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転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?  作者: 山下小枝子


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21~30話

 21.楽しい放課後に抱える不安。




「鈴ーーーー!!!私、生きてた!生きてた!三人でご飯食べよーーーー!!!」


「ちょ!うるさい!!なに!?もう終わったの!?」


 それから久しぶり・・・私が彩衣になってから初めての三人でのお昼ご飯を食べて、午後の授業をして、三人で帰宅した。


 一凛は学校の寮に入っていて、放課後暗くなってから毎日、彪斗くんをのぞく攻略キャラと穢れや魔物退治に行くんだけど、聞いたらほんとに行ってたみたいなんだけど、今日はいいらしいので、久しぶりに三人で放課後遊んだ。


 鈴も楽しそうで、一凛も楽しそうで、うんうん、よかった。


 ・・・・と、思いつつ複雑というかハラハラなのは私だけだろうか。


 九五さんに相談・・・今日行ってるのかな?とか、その結果どうなるんだろう。とか。

 クソ麻日の処分の言葉も気になるし・・・・殺されるのか、幽閉なのか・・・。

 不安が渦を巻く。


 あとあれ。


 一凛がどのルートにも進んでない気がする・・・。


 まさかのバッドエンド?

 いや、ノーマルエンド?


 なんなの?どうなるの?

 ていうか、こんな展開ゲームにはなかったよ?



 なんか・・・おかしく・・・なってる?



 私は不安を抱えたまま、表には出さずに、放課後を一凛と鈴と過ごしていた。





 続




 22.完全勝利!・・・だけど結構危ない橋渡ってたみたい・・・。



「・・・山田さん・・・速水さん・・・今日の昼休み・・・・・屋上に来てくれる?あの・・・昨日の件で、伝えることがあるから・・・・・。」


 もうか!早いな!


 私と一凛と鈴が仲良く登校すると、神薙くんがサッときて、私たちに伝えてきた。


「あ・・・うん・・・わかっ・・・た。」


 私の命はどうなるーーー。

 私は頭を抱えた。


「き、きっと大丈夫だよ!彩衣ちゃん!」


 一凛が励ましてくる。だといいけど。


「なんか厄介事みたいねー。私、関わらないようにしよ。」

「鈴ー・・・鈴もいっそ道ずれに・・・二人なら・・・・。」

「やめてよ!」

「彩衣ちゃん!」

「じょうだーん!」


 二人の言葉にふふと笑う私。

 まぁ、なんとかなんだろ。

 ダメだったら昨日の夜かなんかに拉致監禁されてるだろうし。


 そう楽観的に思い、昼休みまでの授業を受けた。


 ちなみに私の学力は大学生の兄の力も借り、向上している!

 前より授業がつらくないぜ!へへん!


 こんな穏やかな日常が続けばよかったのになー・・・と、思いつつ、四限目が終わった。


「彩衣ちゃん・・・・。」


 一凛が不安そうな顔でやってくる。


「行こっか・・・。」


 一度は死んだ身。

 まぁ、なんとかなんだろ。

 でも、苦しいのや痛いのはやだ。


 そう思いながら私たちは屋上への階段を上がる。


 目に飛び込んできたのは青い空とスチルと同じ光景。

 麻日くんまた総菜パン大量に・・・んでそっぽ向いてむくれてる・・・なんだろ。


 そう思っていると、


「やぁ、レディ達。来てくれてありがとう。」


 美空先輩が美しい顔でほほえんでいた。

 美しい・・・・ハッ!そうじゃないそうじゃない!


「こんにちは・・・。」


 わたしは一応、挨拶をする。


「こ、こんにちは!」


 一凛も慌てて挨拶している。


「で、来てもらった用件だけど・・・わかってるよね?」


 美空先輩が笑顔で言う。


「「・・・・はい。」」


 一凛と私の声が思わず合わさる。


「じゃあ、七斗から伝えてもらおうか。」

「え!な、なんで・・・俺・・・から・・・。」

「だって、九五さんの息子さんで、次期、この神内町退魔師の総長じゃない。」

「い、いや・・・俺なんかが・・・。」


 え、そんな設定あるの?九五さん総長なの?

 なんか退魔師のまとめ役ぽかったけど・・・総長ってそんな暴走族みたいな・・・。


 と、思っていると。


「そーだよ!こんな問題の発端野郎がなれるわけねーだろ!」


 と、またクソ麻日が機嫌悪そうになんか言ってるわ。

 黙ってろお前は!!


「麻日。」


 美空先輩は優しくなだめる。

 優しいなぁ・・・聖人か。


「ほら、七斗。」

「・・・・はい。」


 神薙くんが私達の方を向く。


 そして言い渡される、私の運命。


「昨日、俺たち三人と・・・あともう一人、一緒に活動してる退魔師がいるんだけど、その人で、親父に話をしたよ。速水さんのこと。親父はしばらく考え込んでたけど・・・他の退魔師には内密に、速水さんの山田さんと俺らとの行動を許可してくれた。ただし、今までは山田さんと俺ら一人で退治に出てたけど、山田さんと速水さん二人になるから、速水さんの護衛にもう一人つけるように。って言われた・・・・てことなんだけど・・・・これで・・・いいですか・・・美空先輩・・・・。」


 神薙くんは自信なさげに美空先輩を見た。


「うん。うまく説明できたね。」


 美空先輩はほほえんでいる。


「というわけだよ。」



 というわけ・・・・。



 というわけということは・・・・・。



「やった!彩衣ちゃん!」



 一凛が私の肩に飛びついてくる。



 お、おおおおおおお!!!!!


