66話 剣士と魔法使い
木々の倒された跡は王都の方角に続いています。
「この先に『中級の魔物』がいるみたいですね」
「ついに見つけたな!早速倒しに行くぜ!」
「いよいよこのパーティーの真価が問われる時が来たのね!」
言うと同時に二人とも走り出していました。
・・・ほんとにこの二人はこういう時の息がぴったりです。
「ある程度近づいたら一旦止まって状況を確認してください」
キラさんの声が聞こえているのかどうかわからない程、すでに二人は先に行ってしまっています。
「ボクたちも追いかけましょう。キラさんはついて行けますか?」
「はい、遠慮なく走って大丈夫です」
キラさんが大丈夫というので、ボクも遠慮なく最高速度で走り始め、ソラ君とレィナちゃんを追いかけました。
隣を見ると、キラさんも問題無くボクと同じ速度で走っています。
「『身体強化』ですか?」
「はい、その様なものです」
ボクの方は、本来の身体能力と附加装備による能力倍増ですが、キラさんはそれに匹敵する速度でついて来ます。
一般的に、魔法使いは『身体強化』を取得すると体外に魔力が放出しづらくなってしまうので、『身体強化』は習得しないものです。
魔法と共に『身体強化』も使いこなす魔法使いは、『魔導士』や『賢者』と呼ばれる、普通の『魔法士』よりもはるかに高度な魔法操作技術を持った魔法使いで、相当な訓練が必要だそうです。
それを使っているキラさんはやはり高レベルな魔法使いなのだという事がわかります。
キラさんと一緒に走って行くと、ソラ君たちを見つけました。
さらに前方には魔物の姿が見えます。
「来たわね、あんたたち」
「どうですか?様子は」
「見てのとおりよ」
レィナちゃんが指さした先では、『中級の魔物』が何体も絡み合って木々を粉砕しながら前進していました。
「どうなってるのですか?これは」
「さあ、わかんねえ。こいつらお互いを無視して前進する事しか考えてねえ見てえだ」
「今はこっちに見向きもしないけど、こいつらが一斉に襲ってきたら厄介ね」
一体づつでも大変なのに、『中級の魔物』がこの数同時に襲い掛かってきたらかなり危険です。
「一体だけ引き離す事なら出来ますよ」
キラさんがさらっと提案しました。
「出来るのか?」
「はい、特定の魔物だけの注意をこちらに向ける魔法があります」
「それなら一体づつ倒せるわね」
「どうゆう効果の魔法ですか?」
「魔物は通常人間か多く集まっている場所を目指しますが、この魔法を当てた魔物は一定時間、魔法を使った本人、つまりわたしだけを追いかける様になるのです」
「キラが囮になるって事か?」
「はい、逃げ足は速いので大丈夫です」
キラさんの足が速いのはさっき確認済みです。
「じゃあそれでやってみましょうか!キラさんはそれでいい?」
「問題ないです」
「じゃあ、作戦開始よ!」
キラさんは一人で魔物が固まっている場所の近くまで進みました。
ボクとソラ君とレィナちゃんは少し手前の木の陰に隠れています。
キラさんは空中に魔法陣を描き、杖を掲げて、魔物の中で一番後ろにいる『山羊頭』に向かって魔法を発動しました。
『山羊頭」はゆっくりと頭だけを振り向き、キラさんの方を見ると、他の魔物の体に挟まれた手足を引き抜き、キラさんの方に体を向けました。
そしてキラさんの方に歩きだしたのです。
キラさんは、『山羊頭』が近づいて来るまで動きません。
そしてキラさんの近くまで来た『山羊頭』が、キラさんに向かって手を伸ばしてきました。
そこでキラさんは、後ろを向いて走り始めたのです。
『すると山羊頭』も思惑通り、キラさんを追いかけて走り始めました。
『山羊頭』はそれほど足の速い魔物ではありません。
キラさんは追いつかれる事無く、ボクたちが隠れていた気の前を走り抜けました。
そのすぐ後に、『山羊頭』もボクたちに気付かず目の前の走り抜けます。
「今だ!」
ソラ君の掛け声でボクたち三人は一斉に飛び出しました!
『山羊頭』はキラさんだけを見ていて、ボクたちにはまだ気がついていません。
ボクとソラ君は『山羊頭』の背後から左右の足元に駆け寄り、同時に両方の踵の腱を切り裂きました!
『山羊頭』は体重が支えられなくなってそのまま前に倒れ込みます。
そこにレィナちゃんが飛び出し、倒れて行く『山羊頭』の背中を駆け上っていきます!
そして大剣でうなじを横一文字に切り裂きました!
ぱっくり開いた傷口から魔結晶が見えます。
しかし山羊頭は倒れながら手でうなじを押え、レイナちゃんを振り払おうとしてきました。
ボクとソラ君はそれぞれ、『山羊頭』の左右に回って同時に両腕を切り落としました。
そ直後にはレィナちゃんが大剣をもう一振りして、『山羊頭』のうなじから魔結晶を切り落としていたのです!
「やったわ!『山羊頭』討伐よ!」
魔結晶と両腕を失った『山羊頭」は、白い蒸気を噴き出しながら次第に消滅し始めました。
「お見事です。素晴らしい連携でしたね」
「キラさんが囮になってくれたおかげです」
「ねえねえ!あたし達結構強いんじゃないの?」
「このパーティーなら『中級の魔物』なんて余裕だな!」
四人の連携が上手くいって、みんな大喜びでした。




