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1話 勇者と魔女の子

【勇者の弟子はお嫁さんになりたい!】の次世代の話です。

ネタバレを含みますので未読の方は第一部のエピローグまで読んでからこのお話を読む事をおすすめします。

 ボクのお父さんは『勇者』です。


 『勇者』というのは、この世界を守っている、世界で一番強い人です。


 でもお父さんが『勇者』って事はみんなには秘密です。


 お父さんは、なぜかボクと同い年です。


 表向きはボクとお父さんは双子っていう事になっていて、同級生として一緒に学校に通っています。


 だからお父さんが『お父さん』って事も秘密なんです。




 ボクのお母さんは『魔女』です。


 『魔女』っていうのは実在するかどうかわからないと言われている、伝説上のすごい魔法使いです。


 でも、お母さんが、『魔女』っていう事はみんなには秘密です。


 『魔女』の事は詳しく教えてくれないけれど、ボクには素敵な魔法を見せてくれます。


 世間ではお母さんが『勇者』っていう事になっています。

 だけど本物の『勇者』はお父さんだから、お母さんは本当の『勇者』じゃありません。


 お母さんが、本当は『勇者』じゃないって事も秘密です。




 

 お父さんもお母さんも秘密がいっぱいで、隠すのが大変です。




 勇者と魔女の間に生まれたなんて、すごい子供だと思うかもしれませんが、ボクは魔法も使えない、ごく普通の子供です。




 でも・・・・・ボクにも一つ、秘密があります。






 今日は学院の入学式です。




「ルル!ジオ!準備はできた?」


 お母さんが呼んでいます。




 お母さんは16歳でボクを産んだから今28歳のはずなんだけど・・・

 見た目は今でも16歳くらいにしか見えない、若くてきれいなお母さんです。




「俺の方はいつでもいいぞ」


 お父さんは学院の制服を着て、身支度を整え終わっていました。


「ジオ!素敵です!」


「なあ?どうして俺まで学院に入らないといけないんだ」

「それはもちろん!私が学生姿のジオを見たいから・・・っん、んんっ、いえ、ルル一人では不安だから、一緒にいて欲しいんです」

「今一瞬本音が出なかったか?」

「違います!・・・ルルはちょっと訳ありですし、いざという時ジオがそばにいた方が安心です」

「それはそうなんだが」



 両親のそんな話が聞こえてくる中、ボクは自分の寝ぐせと格闘しているところです。


「お母さん、寝ぐせなおして」


 ボクは諦めてお母さんにお願いする事にしました。


「あらあら大変、私に任せて!」


 お母さんが手をかざすと、あんなに苦労した寝癖が一瞬でまっすぐになりました。

 お母さんは『魔女』なので、いろいろ不思議な事が出来るんです。


「はい!できたよ。ルルは今日も可愛いね!」


「えへへ、ありがとう、お母さん」




 鏡の前には腰まであるつややかやなストレートの黒髪に、金色の瞳の美少女が映っていました。




 そう、ボクは女の子の恰好をしています。




 ・・・というか、ボク自身は女の子のつもりなんだけど・・・


 なぜかボクは男の子の体で生まれてきてしまったのです。




 両親は、最初はボクの事を男の子として育てていたんです。


 だけど、いつも一緒に遊んでいる仲良しのレィナちゃんがかわいい服を着てるのを見て、ボクはいつも羨ましいなって思ってたんです。


 ある日、ボクもレィナちゃんみたいなかわいい恰好がしたいなって言ったら、お母さんは大喜びでボクにかわいらしい服を用意してくれました。


 髪の毛も長く伸ばしたいって言ったら、お母さんはそれはそれは大喜びで、可愛い髪形にしてくれました。


 ボクはお母さんが喜んでくれるのが嬉しくって毎日かわいらしい格好をして過ごしました。


 ボクもその方が落ち着くし、鏡で自分のかわいい姿を見るのが大好きだったので、ずっとこのままでいいと思ってました。



 でも、ある日、お父さんがお母さんに言ったのです。


「ルルにいつまで女の子の恰好をさせるつもりなんだ?」


 どうやら、ボクはずっと女の子の恰好をしていていては、いけなかったみたいなのでした。


 お母さんがボクに聞きました。


「ルルは女の子の恰好の方が好きなの?」


 ボクは考えました。


 髪の毛を短く切って、男の子の服を着なくてはいけないと考えると悲しくなってします。


「男の子の恰好するは嫌です。どうしてこのままじゃダメなんですか?」




 お父さんとお母さんは一瞬困った顔をしましたが、お父さんは優しい顔に戻って、ボクを見つめてこう言いました。



「ルルは女の子なのか?」