 殺されるのも、幽閉もなしか!!!


 しかも、穢れ魔物退治に同行OKか!!!マジか!!!



 私の完全勝利じゃん!!!!!




「ったく・・・余計な人手増やしやがって・・・・。」



 奥で麻日がなんか言っている。うるせぇ黙ってろ。


「やったね!一凛!」


 私もやっと喜べて一凛に笑みを向ける。


「うん!」


 一凛も喜んでいる。よかったよかった!


 しかし、



「ただし、七斗が言い忘れたけど、彩衣ちゃん。」



 おっと、いきなりの美空先輩からの彩衣ちゃん呼び。

 はい、なんでございましょう。


「穢れや魔物、退魔師のことは一切、他言無用だよ。一凛ちゃんもこれ以上他の人には絶対に言わないこと。もし今度他の人に言ったら・・・・多分、言った人も聞いた人も命はないと思ってね。」


「「・・・・・・」」


 私と一凛は美空先輩の美しい笑顔で言い放たれた言葉に凍り付いた。



「絶対言いません・・・ね、一凛。」


「はい・・・もう二度と言いません・・・・。」



 一凛は涙目だった。



 鈴とかには言えないな・・・・言うつもりもなかったけど・・・完璧仲間外れ状態になってしまうことが増えちゃうな・・・・。


 と、思いながら、私は少しことの重大さを思い知ったのだった。






 続。



 23.楽しい屋上ランチタイムは・・・放置プレイ空間だった。ふざけんなよ!



 それから屋上で、一凛含め4人とお昼ご飯を食べながら作戦会議をすることになったのだが・・・・。


「昨日、商店街の裏辺りに結構出没したらしいよ。」

「じゃあ・・・今夜はその辺りにしましょうか・・・。」

「でも、他のやつらも行くって言ってたぜ、人の多い住宅街行ったほうがいいんじゃねぇか?」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 はっきり言って!


 私たち蚊帳の外!!!


 放置!!!放置プレイ!!!!


 え!?一凛、今までずっとこんな状況でお昼ご飯食べてたの!!?


 なんかゲームではもっと和やかだったっていうか・・・。

 あ、いや、ゲームでは今日誰と夜退治に行くかと場所を選択してたんだよな・・・。


 マジかー・・・リアルマジかこれー・・・・。


 私はそっと一凛に話しかける。


「ねぇ、一凛・・・いつもこんな・・・蚊帳の外だったの?」


 一凛は困ったような悲しそうな顔をして頷いた。


 ちょ!!!男性陣ちゃんとしろよーーーー!!!!


 こんなだったらそりゃ、あたしに泣きついても来るわーーーー!!!!

 一凛いる意味ないじゃん!!

 こういう無駄なの一番嫌い!!!会社の会議思い出す!!!!腹立つ!!!


 どうしよっかなー・・・言おうかなー・・・言わないでおこうかなー・・・・またクソ麻日うるさいだろうし・・・・。


 でも教室で鈴待ってるしなー・・・・でも、事を荒立てたくないし・・・でもなー・・・こういうのすっごく嫌!


 私は手を挙げた。



「すみません。」



 地図を見て顔を寄せていた男性陣三人がこちらを見る。



「私と一凛、帰ってもいいですか?」



「彩衣ちゃん!」


 一凛が驚いて私の名を呼ぶ。


「はぁ!?何言ってんだてめぇ!」


 案の定クソ麻日が叫んだ。


「あの・・・今は・・・今日、どこに退治しに行くか話してて・・・」


 神薙くんもそう言う。

 だが私は引かない。


「はっきり言って、この状況、一凛いりませんよね?

 三人で行く場所決めて、一凛一人でお弁当黙々と食べて、で、場所決まったら伝えられてお昼休み終了でしょ?

 私と一凛、鈴って子、一人教室に残してここに来てんですよ。

 私たちいてもいなくても同じじゃないですか。

 三人でお弁当食べたいんで、男性陣三人で場所決めてもらって、決めてもらった後、お昼休み終了後にでも、神薙くんからうちらに場所伝えてください。」


「彩衣ちゃん!」


 私が至極ふてぶてしい態度で言ったので、一凛があせって止めようとしている。


「ていうか、こんな一凛放置状態でお昼何日も過ごしてたらそりゃ、相談も何も出来る信頼関係なんか築けませんよ!一凛、可哀想ですよ!私だったら三日で『私、帰っていいですか?』って言いますよ!」


 更に私は言う。


 男性陣は唖然としていた。


「という訳で、私と一凛は教室に戻ります。もうお昼にも来ません。神薙くん伝言よろしくね。行こう一凛。」

「え、え、あ、でも。」

「いいから、早く!」


 私は一凛のお弁当を片付けて、腕を引っ張る。


「それじゃあ、失礼しますー。」


 そう言って私と一凛は屋上を後にした。




「あーあ!期待外れだったなー!」


 私は階段を下りながら大きめの声でつぶやく。


「ちょ、彩衣ちゃん聞こえちゃう!・・・ていうか何が?」

「んー・・・?こっちの話。」



 屋上でのみんなとの楽しいランチタイム・・・を、期待してたのにまさかの放置プレイとは・・・。


 なんだあの男尊女卑空間・・・・。


 確かに一凛は退魔師の体に触れて力を増幅するしかできないけど、会話にも入れてもらえないなんて・・・酷すぎる。



 あーイライラしてきた。鈴一人にしてまで来たのに。



「ま!これからは毎日三人でお昼食べられるしいっか!やったね!」



 私は一凛に振り返りほほえみかける。



「・・・ありがとう・・・彩衣ちゃん・・・・。」



 一凛は泣きそうだった・・・まぁ、あんな状況・・・誰だって辛いわな。



「いこいこ!鈴が待ってる!」


「うん!」



 私と一凛は階段を駆け下りた。






 続。




 24.美空先輩からの誘い。



 その日のお昼、急に返ってきた私と一凛に鈴は驚きつつも、楽しく三人でお昼ご飯を食べ、食べ終わった頃に、神薙くんから、今日の退治は美空先輩の提案で色々あったからなしという事を伝えられた。


