ピカピカに光った銃で
三年生になり、周りは進路の事でざわついてたが
マサキにとっては他人事でしかない。
夏頃に母親から、相変わらず座った目で
「あんた高校に行くんね?うちにはお金やらないけんね」
と、ちょっとした連絡事項のように言われていた。
子供の将来を決める大事な事も
この親には、その程度でしかないのだろう。
マサキ自身も、登校拒否などで
自分でも高校に行けるほどの学力がない事も知っていた。
けど、受験してみたい気持ちは
どこかにはあったのだが
飲んでは、座った目でグダを吐き
自分に当たってくる母親が、嫌いで仕方ない。
それと、それを見て見ぬ振りをしている
新しい父親にも、苛立っていた。
マサキは売り言葉に買い言葉で
J・D主演の映画
「理由なき反抗」を気取ったつもりが
まるで、「仁義なき戦い」の
菅原文太演じる「広能昌三」のように
「おう!!頼まれても行くもんか!!」
と、啖呵を切ってしまったのだ。
以前にも、顔を見るなり
「あんた、だんだんあの人に似て来たね
気持ち悪い!!」
と言われた事がある。
あの人とは
自分たちを捨てた生みの父親の事だ。
当の本人は覚えていないだろうが
言われた方は深く傷付く
ましてや、それが母親なら尚更だ。
けれど、そんな母親でも
完全に憎みきれない
中途半端な自分にも苛立っていた。
マサキは何か辛い事があったりすると
近くの公園で夜な夜なギターを弾いては
歌って、やり場のない気持ちを吐き出していた。
ブラウン管の向こう側
カッコ付けた騎兵隊が
インディアンを撃ち倒した
ピカピカに光った銃で
出来れば僕の憂鬱を
撃ち倒してくれれば良かったのに
THE BLUE HEARTS「青空」より
そんなマサキの姿を見ていたのか
いつものように公園で歌っていると
一人の若い男が話かけて来た。
「こんばんは」
穏やかな口調で挨拶をして来た男は
年はマサキより5歳程上だろか。
急に話しかけられ、少々戸惑ったが
マサキは挨拶を返した。
「君、よくここで歌いよるよね。
前から、気になっとったんよねぇ」
ベンチに座ったまま、男を見上げ
「はぁ・・・」と返事をした。
「隣座っていい?」
「え?あ、はい」
マサキの隣に座り
男はポケットからタバコを取り出した。
ジッポでタバコに火を付け
煙を吐き出しながら、男は話した。
「ストリートとかやんないの?」
「やった事ない」
「そっかぁ、いやさ、いつもここで歌ってるから
気になっててさ。
ストリートとかやれば良いのにって思って話しかけたんよ」
優しい笑顔の男に、全部の内容ではないが
イヤな事があったり、辛い事があった時には
この公園に来て歌っていると話した。
すると男は
「そうなんや・・・色々あるもんな。
俺、カズってんだ。20歳。
君は見るからに中学生やな。
もしさ、また次に会ったら友達になろうよ」
そう言って立ち上がると
右手を差し出して来た。
握手をするとカズは
「早く帰らんと、風邪ひくし
お巡りさんも来るぜ~!!」
そう言いながら、去って行った。
マサキも、もう一曲だけ歌って
帰りたくはない家だけど、帰る事にした。