75話 剣術道場
「あたしがここの師範代だけど、何の用?」
黒っぽい灰色の髪をポニーテールにしたお姉さんが顔を出しました。
歳は17~18才くらいでしょうか?
見た目だけならお母さんと同じくらいです。
・・・お母さんは実際にはもっと年上ですが・・・そんな事は絶対に口に出して言えません。
「修行しに来た!だけど先に戦わせろ!弱ええ奴に教わってもしょうがねえからな」
ソラ君、修行に来てその口の利き方は無いです!
「ごめんなさい!ボクたち空気のうすいこの高地で剣の修行をしたいのですが、お願いできますか?」
ボクはソラ君の隣で頭を下げました。
「そいつの言う通りよ。まずは剣を合わせてから判断するわ!」
「そう来なくっちゃな!」
「じゃあ、練習場に来なさい」
・・・意外とソラ君の態度に腹を立てた様子はありませんでした。
「ええと・・・4人ね?誰からやるの?」
「あの、わたしは魔法使いなので見学だけです」
キラさんは手を挙げて辞退しました。
「じゃあ3人ね?」
「まずはオレから行く」
ソラ君が前に出ました。
「武器は真剣でいいわね?」
「ああ、そのつもりだ」
「怪我をした時はわたしが治します。治癒魔法は得意ですので」
キラさんが治癒してくれるなら安心です。
ソラ君はいつもの通り剣を鞘に収めています。
相手の女性は幅広の片刃剣を構えています。
あまり見かけない形の剣です。
「へえ、あなた東の国の出身ね?」
「ああそうだ、わかるのか?」
「この国は西方の国々と東方の国々の間の通過点だから、様々な国の人が訪れるのよ」
この大陸の東西を繋ぐルートは、この高原の国を通るか、南側の海路を船で渡るか、北の果ての雪原を通るかのいずれかになります。
船は一部の貴族か大商人しか持っておらず、北の雪原は北の国の治安が悪い上に凍死や遭難のリスクも高いので、一般的にはこの高原のルートが使われるのです。
「あなたと同じ様な剣を持った人も、時々やって来るわ」
「そうかい、そんな事はどうでもいい。早く始めようぜ!」
「いつでもどうぞ」
「じゃあ、遠慮なく行くぜ!」
ソラ君はいつもの様に最速で師範代に接近し、相手の寸前で剣を鞘から抜いて切りかかります!
しかし相手はそれを紙一重で躱しました。
今の動きでわかりましたが、女の人はかなり腕が立ちます。
ソラ君は続けて打ち込みますが、全て寸前で躱されてしまいます。
でもソラ君はそのままでは終わりません。
打ち込みの度に少しずつ相手にかわされる間が狭まっていきます。
そう、ソラ君は実戦の最中に成長するのです!
あと少しで、相手に届く・・・そう思った時、ソラ君が倒れました。
「大丈夫ですか!ソラ君!」
ボクたちはソラ君に駆け寄りました。
「・・・息が・・・苦しい・・・」
・・・そうです、この場所は標高が高く空気がうすいのです。
いつもと同じように動くとすぐに息が切れてしまうのでした。
ソラ君は、『念』も使って戦っていますが、『念』は肉体と密接に結びついています。
呼吸が乱れると『念』も上手く操れなくなってしまうのでしょう。
「わかったでしょ?まずはこの地の空気になれる事からね」
「ちくしょう!すぐに克服して次は必ず倒してやるからな!」
この諦めないところがソラ君の良いところです。
「でもあなた筋はいいわ。じゃあ、次!」
「今度はあたしがいくわ!」
レィナちゃんはいつもの大剣を構えています。
「そんな大きな剣を振り回してたらすぐに息が切れるわよ?」
「どうかしらね!」
レィナちゃんは、大剣を上に構えて師範代に一直線に迫り剣を振り下ろしました。
師範代さんは、これも紙一重で躱します。
「その大剣をその速さで・・・身体強化ね!」
「そうよ!身体強化は魔力を使ってるから空気のうすさと関係ないでしょ?」
レィナちゃんそう言いながら次の打ち込みに入っています。
「確かにそうね。ではお手並み拝見といきましょう」
レィナちゃんも次々と剣戟を繰り出しますが、全て師範代にかわされています。
でも、ソラ君同様、少しずつ師範代さんを追い詰め始めました。
「すごいわね、その歳で身体強化をそこまで使いこなせる子なんてほとんど見た事が無いわ」
結局、ソラ君より少しだけ長く戦っていましたが、やはり息が切れで動けなくなってしまいました。
「身体強化を使ってるって言っても、筋肉も動かしているわけだから、あんな強引な戦い方ではすぐに息が切れてしまうでしょ?」
・・・確かに、師範代さんの言う通りでした。
レィナちゃんは、胸とお尻のボリュームはありますが、ウェストは折れそうなくらい細くて手足もすらっと細長く、女の子として理想的なプロポーションをしています。
一見細い手足の筋肉の量は、見た目の通り多くは無いのですが、しっかり鍛えているので、上質の筋肉が無駄なく付いているのです。
その肉体と、高度な身体強化の制御技術がレィナちゃんの強さの秘密です。
どちらが尽きても本来の実力が出せなくなってしまうのです。
「じゃあ、次はあなたかしら?」
「はい、よろしく願いします」
最後はボクの番です。




