68話 大人と子供
「なんだあ?小僧が俺と勝負だあ?笑わせんな!ガキをいたぶっても何の自慢にもならねえよ!」
「はっ!ガキに負けるのが怖いみたいだな?」
「なんだと!・・・どうやらしつけが必要みたいだな。そこまで言うなら相手してやるよ!」
「そう来なくっちゃな!勝負は何にする剣でいいか?」
「おいおい、その細っこい剣で俺の剛剣と相手するってのか?冗談はよしてくれよ」
ソラ君の片刃剣は元々この国の一般的な剣よりも細身です。
一方で絡んできた冒険者の剣はかなり大振りのロングソードです。
「そうだな、これを使ったらあんたを剣ごと真っ二つにしちまうからな。それなら素手で格闘はどうだ?」
「おもしれえ!このギルド一番の力自慢のこの俺に素手の勝負を挑んだ事を後悔させてやるよ!」
「ちょっと!お二方!ギルド内で乱闘は困ります!」
受付のお姉さんが仲裁に入りました。
「それなら、闘技場を借りるぜ!模擬戦って事なら問題ねえよね!」
「それはそうですが、こんな格下の相手と模擬戦なんて・・・」
「オレなら問題ねえぜ!それと格下ってのは聞き捨てならねえな!こいつよりオレの方が強ええかならな!」
・・・ソラ君もやる気満々みたいです。
「レィナちゃん、どうしましょう?」
ボクはレイナちゃんに話しかけました。
「いいんじゃない。ああいう連中は好きなだけならせておけばいいよの!」
レィナちゃんは止めるつもりは無いみたいです。
「こうなっては、やめさせるは難しいですね。けがをした時はわたしが治しますので」
キラさんも、止めないみたいです。
「それに、おそらくソラ君の方が勝ちます」
キラさんは小声でボクに教えてくれました。
冒険者ギルドの闘技場へ移動しました。
冒険者ギルドには、試験や練習のための闘技場が併設されているのです。
ロビーであれだけ大騒ぎをしてしまったので、ギャラリーが大勢集まってしまいました。
ステージの上にはソラ君とさっきの冒険者が素手で立っています。
こうして客席から見ると本当に大人と子供です。
歳の割に身長が低めのソラ君に対して相手の人は冒険者の中でもかなり大柄の方です。
「ルールは素手での格闘のみ、魔法は禁止だが、俺は元々魔法は使えねえ」
「オレも使えないから問題ねえ」
ちなみにソラ君は右手の義手には手袋をはめています。
「どちらかが戦闘不能になるか、負けを認めたら終了だ。それでいいな」
「ああ、かまわないぜ」
「じゃあ、勝負といこうか!」
二人とも同時に攻撃を仕掛けました。
速度はやはり小柄なソラ君の方が上で、先に相手の懐に入り、左の拳を胴に叩き込もうとしました。
しかし、相手もそれに反応してソラ君の拳を躱し、横からソラ君を殴りにかかります。
ソラ君はその拳を右腕で受けつつ、後ろに跳んで威力を殺します。
そして後方に着地すると同時に、横に走り、相手の後ろに回り込みました。
ソラ君の着地からの移動が速すぎて、相手の冒険者は一瞬ソラ君を見失った様です。
ソラ君は背後から相手の脇腹に蹴りを入れます。
「ぐふっ!」
これは少し効いたみたいです。
しかし、相手はそこに肘打ちを入れてきました。
ソラ君はこれも右手で受け止めて、その威力を受け流しつつ後方に跳びました。
「今のは効いたぜ!なかなかやるじゃねえか?」
相手の人も今の数手でソラ君の実力が分かったみたいです。
「重い蹴りだったが、今のは何だ?それは身体強化じゃねえよな?」
『身体強化』は魔力を使った身体能力の増強です。
魔力の感覚の鋭い人なら、相手が『身体強化』を使えばそれを感じ取る事が出来る場合があります。
しかし、ソラ君が使っているのは『念技』で、魔力の代わりに『念』を使って身体能力を高めています。
さっきの蹴りは、脚に『念』を集中し、打撃力を高めていたのです。
・・・そう、ボクはこれまでの訓練によって、ソラ君の『念』はだいぶ感じ取れるようになってきたのです。
「手の内を明かすつもりはねえな。それとも得体のしれない相手が怖くなったのかい?」
・・・ソラ君はさらに相手を煽ります。
「バカを抜かせ!身体強化ならこっちだって使えるんだ!」
相手の人はさっきよりの速い速度でソラ君に迫ってきました。
『身体強化』は魔力を多くつぎ込む事で、速度や腕力増強を更に強める事が出来ます。
そのかわり、細かい制御ができなくなったり、肉体への負担が増えたり、魔力の消費が激しくなるのです。
高いレベルで『身体強化』を使うには、高度な技術が必要となるのです。
相手の冒険者は今までよりも高速で威力の高い攻撃をソラ君に打ち込んできました。
ソラ君はそれを右手で受け止めつつ、左の拳や蹴りで反撃をします。
相手の強烈な攻撃を全て右手一本で受けとめているのです。
そうです。ソラ君は『念』を込めた義手が対人戦でどこまで使えるのか試しているのです。
相手の冒険者はそれなりに格闘技のレベルもの高い様で、身体強化で増強したその拳はそれなりの破壊力を発揮しています。
しかし、『念』で強化した義手はそれを難なく受け止めているのです。
相手の人は次第に焦り始めている様です。
これだけの体格差のある相手に素手の力比べで互角の対応をされているのです。
身体強化はあくまでも、『肉体』の能力の補助です。
この体格差で互角の戦いが出来ているという事は、身体強化の技術的にはソラ君の方が上という事になるのです。
一方で、ソラ君の方も、素手で、この相手にとどめを刺す決定的な攻撃手段がありません。
相手の身体強化による防御も強固で、ソラ君の『念』を込めた拳や蹴りでは、一気に片を付ける事が出来ないようです。
このままでは消耗戦になってしまって、相手の魔力とソラ君の『念』のどちらが先に尽きるかで勝負が決まってしまします。
「次で決めてくれるわ!」
相手の人は渾身の拳をソラ君に叩き込むようです。
「ああそうだな!これで終わりにしよう!」
ソラ君もこれに反撃します。
ソラ君は今度は右手の拳を真っ向から相手の拳にぶつけに行ったのです!
ばきっ!
会場に嫌な音が響き渡りました。
「うがあああああ!」
拳と拳がぶつかり合い、相手の人の拳が砕けた音でした。
「・・・オレの勝ちだな」
そして、ソラ君が勝利したのです。