 なしでいいのか。

 まぁ、色々巻き起こしたのは私だが。

 と、思ったが了承して、一凛と鈴と一緒にその日はなんとなく疲れたのでまっすぐ家に帰った。


「ばいばーい!鈴ー!」

「ばいばいー。」


 私と鈴が曲がり角で別れる。


 はぁー、今日の晩御飯は何かなー、先にお風呂入ろうかなー。なんか疲れたやー。

 怒るのだって疲れるんだぞー、高校生相手だって。と、思いながら歩いていると、スーっと、横に黒塗りのピカピカの高級車が並走してきた。


 え、なに?


 と、思って足を止めると、窓が開き、そこに現れたのは・・・・。



「やぁ、彩衣ちゃん。」



「・・・美空・・・先輩・・・・。」



 そう、屋上で私が怒鳴った退魔師の一人、美空先輩だった。


 え、なに?怒られる?なになに?なんなの?


「ああ、怖がらなくていいよ、彩衣ちゃん。別にお昼の件で説教しようなんて思ってないから。」


 あら、思ってることがモロバレ。

 私、そんなに思ってること顔に出るタイプだったっけ?


 と、思っていると、


「彩衣ちゃん・・・時間が遅くて申し訳ないんだけど・・・今からうちに来れないかい?」


 と、言われた。


「え、今からですか?」


 学校からまっすぐ帰ってきたから、まぁ、まだ時間あるけど・・・人様の家でゆっくりする時間はないよなぁ・・・あと、正直疲れてて早く帰りたい。


「お願い・・・できないかな・・・・。」


 美空先輩は少し俯いてどこか儚げに微笑む。


 んー・・・確か、美空先輩の家って豪邸だったよね。

 それで、家にはメイドさんしかいなくて・・・・。


 あー、美空先輩の生い立ちや境遇考えてたらかわいそうになってきた・・・で、このほほえみ。


 わかったよ!行くよ!



「わかりました・・・少しの間だけですがいいですか?」


「!ありがとう彩衣ちゃん」


 美空先輩の表情が明るくなる。


 ほんとなんなんだろ。


 私は疑問に思いながらも、親に遅くなると連絡をすると、美空先輩の高級車に乗った。






 それが、とても危険な誘いだとも知らずに・・・・。




 続。




 25.私が美空先輩落としてどうすんだ!!!しかもヤンデレかよ!!!



「ほあー・・・・。」


 私は美空先輩の家の玄関の前で気の抜けた声を発していた。


 いやいや、ゲームでは見ていたが、豪邸豪邸。


 車が門につけば門は自動で開くし、門から玄関までは結構あるし・・・。

 で、ついた玄関は広い、高い・・・。


 豪華な立派な洋館。


 何しろ美空先輩のお父さんはこの町一番の実業家。退魔師でもあるんだけどね。

 で、お母さんは・・・・。


「彩衣ちゃん、こっちだよ。」


 おっと、ぼーっと大理石の彫刻見てたら美空先輩に呼ばれた。


「うわー・・・。」


 私は玄関ホール?っていうの?に入って声をあげてしまった。


「ははは、驚いた?」

「はい・・・。」


 お金持ちって凄いなぁ・・・。

 いいなぁ・・・まぁ、美空先輩の境遇は嫌だけど。


 そんなことを思いながら私は美空先輩の後についていく。


「こちらへどうぞ。じいや、お茶とお菓子を。」

「かしこまりました。」


 じいやって・・・。

 と、思いながら、私は家に対しては、わりとこじんまりした部屋の、ソファとテーブルがある客間のような部屋に通された。


 ただ、ソファの向かいは大きな窓で、夕日の庭が綺麗だった。


「座って、庭が綺麗だろう?」


 美空先輩は私にソファをうながす。


「はい、お庭とても綺麗ですね。夕日も。」


 私が座ると、じいやと呼ばれる人ともう一人のメイドさんがお茶とお菓子を持ってきてテーブルに置く。


「ありがとう。ボクが呼ぶまで部屋には入ってこないでね。」


 なんか引っかかりのある言葉だなーと、思いつつ、私は目の前に並べられた美味しそうなお菓子に目を奪われる。


 自分で思うが危機感がない。後から思った。


「どうぞ、食べて。」


 美空先輩が美しい笑顔でいう。


「ありがとうございます。いただきます。」


 私は、とりあえずマカロンをいただいた。


 うん!おいしい!

 あー、あれも美味しそう!これも美味しそう!

 たっくさん高級そうなお菓子がある!!


「紅茶もおいしいよ。ミルク?レモン?」

「あ、ミルクティーがいいです。」


 もう遠慮も何もないな私。と、思いつつ。

 ミルクティーにしてくれた紅茶を先輩からいただき、その紅茶のおいしさに私は驚く。


「先輩!紅茶おいしいです!」



「そう、それはよかった。ボクのジャンヌに喜んでもらえて、とても嬉しいよ。」



「・・・・・・」



 ん?



