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5話 異国の剣術

 今日は初めての剣術講座の授業です。


 今日の講師の先生は、お母さんでした。


 学院の非常勤講師で『剣聖』でもあるお母さんは、時々剣術講座の講師もやっているのです。


「新入生の皆さん!こんにちは!本日講師を務めさせて頂くララです!宜しくお願いします!」


 お母さんはにっこり笑って元気いっぱいにあいさつしました。


 お母さんの見た目は若くって、16歳ぐらいにしか見えません。

 学院にいると先生というよりは先輩に見えます。


 挙動も話し方も元気が良すぎるので、余計に同年代に見えてしまいます。



「なあ、あの先生、めちゃくちゃ可愛くねえか?」

「ああ、そうだよな。若いけど新人の先生かな?」

「確か入学式で司会やってた先生だよね?」

「そうそう、あの時から気になってたんだよね」

「あんなに華奢でかわいいのに剣術なんてできるの?」


 学院の生徒は国中から集まってきています。

 地方から出て来たばかりの生徒は、勇者であるお母さんを知らないみたいです。



「こんな美人の先生がいるなんて!この学院に入ってラッキーだったな」

「お近づきになりたいけど、彼氏とかいんのかな?」



 彼氏ではなくて、ここに旦那様がいるんですけど・・・


 お父さんの方を見たら、ポーカーフェースで他人のふりをしていました。



「あんたたち何言ってるのよ?ララ先生はルルとジオのお母さんよ!」


 見るに見かねてレィナちゃんが教えてあげました。


「ええっ!何だって!じゃあ、あの先生が勇者様?」

「なんで勇者様があんな美少女なんだ!」

「っていうか、お母さんって歳に見えないんだけど!?」

「そうだよな、うちの母ちゃんなんかもっとババアだぞ!」

「今の勇者様って、わたしたちが生まれる前から勇者様やってるよね?」



 ・・・お母さんに初めて会った人は、大体こんな反応です。



「ちょっと!そこのあなたたち!私の歳の話はしないように!」


 ・・・お母さん、笑顔だけどちょっとだけ怒ってるかも?


