58話 人魚の町
海沿いの街道を魔動馬で数日移動したら、大きな町に着きました。
「今日はこの町で泊るぞ」
この町の東側は断崖絶壁になっていて、海沿いの街道はここで終わりです。
この先は北に向かって川沿いの街道を北上し、川の上流にあるこの国の王都に向かう事になります。
今からでは今日中に次の町まで行けませんので、今日は早めに宿に泊まる事にしたのです。
「へえ!にぎやかな町ね!」
町の中に入ったボクたちは、馬留めに魔動馬を繋いだあと、表通りを歩いていました。
この国に入って海沿いの町や村をいくつか見てきましたが、どこも陽気で明るい人たちで溢れていました。
中でもこの町の人たちは特に楽しそうです。
「ねえ、今日ってお祭りでもあるの?」
レィナちゃんが露店のおじさんに質問しています。
「別に特別な日じゃねえが、この町は毎日こんな感じさ!」
「へえ、そうなんだ!毎日がお祭りみたいで楽しそうね」
「ああ、この町は人魚に救われた町だからな。感謝を込めて毎日騒いでいるのさ!」
「『人魚』?『人魚』なんて本当にいたんだ?」
「ああそうさ!広場に人魚の像があるから見てくるといい!」
ボクたちは人魚の像を見に行く事にしました。
・・・それにしても、この町に入ってからボクはなんとなく既視感というか・・・なぜか初めて来た気がしないのです。
もしかしたら前に来た事があるのかもしれません。
「あった!あれが人魚の像ね」
広場には巨大な人魚の像がありました。
「・・・・・お母さんに似ています」
「そうだな・・・『剣聖』にそっくりだ」
「そうね・・・でもララさんにしては胸が大きすぎないかしら?」
・・・それ、絶対お母さんに言ってはだめなやつです。
というか、何でこの手の像って裸なんでしょうか?
胸だけでなく下の方まで精巧に作られています。
「あっちに男の像もあるぞ」
ソラ君に言われて後ろを見ると、男性の像がありました。
「・・・なんとなくお父さんに似ています」
「ほんとだ、少し似てるな」
そして、やはり裸の像です。
・・・そして、やはり精巧に作られたあの部分も、おとうさんのものに似ている気がします」
「へえ!あれもジオそっくりじゃない!」
ん!今レィナちゃんから不穏なキーワードが?
「レィナちゃん!何で知ってるんですか!」
「ルルのあれを見て、あたしが想像してたジオのやつにそっくりなのよ」
・・・レィナちゃんの脳内イメージでした。
「って!レィナちゃん何想像してるんですか!」
「そうだな、ルルのがでかくなった時がこんな感じだったな」
「ソラ君まで何を言ってるんですか!」
「ええ!あたしが見た時はここまでの大きさじゃなかったわよ!」
「オレへの愛情の方がでけえって事だろ?」
「ちょっと!どういう事よ!ルル!」
「もう!二人とも!この話題はやめて下さい!」
周りの人たちの注目を集めてしまっています。
「ねえ?あなた達、ララの知り合いなの?」
金髪のきれいなお姉さんが話しかけてきました。
どうやら、お母さんの知り合いみたいです。
嬉しそうに、にこにこしているので悪い人ではなさそうですが・・・
「ええと・・・ララはボクの母です」
「あなた!もしかして・・・ルルちゃん!」
「はい、そうですが」
「わあ!大きくなったわね!それにきれいになったわ!」
「ええと・・・ボクの事ご存じなんですか?」
「ええ、あたしはリュア。あなたが赤ちゃんの時に何度か会った事があるのよ。その時はララとジオにはお世話になったわ」
「お母さんが、この町に来た事があったんですね?」
「ええ、そうよ。『上級の魔物』の討伐を手伝ってくれたのよ。って言うか、あの崖の上の家って、ララの別荘よ」
リュアさんが指さした方を見ると、切り立った崖の上に僅かに家の屋根のような物が見えました。
こんなところに別荘があったなんて知りませんでした。
「まあ、どうやってあそこまで行ったらいいのかわからないけどね。ララは普通に行き来してたみたいだけど」
・・・お母さんならあの崖も問題無く登れると思います。
「今日はララやジオは一緒じゃないの?」
「はい、ボク達はこの三人で旅をしてるんです」
「へえ!子供だけで旅をしてるんだ?」
「子供じゃないわ!あたし達冒険者よ!」
「紹介します。ボクの友達のレィナちゃんとソラ君です」
ボクは二人をリュアさんに紹介しました。
「なるほどね・・・三人ともかなりの腕前みたいね」
「わかるんですか?」
「ええ、一応あたしも戦士だからね!」
確かに、リュアさんもかなりの達人だと思います。
身のこなしからそれが見てとれます。
「今日はこの町に泊まるのかしら?もし、宿が決まっていないならうちに来ない?」
「いいんですか?」
「ええ、恩人であるララの子供だもの大歓迎よ。ララの話も聞きたいし」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
リュアさんの家は、この町の中ではなく、海を渡った離れ小島だった。
「紹介するわ、夫のテオよ漁師をやってるの」
「テオです。大きくなりましたね、ルルさん」
「テオは普段は漁師をやってるけど『英雄』なのよ」
「へえ!じゃあ剣の腕は相当立つんだな!」
ソラ君は相変わらず剣が強い人がいると気になるみたいです。
「ええ、テオとあたしはララとジオと4人で力を合わせて魔物と戦ったのよ」
「そりゃいいや!オレと勝負してくれ!」
「あたしも戦ってみたいわ!」
レィナちゃんも食いついてきました。
「ああ、いいとも。では明日になったら相手をしよう」
「三人とも旅で疲れたでしょう?今夜はごちそうを食べてゆっくり寝てちょうだい」
ボクたちはリュアさんの作った魚料理を食べて、ふかふかのベッドで眠る事が出来ました。
 




