十三.ショッピング
叔母さんが例のオープンカーを飛ばして連れて行ってくれたのは大型のショッピングモールだった。田舎の安い土地をふんだんに使いました、と言わんばかりのそこはちょっとした団地のようで、駐車場だけでも豪華な家が何軒も立てられそうだ。
「さて、どうしようか。映画の時間も何も見ておらんかった」
着いて早々、叔母さんがぽりぽりと後ろ頭を掻いた。あのノリに突き動かされて、本当にノープランで動いていたらしい。
「移動中に調べてみたんですけど……この後だと十二時半からやりますよ。その後は三時、六時、八時半って感じです」
「へーえ、結構やってるんだね。帰りのことを考えると十二時半か三時ってところか」
「じゃあ早めにお昼食べましょうよォ。今十時半だから、一時間ショッピングして、十二時までにお昼を食べて、その後映画館に入ればいいんじゃない?」
「賢い!ナッちゃんもそれでいいかい」
「はい、大丈夫ですよ」
「キャーッやったァ!ナッちゃん、一緒にお洋服見に行こォ!」
コチョウさんはパッと駆け出し、少し離れたところで早く早くー、とぴょんぴょん跳ねた。まるでウサギのようだ。その光景を女の人が奇異の目で、男の人がうっとりした顔で見ているのが、面白いような恥ずかしいような気持ちにさせた。
「あきらめな、ああなったら止められない」
叔母さんが苦笑しながらポン、と背中を叩いた。
「こうなったらコチョウの着せ替え人形になるしかないんだ。ごめんね」
「あ、いえ……」
きっとこの人も苦労したのだろう。本当は嫌な予感しかしなかったけれど、叔母さんの顔を見てしまったらそう言うしかなかった。
ショッピングモールの中は震えるほど涼しかった。長い廊下を挟むように、靴や服、アクセサリーに生活雑貨、様々なショップが並んでいるのに、肝心の客がまばらにしか歩いていないのがさらに寒々しく見える。それでもコチョウさんは遊園地に初めて来た子供のように、目をキラキラ輝かせながら辺りを見回していた。
「ナッちゃんの服っていつも黒いのばっかりだから、それが結構気になってたの。ナッちゃんって肌が結構黒めなのに、それで黒系着たらもっと暗ァくなっちゃうから……」
コチョウさんは軽やかな足取りでとある店へと入っていった。そこはゆるふわ自然派、とでもいうのか、日本人好みのナチュラルなデザインを取りそろえたアパレル店だった。そこに銀髪の外国人風の人がいるのだから、当然周囲の目はコチョウさんに集まる。それに気づいていないのか、気づいても無視できる人なのか、コチョウさんは一枚のシャツを手にしてこっちを向いた。
「ほら!こういうの!レディース品だけどユニセックスなデザインだから、ナッちゃんにもきっと似合うワ」
「れ、レディース……ですか」
「そ。レディースって腰のあたりがキュッとなるデザインが多いから、ナッちゃんみたいに華奢な子はかえっておしゃれに見えるの。むしろメンズのトップスはいかつすぎてダメね。ジャケットまでレディースにするのは考え物だけど、せめてユニセックスがいいと思うワ。ナッちゃんの身長ならトップスの丈は短めかレイヤードにして……」
いつものしなだれかかるような喋り方から一転、コチョウさんはファッション理論をペラペラ話しながら服を手に取り、こちらにポンポンと投げ寄越してきた。これでは店員さんに迷惑じゃ、と思って横目でちらりとうかがったけれど、なぜかコチョウさんの話をフムフムと頷きながら聞いている。嘘みたいだ。
一通り店内を見回ってから、コチョウさんは服を全部叔母さんに持たせ、その中の二枚をこちらに押し付けた。
「まずはこのセット。かっこよく変身できるはずだから、ネ?」
「は、はあ……」
戸惑いを隠しきれないまま、粛々と試着室に入る。改めてコチョウさんの選んでくれた服を見ると、どちらも無地のトップスだった。白のレディースTシャツにブルーグレーのカーディガン。一応今履いているジーンズに合わせてくれたらしい。
とりあえずTシャツだけを着替えて、ついつい驚いてしまった。いつもは寸胴な腰回りにくびれができたのだ。それも少女マンガに出てくる少年のような、いやらしさのない自然な細さ。おかげで上半身が心なしか逆三角形になった気がする。たった服一枚替えることが、こんなに胸の高鳴ることだとは。カーディガンを着るとそれは見た目にはわからなくなったけれど、この下にはくびれがあるんだぞ、と思うと頬が緩んでしまう。
そんなわくわくした気分でカーテンを開けると、叔母さんとコチョウさんがそろって笑顔で迎えてくれた。
「ワーッ素敵ィ!色黒のブルべだから青が似合うと思ったのォ」
「いいねえ、背筋が伸びてる。小さなクリステン・スチュワートって感じだ」
「ありがとうございます。コチョウさん、これいいですね」
そう言ってからカーディガンをぱっと開く。意味はすぐに伝わったようで、コチョウさんはニヤケ顔で叔母さんをパシパシ叩いた。何かを叩くのが照れた時の癖なのだろうか。
「さて、ほかの服はどうしよう?これもみんな着るのかい」
叔母さんはポンポン、と片腕にまとめた服たちを軽くたたいた。
「もっちろん!ここからここまではジーンズに合わせたやつでェ、ここからここまでがトータルコーディネート用なの。全部で十種類くらいあるから、ナッちゃん、試してみてェ」
「じゅ、十種類……?」
そんなに着替える時間は無い。けれどコチョウさんはすっかり全部着せる気満々で、こちらに威圧感のある笑顔を向けている。叔母さんは叔母さんで、だから言ったろ、とでも言わんばかりに肩をすくめていた。
他人のコーディネートはできても自分のコーディネートはできません。
コチョウさんのやってることは迷惑行為なのでマネしないでくださいね。