 そこで私はなぜか広いロングソファのすぐ横に座っている先輩の言葉に引っ掛かりを感じる。


「ジャン・・・ヌ?」


 笑顔でオウム返ししてみる。


「そうだよ・・・ボクのジャンヌ・・・いや、マリアかな・・・・今日の君を見て、確信したよ。ああ、ボクが求めていた人はこの人だ・・・てね。」


 先輩はいつの間にか私のすぐそばにいて、私の髪をさらりと撫で握り、キスをした。


 穏やかに笑うその目には・・・・光がない・・・・・はっきり言って怖かった。



「今日、一凛ちゃんのためにボクたちに堂々と意見をのべる君を見て、ボクは幼い頃に本で見たジャンヌ・ダルクをそこに見たよ。一凛ちゃんの手を引き、さっていく・・・・一凛ちゃんはいいね・・・守ってくれる君みたいな信頼できる優しい女性がいて・・・・。」



 そう言いながら先輩は私の手から紅茶をとり、徐々に迫ってくる。



 え、え、え?



 何?何言ってるの先輩!!??



 ていうか目がやばい!!目が!!目に光がない!!!目がイってる!!!



「・・・・・。」



 とうとう私はソファの端に追い詰められ、押し倒されてしまった・・・・・。



 え・・・?



「ボクはね・・・ずっと君みたいなマリアを探していたんだ・・・・君みたいに強くて・・・優しくて・・・・一凛ちゃんのためにボクたちに噛み付く姿を見て確信したよ!ああ!!彼女があれをボクのためにもしてくれたら!!!って!」



 先輩は私の上に乗りながら、光のない目で笑顔でいう・・・・。




 あ、やばい・・・これヤンデレってやつだ。




 私は恐怖で震えそうだった。



 ジャンヌとかマリアとか意味わかんない・・・どうしよう・・・。


 ていうか・・・・ていうか!!!




 私が美空先輩、落としてどうすんのさ!!!!!!




 このゲーム、この世界、一凛が主人公だよね!!??


 一凛が攻略キャラ落としてくんだよね!!!??


 なんで私が!今!美空先輩に迫られてんの!!!??


 ジャンヌとかマリアとか言われてんの!!!???


 意味わかんないよ!!!



 誰か助けて!




 あきと!彪斗くーーーーーん!!!!!!





 私は最推しの名を心の中で叫ぶのだった。






 続。




 26.幸せになってほしい・・・だからお友達からはじめましょう!でもヤンデレ怖いよぉ!!!!



「せ……先輩……とりあえず落ち着きましょう……?こ、紅茶飲みましょう……?冷めちゃいますよ?」


 私は自分と美空先輩の間に手を挟み、どうにかこの場を凌ごうとする。


「……マリアは……ボクを拒むのかい……?」


 美空先輩が光のない目で真顔になる。



 あ、まずい。


 まずいまずい。



「いや……いやいやいや!」


 一歩間違えれば殺される。


 私は確信した。



「ボクはね……マリア……」



 先輩が私と先輩の間に挟んだ手のひらにちゅっとキスをして、私の胸に顔を乗せぎゅっと抱きつく。


 おいおいおい……まだ横向きだからいいけどさ……なんだよ……美空先輩おっぱい星人か?


 私はかなり焦り、硬直しながら思う。



「マンマに……捨てられたんだ…………。」



 しかし次の言葉で、あ……と、正常美空先輩ルートの……美空先輩の生い立ち、境遇、一凛とのハッピーエンドを思い出す。


「マンマはね……穢れや魔物は見えない一般の人だったんだ……。」


 美空先輩は私の胸に頭をのせたまま話す……それはまるで、母親に甘えながら話す子供のようだった……。


「パパと出会って、退魔師のことを了承して結婚してこの町に来たんだけど……退魔師と一緒にいるとね……力に影響されるせいで、穢れや魔物が見えるようになってしまうこともあるんだ……。」


 そうだったな……と、私は美空先輩の話を聞いて思い出す。


「で、マンマは見えるようになってしまい、恐怖で家に篭り……でも、家の中にも現れるから……そのうちに心を病んで…………ボクのこともかまわずフランスに帰ってしまった……ボクを置いて……捨てて……。」


 そうだったねー……その心の傷を……確かヤンデレじゃない美空先輩は一凛に癒されるはずなんだけど…………何でこんなことになってんの?

 私は誰か助けて……と、思う。


「ボクはマンマに捨てられたみたいにならないように……必死に女性に媚びたよ……媚びて媚びて生きてきた……もちろん媚びてるように見られないようにエレガントにね……唯一の肉親のパパに捨てられないようにパパの期待にも100%答えてきた……みんな褒めてくれるよ?女性は集まってくれる……捨てられない……逃げられない……でも、埋まらないこの虚無感は何なんだろうって……そう思いながら生きてきた…………そこに現れたのが君だよ……マリア。」


