マグネットウォーリアーズ サイド・ストーリー
DDDコミックスシネマティックユニバースノベライズシリーズ!
それは戦争のために生み出された兵器たちの記憶。
大戦初期のメモリーにアクセス。
無人輸送機は自動運転で激戦の最前線に向かう。機内には揃いの軍服を着た少年少女の外見をした人形たちが武装して並んでいた。彼らは人形のため瞬き一つしない。会話をすることもない。
戦場で人を殺すために造られたアンドロイド、マグネットウォーリアーズ。彼らは軍事産業が利権を巡って生産した商品、兵器に過ぎない。戦場の敵兵士達が油断するように心理的作用を考慮して容姿端麗な少年少女の外見に細かく作り込まれている。彼らは自分達のモデルになった人間を知らない。知る必要もない。開発者の死んだ子供をモデルにしたという説もあるが定かではない。どこの世界に我が子と同じ姿をしたモノが何度も何度も破壊されるのを見たい親がいるだろうかと思う者もいた。だがそういう屈折した愛の形があるのが人間という生き物か。
無人輸送機は激戦区上空を通過しようとしている。それに合わせてハッチが開いた。
地上からの対空砲の攻撃、激しい炸裂弾の衝撃に無人輸送機の機体は大きく傾く。
少年少女の姿をしたマグネットウォーリアーズは無表情のまま地上へと降下していく。1人、また1人と機内から減っていくが、まだ数体を残して無人輸送機は砲撃の直撃を受けて爆発、大破し墜落した。
識別ナンバー、エコーワンと呼ばれていた少年タイプの個体の目に映ったのは燃える機体の中で取り残された仲間達の姿だった。彼らは人工知能搭載機だが、感情のような余計な機能はない。だが何故だろう? 仲間の消失はとても空虚な意識として処理された。データとして数値化できないそれが、悲しみという人間の感情に近いだなどとは彼にはわからなかった。
パラシュート降下する無数のマグネットウォーリアーズ。対空砲撃に被弾して散っていく仲間もいた。
少年少女の姿をした戦闘マシーンが上空から地上の敵部隊を狙撃する。エコーワンも静かに正確に、機関銃の引き金を引いた。
エコーワンがあと少しで被弾するという瞬間に、同型機の同じ姿をしたエコーツーが身代わりの盾になるように前に出た。
(何故?)
エコーワンには理解できなかった。だが体は爆散し、首だけになったエコーツーは笑っていた、ように見えた。表情なんて無駄な機能はないはずなのに。
地上の敵部隊はすぐそこまで迫っている。
パラシュートを外し、銃撃戦の真っ只中に放り込まれるマグネットウォーリアーズ。エコーワンも機体の残骸を壁代わりにして敵を狙撃する。
第十三機械化重装歩兵大隊、それが敵部隊の呼称だった。サイボーグやロボットで構成される百戦錬磨の殺戮マシーン達が目の前に迫る。戦場でその強さを知るのにそう時間はかからなかった。高性能な小型追尾ミサイル、高火力と速射性に優れたガトリングガン、ハイテク兵器の数々、容赦ない攻撃がマグネットウォーリアーズに襲いかかる。
一方で少年少女のアンドロイド、マグネットウォーリアーズの最大の武器は手足に装備された強力な磁力を応用した高い機動力だった。銃弾を掻い潜りながら敵部隊に接近し、銃撃戦のみならずナイフによる格闘戦も仕掛けた。
エコーワンも任務を全うするために戦っていた。何のために? 誰のために? そんな疑問は機械の人形である彼には許されなかった。
やがて一発の貫通弾が彼の体を貫いた。倒れたエコーワンの上を跨いで、敵の巨大なロボットが仲間達を破壊し蹂躙した。
無謀な作戦だった。得た戦果よりもあきらかに損耗率の方が高いのは一目でわかる。もしも人間ならば致命傷だったのは違いない。だがマグネットウォーリアーズには大きなダメージではあるがまだ起動している。
(動く限り戦い続ける)
エコーワンはほふく前進するが、次の敵の攻撃が、目の前で炸裂した手榴弾が彼を吹き飛ばした。
瓦礫の山の中でメイン電源が切れて、辛うじて予備電源で戦闘記録だけを継続する彼を見つけたのは、あたりに煙が発ち、埃が舞う血みどろの戦場が到底似合わないスーツ姿の黒人の女だった。
彼女はエコーワンを拾い上げると、「まだ使えそうなのがいるじゃない?」と言った。
エコーワンの眼のレンズに映る彼女は、まるで黒い天使だった。
「お前にはもう一度チャンスをやろう。今度は簡単には壊れない体だ。お前が私の命令だけに従うなら、な」
エコーワンの眼からオイルがツーッと線を描いた。まるで少年が涙を流すように。
メモリーの記録はここで終わっている。
端整な容姿の男は過去を思い返していた。まだ今の自分になる前の記録だ。
彼のドッグタグには『エコーワン』と彫られていた。
人気シリーズとして展開できたら良いな、と思っています。
よろしくお願いします!