8話 武器屋の出来事
みんなでレィナちゃんを追いかけて、アクセサリー屋さんや洋服屋さんをいくつも回って行きました。
「次はあの店に入ろう!」
レィナちゃんが向かったのは武器屋でした。
今日のメンバーで剣士講座に参加しているのはボクとレィナちゃんだけで、他の子たちは剣に興味が無いと思いますが・・・
「へえ、武器屋さんって初めて、ちょっと面白そう」
・・・興味なくもないみたいです。
レィナちゃんを追いかけてボクたちも武器屋に入りました。
中にはたくさんの剣や槍、盾やハンマーなんかも置いてありました。
見た事もない、使い方の良くわからない武器もいっぱいあります。
店内は、冒険者風のおじさんや、騎士と思われる人達がいました。
ボク達みたいな女の子は他にはいません。
レィナちゃんは、売り物の剣を手に取って、軽く素振りをして具合を確かめている様でした。
・・・ただ、レィナちゃんにとっては軽い素振りでも、普通の人から見たら結構鋭い打ち込みです。
風切り音までしています。
店にいた人たちがぎょっとしてレィナちゃんに注目しました。
冒険者風のおじさんが唖然としています。
だって、かわいらしい服を着た美少女が、大振りの剣を見事に振ってるんですから。
「あの、もしかしてレィア副総長のお嬢様ですか?」
騎士っぽい人が聞いてきました。
「そうだけど、お母さんの知り合い?」
「ああ、やっぱりそうですよね!そっくりでしたから」
「この国の騎士でゼト総長とレィア副総長を知らない者など一人もいませんよ」
一緒にいた別の騎士も話しかけてきました。
レィナちゃんのお父さんはこの国の騎士団の総長で、お母さんは副総長です。
つまり、両親揃ってこの国の騎士の中で一番偉い人と二番目に偉い人になります。
剣の実力も、騎士の中では一番と二番です。
・・・ボクの両親は騎士ではないので別枠だそうですが・・・
「そのお年ですばらしい剣筋ですね!惚れ惚れしました」
「あたしなんてまだまだよ、大した事ないわ!」
そんな事は無いと思います。
レィナちゃんが振っていた剣は、大人の男の人でも持ち上げるのがやっとなくらい重たい剣です。
多分ボクには持ち上げられません。
レィナちゃんは『身体強化』の達人です。
普通の大人のよりも、もっと強い力を自然に使えます。
『身体強化』は自然に使うのが難しいのだそうです。
レィナちゃんが振っていた大剣を普通の人が『身体強化』を使って振ると、そのまま地面に突き刺さってしまうか、もっとひどい時はあさっての方向に飛んで行ってしまいます。
狭い店内で自在に振り回したり、ピタッと止めるのは、たいへん高度な技術が必要なのだそうです。
ボクの両親とレィナちゃんの両親は、それを普通にやっていたので、誰でもできる事だと思っていたら、そうではなかったのでした。
ボクたちの両親が特別だったみたいです。
小さい頃からそんな人たちとだけ、剣の練習をしてきたボクとレィナちゃんは、どうやら他の子たちと感覚がずれてしまったようです。
でも、ボクとレィナちゃんで打ち合いをすると・・・・・ボクが勝ってしまいます。
前にわざと負けてあげようとしたら、レィナちゃんは大泣きしながら怒り出しました。
それからボクはレィナちゃんと戦う時は絶対に手を抜かなくなりました。
わざと負けたりしたら、レィナちゃんは二度と口をきいてくれなくなる気がします。
レィナちゃんは自分でいつも言っている様に、実力でボクに勝つのが目標だそうです。
「お嬢ちゃん、剣をお探しかい?」
武器屋のおじさんがレィナちゃんに話しかけてきた。
「ううん、普段練習用の剣しか使ってないから、本物の剣を振ってみたかっただけ」
「お嬢ちゃん、冒険者でもなさそうだし、学院の生徒かい?」
「ええ、そうよ」
「そうかい、でもそれならまだ、本物の魔物とは戦った事がねえはずだよな?」
「・・・まあ、そうね」
「にしては、さっきの剣の振りはずいぶん年季が入ってるように見えたな」
「練習だけはいっぱいしてきてるからね」
「ふっ、まぁ、そういう事にしといてやるよ。実戦で使う剣が欲しくなったらまた来な!」
「ええ、考えておくわ」
ボクたちは武器屋を出て、商店街を歩き始めました。
みんなそろそろおなかが空いてきたので、お茶でもしようって事になりました。
ボクたちはスイーツの食べられる喫茶店に入りました。
やっぱり女の子はみんな、甘いものが大好きみたいです。
ボクも甘いものは大好きです。
「ちょっと感じの悪いおじさんだったね?」
友達がレィナちゃんに話しかけています。
さっきの武器屋のおじさんの話です。
「まあ、腕は確かみたいだったけどね」
「・・・そうなの、ちょっと話しただけなのにわかるんだ」
・・・そう、武器屋のおじさん、腕は確かです。
レィナちゃんが振っていた剣の、重量バランス、刃の歪みの無い仕上がり、ビビりの無い風切り音など、かなりの職人技でした。
そして・・・人を見る目も確かでした。
レィナちゃんとボクは・・・魔物と戦った経験があるのです。