Part6 白い鴉
帝都 軍人病棟A棟
エイラが目覚める5日前
声が聞こえる
何を話してるか聞こえないが何時間前から話し初めていたのか知らないけど、会話が弾んでいる
目は開かないし、体の内側から力が抜けている感覚がある
数分かしていると耳の機能が回復した
しかし雑音は消えない
そしてはっきりと会話内容が聞き取れた
人数は二人いて会話が弾んでいるわけでないようだ
「だから何度も言ったでしょ?あなたのゴーレムを調べた結果、大気中の魔素をエネルギーにしてるって」
「大気がたくさんあっても一度に吸引できる量は限られてる、戦闘が終わってから修理はできても、エネルギー回復に時間がかかってるのならそれを改善するしかないのよ!」
女が口を荒らげていう
「だけどな!Arbiterのエンジンにこいつを加えるってのはどうかと思うぞ!」
「魔素を予め回収しておいてタンクに貯めるってのはできないのかよ」
男が反論する
なんの話しか知らないけど耳が痛い……
「そのタンクを作るのに時間がかかるのよ…はぁ…」
「あのゴーレムはただでさえデカいのに燃料タンクなんて今の規格以上に大きいわ」
「これから何回も出撃してもらうのにそれじゃあコストが大きい」
「なんだよそれ、俺を使いっ走るのか?」
男は驚いたようにいう
「あなたの身分は捕虜だったのよ?使えるものは初めっから使わないと、出し惜しみなんてしてたら魔族に負けるわ」
彼女が鼻で笑う
私は魔族と聞いたときビクッと体が動いた
「あら起きてるじゃない この子も起きたし準備は既に完了よ」
「それとウル君、この子はもう長くは持たないわ」
「体は外も内部もボロボロ…帝国の最新医療でも完治はできない 付け加えて捕虜にそこまでお金はかけれない」
「あと、あなたが帝国の決定に歯向かえば命はないわよ?」
男は絶句した
私は話の内容をようやく理解出来た
どうなっても私の体は元に戻らない
そう思い落胆する
男女はその後しばらく話していたが扉の開く音を境に話をやめた
次に口を開いたのはまた知らない男だ
「連絡、ありがとうございます 処置の準備が整いましたので移送致します」
「わかったわ、私も立ち会う」
「そうですかそうですか、我々帝国初の試みになりますゆえ大変ありがたく思います」
「ウルはどうするの?見る?」
しばしの沈黙の後、男は話す
「あぁ、あれは俺の機体だ 確認するよ」
「ふふっこれで決まりね ウル君、人の進化に犠牲は付き物なのよ」
彼女は鼻歌交じりに言う
その後すぐに私の体が動く、体が宙に浮いて滑ってるような感覚だ
それから少し時間が経ってから動きが止まった
それまでの間誰も喋らなかった
帝都 テイマー隊格納庫1番ドック
同日
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い
幸い痛覚がなかったおかげで痛くないが、身体中を虫が這っている感じに体内に液体が流れる感覚
色々な所を改造されて、針を大量に刺されたよう
とっても気持ち悪い
私はどうなるんだろう…死んじゃうのかな?
どんどん恐怖が湧いてくる
私はふと思い出す
大事なことを忘れていた
エイラ、あなたもここにいるの?と
死ぬのなら、最後は彼女に見送ってほしい
私は彼女のことを考える
彼女のことを考えればどんな事でも乗り越えれそうだ
どれだけ時間が経ったのか不明だが
突如目に光が入る
気持ち悪さは消え、全身が水に包まれる
処置が終わった?
暖かい…ここは天国なのかな
なんて考えていると、光が映像に変わっていく
それは戦いの記録だった
とても大きい巨人達が戦っている映像が流れる
あたり1面、どの場所でも巨人がいる
私は思わず声をもらした
「わぁ、すごっ…」
一際目立つのが真紅の色に染められた大きな筒をもった巨人だ
筒の先が光ると、その筒を向けられた巨人が爆散する
真紅の巨人が手をあげると
いっせいにほかの巨人が突撃する
その中に真っ白の巨人が見えた
なぜか私はその巨人から目が離せない
両翼を広げ、低空飛行しながら攻撃する
その動きは、踊っているように軽やかだった
そして場面が急に変わる
今度は、海上
同じように真白の巨人が低空飛行しているが、今度は迫り来る長い棒を避けながら前進している
棒はとても大きな爆発を起こすが真白の巨人が回避しなかなか当たらない
さっきと同じように場面がころころ変わる
どれも真白の巨人が出てきて、時々真紅の巨人が映る
そして最後の場面に入る
地面は焼け焦げ曇り空
真紅の巨人を囲んだ巨人達が並走している
並走している巨人が振り返り逆走していく
真紅の巨人は振り返らず駆ける
中には挨拶を交わし、離れていく巨人もいた
私は自然に涙がでる
これは自身も経験したことがある…
「みんなすすんで殿に…」
そして、一気に離れていった巨人達が現れる
たぶん殿部隊だろう
真白の巨人が真紅の巨人の隣に行く
初めて真紅の巨人が横を向いた
しばらく並走した2人は、真白の巨人が反転したところから前を向いた
真白の巨人が飛び出す
それと同時に真紅の巨人と残った巨人達が加速し、離れていく
真白の巨人と殿部隊が追っ手と戦闘を始める
しばらくは優勢だったが、ひとりひとりと沈んでいく巨人達
最後には武器もなくなり、獣のように襲いかかる
巨人同士がぶつかり合う
真白の巨人の色が衝突で擦れ剥がれ落ち
銀色になっていく
なんて可哀想な
空が光る
空にはそれはそれは大きな槍が落下していた
追っ手が慌てて逃げ出すが銀になった巨人は膝をつき倒れる
私と同じなんだ…この子も
かつて私も殿となって戦いその時大きな深手を負ったことがある
しかし、この子はここで……
そこで映像は途切れた
どれほど長い夢を見ていたんだろうか
始め目覚めた時と違い今度ははっきりと音が聞こえた
「レイ……ヴン」と
私の心が暖かくなる
その時、私はこの子と繋がった
2人を救ってと…言われた