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61話 見えない魔物

 魔物が向かったと思われる方角に進むと、前方でさっきと同じ様な木々の揺れる音が聞こえてきました。


 おそらく音のする方に魔物がいます。


 ボクたちはその方角へ加速して距離を詰めました。




 そして、捕捉しました!


 一定の範囲で木の枝がうごめいているのです。

 枝の動いている範囲を見極めたら、やはり中級の魔物ぐらいの大きさです。


 でも実態がわかりません。


 近づいたボクたちには反応せずに移動を続けています。


 ボクたちは様子を観察しながらしばらく後をつけました。


 枝の動いている範囲は、中心に行くほど枝の密度が高くなっていて、奥の方はほとんど見えません。


 しかし、よく観察すると中心部分に太い木の幹のような物が見えました。

 



 これは!・・・『木馬』です!




 『中級の魔物』の『木馬』が木々と一体化しながら移動しているのです。


 『木馬」は地面から生えている木と自分の体を融合させて、すり抜けると再び木と分離していくのです。

 まるで木々の中を泳いでいるかの様に、スムーズに高速で移動して行きます。


「『木馬』って、こんな能力があったんですね」


 今までこれほど木の密集している場所で『木馬』と遭遇した事はありませんでした。




「だが、これで討伐できるぜ!」


「ソラ君、だから調査だけだって」


「正当防衛なら問題ねえだろ!」


「ボク達まだ攻撃を受けていませんよ」


「こっちから攻撃を加えれば向こうも攻撃してくるでしょ!」


「レィナちゃん!それ、もう正当防衛じゃないですよ!」


「黙ってりゃわかんねえって!」


「倒した後なら何とでも言えるわ!」




 ソラ君とレィナちゃんは、同時に『木馬』に追いつき、同時に切りかかりました。


 ・・・この二人・・・こういう時は本当に息がぴったりです。




 そして・・・背後から攻撃を受けた『木馬』はこちらに気付き、移動を止めて振り返りました。




 ソラ君とレィナちゃん目がけて、攻撃を仕掛けてきます。


 『木馬』の本体から生えているのか、融合した木なのか分かりませんが、無数の木の枝が、一斉に襲い掛かります。



 ソラ君とレィナちゃんは襲ってくる木の枝を次々と薙ぎ払います。


「なんだこりゃ!切っても切ってもキリがねえぞ!」


「これ、いつになったら終わるのよ!」



『木馬』は森の木の枝を自分の体に融合してそれを操っているようですが、これだけ木が密集した森の中だと、無尽蔵に枝が操れるみたいです。


「ソラ君!レィナちゃん!森から出ないと攻撃が終わらないと思ます」


「仕方ない、一旦下がるぞ」


「わかったわ!」



 ボクたちは一旦、『木馬』から離れる事にしました。



 木々の間をすり抜けながら木馬から逃げますが、『木馬』は一直線に追いかけて来ます。


 ボクたちにとって、森の木は障害物ですが、『木馬』にとっては障害物ではないのです。


「全然引き離せないわよ!どうするの!」


「一撃で魔結晶を切り落とせれば何とかなるんだが・・・」


 『木馬』の魔結晶は胴体の中心にあります。


 巨大な大木の幹の様な『木馬』の胴体を一刀両断にするのは今のボクたちでは無理です。


 時間をかけて削っていけば何とかなるのでしょうが、周りの枝が次から次へと再生するので、胴体に到達できません。



「こうなったら倒すしかねえ!再生より早く枝を切り落としゃいいんだろ!」


 ソラ君が逃げるのをやめて木馬に挑みました。


「一人では無理です!」


 ボクもソラ君の加勢に入りました。


「やるしかなさそうね!」


 レィナちゃんも引きかえします。



 三人で一気に枝を切りまくります。


 しかし、やはり再生の方が速く、全然『木馬』の周囲の枝が減りません。


「もっと速くだ!」


 ソラ君の剣速が上がりました!