 美空先輩はぎゅっと私に抱きつく力を込める。



「どうかボクのマリアになって……そしてボクに優しくして……癒して……守って…………君がいれば、他には何もいらない……。」



 ……そんな……映画のセリフのような…………。



 しかし私は困っていた。



 美空先輩ルート……というか……美空先輩をどうやら私は落としてしまったらしい……。



 だが、私は特に美空先輩が好きではないので、ここで『はい。』とは言えない。



 だが、下手に断ったら多分……殺される。



 ヤンデレ怖い。



 それになー……美空先輩の境遇も可哀想だしなー……。

 私に出来ることがあるならしてあげたいけど……。

 でも、中途半端に気を持たせるのはいけないのだろう……いけないよなぁ……。


 でもとりあえず……ここをうまく生きて抜け出すのが先決だよな。


 私はよし!と思った。



「美空……先輩?」

「臣でいいよ……。」

「……臣先輩……。」

「呼び捨てでいいよ……。」

「それはちょっと……。」

「わかった……。」


 美空先輩がくすっと笑う。



「臣先輩……臣先輩は……ずっとずっと……がんばってきたんですね。」



 私は美空先輩の頭をそっと撫でながら話す。

 もう5歳児だと思うことにした。


 美空先輩は私の言葉を聞くと、私の胸に顔をうずめた。


 おっと!それはまずいぞー……まぁ、五歳児、五歳児。



「そうだよ……ずっとずっと!完璧で!美しくて!綺麗で!優しくて!女性に優しくてなんでもできる美空臣だった!」



 辛そうな、美空先輩の絞り出す声が聞こえる。


「……もう……そんなことしなくていいですよ…………。」


「マリアがいてくれるから?」


 美空先輩は私にぎゅっと抱きつく。

 少し苦しい。


「いや私は……今すぐに臣先輩のマリアにはなれないです……。」


「どうして!?」


 美空先輩はガバッと両腕をつき、顔をあげる。

 少し涙目だった。


「ボクなら君の欲しいものを何だってプレゼントするよ!?行きたいとこにも連れて行く!君の望みはなんだって叶える!!!嫌がることはしない!!!ただ側にいて欲しいんだ!!!ボクの……そばに…………。」


 そして、美空先輩は顔を歪ませ、泣き崩れてまた私の胸に抱きついた。


 私はいくらゲームの中でも……心が痛んだ……。


 幸せになってほしい……。


 美空先輩にも幸せになってほしい……。

 過去の傷を癒して幸せに……。


 不憫で……こっちまで涙が出てきそうだった。

 私は涙目で、泣いている美空先輩の頭を撫でる。


「そうだ……君が……そばにいてくれないのなら……君の部屋を作って……そこに君を閉じ込めよう……そうすれば……君はずっとボクのそばに…………。」


「私の嫌がることはしないんじゃないんですか……?」


 私はなるべく優しい声で語りかける。


「だって、マリアはボクのそばにいてくれないじゃないか……。」


「今すぐは無理って話ですよ……。」


「今すぐ……?」


「そうです……私は臣先輩のことは『女子生徒に人気のある美しい退魔師の先輩』としか知りません。だからお友達から始めましょう?」


「友達……から?」


「はい。友達からです。一凛と同じ立場からです。友達でも、私は優しくしますし、悩み事があったら相談にのります。守るときは守ります……とりあえず……それじゃダメですか?」


 私は美空先輩の頭を撫で、子供に言い聞かせるようにいう。



 ごめんなさい……あなたのマリアになれなくて……と、思いながら。



 でも、できる限りのことはします。



 友達でも、傷を癒すことは出来るだろうか……。



 どうか、美空先輩が……私なんかの力で……少しでも癒されますように……。



 私はそう思いながら美しい装飾の天井を仰いだ。





「そうだね……君はそういう人だ……だからマリアなんだ…………。」



 すると、美空先輩が小さくつぶやいた。


「わかったよ……じゃあとりあえず友達からスタートにしてあげる。閉じ込めるのは最終手段かな。」


 そしてふふっと笑った。


 お?いつもの美空先輩に戻ったか?


「でも……もう少しこのままでいさせて……。」


 美空先輩は、私に抱きつきながら、胸に埋めていた顔を庭に向け、もうほぼ沈んだ夕日の庭を……見つめていた。







「いやー、今日は悪かったね、マリア。みっともないところを見せてしまって。」



 それから私は解放され、いつもの美空先輩に戻った先輩に服の乱れを直されると、遅くなってしまってごめんね、家まで送るよ。と、笑顔で言われ、今、車の中にいる。


 だが、手を握られている……。


 まぁ、それくらいならかまわない……。

 それに…………


「先輩……私の前では無理しなくていいですよ。」


 私は、先輩に少し同情……というか、無理しないで。と、心配げな笑顔でほほえんだ。


「…………。」


 美空先輩は驚いた顔をしている。

 そして、私の肩に額をのせると、


「ありがとう……ボクのマリア……。」


 と、つぶやいた。


「でも、まだ、あなたのマリアじゃありませんー。私たちはお友達です!他の人の前でこういうことするのはやめてくださいね!」


 と、私はあさっての方向を見て、冗談っぽくつれない態度で言う。


「そうだったね。優しいけど厳しいなぁ、マリアは。」


 クスクスと先輩は笑う。


「あ!あと、そのマリアっていうの絶っ対!他の人の前で言わないでくださいよ!!!」

「何故だい?」


 先輩はきょとんとしている。


「何故って!!!恥ずかしいでしょ!!!それに美空先輩のファンに殺されます!!!」


「あはは!君に何かしたらボクがそいつらをこの町にいなくさせてあげるよ。あ、そもそも学校に来られない体にするかな?」


「…………。」


 笑顔で言い放って瞳を開いた先輩の目には光がなかった……美空先輩やっぱりヤンデレ……怖い……怖いよーーー!!!


