車椅子の友達
マサキはとにかく一緒にプロを目指してくれる
メンバーが欲しかった。
若い事もあり
気持ちはあさっての方向へ向いている部分は
確かにある。
出会ってすぐに
「一緒にプロを目指そう!!」
と言うのも、無理な話かも知れない。
けれど、一緒に成し遂げてくれる
「仲間」が欲しい。
小学生の時に、何度か転校し
中学生の時にも何度か転校したマサキには
同年代の友達が一人も居ない。
友達を持った事がない、マサキには
一緒に何かをやり遂げたという経験がないのだ。
正確には、友達は一人居るが
年の離れた友達だ。
その友達は、車椅子に乗っている。
年は35歳。
20歳近く年の離れた友達は
マサキにギターを教えてくれた。
マサキはその友達を「おっちゃん」と呼んでいた。
おっちゃんとの出会いは
何度目かの引っ越しで、学校にも馴染めず
学校に行かずに、一日中部屋に閉じ籠り
大好きなバンドの載った雑誌を読んだり
ラジオを聴いたりする生活をしていた。
ある時、これは良くないと自分自身で思い
昼頃に家を出て
馴染みのない、引っ越したばかりの町を
散歩してみる事にした。
全く馴染みのない風景
右に曲がっても、左に曲がっても
知らない道。
どこに行けば、何があるのかもわからないまま
ブラブラしていると
何やら音が聴こえてくる。
よくその音を聴いてみると
ギターの音だ。
マサキはそのギターの音が鳴る方へ行ってみると
とある一軒家に着いた。
少し背伸びをして、屏越しに覗いてみると
一人の男性がギターを弾いていた。
しばらく見とれていると
一人の女性が声をかけて来た。
「こんにちは」
びっくりしたマサキは、慌てて
背伸びを止め、屏から手を離した。
「こ、こんにちは」
と挨拶を返し
その場を去ろうとしたが、女性がマサキに問い詰める
「うちに何か用?」
マサキはテンパりながら
「いや、あの、えっと・・・
散歩してたら、音が聴こえて・・・
その・・・」
見るからに、小学校高学年か中学生になったばかり
であろう男の子に女性は
「ギターの音?」
と、優しい笑顔で尋ねた。
マサキは下を向き
「はい、ごめんなさい」
と答えると
「見て行く? ちょっと待っとって」と家の中に入って行った。
4、5分程すると女性が
玄関のドアから顔を出し
「おいで~」 と、手招きした。
家に上がらせてもらうと
男性の居る部屋に通された。
女性が男性に
「この子があんたのギターば外で聴きよったよ
聴かせてやりぃよ」
と言ってくれ
男性が
「あら、そうなん?ん?どこの子?」
と言った。
外から見る限りわからなかった男性は
車椅子に座っていた。
マサキは事の経緯と、引っ越してきたばかりだと
説明すると
男性は快く迎え入れてくれた。
それからというもの、マサキは男性夫婦の家に
通う事になる。
SEX PISTOLS、THE CLASH
デヴィッドボウイ、ヴァンヘイレン
ガンズ・アンド・ローゼズ
メタリカ、BON JOVI、洋楽中心ではあるけれど
色々なCDがおっちゃんの家にはあった。
中には、尾崎豊、ブルーハーツ等のバンドの
CDもあった。
そんなおっちゃんの部屋が
マサキには居心地良く感じたのだ。
これ聴きたい、あれ聴きたいと言えば
自分のコレクションに興味を示してくれる
少年に、おっちゃんは快く応えてくれた。
中には、ちょっとしたウンチクも入ったけれど。
おっちゃんは若い時に、事故に遭ったらしい。
横断歩道を渡ろうとした所を
信号無視して来た車に跳ねられ
以来、車椅子の生活になったと話してくれた。
車椅子の生活とは言え
おっちゃんは週に三回、仕事に行っている。
とても明るく、優しい人だった。
奥さんの恭子さんも優しい。
そんな二人をマサキは
まるで、兄と姉のように慕うのだった。