 ソラ君の『念』が強くなっています。

 自らの身体をめぐる『念』も活性化し、身体能力をさらに向上させるのと同時に、剣に込める『念』も増強して、切断能力をたかめたのです。


 ・・・これが・・・『念』を使った剣術の真髄なのでしょう。



 ソラ君の剣速が上がり、枝の切断のペースが県事により、木馬の周囲の枝の密度が徐々に減り始めたのです。


 そしてレィナちゃんもペースを上げてきました。


 でも二人とも、『念」や『魔力』を使って身体能力を高めているのです。


 どちらも無尽蔵ではありません。

 早く決着をつけないと、いずれ力尽きてしまいます。


 ボクも習得したての『念技』で剣速を速めていますが、まだソラ君の領域には遠く及びません。


 ボクの剣術は対人戦において、相手の力を利用したり、相手の隙をついて出し抜いたりする事を得意としていますが、この様な物量に対する力比べには不向きなのです。


 どうしても二人よりも後れを取ってしまいます。




 でも、ソラ君とレィナちゃんの頑張りで、ようやく『木馬』の本体がその姿を現わしたのです。



「・・・すまん、そろそろ限界が来ちまう!」


「あたしも、もうすぐ『魔力切れ』を起こすわ」


 ええっ!このタイミングで二人が限界なんて!


「ルル、とどめは頼んだぞ!」


「まかせたわよ、ルル」



 とどめと言われても、ボクは『木馬』を一撃で倒すほどの大技を持っていません。



「ルル、『念』を剣に乗せて一気に放つんだ!」


「ソラ君、急に言われても・・・」


「ルルなら出来る!前にやっただろ」



 ・・・あの時は・・・無意識にやったのでどうやるのかわからないのです。


「ルル、あんただけが頼りよ」




 ここでボクがやらないと、三人とも死んでしまうかもしれません。


 出来るかどうかわからないけど、やってみます!




 ボクはレイピアを頭の上に構えました。


 レィナちゃんの得意な上段の構えです。

 何となく、この構えが一番『念』を剣に集中しやすい気がしたのです。


 そして『念』を集中し、両手からレイピアに流していきます。


 ボクのレイピアは、お母さんがソラ君の剣を解析して、同じ様に『念』を受け入れられる様にしてくれていたのです。



 ボクはありったけの『念』をレイピアに込めました。


 ・・・と言っても、どこまでが限界なのかすら把握できていないのですが・・・



 そして、『木馬』の周囲の枝がきれいに無くなったタイミングで、ソラ君とレィナちゃんが同時に力尽きました。




 今、この瞬間にボクが決めなければ、全て終わりです!



 緊張とプレッシャーが最高潮に達した時・・・・・


 ・・・・・不思議と迷いが無くなっていました。



 ボクは、無心になってレイピアを振り下ろします。




 レイピアに込められた『念』が刃となって放たれます!


 


 『念』の刃は『木馬』の巨大な本体を真っ二つに両断したのです。




 左右二つに分かれた『木馬』の胴体から大きな魔結晶が転がり出ました。




「やったな!ルル!すげえ『念』だったぞ!」


「すごいのね『念技』って」


 動けなくなったソラ君とレィナちゃんが、声をかけてくれました。




 ・・・いいえ、今放たれたのは『念』だけではありませんでした!




 『念』と共に、別の強大な力が放たれたのです。




 ・・・そう、あの時と同じです。




 その時、背後の枝がざわめきました!


 振り返ると、無数の枝が、ボクたちに向かってきます。




 ・・・『木馬』が・・・もう一体いたのです!




 ボクも、今ので『念』を使い果たして立っているのがやっとです。


 二体目の『木馬』に対抗する術は・・・もうありません。




 ・・・でも、動けるボクが、ソラ君とレィナちゃんを助けないと!




 ボクはレイピアを構えて、最後の力を振り絞って枝に切りかかろうとしました。




 すると・・・周囲から枝に向かって無数の『風の刃』が襲い掛かりました!



 そして見る見るうちに枝はバラバラに切り刻まれ、そのまま、『木馬』本体も細かく切り刻まれてしまったのです。




「大丈夫ですか?君たち」




 背後から声がしました。


 後を振り返ると・・・




 黒いとんがり帽子を被った金髪の青年が立っていたのです。


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