Part5 選択
帝都 軍人病棟 A棟 p.m.17:13
201号室
私は知らない場所で目が覚めた
全身包帯まみれで薬の匂いがきつい
とても喉が乾いた
誰かを呼ぼうとしても声が出ない
周りを見渡すとここは病室みたいだ
安静にしていると扉が開いた
扉はローラー式で軽い音がする
「あれ?目が覚めたんだ」
病室に入ってきた女は顔は整っているが髪はボサボサで、服装はダサかった
「君さ…1週間も寝てたんだよ?君の副官は5日前に起きてもう移動しちゃった」
「く……そ…てぇ ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...」
喋ろうと思っても声が出ない
「ダメだよー?安静にしてなきゃ」
彼女はそう言って私の隣に座った
そして私の頭を少し傾け水を喉に入れてくれた
咳き込んだものの喉が潤ったことで多少楽になった
レイヴンが横にいれば既にこいつは死んでる
くそがぁ…腹が立つ
「君は今後、とある兵器の装備品になるの」
「従わなかっても強制的に装備させるけど、長生きしてくれた方がありがたいから大事にするし問題ないよ」
彼女はにっこりと笑いながら唐突に言う
選択の余地もなしか…やはり帝国は屑だ…魔族と人間の戦争を遊びとしか見ていないし
国民以外は同じ生物ではないと思ってる
勉強したとうりの国だとこの女を見てそうとしか思えない
一刻も早く脱出したいが、1個師団を失った私が魔都に帰れても生きていける保証はあるだろうか?
私は今、非常に立場が危うい状況にある
帰国して罪に問われるか、ここで装備品?になるか
その2択しかないと考える
「怖、そんなに睨まないでよ 可愛い顔が台無しよ」
「要件は伝えたから、明日は君の勤め先の紹介をするわ」
「それじゃあ、バイバイ」
彼女はそう言って病室から出ていった
装備品?勤め先?全く意味がわからない
病み上がりの私の脳は上手く機能せず再び眠りにつく
翌日 帝都 テイマー隊格納庫 1番ドック
am.7:00
季節は冬になりかけていた
私は格納庫に運ばれていった
まだ全身包帯まみれでまともに動けないからだ
そこには昨日の彼女とおかしなスーツを着た青年がいた
青年は暗い顔をしていた
そして私の宿敵 巨大兵器が鎮座している
「ようこそ、我がテイマー隊へ」
「早速隊員を紹介しよう まず私」
「ユイ・ベルナデッタ大尉だ この隊の隊長をしています」
「そしてお次は、彼 ウル軍曹」
「彼の階級は正式には決まってないけど勝手に決めました」
「最後に我が隊の要 Arbiter&レイヴンです」
巨大兵器や隊員の名前など、どうでもいい
なぜ、なぜ?彼女、レイヴンが巨大兵器と一緒に紹介される?
「どうしてって顔してるね」
「訳を説明するとね…あなたの逆行で時間が巻き戻ったとき、非常にまずい時間まで巻き戻ったようなんだ」
「君たちの過去何があったか知らないけど、帝国の技術でも治療は難しかった」
「しかし、君の副官は非常に魔力量が多い体質のようでね」
そう、そうだ…レイヴンは魔力量が多い
だからこそサイボーグになれたし、武器としての性能も良い
私と一緒に戦っていたさなか、死にかけ、必死の治療で蘇生させた
何年も戦ってきた戦友で唯一の親友だ
「そんな悲痛な顔してももう遅いよ」
「手は尽くした……」
彼女が両手を広げ言う
なんてことだ
「ア゛…ア゛ア゛…ア゛ッ」
涙が止まらない
「ごめんね 彼女、レイヴンはこのゴーレム Arbiterの心臓になった」
「生きている限り無尽蔵に魔力を生み出すコアとなった」
「そして君への命令はこのゴーレムの修理&換装をしてもらうよ」
そんな…
私はこの巨大兵器のパイロットを睨む
おそらく彼が乗っていたに違いない
私と目線の合った彼が話す
「こんなことじゃなかったんだ…俺は…」
「ウル君はさ 自分と同じように扱ってもらえると思ってたの?」
ベルナデッタが話す
「君は特別なの、巨大ゴーレムは動かせるし」
「そしてもっと重要なのは君が魔族じゃないって事だよ」
