30話 命の選択
「選択肢は3つかな?」
お母さんは指を三本立てました。
「一つ目は・・・とりあえず何もしない」
「・・・?何もしないって」
「このまま何もしなければ、いずれお兄さんは死んでしまいます。いくら術で進行を止めているとはいっても、完全ではないからね。おそらく一年が限界だと思うよ。術を発動したお兄さんが死んだら術は消滅するから、その時が来ればソラ君の右腕は治す事が出来るはずだよ」
それなら、比較的ノーリスクでソラ君が元通りになる事が出来ます!
・・・でも・・・そうすると、やっぱりボクは人殺しになってしまうんですね。
「それだったら、一年待たなくてもオレがあいつに止めを刺せばいいんだろ?」
ソラ君、ボクが気にしている事に気が付いて・・・
「たぶん、それは出来ないよ。凍結の術が強力だから術を解除するまで殺す事も出来ないんだよ」
確かに、首を切られても死ない術ですから。
「ちっ!めんどくせえな」
「二つ目は、ルルとソラ君を殺す」
「えっ?」
「ふざけんなよ!てめぇ!」
「これは、お兄さんがとるであろう選択肢だね。二人が死んだら、絡み合っている『念』がお兄さんのものだけになるので、お兄さんの術が解除できるはず」
「ちっ! これは警戒が必要って事だな」
ソラ君とボクが、これから狙われる可能性が有るって事ですよね?
「ただし、お兄さんが既に術の解除を試みていた場合、二人を殺したと同時に術がとける可能性が有る。そのため、治癒の術者がいる場所で二人を殺す必要がある。だからいきなり暗殺される事は無いと思うよ」
いずれにしても向こうが何か仕掛けてくる可能性は高いという事です。
「三つめは絡み合った術を魔法で丁寧に紐解いていって無効化する」
「えっ?それって普通に可能なんですか?それが出来るなら三でお願いします!」
お母さん、出来るなら焦らさないで早く言って欲しいです!
「お願いしますって言われても、私には出来ないよ?」
お母さんが人差し指を唇にあてて小首をかしげました。
かわいいけど今はそのリアクションはいらないです。
「えっ?お母さんなら出来るって意味じゃないんですか?」
「私が当事者だったら出来たんだけど・・・この方法は、当事者の三人のうちの誰かが、魔法を習得して、自分で術を解きほぐす必要があるんだよ。この術は三人の精神に密接に絡み合ってるから、第三者が介入して行うと、三人の精神が崩壊したり、最悪の場合は死んでしまう可能性が有るんだよ」
「三人の誰かって言ったらルルしかいねえよな。オレも奴も魔法は使えねえ」
「ボクも使えませんよ!そもそも身体強化すら使えないんですから」
「うん、だから三を選んだら、ルルが魔法を覚えないといけないんだよ」
覚える覚えない以前に魔力が全く無いんですが・・・
「三が無理なら、オレ達と奴の殺し合いになるだけだろ?やっぱりオレが今すぐ奴に止めを刺してくる!」
「ソラ君、術を解かないと殺せないですよ」
「ちっ!そうだったな。どうすりゃいいんだ!」
「無理とは言ってないんだけどな?ルルがその気だったら可能性はゼロじゃないよ?」
「えっ、ボクが魔法使いになれるんですか?」
「うん、もしかしたらだけどね!」
ボクが、魔法を使える可能性があったなんて!
「お母さん!挑戦してもいいですか?」
「うん、もちろん最大限に協力するよ!でもタイムリミットは一年だからね」
そうでした。一年以内に実現しないとソラ君のお兄さんは死んでしまうのでした。
「仕方ねえな、ルルがやってみてえんなら試してみてもいいんじゃねえか。どうせ失敗しても一年後に奴が死ぬだけだ」
「じゃあ、プランを立てないとね! ソラ君はそろそろ休んだ方がいいから続きは別の部屋で話すよ!ルル」
「はい、そうですね。ソラ君、お大事に」
「おう!がんばれよ!」
ボクとお母さん、それにお父さんの三人はソラ君の部屋を後にして、お母さんの執務室に来ました。
お母さんはドアに内側から鍵をかけます。
「この部屋が一番、機密性が高いからね」
どうしたんでしょう?
この厳重な警戒態勢は?
「ルル、怖がらなくていいから、そこに座って!」
厳重な雰囲気とは裏腹に、お母さんはにこにこして嬉しそうです。
「さっきはソラ君もいたから、核心に触れる話は濁しておいたんだけどね!」
・・・何か、重大な話である事は間違いなさそうです。
でも、どんな話になるのか想像もつきません。
「さっきの話ね、なんでこんな事になったのか一番重要な理由をまだ話してなかったの」
「一番重要な理由って、何ですか?」
ソラ君に聞かれちゃいけない話って何でしょう?
・・・勇者の秘密にかかわる事とかでしょうか?
「ルルは生まれつき魔法が使えなかったよね?」
「はい、簡単な下級魔法も全く発動しませんでした」
魔法を使う時には、自分の体から魔力が流れ出すという感覚があるらしいのですが、ボクにはその感覚が全くないのです。
「身体強化も使えなかったよね?」
「はい、いろいろ試してみたけどだめでした」
身体強化を使う時は、自分の体の中で魔力を循環させる感覚を感じるそうですが、ボクにはそれも全くありません。
「今までに、大きな病気とか、突然目眩がしたりとか、気持ち悪くなって吐き気がしたりした事ってほとんどないよね?」
「お母さんが丈夫に生んでくれたおかげで、いたって健康です」
これまで、体調が悪いって感じた事がほとんど無いのです。
お母さんも分かりきってるはずの、この質問は何なのでしょうか?
「ふふふっ!やっぱりそうだよね!」
お母さんはなんだかとっても嬉しそうです。
「ルル、あなたは『魔女』だよ」