FIRST GUITAR
おっちゃんの弾く黒いレスポールのギターがカッコ良く
少しギターを触らせてもらった。
コードなんか知らないけど
自分が降ろした右手に反応し
アンプから音が出る。
そんな単純な構造にマサキは
凄く感動した。
しばらくすると
やはり、自分のギターが欲しくなって来た。
けど
あの家じゃギターなんか買ってもらえない事なんか安易に想像が付いた。
その年の冬
マサキは新聞配達のアルバイトをする事にした。
まだ時代は、平成初期。
今のようにインターネットやネットニュースなんか
まだまだない時代だ。
生活の情報を知るには、テレビのニュースか
新聞しかない。
新聞の販売店に自分で電話して問い合わせた。
雪の降る日も、雨の降る日も
朝刊を配る。
雪の日には
雪山の遭難者のように
「眠っちゃダメだ!!眠っちゃダメだ!!」
と、自分に言い聞かせ
雨の日には
「雨ニモ負ケズ」
と、よく知らない宮沢賢治を口にしながら
朝刊で~す
読みやがれコノヤロー!!
くらいの勢いで配りまくった。
月に一万円ほどのバイト代だが
ギター欲しさに半年ほどアルバイトを続け
念願のギターを買いに行く。
しかし、マサキの住む筑豊の町には楽器屋がない。
電車に揺られ博多に行く。
駅員さんに楽器屋がないか尋ねると
天神に行けば、あるだろうとの事で
天神への生き方を教えてもらい、地下鉄に乗る。
地下鉄の階段を上がると
初めて見る天神の街の都会ぶりに
まるで矢追純一のUFO特集に出て来る
目撃者のように驚いた。
「いやぁ~、俺ぁ驚いたぜ!!
東の空が真っ赤になって、あんなデカイのが飛んでったんだからなぁ~!!」
無事にギターを購入した。
UFOに遭遇するなんて事は、勿論なかった。
安物の初心者セットのギターだが
マサキは大事に大事に扱った。
おっちゃんに見せに行くと
おっちゃんは自分の事のように
一緒に喜んでくれた。
大人に振り回されて来たマサキは
大人を一切、信用していなかったが
おっちゃんと恭子さんには
少しずつ、少しずつ
心を開いて行く。