60話 魔女の住む森
海辺の町から北に進み、だいぶ内陸の方まで来ました。
街道は深い森の中を通っています。
予定では今日中に王都に到着するはずです。
リュアさんの話では、王都の周囲の森のどこかに『魔女』が住んでいるという話でした。
この森のどこかに魔女がいるかもしれない・・・そう考えるとなんだか不思議な気分です。
やがて、目の前に石造りの高い城壁と、その向こうに塔が見えました。
塔はおそらく王城の尖塔です。
ここが、この国の王都に間違いありません。
強固な城壁と城門は、『中級の魔物』程度ではびくともしないと思われる頑丈そうな作りです。
門番に冒険者証を見せたらすんなりと中に入る事が出来ました。
「へえ、ここがこの国の王都なのね。この国って海辺の国ってイメージだったんだけど、王都は完全に森の国って感じよね」
レィナちゃんの言う通り、建物は木材をふんだんに使った作りで、材木が潤沢に手に入る事を見てとれます。
素敵な丸太作りの宿屋を見つけたボクたちは、そこに泊まる事に決めました。
「すみません、部屋を三つお願いします」
「あいよ!おや、あんたら冒険者だね?腕はたつのかい?」
恰幅のいい宿屋のおじさんが聞いてきました。
「ええそうよ!まだ下級だけど実力なら中級以上よ」
レィナちゃん、それでは経験の無い新人がいきがっているみたいに聞こえます。
「ははは!まあいいや。なんでも最近、町の周囲の森で『中級の魔物』が出たって情報があるんだが、いまだに見つからなくて討伐が出来ていねえそうなんだ。冒険者の人手が足りねえって話だからよかったら冒険者ギルドに顔を出していってくれ」
「面白そうだな!最近『中級の魔物』と戦ってねえし、やってみるか」
「ええそうね、明日ギルドに行ってみましょう」
ボクたちは宿でゆっくり休みをとり、翌朝は朝一番で冒険者ギルドに向かいました。
冒険者ギルドも丸太でできた、おしゃれな建物でした。
「『中級の魔物』の討伐に参加したいんだけど」
「ええと、あなたたち、『下級冒険者』ですよね?下級だけのパーティーでは討伐は参加できないので、『調査』をお願いします。今回の『中級の魔物』は発見が困難で、現在、町の冒険者総出で調査に出てるんだけど、森が広すぎてカバーしきれていないの。調査の依頼でいいかしら」
「調査だって、どうすんのよ?」
「別にいんじゃねえ?魔物に遭遇しちまったら緊急事態って事で倒しちまえばいいんだし」
「あのー、聞こえてますよ。見つけても戦闘はしないで報告に戻ってくださいね」
受付のお姉さんに怒られてしまいました。
「はい、わかりました」
ボクたちはそそくさとギルドを後にしました。
町の外に出ると、かなり鬱蒼とした森でした。
ボクたちが通って来た街道はそれでもまだ道が整備されていたからよかったのですが、街道から外れた森の中は、木々の間が狭く、とても魔動馬では通れそうまない狭さでした。
「こんなところに『中級の魔物』がいるって本当かしら?」
レィナちゃんの言う通り、『中級の魔物』サイズではこの木々の間は通れません。
木々をなぎ倒していたら、通った後が一目でわかるはずです。
「『小鬼』か何かを見間違えたんじゃねえのか?」
「そうかもしれないわね」
「それにしては、町中の冒険者総動員で調査にあたるって大袈裟ですよね」
「もう少し奥まで行ってみましょう」
レィナちゃんはどんどん森の奥へ行ってしまいます。
途中、『下級の魔物』には何体か遭遇しましたが、ボクたちにとっては脅威ではありません。
サクッと倒していきました。
「ルル、前よりも動きが良くなったんじゃないの?」
「レィナちゃん、わかりますか?『念技』を使った身体強化を試してみたんです」
「『念技』でそんな事が出来んの?」
「はい、魔力による身体強化とほとんど一緒みたいです」
「ルルはだいぶ『念』の制御が出来るようになって来たからな。そろそろかと思ったらもう出来る様になってたんだな」
「はい、まだほんの少しアシストする程度ですが、段々と強めていこうと思います」
「この調子なら、俺の国まで行ってやつに教えを請わなくてもいいんじゃねえのか?」
「でも『念技』の知識も必要ですので、ぜひ会いたいです」
ソラ君に教わって、『念技』が使えるようになってきたら少し面白くなってきたのです。
もっと色々な事が知りたいと思うようになって来たのでした。
「それにしても、なかなか『中級の魔物』に遭遇しないわね」
レィナちゃんはちょっと飽きてきたみたいです。
「これだけ調査隊が出ていて見つからないのですから、そう簡単ではないと思います」
「それにしても痕跡もないなんて・・・」
その時!レィナちゃんの背後を何かが通りすぎました。
気配からしてかなりの大きさです。
木の枝も広範囲に揺れています。
でも、その辺りは木が隙間なく生い茂り、そんな大きなものが通り抜けられるはずはないのです。
「いま、何かが通ったな?」
「はい、通れるはずの無い大きさのものが通りました」
「多分それが今回の魔物だ!追うぞ!」
「はい!」
ボクたちは見えなかった何かを通り過ぎたと思われる方角に追いかけたのでした。




