62話 魔女の青年
その青年は黒いローブを羽織り、黒いとんがり帽子を被っていました。
手にはねじれた木でできた大きな杖を持っています。
・・・そう・・・『魔女』のいで立ちそのままです。
しかし、髪は輝くような金髪で、瞳も金色です。
そして、何より・・・その人はどう見ても・・・男性でした。
「君たち何をやってるんですか?森の中にいる時の『木馬』は、手を出さなければ人を襲いませんよ」
金髪の男性は低く心地の良い優しい声で、少しだけきびしい口調で言いました。
「ええと・・・今、あなたが助けてくれたのでしょうか?」
動けない二人にかわってボクが代表で男性の前に行きました。
「はい、二体目の『木馬』はわたしが倒しました。一体目を倒したのはあなたですね?美しいお嬢さん?」
「助けて頂いてありがとうございます。ボクの名前はルルです」
「わたしはキラと申します」
キラと名のった男性は優しく微笑みました。
・・・あらためて見たら、ものすごいイケメンでした!
お父さんに匹敵するくらいのイケメンは初めてかもしれません。
背はボクより頭半分くらい高く、体は細身ですが、身のこなしから体幹はしっかりしているのが伺えます。
歳は20歳くらいでしょうか?
明るい金髪は、お母さんより少し銀色かかっています。
金色の目もボクやお父さんより少し銀色寄りです。
肌の色は白くて、おそらく北の方の国の出身ではないかと思います。
低くやさしい声は、聞いているとなんだか心が落ち着きます。
そして・・・男の人を見て、こんなにドキドキしたのは初めてかもしれません。
「・・・どうしました?」
・・・少しフリーズしていました。
「すっ、すみません!あなたがきれいだったので見とれてしまいました」
あっ、ついそのまま言ってしまいました!
「あははは、こちらこそ、あなたほど美しい少女は初めて見ましたので見とれていましたよ」
「そんな!美しいだなんて・・・」
お世辞とわかっていても、嬉しくなってしまいました。
「それよりも、この森には他にも魔物がいます。あの二人を移動させた方がいい。とりあえず私の家が近いので案内します」
そうでした!動けなくなったソラ君とレィナちゃんをほったらかしでした!
「すみません、何から何までお世話になって」
「いいえ、大丈夫です」
二人のところへ行くと、二人とも疲労と安心から眠ってしまっていました。
ボクがソラ君を背負い、キラさんはレィナちゃんを抱きかかえました。
キラさんは意外と力持ち見たいです。
キラさんの家は、森の奥深い場所にあるログハウスでした。
「さあ、どうぞ、今は一人暮らしですが、部屋はたくさんありますので」
ソラ君とレィナちゃんは、とりあえず空いている客室のベッドにそれぞれ寝かせました。
二人とも疲れがひどいのでしょう、目を覚ましませんでした。
・・・ボクはリビングのソファーでようやく一息つきました。
「これをどうぞ」
キラさんが紅茶を入れてくれました。
そしてボクの向かいに座ります。
「いただきます」
紅茶は少し不思議な味のするおいしい紅茶でした。
「おいしいです」
「わたしが育てているハーブを使った特製の紅茶です。気に言って頂けて幸いです」
「あの・・・いろいろお世話になり、本当にありがとうございます」
「いえ、お気になさらないで下さい。・・・あなた方は、冒険者ですか?」
「はい、昨日この町に着いたばかりで・・・今日魔物の調査の依頼を受けたのです」
「調査なのに戦闘に入ってしまったのですか?」
「・・・あの二人がやる気になってしまいまして・・・」
「ははは、でも、森の中で『木馬』に手を出すのは無謀です」
「すみません。木馬の特性を知らなくて・・・」
「そうだ、ルルさんは剣士ですか?」
「はい、ボクは剣士です。魔法は使えなくて」
「さっきの、『木馬』を一刀両断にした技は・・・見事でした」
「あれは・・・ボクが倒さないと三人とも死んでしまうと思ったら夢中で・・・」
「見た事もない力の流れを感じました」
「ええと・・・それは・・・」
『念技』の事をむやみに他人に話すのはまずいです。
「いや、剣士にとって技の正体は生命線ですよね?無粋な事を聞いてしまいました」
キラさんはボクが話せない事を悟ってくれました。
「ありがとうございます・・・あの・・こちらからも質問していいですか?」
「ええ、どうぞ」
「キラさんは・・・『魔女』・・・なんでしょうか?」
あっ、ボクってば変な聞き方をしてしましました!
「あっ、いえ、変な意味じゃなくて!その、服装が、『魔女』みたいでしたので・・・」
「ああ、この姿ですよね。やはり『魔女』に見えますよね?」
「すみません!男性の方に変な質問をしてしまって」
「いえ、問題ありません。そのつもりでこの様な格好をしていましたので」
「その・・・キラさんは・・・男性・・・ですよね?」
更に変な事を聞いてしまいました!
「ははは、見ての通り男性です。レディの前でお見せできないのが残念ですが正真正銘男ですよ」
「・・・先ほどの魔法ですが・・・魔法陣や詠唱が無かったですよね?」
そう、そこが気になっていたのです。
この身なりと、それから魔法陣を使わずに魔法を発動したり・・・まるで『魔女』みたいだったのです。
「わたしは・・・魔女ではありません・・・魔女は・・・わたしの師匠です。わたしは師匠から魔法を伝授されたのです」
やっぱり!この森に魔女が住んでいたのです!
「キラさんのお師匠様は魔女なのですか?」
「はい、以前はここに住んでいました。今はもういませんが」
今は・・・いない?
「どうされたのでしょうか?」
「いろいろありまして・・・いなくなってしまったのです。もう、ここに戻って来る事は無いでしょう」
キラさんは悲しそうな顔をしました。
・・・聞いてはいけない事だったのかもしれません。
「でも、あなたがわたしの前に現われました」
キラさんはソファーから立ち上がってボクの目の前に来ました。
「えっ、ボクが・・・ですか?」
「はい、・・・・・あなたは・・・・・『魔女』ですよね?」
そう言って、ボクの唇に唇を重ねたのです。