「はい!聞いた通り、私はルルとジオの母親です」


 あちこちからざわめきが起こりました。


「でも、二人の事は贔屓にしたりしないから安心して下さい。皆さんに同じように指導していきます」


 むしろお母さん、ボクには厳しくしそう。


「では、まず最初の授業ですので、皆さんの実力が知りたいと思います。順番に私にかかってきてください。一斉にかかってきてもいいですよ」


 お母さんはにこにこしながら剣を構えました。


「じゃあ、最初はあたしが行くね!」


 レィナちゃんが、前に出ました。

 レィナちゃんはこれまでにも、何度もお母さんに稽古をつけてもらっています。



「まて!オレが先だ!」



 レィナちゃんの前に割り込んできたのは・・・ソラ君でした。



「留学生のソラ君だったよね?」


 お母さん、ソラ君の事知ってたんだ。


「ああ、そうだ!『剣聖』を倒して世界一の剣士になるためにこの国に来た!いきなりその機会に恵まれるとはな!」


 ソラ君、目つきがぎらぎらして、すごい興奮してるみたい。


「ちょっと、あなた!割り込まないでよ!」


 レィナちゃん、前に割り込まれて怒ってるけど、ソラ君は全然気にしていないみたいです。

 よほどお母さんと戦ってみたかったんですね。


「レィナちゃん、ここは譲ってあげようよ。ソラ君、夢中で周りが見えてないみたいだよ」


「・・・まったく、仕方ないわね」


 ソラ君の表情と目つきをみて、レィナちゃんも理解したみたいです。


「ごめんね、レィナさん。譲ってくれてありがとうね。じゃあ、最初はソラ君でいいかな?」


 お母さんはレィナちゃんにお詫びを言って、ソラ君と向き合った。


「『剣聖』と戦うなら練習用の剣じゃなくて、これを使わせてもらうぞ」


 ソラ君は、自分の荷物と一緒に置いてあった、自前の剣を持ち出した。


「それは、真剣だよね?練習用の剣じゃダメなの?」


「ここの練習用の剣に使いやすそうなやつがねえんだ。オレはこれが一番使いやすい」


 ソラ君の剣は細身でゆるやかに反りがついた独特の剣だった。


「授業だから本当はダメなんだけど・・・まあ、いいかな。じゃあ始めるよ」


 お母さんはいつもの細身のミドルソード、いわゆるレイピアと呼ばれるタイプの練習用の剣を手にしています。


「こっちもいつでもいいぞ」


 ソラ君は剣を鞘にしまったまま腰に挿して、左手で鞘を軽く握り、右手は剣の柄に触れずに体の前で構えています。


「ソラ君、剣を鞘から抜かなくていいの?」


 お母さんがたずねた。


「ああ、このままでいい」


 この独特の構えが、ソラ君の構えらしいです。


「じゃ、始めるよ」


 お母さんの掛け声で、二人の姿が同時に消えました。


 直後に剣戟が聞こえます。


 二人はすれ違った位置に背中合わせで立っていて、ソラ君の剣は、鞘に収まっています。


 そしてお母さんの剣は・・・切っ先が欠けていました。


「今、何が起こったんだ?」

「何も見えなかったんだけど」


 みんなが戸惑っています。


 ・・・ボクにはかろうじて見えました。


 二人は同時に高速で接近し、すれ違う瞬間にソラ君は剣の柄に手をかけ、一瞬で剣を抜いてお母さんに切りかかりました。

 お母さんはソラ君の剣戟をミドルソードで受け止めようとしましたが、途中で剣をひき、半身後ろに下がってソラ君の剣を躱しました。

 ソラ君はさらに踏み込んでお母さんに切りかかりましたがわずかに届かず、お母さんの剣の切っ先だけを切り落として、そのまま再び鞘に収めたのでした。


 ・・・それが全て一瞬で行なわれていました。


「すごいわね、あの子」


 レィナちゃんにも見えていたみたいです。




「今の一撃で殺せなかったとは・・・さすが『剣聖』だな」


 ソラ君!お母さんを殺すつもりだったんですか?


「ふふっ、その剣、ただの剣ではないですよね?」


 そのわりに、お母さんは楽しそうです。


「ああ、これは我が家に伝わる『刀』だ」


「『刀』?普通の剣とは違いますよね?あなたの国の技術ですか?」

「そうだ」

「そうですか、ではこちらも練習用ではなく、愛用の剣を使わせてもらいますね」


 お母さんは一旦練習用の剣を置きに戻って、自分のレイピアを持ってきました。

 いつも実戦で魔物討伐に使っているレイピアです。


「剣を替えても一緒だ、いくぞ!」


 ソラ君は言い終わると同時に姿が消えました。


 今度はお母さんは動いていません。


 激しい剣戟の音と共に、お母さんの目の前にソラ君が現れました。


 ソラ君の打ち込みをお母さんがレイピアで受け止めています。


 ソラ君の剣は、細身でわずかに反った片刃の剣です。


 刀身は鏡の様にピカピカで、わずかに水色に見える美しい剣です。



 ソラ君は咄嗟に後方に跳躍し、剣を鞘に戻しました。


「オレの『刀』の打ち込みを受け止める剣があるとはな!」


 ソラ君、今のでかなりショックを受けたみたいです。


「ふふふっ、面白い技ですね。直前まで剣を鞘に納めておいて、打ち込む瞬間に鞘から抜き、その速度を乗せて剣速をあげて、一瞬で相手を切り裂くのですね?そのためにその反り具合の片刃剣が必要なんですよね?」


 お母さん、すごく楽しそうです。


 そうなんです。お母さんって、強い相手と戦う時って、ちょっと楽しそうになるんです。


「どうします?まだやりますか?」


「いや・・・今はもういい。お前が本気を出したらオレが死んでいた」


 ソラ君は今のでお母さんとの実力差を理解したみたいです。


「ふふっ、ソラ君はもっと強くなれますよ!ここで鍛えるといいです」

「ああ、卒業までに強くなってお前を殺す!」

「はい!楽しみにしています!」


 お母さんは嬉しそうに、そう答えました。




 ・・・お母さん、殺されるのを楽しみにするのはダメだと思います。


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