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18話 剣術大会と修練の成果

 ボクとソラ君がお付き合いを初めて数ヶ月が過ぎました。


 お付き合いと言っても、毎日剣の打ち合いばかりやっていたのですが、ソラ君は日々腕が上達していくので、毎日打ち合いをしていても、その毎日が新鮮でした。


 レィナちゃんに聞いたら、ボクも同じ様に日々上達していた様です。


 レィナちゃんもボクやソラ君と毎日打ち合いをしていました。


 ソラ君もボクとばかりではなく、他の相手との練習も織り交ぜたいと言ってたので、

三人で一緒に練習するのが日課になっていました。


 そんなレィナちゃんも、ボクから見ても日々腕が上達しているのがわかります。


 三人とも学院に入学した時より格段に強くなっていきました。




 そして、『剣術大会』の日を迎えました。




 この国では年に2回、王国主催の剣術大会があります。


 この大会で、好成績を残すと『剣士』の昇級試験が受験できるのです。


 大会は四つの部門に分かれています。


 『上級剣士』、『中級剣士』、『下級剣士』のそれぞれの資格を持つ剣士同士の部門と、『剣士』の資格を持たない人が参加する『一般』部門です。



 ボクたち三人はまだ剣士の資格を持っていないので『一般部門』で参加する事になります。


 お父さんも建前上は資格を持っていませんので、同じ『一般部門』です。


 ボクとソラ君、それにレィナちゃんとお父さんは事前に行なわれていた予選を順調に勝ち抜き、剣術大会本戦に参加が決まっていました。




 剣術大会は、お母さんの挨拶で幕を開けました。


 この国最高位の剣士の『剣聖』でもあるお母さんは、この大会の最高責任者なのです。




 ボク達四人は一回戦を順調に勝ちぬき、二回戦ではソラ君とお父さんが戦う事になりました。




「お前とまともに試合で戦うのは初めてだな。少しは本気を出してみろよ」


「・・・・・」


 ソラ君に煽られてもお父さんは無言です。



「始め!」



 審判の掛け声で試合が始まります。


 ソラ君のいつもの鞘に剣を収めた状態からの打ち込みがお父さんに入ります。


 お父さんは、それを剣で、さっと躱します。

 いつもの無駄のない最小限の動きです。


 無駄がなさ過ぎて一見、地味に見えるのですが、見る人が見ればとんでもなく高度な技術が必要だという事がわかります。


 ソラ君の激しい連続攻撃をお父さんはそつなく躱し続けます。


 まるで職人の様な仕事ぶりです。




 お父さんも普段からボクの練習相手をしてくれています。


 お母さんと同じ様に、今のボクの実力のほんの少し上に合わせて相手をしてくれるのです。


 この練習方法は、むかしお母さんがお父さんの弟子だった頃に、お父さんがお母さんを鍛えるために行なっていた練習方法なんだそうです。


 『勇者』と普通の人では力の差がありすぎてまともに勝負できません。


 相手の技量を見極め、最適な練習相手となる様に自分の技量を緻密に調整するという、神技に近い事をさらっとやってのけているのですが、これは勇者だからできるという事ではなく、お父さん自身の鍛錬の結果によって可能にしている事のなのだそうです。


