11話 湖の魔物
レィナちゃんが向かったのは、きっとあの、森の中にあった湖だと思います。
あの後、結局親にばれて(最初から親もいっしょだったのですが)その後、この森にみんなでピクニックに来る事は無くなりました。
そしてボクはその後、お母さんから聞かされたのです。
双子の兄弟だと思っていたジオが、実はボクのお父さんだという事。
訳あって子供の体になってしまったけれど、本当は大人で、本物の勇者である事を。
最初は何を言われているのか理解できませんでした。
でも、その日から家では、ジオはお父さんとしてボクに接する様になったのです。
だけど、家の外では今まで通り、双子の兄弟という事になっていたので、レィナちゃんにもこの事は秘密でした。
レィナちゃんは、その後もジオとは普通に幼馴染として過ごしてきました。
ボクは森の中を走り続けました。
もうすぐ森を抜けて、あの湖の場所に着きます。
すると、前方から剣戟と魔物の咆哮が聞こえてきました。
レィナちゃんが魔物に襲われているのかもしれません!
ボクは速度を上げて、音のする方に急ぎました。
やがて前方の森が開けて湖が見えてきました。
レィナちゃんの姿も見えます。
良かった、無事でした。
・・・でも大丈夫とは言えません。
レィナちゃんは5体の『小鬼』に囲まれていました。
小鬼に湖の水際まで追い詰められています。
とにかく、小鬼を何とかしないと!
ボクは剣を鞘から抜き、重心を落としてさらに速度を上げ、一番手前の小鬼に向かいました。
そして、背後から、水平に小鬼の胴体に切りつけ、そのまま思いっきり水平に振り抜きました。
いつもお母さんと練習している時の間合いです。
・・・お母さんには簡単に躱されてしまいますが・・・
しかし、小鬼は・・・きれいに上下に分断されて、そのまま地面に崩れていきました。
・・・初めて・・・魔物を剣で切りました。
刃が、肉を切り裂く感触が手のひらから伝わり、背筋がぞくっとしました。
「ルル!」
「レィナちゃん!大丈夫?」
残りの小鬼は一斉にボクの方に振り向きました。
ボクの近くにいた2体がこちらに向かってきます。
小鬼がボクの方を向いたその隙に、レィナちゃんは、残りの小鬼の一体の胴に、背中から剣を突き刺しました。
そしてそのまま、横に切り裂きます。
小鬼は胴体がぱっくり裂けて、倒れ込みました。
ボクの方も迫って来た小鬼のうち、近くにいた方の爪を剣で弾き、そのまま、剣を回して、背中から袈裟懸けに切りつけます。
魔物を切り裂くときの感触は、やはり気色が悪いですが、そんな事は言っていられません。
ちょうど、心臓とみぞおちの間を切り裂いて。小鬼は動かなくなりました。
小鬼は残り2体です。
それぞれ、レィナちゃんとボクに向かってきています。
レィナちゃんは剣を真上に高く掲げ、小鬼に向かっていきます。
ボクはもう一体の小鬼の背後に回り込むように移動していきます。
レィナちゃんは、小鬼に向かって踏み込み、小鬼の頭上から思いっきり剣を振り下ろしました。
ボクは背後に回り込んで、小鬼が振り返るより早く、背後から胴を水平に切り裂きます。
それぞれ同時に小鬼を倒して、小鬼は全て沈黙しました。
「ルル、どうしてここに?」
「レィナちゃんを見かけて・・・様子が変だったから心配になって追いかけてきたんだよ」
「余計なお世話よ!・・・と言いたいところだけど、助かったわ・・・ありがと」
「・・・レィナちゃん、何があったの?」
泣いていたのを見た事は言わない方がいいのかな?
でも、さっきよりも泣きはらした様な目をしています。
きっと・・・今までここで泣いていたんだと思います。
「・・・何でもないわ!・・・もういいわ、帰りましょ!」
レィナちゃんが湖の方からボクの方に歩き始めた時です。
湖の水面が急に大きく波打ち始めました。
そして、水面が盛り上がり、そこから巨大な蛇の様な魔物が現れたのです!
体は蛇の様ですが、頭は魚の様でひれとえらの様な物があります。
でも口の中には獣の様な鋭い牙が生えていました。
「レィナちゃん!逃げて!」
レィナちゃんがボクの方に走ろうとした時、巨大な蛇の口から何かが飛んできました。
それはボクとレィナちゃんの間に落ちて、地面から煙が上がりました!
何かの液体ですが、当たったところの地面が溶けています。
多分触ったらボクたちも溶けてしまいます!
「何よ!これ!」
進路をふさがれたレィナちゃんは別の方向に走ろうとしました。
でも魔物はその方向にも液体を飛ばしててきました。
「レィナちゃん!その液体をよけて!」
「わかってるわ!」
でも、蛇の様な魔物はレィナちゃんを逃がすつもりはない様です。
頭を近づけつつ、液体を飛ばしてレィナちゃんの進路を塞いできます。
このままだとレィナちゃんが食べられてしまいます!
「熱っ!」
レィナちゃんは近くに落ちた液体の飛沫を避けきれずに浴びてしまった様です。
飛沫が当たった部分の服が溶けて、肌が火傷みたいになっています。
何とかしないとレィナちゃんが危ないです!
ボクはレィナちゃんの反対側に回り込み、石を拾って魔物に投げつけました。
魔物は、ボクの方を見ました。
こちらに頭を近づけてきます。
でも、この隙にレィナちゃんが逃げられるはずです。
ボクは、魔物が飛ばす液体を避けつつ、後ろに下がって魔物をおびき寄せます。
レィナちゃんが逃げ切ったら、ボクも逃げるつもりです。
ところが、レィナちゃんは逃げていませんでした!
「あなたの相手はあたしよ!」
魔物の頭がボクの方を向いたところで、魔物の体に剣で切りつけたのです。
・・・しかし、レィナちゃんの剣は、魔物の鱗の様な皮膚に弾かれて、傷をつける事は出来ませんでした。
魔物は振り返り、レィナちゃんに液体を飛ばしました。
「あああああっ!」
レィナちゃんはかろうじて液体の直撃は避けましたが、かなりの量の飛沫を全身に浴びてしまいました!
服は溶けてぼろぼろになり、全身の皮膚がひどい火傷みたいになっています。
レィナちゃんはぐったりして、立ち上がれなくなってしまいました。
「レィナちゃん!」
魔物は動かなくなったレィナちゃんに襲い掛かろうと口を開けて迫っています。
ボクはどうすればレィナちゃんを助けられるか考えました。
でも今のボクにあるのは、この一本の剣だけです。
ボクに出来る事と言ったら、この剣で魔物に切りつけて、こちらに注意を引く事だけです。
ボクもレィナちゃんと同じ様にやられてしまうだけかもしれません。
だけど、大好きなレィナちゃんを見捨てて、一人だけ逃げる訳にはいきません!
ボクは、剣を構え、魔物目がけて踏み出そうとしました。
「上出来だ。ルル」
聞きなれた声が、耳元で聞こえました。
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