17話 彼氏と家族
「ソラ君の家もこっちなの?」
学院が終わって、ボクとレィナちゃんとお父さんが歩いて家に帰っていると、ソラ君も一緒に付いてきました。
「いや、オレは学院の寮に住んでる」
学院には国中から生徒が集まって来ています。
生徒の9割は寮暮らしです。
「じゃあ、反対方向じゃない。なんでついて来てるのよ?」
レィナちゃんのいう通り、寮は学院の敷地の裏手に隣接しているのです。
「ルルの家に行こうと思ってな」
「なんでよ?」
「オレとルルは付き合ってるんだ。家に行ってもおかしくねえだろ?」
「はい、お母さんはいつ誰が来ても歓迎しますから問題ないですよ」
「じゃあ、また明日ね」
レィナちゃんとは家の前で別れました。
「ただいま」
「「「「「おかえりなさいませ、ジオ様、ルル様」」」」」
家に帰るとメイドさんたちが出迎えて入れました。
「わ!何だこりゃ?」
いつもの事なんだけど、ソラ君、この状況にびっくりしています。
「おかえり!ルル!」
お母さんが駆けて来て、ボクの頬にキスをしました。
「おかえりなさい!ジオ!」
「まて!ララ」
そして、お父さんが止めるのも聞かずに、お父さんに抱きつき、メガネを取って、くちびるにキスをしました。
「・・・親子で何やってんだ?お前ら」
・・・そうです、今日はソラ君がいるのです。
お母さんからはボクの陰に隠れて見えなかったみたいです。
「えっ!ソラ君!?いたの!」
お母さんは真っ赤になって慌てています。
お父さんは頭を抱えて、ため息をついていました。
「よそんちの事情は知らねえが、早く子離れした方がいいぞ」
ソラ君、割とどうでもいいみたいでした。
「お前、そんな顔だったんだな?ルルにそっくりだな」
そういえばソラ君はお父さんのメガネを取った素顔をはじめて見たのでした。
「早く母親から自立しねえと、あの気の強い彼女に振られちまうぞ」
ソラ君、お父さんとレィナちゃんが付き合ってると思ってるのでしょうか?
「彼女じゃない」
「まあいいや。おい、『剣聖』オレと・・・」
「ソラ君!いらっしゃい!丁度おやつにシフォンケーキ作ったとこなの!食べていって!」
「ちょっと待て!オレは・・・」
「いいからいいから!さっ、席に着いて、今お茶を入れるね!」
お母さんはソラ君を強引にリビングに連れて行きました。
こういう時のお母さんには誰も逆らえないです。
「ボクは着替えて来るね」
ボクはとりあえず自分の部屋に戻って私服に着替えました。
着替え終わってリビングに行くと、お母さんがソラ君の隣に座って何やら質問攻めにしていた様です。
「二人揃ったところで改めまして」
お母さんが軽く咳ばらいをしました。
「お付き合い始めたんですって!二人とも!」
お母さん、目が爛々と輝いています。
「で、ソラ君はルルのどこが気に入ったの?やっぱり顔?顔よね?この顔は好きになっちゃうよね?わかるわ!」
お母さん、返事する隙を与えないと、ソラ君がしゃべれないと思います。
「剣を交えて確信した。こいつはオレの運命のつがいだ!」
「まあ!運命だって!ルル!あなたも運命を感じた?」
「ボクは、運命とかよくわからないですけど、剣を通して気持ちが繋がったのは感じました」
「それが運命だろ?普通そういう感覚って無いからな」
「うん!わかるわかる!私とジオも剣を打ち合ってる時が一番気持ちが通じるもの!」
「お前ら親子、どういう関係なんだ?」
・・・お母さん、本当に隠す気あるのでしょうか?
「さあ、シフォンケーキ食べてみて!紅茶もどうぞ!」
「ああ、頂くとしよう」
ソラ君がシフォンケーキを一口食べました。
ボクも食べてみます。
ふわふわのケーキにクリームとジャムがのっています。
ジャムはお母さんの特製のあんずジャムですね。
「うまっ!何だこれ!こんなふわふわの食べ物、食った事ねえぞ!」
ソラ君、すごい感動しています。
「こんなに甘いのにあっさりしてるな!いくらでも食べられそうだ!」
クリームの甘さとあんずのジャムの酸味が絶妙なバランスです。
一見シンプルなデザートですが、ケーキの生地もクリームもジャムもお母さんの特製で、高級レストラン以上の仕上がりなのです。
さすがお母さんです。
「たくさんあるからおかわりもどうぞ!」
「お前ら、いつもこんなうまいもん食ってるのか?」
「はい、お母さんの作るお菓子はどれもおいしいですから」
「ソラ君、良かったら夕食も食べていく?」
「いいのか?」
「もちろん!じゃあ今夜は腕によりをかけてごちそうを作るね!」
お母さん、こういう時はすごいやる気を出します。
その後、夕食ができるまで時間があるので、ソラ君に屋敷の中を案内しました。
「ここで朝晩、剣の練習をしてるんですよ」
一通り案内した後、中庭を紹介しました。
「家にこんな練習場があるのか!早速打ち合いやろうぜ!」
「えっ?今からですか?」
「晩飯が出来るまで待ってなきゃいけねえんだろ?ちょうどいいじゃねえか」
ソラ君はわくわくした顔で誘ってきます。
そんな顔されると断り辛いです。
「わかりました。夕食が出来るまでですよ」
ボクとソラ君は、剣の打ち合いを始めました。
ソラ君は、打ち合いをやる度に腕が上がっていきます。
それについて行っているボクも、確実に上達しているのでしょう。
夢中で打ち合いをしている内に、食事の用意が出来たようです。
テーブルには肉料理を中心とした豪華なメニューが並んでいます。
「さあ、召し上がれ!」
「うわ!何だこれ!こんな旨い肉、初めて食ったぞ!」
「良かったら他の料理も食べてみて!」
「こっちの料理もめちゃくちゃ旨いな!」
「お母さんの料理は全部おいしいんですよ」
「確かに!どれもこれも今まで食った中で一番うめえ!」
お母さんの料理は、すっかりソラ君の胃袋を掴んだ様です。
「また食いに来てもいいか?」
「ええ、いつでもどうぞ!」
その日から、ソラ君は時々わが家でご飯を食べるようになりました。