39話 義手の力
「ボクから行きます」
ボクはレイピアを構え、ソラ君に向かって加速しました。
体が軽いです!
嘘みたいに速度が出ます。
一気にソラ君の目の前に来ました。
遠慮なくソラ君に一撃を繰り出します。
ソラ君は、鞘に収まった剣を義手で握り、一瞬で抜き放ってボクのレイピアを跳ね返しました。
・・・ソラ君の反応も今までとは桁違いに速いです。
そしてそのまま、ボクに攻撃が来ます。
ボクもそれを見切って紙一重で躱し、距離を取ります。
「すげえな!ルルの動きが今までと全然違うぞ!」
「ソラ君の方こそ、右手があった時と変わらないどころか、それ以上です」
「ああ、この『義手』ってやつが思った通りに動きやがる。いや、思った以上の動きだ」
今度はソラ君が仕掛けてきます。
やはり、いつもより格段に速いです。
ボクもそれに応戦します。
「それにこの装備もどうなってるんだ?装備が前よりも軽く感じるどころか、装備を付けていない時より体が軽くないか?」
「ボクもそうです。普段より体が軽いです」
そう、まるであの時、ソラ君の剣を使った時の様な感覚です。
・・・でも、あの時と違うのは、ちゃんと自分の意志で動けているという事です。
あの時はまるで、自分ではない何かが勝手に自分の体を動かしている様な感じでした。
今は自分に羽が生えたみたいな自由な軽さで思い通りに体が動くのです。
「どこまで行けるか試してやるぜ!」
ソラ君は更に加速しました。
ボクもそれについて行きます。
二人とも、更に、更に、速度が上がっていきます。
かつてないほどの高速で剣を打ち合います。
剣戟と剣戟の合間が無いくらい連続の打ち合いです。
甲高い金属音の連続で耳が麻痺してしまいそうです。
そしてその音の間隔も際限なく狭まっていく感じです。
もう音と音の間隔の無い連続音の様に聞こえます。
それだけ二人の剣速は速くなっているのです。
ボクたちはそれから、かなりの時間、ペースを上げながら打ち合いを続けました。
今までの模擬戦は練習用の剣が折れるまで続けていたのですが、今使っている剣は折れる事が無いので、永遠に終わらなくなってしまいます。
・・・やがて、体力の限界が来てどちらともなく、打ち合いを終了しました。
「やっぱお前は最高だぜ!今のですっかり義手の扱いに馴染んじまった」
そういえばソラ君はさっき使い始めたばかりの義手で剣を持ってあれだけの打ち合いをしていたのでした。
「痛みとかはないですか?」
「痛みは無いな。それに疲労感もない。動かそうと思えば右手だけはまだまだ普通に動くな」
「体は疲れても義手は疲れないという事ですか?」
「その『義手』は魔力で動いてるんだよ!」
お母さんが教えてくれました。
「『魔力』?オレは魔法は使えねえぞ?」
「ソラ君は『魔法』も『身体強化』も使っていないけど『魔力』自体は常に体内で生成されているんだよ。使わなかった魔力は体外に放出されるから、その義手はその魔力を吸い取って動いているんだよ」
「へえ、俺にも魔力はあるのか?」
「全ての人間は魔力を持ってるからね。それを使える人と使えない人がいるだけなんだよ」
「ああ、『念技』と同じだな。『念』は全ての人間が持ってるんだが『技』として使える人間は限られているって話だ」
「ソラ君の魔力生成量は結構多いから『義手』が魔力切れになる事は無いと思うよ」
「そりゃ助かる」
あれっ?そうするとボクの装備はどうなるのでしょう?
「お母さん、ボクの装備も魔力を使ってますよね?ボクは魔力の供給が出来ないのでは?」
覚醒前の魔女は魔力が使えないのではなかったでしょうか?
「うん、ルルの装備は定期的に魔力を補充する必要があるよ。とりあえずソラ君かレィナちゃんに触れてもらえれば、余剰魔力を補充してもらえるよ。ソラ君の義手はソラ君の余剰魔力を直接吸収して蓄えているからソラ君の義手で触れてもらうのが一番効率がいいかな」
ソラ君の義手は魔力貯蔵庫にもなっているんですね。
「ちょっと!一休みしたらあたしとも戦ってよ!あたしも早く試したいんだから!」
レィナちゃんが練習場の中央で、大剣を構えて仁王立ちしてます。
「おう!それじゃオレが相手してやる!ルルはもう少し休んでろ!」
「ソラ君は大丈夫なんですか?」
「この腕は疲れねえみたいだからな」
ソラ君、体はへとへとなのにボクを休ませようと気を使ってくれています。
「じゃあ、こっちから行くぜ!」
ソラ君はレィナちゃんに向かって、一気に突っ込んで行きました。
一直線にぶつかるかと思ったソラ君の姿は、レィナちゃんの直前で消えました。
その直後、レィナちゃんの右側でソラ君の剣とレィナちゃんの大剣がぶつかって甲高い音が響きます。
ソラ君は途中で急激に進路を変え、レィナちゃんの真横から攻撃を仕掛けたのですが、レィナちゃんはそれに対応して受け止めたのです。
あの大きな剣が一瞬で移動しました。
既に大剣の剣速ではなく、レイピアに匹敵する速さです。
レィナちゃんは間髪入れずに大剣を一旦引いたかと思うと、直後に次の一撃を入れてきます。
やはり見た目の剣の大きさとその速度に違和感を感じてしまいます。
ソラ君もそれを受け流し、続けて攻撃を仕掛けます。
二人はそのまま、超高速の打ち合いを続けます。
細剣同士ならわかるのですが、一方が大剣なので、やはり速度感がおかしいです。
それに、見た目の重量が桁違いの剣どうしがぶつかって拮抗しているのも不思議です。
「それだけバカでかい剣振り回しといてこの程度の威力かよ!」
「あんたこそ!そんな軽い剣でその程度の速さなの?ハエがとまるわよ!」
・・・相変わらず軽口の応酬も忘れません。
二人の打ち合いは、やっぱり体力の限界が来るまで続いたのでした。