「そういうのもやめてくださいー!」


「何でだい?ボクはもう君以外の女性はいらないんだから、ほかの女性に媚びる必要はないだろう?君もさっき言ってたじゃないか。もう、そんなことしなくていいって。」


「……言いましたけど……程度がね……こう……徐々に…………。」


「あ、着いたみたいだよ。わー、素敵な家だね。ちょっとご家族に挨拶していこうかな。」


「いーです!いーです!もう遅いんで!!ではまた明日!さようなら!」


「……さようならは悲しいな……。」


 握っていた私の手に、ちゅっとキスをする美空先輩……。


 何してんだこの人ーーーー!!!!!


「またね。にしよう?」


「はい!!!またね!美空先輩!!!!」


「臣でいいよ。」


「はいはい!臣またね!」


「わー!臣って呼んでくれた!またね!マリア!」


「だからマリアっ……手放してください!!」


 そんな悶着を20分位繰り返し、ようやく車から出た私は急いで鍵を開け玄関に入ると、



「おかーーーさーーーん!!!怖かったよーーーーー!!!!」



 と、叫び、どうしたの!?と、キッチンからやってきた母親に、今度は私が抱きついたのだった。





 続。




 27.朝のお迎え、いりません!!!!



「あー・・昨日は疲れたなー・・・・。」


 私は昨日の美空先輩とのことを思い出しながら学校へと向かう。

 昨日は迂闊だった。


 迂闊に男の人の家へ入ってはいけないというのは本当だな。うん。


 と、思いながら私が今日もまぶしい朝の太陽を見つめて疲れから少しぼんやりしていると、すーっと横の道路に黒い・・・車が・・・・・

 もちろん開いた窓から顔を覗かせたのは・・・・


「やぁ、ボクのマリア!おはよう!」


 嬉しそうに美しい顔でほほえむ美空先輩だった・・・。


「おはようございます・・・・」


 朝から来たよ!この人!!!


 なんなんだよ!そんなにあたしに会いたいか!


 と、ちょっとうぬぼれたことを思ってみたが・・・。


「マリアに会いたくてね。朝から来ちゃった。車に乗ってかない?学校まで送るよ?」


 そのまんまのこと言ってるよこの人!っていうかあんな思いしたのに誰が車に乗るか!!!

 私は泣きそうだった。


「いや・・・友達と待ち合わせしてるんで、歩いていきます。」


 と、私が言うと、


「そうかー・・・じゃあボクも一緒に歩いていこう!じいや、車止めて。歩いていくよ。」


 は!?

 と、私は心の中で叫んだ。


 いやいやいや!一緒に行くとかない!ないないない!!!

 美空ファンに殺される!!!


「いや、あの、せんぱ・・・・」


 とかなんとか私が慌ててる間に、美空先輩は車から降りて私の隣に立っていた・・・・・。

 車は行ってしまった・・・・。


 ちょっとこれどうすんのさ!!

 これから鈴と一凛と合流して学校行くし、途中で絶対美空先輩ファンに会うよ!?


 と、私がぐるぐると頭の中で色々とかんがえているのに・・・


「マリア、手繋いでいこうか?」


 と、美空先輩はご機嫌に美しい顔と綺麗な手を差し出してきた。


「・・・手は繋ぎません。あとそのマリアって呼ぶのやめてくださっていいましたよね・・・。」

「今はまだ二人以外誰もいないよ?」


 私は舌打ちしたくなった。


「これから友達と一凛と合流するんで、絶対やめてくださいよ!」

「うんうん、わかったよ。マリア。」


 美空先輩は不機嫌な私の何がそんなに嬉しいのか、にこにことうれしそうに返事をしている。

 ヤンデレの考えてることはわからん!


 すると、いつもの鈴と合流する場所になった。

 鈴はもう来ていた。


「あ!鈴ー・・・・」


 鈴はこっちを見るなりぎょっとして、読んでいた本をたたむと私を無視して行ってしまった。


「え?鈴?鈴ー!ちょっと待ってよー!!」

「私を厄介事に巻き込まないで!」

「おはよー!えーっと・・・マリアの友達の・・・小林鈴ちゃんだよね?」

「まきこないでー!」

「先輩!マリア呼びはしない約束でしょ!」

「あ、そうだったね!ごめんごめん!あははは!」


 私達は走りながらそんなやりとりを大声でしていたのだった・・・。



 朝から疲れる!!!!!




 続。




 28.ですよねー!わかってた!



 それから、信号の所で、鈴をつかまえた私は、鈴の鞄をがっちり掴んだ。

 美空先輩はけろりとしているが、ぜーぜー息をして下を向いている私と鈴。


「ちょっと・・・これどういうことよ・・・なんであんたと美空先輩が一緒に歩いてんのよ!厄介事のにおいしかしないわ!」

「わかってるよー!わかってるんだけど、いろいろあって!」

「どうしたのかな?彩衣ちゃん?鈴ちゃん?」


 荒い息でこそこそ話している私と鈴に、美空先輩は笑顔で顔を覗かせた。


 背が高いため二人で下から見た美空先輩の顔は、影がかかっていて、それでなくても私は怖いのに、はっきり言って怖い。


「いえ・・・なんでも・・・・」


 私はそう答えるしかなく、鈴もなんとなく色々本能的に察知したのだろう、黙って二人で姿勢を正し、信号が青に変わるのを待った。


 すると、


「美空先輩ー!おはようございますー!」


 来た!美空先輩の熱狂的ファン!というかいつもの取り巻き!

 先輩!そっちに行って!


