31話 魔女の条件
「ルル、あなたは『魔女』だよ」
・・・・・えっ?
・・・お母さん、何を言ってるんでしょうか?
「えっと・・・お母さん?・・・・・ボクは、男ですよね?」
魔女といえば当然女性のはずです。
男のボクが魔女なわけがありません。
「あはははは!でもルルの心は間違いなく女の子だよね?」
「・・・はい、男の子の体には・・・違和感しかありません」
「『魔女』っていうのはね、体じゃなくて心が『魔女』なんだよ」
「心が『魔女』?ですか?」
「うん、『人間』と『魔女』の違いって心だけで、体は全く同じなんだよね。だから、人間の男性との間に子供が作れるんだよ?」
「じゃあ、本当に?」
「うん、ルルは『魔女』に間違いないよ」
・・・ボクが・・・『魔女』?・・・なんだか実感が湧きません。
魔法が使えないからでしょうか?
・・・魔女なのにどうして魔法が使えないのでしょう?
「ボクが・・・魔女だとしたら、どうして魔法が使えないのでしょうか?」
「ルルはまだ、魔女として覚醒していないからだよ」
「・・・『覚醒』って?」
「魔女はね、生まれた時はその能力が封印されててね。覚醒するまでは魔法が使えないんだよ」
そういえば、お母さんも以前は魔法が全く使えなかったって聞いた事があります。
『勇者』を継承した事で魔法が使えるようになったという事になっていますが、実際には『魔女』として覚醒したという事なのでしょうか?
魔女として覚醒したら・・・ボクはお母さんみたいに魔法が使えるようになるのでしょうか?
「どうしたら・・・『覚醒』できるんですか?」
「その話は後で詳しくするとして・・・まずは、ソラ君と、ソラ君のお兄さんの状況についてなんだけど・・・」
そうでした。ボクが係わったために問題が起きたと言ってました。
「ソラ君の剣をルルが使った時に、何か気が付いた事は無かった?」
「ええと・・・ソラ君の剣から、何かが・・・ボクに流れ込んできた感じがしました」
多分あれがソラ君の『念』なのでしょう。
何かが自分の体に入って来るような感じに驚きましたが、不思議と嫌悪感は無かったのです。
「それだけだった?」
そうです。それだけではありませんでした。
「ボクからも剣に何かが流れ込んだ感じがしました」
あれは一体何だったのでしょう?
「・・・やっぱりね。・・・ルル、よく聞いてね。それはルルの魔力だよ」
「えっ?・・・ボクはまだ『覚醒』していないのではないですか?」
「うん、『魔女』としてはまだ覚醒していないよ。でも『魔力』自体は持ってるんだよ」
「今回、面白い事が分かったんだ。魔女は本来、覚醒しないと一切の魔力が使えなくて、魔法も、身体強化も、何もできないはずなんだけど、魔力自体は体内で生成され続けていて、莫大な魔力量を保有しているんだよ」
「ところが、ソラ君の国の『念技』という技を使うと、覚醒前の魔女が自分の魔力を使えるようになるみたいなんだよね」
「・・・それでは・・・あの時、ボクは魔法を使ったんですか?」
「うん、魔法だけでなく、身体強化も使ってたよ。いつもより体の動きが良くなってたでしょう?」
そういえば、本来のボクでは不可能な速度で移動していた気がします。
「魔法って、何の魔法を使ったんでしょうか?」
「ソラ君の剣に対して攻撃力を増強する魔法を使ってたみたいだね。それと、相手の結界を無効化する魔法かな」
「ボクは、そんな魔法は知りませんが?」
「魔女として覚醒すれば、魔法の使い方は頭の中に浮かんでくるんだよ。無意識のうちにそれを発動したんだね」
「相手の人は強力な結界の術を使ってたみたいなんだよね。おそらくソラ君の剣に対する対策がしてあって、本来だったらソラ君の剣では倒す事が出来なかったはずだよ」
「でも、ルルが魔法で結界を無効化し、更に相手の人が使っていた身体強化の様な術もろとも、魔力で強化した剣で切り裂いてしまったんだよ」
確かに、あの時のボクは本来の自分ではありえないくらいの強さでした。
「それによって、問題が複雑になってしまったんだね」
「つまり、どうなってしまったんですか?」
「相手の人の傷口は、剣による物理的な切断だけではなく、『念技』による切断と、『魔法』による切断の、三つの手段で切断されてできた傷になってしまったのけど、それを凍結させた時に、『念技』の術式と『魔法』の術式が複雑に絡み合った状態で『凍結』の術で固めてしまったみたいなんだよね」
「そして、魔女の使う魔法は、魔法士の魔法と違って、その魔女固有の魔法式によって発動するから、魔法式はその魔法を使った魔女本人にしか解析できないんだよ」
「魔法って、魔法陣がその術式の全てでは無いのですか?」
「魔法陣は人間が魔法を使うための手段の一つに過ぎないんだよ。普通の人間には複雑な魔法式を自分で構築する事が出来ないから、一般的な魔法を誰でも同じ条件で発動できる様に作られたのが魔法陣なんだよ」
「つまり、魔法を使う方法は他にも色々あるという事ですね」
「そう、そしてその中でも『魔女』はその存在自体がこの世界の様々な法則と非常に近い所にあって、それで魔法陣を使う必要は無く、もっと直接的に思った通りの魔法を使う事が出来るんだよ」
「だから今回も、使ったのが魔法陣を使った一般的な魔法だったら、解析はまだ容易だったんだけど、ルルの魔女としての固有魔法が使われてしまったので、他の人には解析が出来なくなってしまったんだよ」
「それで・・・ボクにしか解除できないって事だったんですね」
「うん、さっきはソラ君に『魔女』の事を話すわけにはいかなかったから、当事者の三人の誰かって言ったんだけど、これはルルにしかできないんだよ」
「・・・ボクは、何をすればいいんでしょうか?」
「じゃあ、ここから本題に入るよ」




