3話 剣士の男の子
「おい!お前が一番強いのか?」
ボクに問いかけてきた男の子は、青みがかった銀髪に深い紫色の瞳をしています。
昼の青空の色と、夜の空の色みたいできれいだなぁって思いました。
背はボクより低いです。
ボクは同じ年の子の中では背が高めですが、この男の子はどちらかというと低い方ではないでしょうか?
怖い顔でボクの事を睨みつけています。
さっきの会話を聞いて、ボクが剣術が得意だと思ったみたいです。
うーん、何て答えたらいいのでしょう?
実際には、一番強いのはお父さんだと思いますが・・・
「一番強いのはルルだよ」
ボクが迷ってたらレィナちゃんがボクを指さして答えてしまいました。
「やっぱりお前が一番強いんだな!」
「いえ、ボクは剣術はそんなに好きじゃないので・・・」
何か良くない雰囲気だったので、話を逸らそうとしたのですが・・・聞いていないみたいです。
「オレは世界一の剣士になるためにこの国に来たんだ!まずはこの学院で強いやつを倒して一番になる!そしていずれは『剣聖』を倒す!」
「ええ!お母さんをですか?」
それは多分、無理だと思います。
「お前、『剣聖』の子なのか?ちょうどいい、オレと勝負しろ!」
「急にそんな事言われても・・・お兄ちゃん、どうしましょう」
私はお父さんに助けを求めました。
「『お兄ちゃん』?・・・お前も『剣聖』の子なのか?お前も強いのか?」
「俺はルルほど強くはない」
お父さん!ずるいです!・・・まあ、子供のいざこざに、大人で本物の勇者のお父さんが出る訳にはいきませんが・・・
「この続きは剣術講座の授業の時でいいんじゃないのか?」
でも、お父さんが、男の子に提案してくれました。
「そうよね、講座の授業だったら好きなだけ勝負出来るわよ」
レィナちゃんもお父さんに話を合せてくれます。
この二人、こういう時は息がぴったりです。
「そうか!じゃあ、その時に決着をつけてやる。覚悟しとけよ!」
男の子は納得して去って行きました。
・・・お父さんとレィナちゃんがこの場を収めてくれたのはいいのだけれど・・・
「ボクは、剣術講座は受講しないつもりだったんだけど・・・」
ボクは将来剣士になりたいわけではないので、剣術の講座は受講する必要がありません。
「何言ってるのよ、剣術の試験を一番の成績で合格したルルが講座に入らなかったら先生たち嘆くわよ」
「さっきのあいつも納得しないだろうな」
「そんなぁ」
こういった争い事に巻き込まれたくなかったので、少し剣術から離れたかったのですが・・・
その後先生が来て、学院の説明をしてくれました。
各講座の説明と、最低でも1つの講座を選択しなければいけない事、講座の修了認定がもらえると学院の卒業が認められる事などを教えてくれました。
そして、その後は一人ずつ自己紹介をする事になりました。
順番にみんなが自己紹介をしていって、ボクの番になりました。
「ボクの名前はルルです。本を読んだり、料理をするのが好きです。宜しくお願いします」
余計な事を言うと質問が止まらなくなってしまいそうなので、簡単に済ませました。
次はお父さんです。
「ジオだ。ルルの双子の兄だ。以上」
・・・更に短かったです。
その次はレィナちゃんです。
「レィナです。剣術とおしゃれと、あとルルが大好きです。剣術でルルに勝つのが目標です」
お父さんもレィナちゃんも、何故自己紹介でボクを引き合いに出すのでしょう?
それからさっきの男の子の番になりました。
「オレの名前はソラだ。ここから遠く離れた東の国から留学に来た。世界一強い剣士になるのが目標だ!だから『剣聖』のいるこの国に来た。ルルといったな、まずはお前を倒す!」
ソラ君は、ボクを指さして言いました。
・・・だから、どうしてボクを引き合いに出すのでしょう?
何かおかしな流れになってしまって、その後に自己紹介した子は、みなさんボクの事を引き合いに出すようになってしまいました。
「ルルさんとお友達になりたいです」
「ルルさんの神秘的な美しさが素敵だと思います」
「ルルさんと付き合いしたいです」
「ルル様、素敵です。お姉さまになってもらいたいです」
「ルルちゃんがかわいくって、萌えてしまいます」
「ルルちゃんを嫁にしたい」
・・・お友達は大歓迎ですが、その他は・・・ちょっと考えさせてください。
「あはは!ルル、大人気だね!」
レィナちゃんが大笑いしています。
「もうっ!誰のせいだと思ってるの?」
「あたしは本当の事を言っただけだよ?」
確かにそうです。
レィナちゃんが悪いわけでは無いのですが・・・
「ルルって美人過ぎてちょっと近寄りがたい雰囲気があったから、これで打ち解けられてよかったんじゃない?」
ボクってそんなに近寄りがたいのでしょうか?
ボクとしては普通のお友達なら大歓迎なのですが・・・
男女のおつきあいは・・・いろいろ問題があるので今は考えない様にしています。
自己紹介の後はみんなに囲まれてしまいました。
クラスのみんなと距離が近くなった気がして嬉しくなりました。
・・・ソラ君だけが離れたところからずっとボクを睨み続けていました。