 と、思ったら・・・


「うるさい、触るな。」


 美空先輩はファンが腕に掴んできた手をパシンと振り払い、冷ややかな声でそう言った・・・。


 私達は唖然・・・向こうの女子生徒たちも唖然と言うか・・・何か信じられない物を見たかのような表情をしている・・・。

 おそらくこちらからは見えなかったが、美空先輩・・・凄い冷酷な顔してたんだろうなぁ・・・。


 信号がパッと青に変わる。


 くるっと先輩がこっちを向いた。

 美しい明るい笑顔だった。


「あ、青に変わったよ?彩衣ちゃん、鈴ちゃん、行こうか!」


 先輩は私の手を掴み歩き出す・・・私は鈴の鞄を掴んでいるので鈴も道連れだ。


 その後、合流した一凛も、美空先輩が一緒のことに驚いていたが、それよりも、合流した後、次々に美空先輩に声をかけてきた女生徒に


「うるさい。」


「もう話しかけるな。」


 と、冷ややかな表情と共に発していたことに呆然としていた。



「・・・・・」


 私は内心、察しがついていたが、美空先輩に聞いてみる・・・。


「あの・・美空先輩?」

「臣先輩だよ。彩衣ちゃん。」


 話しかけられたことに嬉しそうに私の方を向き、そう言う美空先輩・・・もとい臣先輩。


「臣先輩・・・なんで・・・昨日まであんなに女の子達に優しかったのに・・・急に今日はあのような態度をしているんですか?」


 返事は。


「そんなの!もうボクのマリアがいるから、他の女に無理して媚びなくていいからに決まってるじゃないか!」


 光のない瞳で、嬉しそうな笑顔と共に発せられたその言葉に、私は、ですよねー。と、言いたかった。



 やっぱりか・・・やっぱりかぁー・・・・。



 私は頭を抱えてしゃがみこみたかった。




 その後も臣先輩の冷たいあしらいは続き、

 私と鈴はだんだん慣れてきた。

 一凛は毎度毎度、動揺しておろおろしていた。

 さすがヒロイン!可愛いぜ!


 それよりも・・・それよりもこれから先が思いやられた・・・。





 これは後で美空ファンからお呼び出しがかかるぞー・・・。

 ガタガタガタ。






 続。




 29.もう諦めました。いいですよ。好きなようにして下さい。



「マリ・・・彩衣ちゃん・・・しばらくのお別れだけど、またすぐに会いに行くからね、淋しがらないでね。」


「先輩・・・お願いですから手を離して下さい。こんな所でやめてください・・・・」


 私は虚無の表情になっていた。


 なぜなら昇降口で、先輩は大勢の人に遠巻きに囲まれる中、私の両手をつかみ、そんなことを言っているからだ。


 これはもう無になるしかないだろう。

 一凛は少し離れたそばにいてくれるが、鈴は逃げた。あの野郎。


「しばらくの間、悪い虫がつきませんように・・・」


 先輩はちゅっと、私の両手を持ち上げキスをした。

 キャー!と、女子生徒から叫び声が上がる。



 ああ、私は今日殺されるな。と、思った。



「もういいですか。」

「もーつれないなー。彩衣ちゃん。あ、そろそろほんとに時間だね。じゃあねー!」


 と、ヤンデレお気楽クソ野郎は行ってしまった。

 私は無の表情で、自分の下駄箱に行く。しかし、


「ちょっとあなた!!!」


 ほらきたーー・・・・


「一体どういうこと!?美空先輩が!先輩が!!いつもならにこやかに挨拶してくれるのに今日はおかしくて!しかも!あなたと登校して!しかもさっきの何!!??一体あなた何!!??」