 お父さんは、歴代勇者の中でも特にまじめで努力家なんだとお母さんが自慢げに話していた事があります。


 まあ、お母さんがお父さんの話をする時は、いつも途中からのろけ話になってしまうのですが・・・




 今のソラ君とお父さんの試合は、まさにそんな感じで、お父さんがソラ君の技量に合わせてあげているのです。


 でもソラ君は試合の最中にも成長を続けます。


 お父さんはそれに合わせて、自分の強さも調整し、ソラ君の技量をぐんぐん引き上げていくのです。


 だから、試合の進行と共に、二人の動きは次第にハイレベルなものになっていきます。


 そして、ソラ君の、会心の一撃が決まった時に、お父さんの剣は手を離れて空高く舞い上がりました。



 ソラ君がの技量がその瞬間に急激に上がったのですが、お父さんは、無理にそれに会わせずにこれまでのペースで対応したのです。



「勝負あり!勝者、ソラ!」




「・・・やっぱりまだお前の本気には全然届かねえな」


「・・・・・」


「まあいいや、オレとルルは、一緒に強くなって、いつかおまえらに追いつくからな」


 お父さんの口元は、少しだけ優しげに微笑みました。




 それから、ボクと、ソラ君、レィナちゃんの三人は勝ち進み、準決勝でボクとレィナちゃんが当たる事になりました。




「ルルとは決勝で当たりたかったわね」


「うん、お手柔らかにね、レィナちゃん」


「あなたに対してお手柔らかにしてる余裕なんてないわよ!」


「うん、ボクも本気で行くよ」




 ボクとレィナちゃんは、試合の開始位置につきます。


 レィナちゃんは、いつも通り、大振のロングソード、ボクは細身のミドルソードです。




「始め!」



 審判の声と同時に、ボクはレィナちゃんに突進します。



 ボクは今までは、受け身に特化した戦法に固執していましたが、最近のソラ君との打ち合いで、先制攻撃も練習する様になってきたのです。


 ソラ君の基本的な戦法は、相手の隙をついて一撃必殺でとどめを刺すというものです。

 しかし実戦では自分が奇襲を受けるという場合もあります。


 ソラ君はそれも踏まえて練習したいのでボクに奇襲攻撃をやってくれと頼んできたのです。


 最初は、自分から攻撃を仕掛けるのって、どうすればいいのか分からなかったのですが、ソラ君からもアドバイスを貰って、仕掛けるタイミングやフェイントのかけ方を練習していたのです。




 レィナちゃんはロングソードを頭の上に掲げた、いつもの構えです。


 ボクが間合いに入ったら、上から振り下ろしてきます。


 レイナちゃんが行動を起こしたところでボクは進路を変えてそれを躱し、別の咆哮から攻撃を仕掛けるつもりです。


 ところがレィナちゃんはボクが間合いに入る前に構えを変えてきました。

 頭上に構えた剣を体の横に水平に構え直したのです。


 そして、ボクが間合いに入るタイミングで剣を水平に振り回してきました。

 ボクは直前で進路を変え、それを回避して距離を取ります。


「あなたの戦法は研究し尽くしてるわ!今までに使った技は通用しないわよ」


 たしかに、最近はいつも三人で練習しているので、レィナちゃんはボクとソラ君の戦い方は全て観察しています。


 ・・・でも、それはボクの方も同じです。

 レィナちゃんの術力と戦い方は知り尽くしているのです。



 ボクは再びレィナちゃんに向かっていきます。


 レィナちゃんはさっきと同様に剣を水平に振ってきます。


 ボクは、姿勢を低くして、地面すれすれで剣を躱しながらレィナちゃんの懐に入り込みます。


 しかしレィナちゃんは身体強化の『加速』で後方に高速移動してボクの間合いから会ずれると同時に、振り切った剣をひきもどし、目の前にいるボクを後ろから切り付けます。


 ボクはレィナちゃん『加速』した瞬間にこの流れは予測していたので、背後から迫るレィナちゃんの剣を後ろ手で剣で受け流しつつ、レィナちゃんから離れます。



「やっぱり、こっちの動きも読んでくるわね」


「レィナちゃんこそ」


「お互い手の内は知り尽くしているもんね!」



 今度はレィナちゃんの方から仕掛けてきました。


 ロングソードのレィナちゃんの方が間合いが長いので、ボクの間合いの外から剣を水平に切りつけてきます。


 さっきよりも軌道が低いので下側に回り込むことは出来ません。


 回避するしかないのですが、ボクはあえて前に踏み込みます。


 そしてレィナちゃんの頭上目がけて跳躍しました。


 頭の上からレィナちゃんに切りつけます。



「かかったわね!」


 しかしこれはレィナちゃんの罠だったようです。


 レィナちゃんは身体強化で『腕力増強』を使って、ロングソードの軌道を強引に変えてきました。


 頭上から落下してくるボクに向かって切り上げてきます。


 空中にいるボクは進路変更が出来ません。

 レィナちゃんはこれを狙っていたのです。



 

 落下するボクに向かってレィナちゃんのロングソードが目前まで迫ってきました。


 しかしこれは空中にいるボクにとって唯一の足場となります。


 ボクは自分の剣をレィナちゃんの剣に当てて受け流します。

 ですが、レィナちゃんの強化した腕力に支えられた重量級の剣は微動だにしませんので、ボクの方が押し返されます。


 それを利用して体勢を変えつつ、自分の体の軌道を変えてレィナちゃんの背後に回り込み、そのままレィナちゃんの背中に剣を打ち込みます。


 その反動で、レィナちゃんの後方に跳び着地しました。




「勝負あり! 勝者!ルル」


 審判がボクの勝ちを宣言しました。


「あーもう!やっぱり追いつけない!」


 レィナちゃんは悔しそうです。


「あたしもかなり成長したと思うんだけど、いつもあと一歩届かないわね!」


「うん、でもボクが立ち止まったらレィナちゃん怒るでしょう?」


「当たり前じゃない!あんたはもっともっと強くなりなさい!それを追い越すのがあたしの目標なんだから、立ち止まったら許さないわよ!」


「はい、がんばります」



 試合には勝ったけど、レィナちゃんに、ボクは勝てない気がします。


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