22話 依頼を受けてみる
これでボク達は冒険者になる事が出来ました。
「この冒険者証があれば、冒険者ギルドに加盟している国だったらどこでも通行税無しで入る事が出来ます。でもあなたの国はだめですよ」
お姉さんはソラ君の方を見て言いました。
「ああ、それは問題ない」
「皆さんは『下級冒険者』ですので、まだ受けられる依頼が限定されます。詳しくはあちらの掲示板で確認して下さい。それではみなさんのご活躍を期待しております」
「早速魔物退治に行きましょう!」
レィナちゃんは相変わらず気が早いです。
依頼書の貼られた掲示板を見ています。
「やっぱり最初はこれね!『小鬼退治』!」
王都の近郊には『下級の魔物』が定常的に発生するポイントがいくつかあります。
定期的に討伐して数を減らしておかないと、近隣の村が襲われてしまうのです。
「お姉さん!この依頼を受けるわ!」
レイナちゃんは依頼書を持って受付に行きました。
「さっそく来ましたね。『小鬼退治』ですか?普通は、冒険者登録したての最初の依頼にいきなり魔物討伐はおすすめできないのですが・・・あなた方なら大丈夫ですかね?」
「ええ!大丈夫よ!」
レィナちゃん、自信満々で答えました。
まあ、ボクとレィナちゃんは、もうすでに結構慣れているのですが、ここでその事を言う訳にはいきません。
「オレも『小鬼』なら慣れてるぞ」
ソラ君は普通に魔物と戦った事があるみたいです。
「勇者に許可は取ってある。問題ない」
「あ、そうなんですね。勇者であるお母様の了承済なら大丈夫ですね」
お父さんが、スマートにまとめてくれました。
さすが大人です。
というか、本当はお父さんが『勇者』本人ですが。
ボク達はそのまま『小鬼退治』に出発しました。
レィナちゃんには、冒険者ギルドで他の冒険者になめられない様に装備を整えてくるように言われていたのですが、初めからこのつもりだったんですね。
ボクは護身用のレイピアと、ライトメイルを装備しています。
お父さんも同じ様な感じです。
本来の勇者装備ではない簡易バージョンです。
レィナちゃんは結構本格的な装備です。髪と同じ真っ赤なアーマーがかっこいいです。
ソラ君は普段着が装備なのでそのままです。
今回の小鬼の出現場所は王都から歩いて3時間程度の距離です。
「走って行くわよ!」
レィナちゃんは返事も待たずに駆け出しました。
「待ってよ、レィナちゃん」
ボク達もその後をついて行きます。
一気に走り抜けて、目的の場所に1時間かからずに着いてしまいました。
魔物の発生場所は、常に変化します。
現在はこの森の奥で『小鬼』が定常的に発生しているらしく、数が増えると集団で村や町を襲う事があるので、こうして冒険者に討伐依頼が出るのです。
「さあ!いっぱい狩るわよ!」
『小鬼退治』は特にノルマが決まっていません。
討伐数に合わせて報酬とポイントが付くので、自分のペースで討伐すればよい事になっています。
レィナちゃんはどんどん森の奥へ進んで行きます。
「おもしれえ!誰が一番多く狩れるか競争しようぜ!」
「望むところよ!」
この二人、変なところで気が合います。
本気を出したらお父さんが一番だと思いますが・・・
するとソラ君の近くの茂みに近づきました。
そしてすかさず剣を一閃すると、茂みの中から『小鬼』が倒れてきました。
「最初に仕留めたのはオレだな!」
『小鬼』は切り口から蒸気を放って次第に消滅していきます。
そして、最後には『魔結晶』だけが残りました。
魔結晶は全ての魔物が持っていて、魔物の核となるものです。
魔物は魔結晶と心臓の繋がりを切断しない限り絶命しません。
魔結晶が残っていると再生してしまうのです。
『小鬼』の魔結晶は鳩尾にあるので、鳩尾と心臓のある左胸の間を切断すると絶命します。
あるいは魔結晶を完全に抉り取ってしまえば良いのです。
魔物の討伐は、倒した魔物の魔結晶を冒険者ギルドに持ち帰る事により、討伐の証明となって、報酬とポイントが貰えます。
ポイントをためる事によって、上の級の冒険者に昇級する事が出来るのです。
「まだまだ、これからよ!」
レィナちゃんは、更に森の奥に進みます。
森の奥に行くほど、魔物の出現率が上がるのです。
「見つけたわ!」
レィナちゃんは駆け出し、離れた場所にいた『小鬼』を切り飛ばします。
「あたしも倒したわよ!」
レィナちゃんは『小鬼』を倒して上機嫌です。
「レィナちゃん!後ろ!」
レィナちゃんの向こうに、もう一体『小鬼』が現れました。
「大丈夫!」
レィナちゃんは振り向きざまに、2体目も両断します。
「これでわたしの方が多いわ!」
「こっちも2体目だ!」
ソラ君の方にも『小鬼』が現れて、ソラ君は一瞬でそれを切り裂いていました。
気が付くと周りを『小鬼』の群れに囲まれていました。
森の奥に入り過ぎたのです。
ボクにも『小鬼』が襲い掛かってきました。
ボクはそれを返り討ちにして切り伏せます。
「ルルも1体目ね!」
ボクは競うつもりはないのですが・・・
でも次から次へと襲い掛かって来るので対応せざるを得ません。
「これは早い者勝ちだな!」
「全部あたしの獲物よ!」
二人は次々と『小鬼』を倒して、先へ先へと進んで行きます。
ボクは二人が取りこぼした『小鬼』を倒していきます。
後ろはお父さんがフォローしてくれているので安心です。
二人がどんどんエスカレートして倒しまくるので、それほど時間がかからずに、『小鬼』の群れを倒し切ってしまいました。
「今日はこんなものかしら。ルルは何体倒したの?」
「ボクは50体くらいかな?」
「ちゃんと数えなさいよ!勝負なんだから!」
・・・ボクは勝負する気は無かったのですが。
「でもルルには勝ったわね!あたしは107体よ!」
「ははは!オレの勝ちだな!オレは112体だ!」
「ちっ!そっちの方が出現数が多かっただけじゃない!次は負けないわ!」
この二人、なんだかんだで楽しそうです。
「そういえばジオは何体倒したのよ?」
「俺は235体だ」
「えっ!何でそんなに倒してるのよ!」
「お前達二人が先を急ぎ過ぎるから、後ろにたくさん集まっていたんだ」
そうなのです。
二人の移動が速すぎて、ついて来れなかった『小鬼』が後ろから追いかけてきていたのです。
お父さんはそれを始末してくれていたのでした。
今日の勝負の勝者は、お父さんという事になりました。
 




