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19話 初めての感情

 ボクとレィナちゃんの試合はボクが勝利を収めました。


 その後、ソラ君も余裕で準決勝を勝ち残りました。




 そして、一般部門の決勝戦はボクとソラ君の対決となったのです。




「ははっ!やっぱりこうなったな」


「いつも通りでいいよね?」


「悪いが今日は勝ちにいかせてもらうぜ!」


 ボクとソラ君は毎日の様に打ち合いをしていますが、ほどんどが勝負がつかず引き分けに終わってしまいます。


 勝負がつくのは、剣が折れたり、どちらかがつまずいたりなどアクシデントがあった時です。


 それだけボク達の力量は拮抗しているのです。




「始め!」



 審判の号令と共に、二人同時に攻撃を仕掛けます。


 接触する寸前でソラ君が鞘から剣を抜き、最速の一撃を僕に入れます。


 ・・・これまでの打ち込みのどれよりも早い一閃が来ました。


 ソラ君の本気度がうかがえます。


 でも、ソラ君が前より強くなっているのはいつもの事です。

 ボクもそれに対抗します。


 ソラ君の一撃を受け流し、そのままカウンターに繋げます。

 ソラ君も同じ様に、ボクの打ち込みを逸らしてそのまま反撃をしてきます。



 ここからはいつもの状況です。

 お互いに連続カウンターを入れるせいで、超高速の連続攻防が始まるのです。


 剣戟の間隔がどんどん短くなっていきます。


 普通の試合ではありえないくらいの間隔で剣戟が響き渡ります。

 それも単調ではなく、音質や強さ、間隔も次々と変化していきます。


 これはボクもソラ君も同じ技の繰り返しではなく、次々と異なる技を繰り出しているからです。


 この、僅かな時間の中で、新しい技を考えてすぐにそれを実践し、結果を修正して再び繰り出しているのです。


 限られたわずかな時間で脳をフル稼働して作戦を考え、瞬時に肉体に伝えて実行し、相手の対応を観察し、すぐに次の作戦を考えるという、繰り返しをひたすら続けます。


 この周期が、ボクとソラ君はぴったり一致するので、一緒に打ち合いをやると、お互いに、ぐいぐい成長できるのです。


 お母さんやお父さんもボクの力量に合わせて相手をしているので、同じと言えば同じなのですが、やはり意図的にこちらの力量を読んで合わせているので、どうしても変化が安定してしまうのです。


 ボクとソラ君の場合は、双方が真剣勝負です。


 常に自分の限界を超え続けないといけないし、突発的にとんでもない技を繰り出す事もあります。


 それは本当にびっくり箱の様で、相手から出る事もあれば、自分から出る事もあり、それに対応するために、瞬時に自分も新しい技を編み出します。


 この、実戦と全く同じ緊張感の連続によって、短時間のうちにみるみる経験が溜まって実力が向上するのです。


 二人でいれば、実戦の最前線の、最も過酷な、でも、最も経験の積める状況をいつでも作り出す事が出来るのです。


 感覚的いうとソラ君がボクの手をしっかりと掴んで、力強くぐいっと上に引っ張り上げてくれている感覚です。


 ソラ君にその話をしたら、ソラ君も全く同じ事を考えていたそうです。



 自分をしっかりと引っ張り上げてくれる相手がいるという安心感と信頼感。


 一つ上のステージに上がれたという達成感と満足感。


 同じ目標に向かって同じ速度で一緒に進んでいるという連帯感と一体感。



 そして・・・これら全てを共感しているこの瞬間に感じる幸福感。



 ソラ君と共有しているこの充実した時間を、ボクは間違いなく幸せだと感じています。


 これまでの打ち合いでも感じていましたが、今はさらに強く、そして今までと何か少し違う幸福感です。



 これが、ソラ君の言っていた『運命の相手』なのだと、ボクにもはっきりと分かった気がします。



 まだ、この試合が始まってからほんの数分しかたっていません。


 しかしその間に僕たちはいくつもの新しい技を編み出しては、それを打ち破り、そしてまた新たに編み出しています。


 既に何度も今までの自分の限界を打ち破っています。


 公式の試合というこの場の雰囲気もあって、いつもの練習以上にハイペースで成長しているのです。


 


 この時間がいつまでも続けばいいのに・・・




 そう考えてしまう自分がいました。




 しかし、その時間もあっさりと終わりを告げました。



 ・・・またしても、二人の剣は、激しい打ち合いに耐え切れずに、途中から折れてしまったのです。



 宙に舞う二本の刃を二人で見上げました。



「・・・またかよ」


「前にもあったね、こんな事」

 


 二本の刃が地面に突き刺さると同時に、ソラ君が満面の笑みでボクの方に走って来ました。


 これまで見た中で最高の笑顔です!


 ボクは思わず胸がきゅん!となってしまいました。



 そしてソラ君は、ボクに飛びついて、ボクを力いっぱい抱きしめました。


「やっぱりお前は最高だぜ!」


 そう言って・・・ソラ君はボクの唇に唇を押し付けたのです。




「「「「「わあああああああああ!!!!!」」」」」



 会場から大歓声が上がりました。




「引き分け!両者、優勝!」


 審判の声も歓声でかき消されています。




「・・・ソラ君・・・こういう事、興味無いんじゃなかったけ?」


 男の子とキスをしたのは、これが初めてです。


 ・・・実はレィナちゃんとは、ふざけ合ってした事があったりしますが・・・


「いや・・・よくわかんねえけど、したくなっちまったんだよ」


 ソラ君は、今頃になって顔を赤くしています。



 ちょっと力強くて乱暴でしたけど・・・ボクたちは初めてのキスをしてしまいました。


「いやだったら、すまん・・・」


 ソラ君は少しだけ後ろめたそうです。


「ううん、いやじゃありません」


 そう言って、今度はボクの方からソラ君を抱きしめたのでした。



 そうです。ソラ君にキスされて、いやどころか、むしろ嬉しかったのです。



 この感情は・・・・・



 ソラ君に対する感情が、なんだか少しずつ変化してきている気がします。


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