13話 少女と少年の剣
あの後、レィナちゃんは、今まで以上に剣の練習に打ち込むようになりました。
当然、ボクはその練習に付き合わされます。
時々、こっそり王都の外に出て、魔物と戦ったりもしました。
親たちに見つからない様にしていたつもりでしたが、どうやらばれていて、お父さんがこっそり後をつけて来ていたみたいでしたが・・・
さすがに中級の魔物とはあれから遭遇しませんでしたが、下級の魔物なら二人で倒せるくらいには強くなっていました。
あれからボクの両親とレィナちゃんの両親で、レィナちゃんにきちんと事情を説明しました。
レィナちゃんはずっと無反応で聞いていました。
そして、全てを聞き終わった後に、こう言いました。
「話は分かったわ。でもあたしとジオはこれからも友達よ!べつに問題ないわよね?」
確かに、本当の歳が離れていても友達になれない訳じゃありません。
「ああ、別に問題ない」
お父さんは、そう答えました。
「じゃあ、今までと何も変わらないわ」
そうして、ボクたち三人はその後も友達として過ごしてきたのです。
今日は剣術講座の日です。
講師はお母さんではありませんでした。
講師の先生に、生徒同士で模擬戦をやるように言われました。
先生が指名した組み合わせで模擬戦を行います。
レィナちゃんとソラ君が指名されました。
「オレは強いやつとしか戦わない」
「気が合うわね。あたしもよ」
「ふん!一瞬で終わらせる」
「こっちのセリフよ!」
なぜかすごい険悪なムードになっています。
ソラ君は独特な剣を使うという事で、ソラ君の『刀』と同じ形状の練習用の剣を用意してもらっています。
お母さんが工房に依頼して特別に作って貰ったそうです。
レィナちゃんは大人が使うような大きなロングソードを手にしています。
「では、始め!」
ソラ君は剣を鞘に納めたままの独特の構えです。
レィナちゃんは大きなロングソードを頭の上に高く構えています。
胴体がガラ空きの、一見、隙だらけの構えです。
「どうしたの?仕掛けて来ないの?」
レィナちゃんの構えは、接近する相手を圧倒的な力で上からたたき伏せる構えです。
実力が及ばない者が仕掛ければ一瞬で勝負がつきます。
逆にいえば、自分の実力に相当な自信が無いと、この構えは出来ません。
「面白れぇ!打ち破ってやる」
ソラ君が動きました!
ソラ君の剣技は、相手に高速で接近し、直前で鞘から剣を抜き、その勢いも乗せて一撃で相手を切り裂く技です。
ソラ君は一瞬、姿が消えた様に見えました。
ボクにはかろうじて動きを追いかける事が出来ました。
ソラ君がレィナちゃんに接近し、剣の柄に手をかけます。
それと同時にレィナちゃんはロングソードを振り下ろします。
大きくて重たいロングソードが、女の子が振ってると思えなくらいの高速で振り下ろされます。
レィナちゃんの懐にソラ君が飛び込むタイミングと完全に一致しています。
このままいくとソラ君はレィナちゃんのロングソードに叩き潰されてしまいます。
しかしソラ君は直前で進路を左にずらし、鞘から高速で抜いた剣で、レィナちゃんのロングソードを横からたたきつけ、その反動で自身を横に移動させ、レィナちゃんとすれ違って距離を取り、剣を再び鞘に戻して構えていました。
レィナちゃんも振り下ろしたロングソードを地面にあたる直前で停止させ、ソラ君の方を振り向きつつ、再びロングソードを頭の上に高く構えていました。
「よく今の攻撃を躱したわね」
「お前こそ、オレの打ち込みにタイミングを合わせて来るとはな。だが、次は無い」
二人の構えはどちらも一撃必殺の構えです。
一撃で倒せなかった場合には大きな隙ができる事になります。
ソラ君の姿が再び消えました。
レィナちゃんはさっきと同じ様にロングソードを振り下ろします。
その真下には、丁度ソラ君が踏み込んでくるところです。
そのまま、ソラ君を切り伏せるタイミングでしたが、直前でソラ君の姿が消えました!
さっきよりも速く、ボクも一瞬見失いました。
そして次の瞬間にはもうソラ君はレィナちゃんの真後ろにいて、背後から剣を抜きレィナちゃんに切りつけます。
レィナちゃんのロングソードは今から振り直しても間に合いません。
レィナちゃんはソラ君の剣の進路からそのまま遠ざかる方向に身体強化で加速して、躱そうとしますが、ロングソードの重さで、加速が半減してしまい、このままでは回避が間に合いません。
レィナちゃんは咄嗟にロングソードを放し、ソラ君の剣を回避します。
でも剣を落としてしまったら、その時点で負けになってしまいます。
ところが、レィナちゃんはソラ君の剣を躱してやり過ごしたところで。再び逆方向に加速し、落下する前に剣を掴み直しました。
そしてそのまま、ソラ君の背後に切りつけます。
剣を振り抜いて、がら空きのソラ君の背中にレィナちゃんのロングソードが迫ります。
しかし、ソラ君はそれを読んでいた様です。
振り抜いた剣の勢いを殺さず、そのまま体を回転させて。ロングソードの追撃を躱すと同時にレィナちゃんの側面から次の攻撃を入れました。
レィナちゃんのロングソードは側面から叩きつけられました。
しかし、レィナちゃんはそれを受け止め、ソラ君の剣の剣速を殺します。
レィナちゃんもこれを予測して、剣を打ち付けられる瞬間に、身体強化を最大まで高めて、衝撃を受け止めたのです。
ソラ君は、その反動で後ろに跳んで距離を取り、剣を鞘に納めて構えを取ります。
「そこまで!」
先生の掛け声で模擬戦は終了となりました。
・・・でも・・・今のソラ君の技は・・・
まるでお母さんの剣技を見ている様でした。
 




