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刺された。

作者: 加上鈴子

 中学時代、友達が膝を掻いていた時のことが忘れられないでいる。ご丁寧に包帯までしているので何事かと聞いてみたら、蚊に刺されたのだと言う話だった。

「大袈裟な」

 笑ったら、じゃあ見てみる? と凄まれ、ひるんだ。彼女の目つきが真剣だったから。咄嗟に、包帯の中を見たくないと感じたのだ。

 気を取り直して、友達が言う。

「襖に止まったからさぁ、えいって叩いたらヒットしたの。でも、もう刺された後で、襖には血がついちゃってさ」

 軽い口調にはなったが、目つきが変わっていなかった。家に来るかと問われたので、これも丁重に辞退した。残念と笑う彼女の目は、やっぱり笑っていない。

「これ3日前の話なんだけどさ、昨日やっと襖の染みが広がってることに気がついてさ。刺された後だった私の膝も、ちょっと大変なことになってきてさ」

 どうしよう、話せば話すほど彼女の様子がおかしい。っていうか、さらっと言ってるけど襖の染みが広がってるなんて、ありえない。こすったから、とかいう、そんな理由ではなさそうだ。どうして、とも訊けない。彼女の目つきがおかしい。逃げたい。でも逃げたら、背中を見せたら何かされそうで目が放せない。

 やっと鳴った5時間目開始のチャイムが、教会の鐘にも感じられた。彼女がじゃあねと自発的に去ってくれるまで、一生懸命見ていた。彼女の背中に手を振る私の顔は、笑顔で凝り固まっていた。放課後は、速攻で逃げた。

 翌日から、友達は不登校になった。先生が様子を見に行ったらしいが、家には誰もいなかったらしい。夜逃げだと囁かれたものだったが、私だけは違う理由で空き家になったんだと感じている。もちろん、そんなこと誰にも言わないけれど。友達の家には絶対に近づかないけれど、今じゃ幽霊屋敷という、もっぱらの噂だ。

 思い出される感情は、彼女の膝だけでも見てみれば良かったかなという厄介な好奇心だが、それはきっと、見なくて正解だったのだ。と自分に言い聞かせている。

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― 新着の感想 ―
[一言] 超短編特有の、説明の足りない不可解な感じでとてもいいと思います。 季節的にも、蚊の姿をチラホラ見始めているし、吸血後の蚊を殺すと確かに血の染みが広がるなというリアリティも「怖さ」に拍車をかけ…
[一言] 蚊の怨念、という訳ではないですよね。
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