「君の検査結果がちょうど作戦が終わった頃出たんだよね」
「君のDNAはどれにも属してなかった」
おかしいゴーレムを内部から動かすなんて人間にできない
ウルと言う男が驚く
その顔には焦りが見えた
この男は帝国という国をどう思っていたのだろう
帝国を信用してはいけない
歴史で絶対と言われるほど聞く内容だ
おそらく彼も捕虜か何かだろう
私も彼も同じ状況になったと言うことか
彼が話す
「俺を利用してたのはわかってたさ だけど今までの暮らしや約束、そして優しい君は嘘だったのか?」
「嘘じゃないよ、個人的に君のことは好きだし興味もある」
「だけどそれ以上に利用価値がありすぎる」
「帝国は君を使えば世界征服だってできちゃう」
「それだけこのゴーレムは魅力的なんだ」
「逆に言ってウル君は何をそんなに期待してたの?」
そう言われて彼は黙ってしまった
「回収すべき人材 装備 力は揃った」
「次は何をする?」
ベルナデッタが怪しい笑みを浮かべる
「統一戦争だよね」
ベルナデッタがそう言いつつ一回転し
ゴーレムに指さす
「帝国は魔族と人類の戦争に終止符を打ち…」
「全ての人種を統一…そしてその先を目指す…」
「そう!宇宙へ進出する」
私は何を言ってるのか意味がわからない
しかし彼は、面食らった顔をした
「ウル君、やっぱりわかるんだね」
「我々帝国はね…ウル軍曹、君を宇宙人だと仮定したの」
「前々からの研究で宇宙があることを帝国は発見した」
「しかし行く方法がない」
「未知なる資源、可能性、そして進化が欲しい」
ベルナデッタが格納庫を1周する
「まずは世界統一から始める」
私は宇宙って言葉を知らないが、この巨大兵器が必要なくらいで実際このゴーレム以上の技術が必要だろう
しかし、そのための代償が大きすぎる
私は唇を噛む
帝国が本気になれば、魔族も連合も関係ない全てが蹂躙されるであろう
帝国はこのために蓄えてきたのか
戦争を連合に任せて自分は近づく敵だけ露払いをして、そして見返りに連合に技術を渡す
その技術に感化された人間が帝国で技術を学ぶために集まる
すると次第に優秀な人材が世界中から集まりまた技術が進歩する
このサイクルで帝国は強国となったか
今、理解した
だが帝国の切り札はまだ目の前の巨大兵器だけのようだ
これ以外の兵器も既に強力だがこれは破格の強さだ
私の逆行に影響され前よりしっかりした体躯に翼のある装備
そう考えていると彼が発言した
「俺は以前、パイロットとして10年以上戦ってきた 少年兵の時からずっと…俺は戦いしかしらない」
「やっと、やっとだ やっと戦争から解放されて生まれ変われると思ったんだなのにまた、戦争」
「しかも、今度は統一戦争だって?世界をひとつに?冗談じゃない」
「俺は自分の暮らしと安全、Arbiterの修理が目的で利害が一致したから帝国軍に入ったんだ」
「今回限りは降りさせてもらう」
そう彼が言い終わると同時にベルナデッタが銃を取り出す
「君には居てもらわなくちゃ困る」
彼が全てを悟ったように悲しい表情をした
そして彼も片手を後ろに回す
「動くと撃つ」
ベルナデッタが撃鉄を起こす
どうする、エイラ
私は将軍だぞ 考えろ…このまま彼が亡くなった場合私もレイヴンも用済みだ
私はArbiterと呼ばれる兵器を見る
その兵器のカメラが私たちを静かに見ている気がした
ベルナデッタが続けて話す
「変な気は起こさないでね 前にも捕虜が逃げ出そうとしたの」
「結果、全員皆殺し」
「私は覚悟ができてる あのゴーレムのバックアップは既にとってあるしあとは内部の構造をより詳しく分析するだけ」
「実質、君がいなくたって大丈夫なのよね」
ベルナデッタが1歩1歩、彼に近づく
彼女の銃は必中距離になる
ダメだ、私にはどうもできない
逆行は時を戻すだけ同じことが起きないと言いきれない
私は思わず声を漏らした
「レイ……ヴン」
その声はきちんと音となって聞こえていたのか、わからないけど
微かに、巨大兵器のエンジンに火がついた音がした