・・。」


 神薙くんは少し困ったような、申し訳なさそうな表情で答える。


「お父さんに聞いてみてよ。なんなら退魔師の幹部会議で誰かそんな話し聞いたことないか聞いてみてって頼んで!」

「え・・・幹部会議・・・で?」


 そこまでつっこんでくる私に神薙くん含めみんなが疑問の表情を浮かべる。

 しかし、もう時を黙って待っていられない。

 早くこの状況から抜け出したいのだ。


「そう!幹部の人なら先祖代々昔の人から何か聞いてたりするかも!」


 私が語気強めでそういうと、


「う、うん・・・一応・・・言っておくね・・・。」


 神薙くんは消極的にだが一応そう答えてくれた。

 頼むぞ!神薙くん!


「わ!」


 私は机に上ってきた小さな魔物にびっくりする。

 先輩が水で払ってくれた。


「ありがとうございます・・・。」

「いいえ。」


 先輩は笑顔だ。


 ともかく、早くこの状態をなんとかしなくては!




 続。




 50.好奇心がよんだ災い。だけど災い転じて福となす?



 それから毎日、びくびくしながら私は生活していた。

 でも本当、人間って恐ろしい生き物。


 慣れてしまうものなのだ。


 徐々に慣れてきて、小さい魔物は虫が通ったな。位の感覚。

 穢れは触らなければ何か黒い木みたいな感覚。

 空を飛ぶ気持ち悪い怪獣みたいな魔物は・・・なんか特撮の怪獣みたいな。


 とにかく段々本当に慣れてきてしまった。

 人間ってほんと恐ろしいな・・・と、思った。


 でも、私もがんばった。

 わざと退治しないで下さいと言ったり、夜の退治にも見えるようになって2、3日は無理だったけど、同行するようにした。


 そしたら、交戦的な魔物は怖かったけど、みんなが手から出す火や風や水の力は綺麗で、今まで見られなかったから、ちょっと嬉しかった。

 そして、毎日の日常も、夜の退治もがんばって過ごして、私は慣れた。



 そんなある日、学校からの帰り道、一凛と鈴と別れ、一人帰り道を歩く。

 ふと、夏の夕暮れの電柱の脇に、穢れが立っていた。


 触れなければ何もしないという穢れ・・・触ったらどうなるんだろう・・・・。


 私の好奇心がうずいた。


 普通の人は見えないわけだから触っちゃうわけだよね?

 じゃあ、触れてもたいしたことないのかな?

 私は穢れに近づいていく・・・・もう見慣れた黒いもやもやの、少しどろどろおどろおどろしい穢れに、そっと触れた。


「っ!」


 その瞬間、様々な人の怒りや憎しみ、悲しみの光景、感情が流れ込んできた。


 体が震える。息ができない!


「ハッ!ハッ!」


 体が乗っ取られると感じた。

 負の感情が私の体に流れ込んできて、乗っ取られて、意識が遠のく・・・・



「何やってんだ!!!」


「!」



 すると、バッと穢れから手を引き抜かれ、背中をドン!と叩かれた。


「ゲホッ!はーっ・・・はっー・・・。」


 私は地面にしゃがみこんで息をする。


「お前、何してんだ!自分から穢れに触るなんて!」


 私は戻ってきた意識でこの声は・・・え?と、思いながら振り向く。

 そこには夕日に照らされた茜色の彪斗くんがいた。


「え・・・ごほっ・・・彪斗・・・くん?」


 胸を押さえながら私は顔をゆがめて問う。

 なんでここに彪斗くんが?

 ていうか会うの二回目・・・・やっと会えた・・・かっこいい・・・。

 そんなことをムッとしている彪斗くんを見ながらのんきに思う。


「ったく・・・見張ってろって言われて見張っててよかったぜ。九五の言うとおりだな。」

「え?見張り?」

「ほら、立てるか。」

「うん・・・・。」


 私は呼吸が正常に戻り、立ち上がり鞄を持つと、彪斗くんに引っ張られ背後に押しやられ、彪斗くんは手のひらから出した剣で穢れをズバッと切った。穢れは消滅していく。

 剣は彪斗くんの手のひらにまたおさまっていった。


「何で穢れに触れた。」


 腕組みをした長身の彪斗くんににらまれ見下ろされ、私は怒られてるらしく、問われる。


「いや・・・穢れに触れたらどうなるのかな・・・って、好奇心で・・・。」

「お前、バカか!!!」


 彪斗くんに怒鳴られた。


「いや、でも、普通の人は見えないから偶然触れちゃってるわけで・・・だから触れても大丈夫なのかな・・・って・・・どうなるんだろうって・・・・。」

「あのなぁ・・・確かに見えない奴が振れたら、ただイライラ機嫌悪くなったり、悲しくなったり憂鬱になったりするだけだけど、力を持ったやつが触れると、飲み込まれて凶暴化して人襲って犯罪起こしたりするんだよ。お前はもうそこそこ力持ってんだ。誰か説明しなかったのか?」

「・・・されませんでした。」

「はぁー・・・あいつら何してんだ。」

「・・・ていうか、彪斗くん・・・・私のこと見張ってたんですか?」

「・・・・・・」


 私がそうとうと、今度は彪斗くんが、うっと、気まずいような表情で口を閉じた。


「え?いつから見張ってたの?見張ってたって何?ずっとつけて見てたってこと?え?ストーカーみたいに?」


 最推しにそんなことをされて嬉しいやら複雑な気分で、私は口元に手を当てて、彪斗くんにまくしたてる。


「・・・九五からの指令だったんだよ!見えるようになったお前が危険な目に合わないように!見張ってろって!」


 彪斗くんは気まずそうに後頭部をがりがりとかいて答える。

 というか、このストーカーの様なひっそりとした見守りは、本来、一凛へするはずだったはず・・・いつの間に私へ・・・。


 私はすごくすごく!嬉しかった!見守りもだが、何せ会えたのは二度目だし!しかもまともに話せるのは初めてだ!


「ていうか彪斗くん!怪我大丈夫だった!?元気してた!?あれから一度も会えなかったからずっと心配してたの!でも、元気そうだね!よかった!神薙くんから少し話聞いてたんだけど!うん!よかった!」


 私は嬉しくて嬉しくて笑顔いっぱいで話してしまう。


「・・・お前・・・少しは反省しろよ。今、説教してんだぞ。俺のことなんていいだろ。」


 彪斗くんは呆れ顔をしている。


「反省はしてるよ!助けてくれてありがとう!見守りもありがとう!でも、まもとに話すのは・・・今がはじめてだから!話せるのが嬉しくって!」


 そういえばと、最推しが目の前にいることに改めて気付き、私は足下から頭のてっぺんまでまじまじと見てしまう。



 うわああああ!!!最推しだ!最推しが目の前にいるうううう!!!!!



 私は徐々に緊張してきた。顔が赤いかも。

 ていうか、彪斗くんかっこいい!


「・・・・・」


 彪斗くんは呆れた顔でため息を一つついた。


「じゃあな、俺は行くから。」

「え?また見えないところで見守っててくれるの?」


 私の嬉しそうな声に。


「そーだよ!九五からの指令だからな!でも、穢れや魔物に近づくなよ!」


 私に背を向け歩き出した彪斗くんは、ズボンのポケットに両手を突っ込み振り返らずそう言った。


「はーい!わかりました!」


 いつも見られているのか・・・。


 見守られているうれしさと、いつもそばにいるうれしさと、好きな人にいつも見られている緊張感に、私はいつもどうやって過ごせばいいんだろう・・・と、少し混乱しながらも、心はうきうきとしていた。



 続。

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