 ボクは一瞬戸惑いましたが、無言でうなずきました。



「ならそのままでいい」


 お父さんは優しい笑顔でそう言って、頭にやさしくぽんぽんと手をのせました。


 お母さんもやさしく微笑んでボクをぎゅっと抱きしめてくれました。



 それからボクは、女の子として扱われるようになったのです。




「じゃあ、私は先に行ってるね!」


 お母さんはお父さんにキスをしてから出かけて行きました。

 学院の先生をやってるお母さんは、入学式の準備があるので先に家を出たのです。


 お父さんとお母さんは仲が良くて、一日に何度もキスをしています。


 最近やっとお父さんの身長がお母さんに追いついて、お母さんが屈まなくてもキスが出来るようになったみたいです。


 お父さんとお母さんの仲がいいところを見ると、ボクも嬉しくなります。



「ルル、俺達もそろそろ行くぞ」

「はい、お父さん」


「・・・お父さんじゃない」


「はい、お兄ちゃん」


 そう、家から一歩でると、ボクとお父さんは双子の兄妹って事になってます。



 実際にお母さんのお腹から一緒に生まれてきたんです。



 ・・・どうしてお父さんがお母さんのお腹から生まれて来たのかというと・・・


 昔の大きな戦いで、お父さんは肉体を失ってしまったそうです。

 でも、お父さんに死んでほしくなかったお母さんは、自分のお腹の中に新しくお父さんの体を作ったそうなんです。


 どういう事かボクにはいまだに理解できていないのですが、お父さんはそのおかげで、今でもこうやって生きているのだそうです。


 本当はボクの方がちょっとだけ先に生まれてきたので『姉弟』という事になるのですが、『お父さん』と『弟』を使い分けるより『お父さん』と『お兄ちゃん』を使い分ける方が間違えにくいので、お父さんには『弟』ではなく『お兄ちゃん』になってもらいました。


 だから外では、お父さんを呼ぶときは、『お兄ちゃん』か『ジオ』になります。



「お兄ちゃん、口紅ついてますよ」


 ボクはお父さんの口を拭ってあげました。


「すまない、ルル、ありがとう」




 家から学院はそれほど遠くありません。

 家から少し歩くと城門があり、城門をくぐると学院の敷地が見えてきます。



「おっはよー!ルル!ジオ!」


 城門のところで幼馴染のレィナちゃんが追いかけてきました。

 レィナちゃんは物心ついた頃から一緒の、大の仲良しの幼馴染です。

 真っ赤なロングヘアーに赤い瞳の、まさに燃え上がるような美人さんです。


「おっ!ルルってば今日も美人だねぇ!」

「レィナちゃんだってきれいですよ」

「でもやっぱりジオのイケメン度は半端ないよね!学院に行ったら女子たちの注目を集めて大変な事になるよ!」


 レィナちゃんは、ちょっとうっとりした目つきでお父さんの顔を眺めています。


「ああ、メガネかけるの忘れてた」


 お父さんはやぼったい感じの丸縁メガネをかけました。

 あまり整えていなかった頭髪もわざとボサボサにしました。

 姿勢もちょっと猫背気味にしています。


「ええー!もったいないじゃない!」

「女子に好かれても断るのが面倒なだけだ」

「学院でジオのかっこいい姿が見られないのはつまんないよ!」

 

 レィナちゃんはお父さんの正体を知ってるのだけど、普通にため口で会話します。


 小さい頃は知らずに、いつも三人で一緒に一緒に遊んでいました。

 レィナちゃんは、その頃と何も変わりません。

 レィナちゃんにとっては、お父さんは今でも幼馴染の男の子なのです。


 よく子供達だけで遊びに行ってましたが、実はお父さんがボク達のお守りをしてたんですね。


 レィナちゃんはわりと無鉄砲なので、やんちゃな遊びをけっこうやってました。

 レィナちゃんが危ない目に会いそうな時は、いつもお父さんがレィナちゃんを助けてあげていたんです。


 お父さんは小さい頃から勇者の力を使って普通に人助けをしていました。


 ・・・まあ、お父さんは体が小さくなっただけで、ほんとは大人なんだけど。


 でも・・・実はレィナちゃんはお父さんに助けてもらいたくって、わざと危ない事をやってたのかもしれません。


 ・・・レィナちゃんは、お父さんの事を好きなんじゃないかな?って思う事があります。


 それって大丈夫なのかなって、ドキドキしてしまいます。




「まあいいわ!ジオがイケメンだって知ってるのはあたし達だけの特権って事で!」


「さあ、早く学院に行きましょう!」


 レィナちゃんは元気よく走りだしました。


「待ってよ!レィナちゃん!」



 ボクとお父さんも一緒にレィナちゃんを追いかけました。


週1~2話の不定期投稿の予定です。

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