2話 勇者の子の入学式
三人そろって学院の敷地に入ると、他の入学生から一斉に視線を集めてしまいました。
やっぱりレィナちゃんは美人だし赤い髪は目立ちます。
一応、ボクも地味だけどけっこう美人なんですよ。なんてったって、お父さんのお母さんの子供なんですから!
お父さんは・・・変装して存在感を隠していますが・・・
入学式ではボクは新入生代表の挨拶をする事になってしまいました。
主席はお父さんになると思ってたんだけど、お父さんってば、入学試験で全ての科目を平均点にしておいたそうなんです。
自分が本気を出すのは大人げないって言ってました。
・・・実際大人ですから・・・
まじめに試験を受けたボクは、学科と剣術でトップの成績をとってしまったみたいなんです。
剣術の試験はお母さんから「試験官を倒さないと合格できませんよ」って言われていたので、頑張って試験官を倒したのですが、後で別に倒さなくても良かったと言われてしまいました。
過去に入学試験で試験官を倒したのは、お母さんと、他に数人しかいないそうです。
お母さんに騙されました。
でも今回は、ボクの他にもレィナちゃんと、あともう一人、試験官を倒した受験生がいたそうです。
レィナちゃんも、レィナちゃんのお父さんから試験官をぶっ倒せって言われていたそうですが・・・
この国の人は、ほとんどの人が魔法を使えます。
でもボクは魔法が使えなくて、魔力を使った『身体強化』という技も使えません。
だから、剣術はお母さんから身体強化を使わない戦い方を教えてもらっています。
お母さんも昔はまだ『魔女』としての能力に目覚めていなくて、その頃は魔法も身体強化も使えなかったそうです。
その代わりに、剣で戦えるようにと剣の練習をいっぱい頑張っていたら、いつの間にか『剣聖』というこの国で一番強い剣士になってしまったそうです。
『剣聖』であるお母さんの剣術は、流れるようなきれいな剣術で、見ているとうっとりしてしまいます。
まるで踊りを踊っているようです。
あまりにきれいだったので、ボクもやってみようかなって言ったら、お母さんは嬉しそうに教えてくれました。
元々剣術にはあまり興味が無かったんだけど、お母さんが、女の子でも覚えておいた方がいいですよって言うのでそれからずっと教わっていました。
お母さんのきれいな動きを真似していただけなんだけど、気が付いたらボクは同年代の誰よりも強くなってしまったみたいなんです。
魔法の試験では、魔法が使えないボクは魔法陣を描くだけでした。
ほんとは魔法を発動しないといけないんだけど、魔法陣を早く正確に描けるだけでも点数が貰えるそうです。
ボクは魔法陣の点数が満点だったそうです。
そして、入学式が始まりました。
式の司会進行は、なんとお母さんでした。
お母さんは見た目が若くて学生にしか見えないので、お母さんをはじめて見る新入生は混乱していました。
式が進んで行って、新入生代表の挨拶の番になりました。
ボクが壇上に登ると、会場からどよめきが上がりました。
どよめきは、なかなか静まりません。
何かまずい事でもやってしまったのかと、不安になっていたら、お母さんが、舞台袖から「がんばって!」と小さな声で応援してくれました。
お母さんに応援されると、少しだけ緊張がほぐれました。
少し緊張しながらも当たり障りのない挨拶をすませると、大きな拍手を貰いました。
お母さんもにこにこしながら拍手をしてくれました。
入学式が終わるとクラス発表があり、それぞれの教室に分かれます。
「よかった!ジオとルルとおんなじクラスだ!」
三人とも同じクラスになれたのでレィナちゃんは大喜びです。
教室に入ると、ボクたちは何人かのクラスメートに囲まれてしまいました。
「ねえねえ、二人は勇者様の子供なんでしょ?」
クラスメートの一人が話しかけてきました。
「はい、そうですよ。ボクはルルで、こっちは双子の兄のジオです」
「わぁ、やっぱりそうなんだ!今年は勇者様の子供が入学するって噂になってたんだよ」
そんな噂が広まってたんですね・・・
「さっきの入学式の司会って勇者様だよね?」
「そうですね、お母さんでした」
「そういえば、お父さんは先代勇者様なんだよね!両親が二人とも勇者ってすごくない?」
世間では、お父さんが先代の勇者、お母さんが現役の勇者という事になっています。
この王都では、お母さんは結構有名人なので、知ってる人は多いのです。
「ねえ、ジオ君てお父さんの名前を貰ったんだよね?」
「ああ、そうだ」
・・・本人だけどね・・・
「ジオ君って勇者様に似てないけどお父さん似なのかな?」
「そうだな」
・・・本人だからね・・・
「ルルちゃんて美形だよねー!あっ、でもルルちゃんは少し勇者様の面影があるかな?」
「わかりますか?気が付いてもらえると嬉しいです」
そうなんです。
ボクの顔って基本的にお父さん似だけど、顎のラインとか、ところどころお母さん似なんです。
ボクはお母さんの顔が大好きなので、似てるところを言われると嬉しくなってしまいます。
もちろんお父さんの顔も大好きですよ。
「ルルちゃんって神秘的な美少女だよね」
「うん、なんか吸い込まれそうな美しさっていうか?ちょっと危ういものを感じるよね?」
「なんていうか・・・そう!物語に出て来る魔女みたいな!」
・・・物語に出て来る美しい魔女って・・・人を不幸にする悪い魔女の事です・・・
ボクは黒い髪のせいで、昔から時々そういうたとえ方をされます。
・・・でも、ちょっとだけ悲しくなります。
「ちょっと!あなたたち!ルルはとっても優しくて良い子なのよ!悪い魔女に例えるのはやめてくれない!」
レィナちゃんはこういう時、いつもボクを庇ってくれます。
「あっ、ごめんさない。それだけきれいだって言いたかっただけだったの」
「ルルちゃん、ごめんね。悪い意味で言ったんじゃないんだよ」
「もっと他に言い方があるでしょう。夜の女神みたいだとか、月の精霊みたいだとか」
・・・やっぱり『夜』とか『闇』とかのイメージだよね・・・
「ボクはレィナちゃんの方が華やかで美人だと思うけどな」
「何言ってるのよ!ルルってば女のあたしでもうっとりするくらいの美人なんだら!もう少し自信持ってよ!」
「レィナちゃんもきれいだよね?もしかしてレィナちゃんのお母さんって、近衛騎士団のレィア様だったりするの?」
「うん、そうだけど」
「やっぱりそうだったんだ!じゃあ、お父さんは『剣豪』のゼト様なんだ!」
「それじゃあ、レィナちゃんも剣の達人だったりするの?」
「まあね!でもあたしよりルルの方が強いよ!なんてってルルのお母さんは『剣聖』だからね!」
「そっか!勇者様って『剣聖』だもんね」
「へぇ、ルルちゃんっておとなしそうに見えるけどそんなに強いんだ?」
「ボクなんて、剣術は護身用に習ってるだけなので・・・」
「何言ってるのよ!剣術の入学試験を一番の成績で合格しておいて!」
「おい!お前が一番強いのか?」
一人の男子生徒が、突然ボクに話しかけてきました。