21話 冒険者になってみる
次の休日、ボク達4人は冒険者ギルドに来ていました。
4人というのは、ボクとレィナちゃんとソラ君、それにお父さんです。
レィナちゃんは『下級剣士』合格直後から、「今度の休日に冒険者の登録に行くわよ!」と言って、冒険者になる気満々でした。
「俺は別に冒険者になる気は無いんだが」
無理やりレィナちゃんに連れて来られてお父さんは、あまり乗り気ではないみたいです。
「何言ってるのよ!あたしたちは4人でチームなんだから、ジオがいなきゃダメでしょう!」
・・・いつの間にチームを結成していたのでしょう?
レィナちゃんはお父さんの腕を組んで、冒険者ギルドに入っていきました。
ボクとソラ君も続きます。
レィナちゃんは受付のお姉さんのところに向かいます。
「本日はどの様なご用件でしょうか?」
「あたし達4人、冒険者登録に来たの!」
「あら、あなた方、先日の剣術大会で上位入賞してた方々ですよね?今日は他にも学院の生徒さんが何名か登録に来ていますよ」
同学年で『下級剣士』試験に合格したのはボク達4人だけでしたが、先輩たちは何人か合格しているので、その先輩たちだと思います。
「あなたたち二人、決勝戦でキスしてた子たちですよね?」
お姉さんがボクとソラ君を見て言いました。
「見てたんですか!」
「ええ、あの日は非番だったので大会を観戦に行ってたんですよ」
うわぁ!なんかすごく恥かしいです。
「あんな公衆の面前でキスなんかしたら目立って当然でしょ!」
レィナちゃんにも指摘されました。
まあ、大会の次の日は教室でも散々いじられたのですが・・・
「何言ってんだ?やりたい事をやりたい時にやるのは当たり前だろ?」
うーん、ソラ君、相変わらずおおらかというか、そういう事気にしませんね。
「とりあえず、冒険者の申請書類に記入お願いします。それと『剣士』か『魔法士』の認定証があれば提示願います。皆さん今日ここに来たって事は『剣士』の試験に合格したんですよね?」
ボク達は『下級剣士』の認定書をお姉さんに見せた。
「まあ、あれだけ強ければ認定試験は一発合格でしょうね。はい、認定証は確認出来たのでもうしまっていいですよ」
ボクたちは書類に必要事項を記入してお姉さんに渡した。
「では内容を確認しますね。・・・ええっ!あなたたち勇者様のお子さんなの!それにあなたは剣豪のお子さん!・・・どうりで強いわけだわ」
受付のお姉さんはえらく驚いていました。
「あれっ?君は外国の方なんですね。ずいぶん遠い国から来たんですね?」
「外国人は冒険者になれないのか?」
「そんな事は無いですよ。冒険者ギルドは国を跨いだ組織です。冒険者はどの国へ行っても同じ待遇を受ける事が出来ます。・・・ただあなたの国は冒険者ギルドに加入していないですね。冒険者登録は出来ますが、ご自分の国に帰ったら何の効力もなくなってしましますよ。それでもよろしいですか?」
「ああ、かまわない。この国で冒険者が出来ればいい」
「かしこまりました。では、冒険者証を作成してきますので少々お待ちください」
お姉さんは書類を持って、事務所の奥に入ってしまった。
「ソラ君の国は冒険者っていなかったの?」
ボクは気になったのでソラ君に聞いてみた。
「オレの国は全員が剣士だ。冒険者ってのは必要なかったな」
「全員って、女性も全員って事?」
「ああ、そうだ。剣を目指すのに男も女も関係ない。現に『剣聖』もお前も女だろ?」
「まあ・・・そうですね」
厳密に言うと違いますが・・・
「・・・でも他の職業の人っていないんですか?」
「みんなそれぞれ別の仕事はしてる。ただ全員が剣を習得しているって事だ」
「子供は必ず剣を習うって事でしょうか?」
「そうだ!全員が子供の頃から剣を習って、大人は誰でも『下級の魔物』程度だったら倒せるようになる」
「国民全員が『下級剣士』以上って事か。この国の魔法使いみたいなものね」
「この国の奴らは全員が使えるのか!おまえら、魔法が使えるのか?」
「ええと・・・ボクは使えません」
「ルルみたいに魔法を全く使えない子が、ごく稀にいるけど、大体の子は下級魔法が使えるわね」
「あまり使ってるやつを見ねえな」
「下級魔法って、魔法陣を描いたり呪文を唱えたりして手間がかかる割に、大した事できないのよ。大抵の事は手を使ったり道具を使った方が早いわ。それと、中級以上の魔法は、普段の生活で使う事は無いから見る機会は少ないわね。『魔法士』の講座を見学に行けば中級魔法が見られるわよ」
「ソラ君の国には魔法って無いの?」
「『魔法』じゃねえが『念技』ってのがある」
『念技』? 初めて聞く言葉です。
「それは魔法とは違うんですか?」
「『魔法』を良く知らねえんだが、『念技』は強い気持ちを物や、自分、あるいは他人に込める事で、発する力の事だ。オレは自分の剣に使って威力を高めたり、自分の体に使って能力を高めたりしてる」
「それってあたしたちが使ってる『身体強化』と同じじゃない?」
「ああ、お前たちも自分には使ってるよな。剣や道具には使ってねえみたいだが」
「ボクは『身体強化』も出来ません・・・」
「逆に何も使わねえでルルの強さは異常だよな。オレも『念技』を使わなかったらルルに勝てる気がしねえ」
「ルルのお母さんも『勇者』になる前は『身体強化』も『魔法』も使えなかったのよね?」
「はい、『身体強化』を使わずにこの国で最強の剣士になったので『剣聖』の称号を与えられたって言ってました」
「それ、うちの父さんがよく自慢してるやつね。酔っぱらうと「ララを『剣聖』に育てたのは自分だ!」って豪語して、いつもお母さんに殴られてるわ」
レィナちゃんの家庭って相変わらずワイルドです。
「でも、剣に込めるって何?聞いた事無いわ」
「同じ事だ。気持ちを込める対象が自分の体か剣の違いだけだ。まあ、確かに得意不得意があって、誰でも『念技』が使える訳じゃねえがな」
「他にどんな事が出来るんですか?」
「他人に使って、怪我や病気を治したりできる奴もいるし、逆に相手を殺す事が出来る奴もいるらしい。オレは直接会った事は無いがな」
「思っただけで相手を殺せるって、物騒ね」
「まあ、噂だけで本当にできるかどうかは分からねえけどな」
そんな相手に出会ったらどうすればいいんでしょうか?
「物に込めるってどういう事ですか?」
「なんにでもって訳にはいかねえが、オレの剣は『念技』を受け止められる様に作られた剣だ。他にもそういった道具なんかがあるらしい。オレもあまり詳しい事はわかんねえがな」
・・・国によっていろいろ違うみたいです。
「皆さん、冒険者証が出来ましたよ」
受付のお姉さんが声をかけてくれました。
話している内に冒険者証が用意できたみたいです。
「こちらが皆さんの冒険者証です」
冒険者証はペンダントになった銀色のカードでした。
ボク達は冒険者になる事が出来ました。