「・・・・私にもわかりません・・・」


 私は道をふさがれ無表情・・・げんなりした顔で答える。


「少し前はそっちの女が先輩と他の男子生徒と屋上でお昼食べてたみたいだけど!今度はあなた!?いったいなんなの!!??」


 美空先輩の取り巻きらしき女性はこれ以上ないほどに憤慨している。

 まー、そりゃそうだよなぁ・・・。


「ちょっとあなた聞いてるの!?」


 ドン!と、肩を突き飛ばされた。

 あ、それはちょっと痛いしやめてほしい。イラつく。

 ただでさえ、昨日から美空先輩関係で疲れてイライラしてんのに。


 と、思っていると・・・



「君達・・・今、ボクのマリアに何をした・・・?」



「!」


 私を含め、そこにいた全員がその地を這うような低く、殺意のこもった恐怖の声にビクッ!とした。


 そしてその声の主・・・美空先輩は、上履きを履いて、まだ靴を履いて昇降口で一悶着していた私達を、下駄箱の影からそっと顔半分出して見ていた。


「君・・・今、ボクのマリアに危害を加えたね・・・?君・・・死にたいのかな?いいよ?殺してあげてもいいんだよ・・・?」


 すっかり目から光がなくなった美空先輩がゆらりゆらりとこちらへやってくる。


「え、いや!あの・・・」


 見たことない美空先輩と、言われた言葉に動揺する美空先輩の取り巻き。

 私は、はー・・・と、息をついた。


「先輩、先輩ー。私は大丈夫ですよ。それより何してるんですか?早く三年の教室行った方がいいんじゃないですか?」

「それよりもこいつらの抹殺の方が先だ。」

「そしたら私の側にいられなくなりますよー。」


 私は美空先輩の身体をこれ以上怯えている取り巻きに近づけさせないよう押しながら言う。


「ああ・・そうだね・・・じゃああとで内密に・・・。」

「そんなことしたら私、先輩のこと嫌いになりますよー。」


 そういうと、先輩はきょとんとした。


「どうして?あいつらは君に危害をくわえたんだよ?」

「それでも、仕返しはあまりしちゃいけません。」


 私の言葉に、徐々に目に光が戻ってきた。


「・・・さすがマリアだね。ボクのマリア。」


 私は先輩に抱きしめられてしまった。

 しかし私の頭上ではまた目から光が消えたらしい。


「お前ら、今後、彼女に何かしたらこの町にいられられなくなるか、五体満足ではいられなくなると思え。わかったな。あと彼女の友達にもだ。」


「は・・・はい・・・」


 取り巻きの怯えた声が聞こえた。

 まぁ、解決したからいっか。

 私もこれで取り巻きに何かされなくなるし。


 さて、それでは。


「先輩、いい加減に離れて下さい。あと、さっきからマリアマリア連呼してますよ。いい加減にしてください。」

「あ、ごめんねー。あはは、つい。」


 笑いながら先輩は悪びれもなく離れる。


 これはもういくら言ってもダメだな。

 マリア呼びとスキンシップとか色々あきらめよう。

 私はため息をついた。


「どうしたの?マリア。」

「なんでもありまっせん!」


 思ったそばからコレだ!





 続。




 30.参上!美空先輩!て、君もか!



 教室に行くと、注目を浴びた。

 あー・・・これ美空先輩のことで全校生徒に知れ渡ってるな。と、私は思った。


「あの・・・彩衣ちゃん、何があったの?なんで美空先輩・・・あんな・・・・大丈夫?」


 鞄を置くと、一凛がやってきて、心配して聞いてきてくれた。

 そうだ!一凛になら話せるんだ!


「一凛~~~!!!!」


 ハッ!でも、教室ではまずい・・・時間もない・・・。


「・・・んー・・・昼休みか放課後、話聞いて!」

「う、うん!わかった!」


 そういうと予鈴がなった。

 さぁ、今日も学園生活スタートだ。



(お昼だ~~~。)


 私はお弁当箱を持ち、鈴と一凛を見る。


 あ、そうだ!薄情者、鈴には文句言わないと!

 と、思い、鈴に声をかける。


「鈴ー!あんた朝いつの間にか逃げて酷すぎない!?」

「厄介事はごめんよ・・・なんなのあれ?どうしたらあんなことになるの?一凛もなんか訳ありみたいだし・・・私の周りいつの間にかややこしいやつばっか!」


 と、そんなこと言いつつ、鈴は私と一凛と机を合わせてくれている。


「あはは、ごめん、鈴ちゃん。」

「私はなるべく厄介事からは逃げるからね。薄情者と言われようが。」

「はいはい。まぁ、その方がうちらも助かるか。」


 と、一凛と顔を合わし、母特製ミルクティーを飲もうとマグボトルを開け、飲もうとした時だった。



「マリアーー!会いに来たよー!お昼一緒に食べよーー!!」



「ブフォ!!」


 私はミルクティーを盛大に吹いた。



 は?な?え???



 後ろを振り返ると・・・・


 そこには教室の入口に、三段重ねの重箱を持った美空先輩が・・・・。


「じゃあ、私はこれで。」


 と、鈴は離れていく。


「やっと会えたねマリア!淋しかったよー!」


 先輩はズカズカと教室に入ってきて、空いている机を見て、これ使っていい?と聞き、私と一凛の机に合わせていつの間にやら私の目の前にいた。


「一緒にお昼ご飯食べよう?」


 目の前に美しくにっこりと笑っている先輩がいる。

 教室が静まりかえっている。

 一凛と私、というか教室中の生徒が静止している。


「マリアにも食べてもらおうと思って、今日は三段にしてきたよ。あれ?鈴ちゃんは?」


 その言葉に窓際に非難していた鈴が、ヒッ!と肩をびくつかせた。


「鈴ちゃんは一緒に食べないの?一緒に食べようよー。」

「わ、わわわ、私はいいです!一人で!」

「えー、いいの?んー・・・まぁいいか!ほんとはマリアと二人っきりで食べたいしね!」


 私の表情は無になっていた。


 するとそこへ・・・遠くから元気に廊下を走る音がダダダダと聞こえたかと思うと、ダン!と、扉に手を突く音がして、



「臣!てめぇこんな所で何してんだ!!」




 うわーーーまた厄介なのが来たぞこれーーーー。



 私は頭を抱えた。



「何?麻日・・・さっき説明しただろ。邪魔しないでくれるかな。」

「何言ってんだ!早く屋上戻れ!お前、今日おかしいぞ!」


 麻日くんは教室の入口でギャンギャンでかい声で叫んでいる。


「だから、もうボクは隠居するから、あとは二人でやって。ね、マリア?あ、伊勢海老食べる?」

「・・・いりません・・・」


 私は頭を抱えて答えた。


「隠居とかあとは二人に頼むとかその女とかなんなんだよ!」


 あ~~~もうこれはあれだ!


「先輩!一凛!屋上行こう!屋上でみんなでお昼食べよう!!」

「え・・・」

「ええ~~・・・」


 一凛は驚き、美空先輩は不満気な表情をしている。


「いいから!ほら!時間なくなるから!ほら!お弁当まとめて!」


 私もまとめつつ、二人を引き連れ教室の入口にいる麻日くんの所に行く。


「麻日くんごめんね、屋上で説明するから。」


 私がそう言うと、


「・・・お、おう。」


 と、意外だったのかなんなのか、素直な返事が帰ってきた。


「鈴ごめんねー!屋上で食べてくるー!」


 と、鈴に声をかけると、鈴は手を振っているのかあっちいけという手の振り方なのか微妙な振り方をして窓の外を見ていた。



 は~~~~厄介厄介。ほんと厄介になってきたぞーーー。






 続

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