Part4-3 続パレンシア強襲
パレンシア南部 am.10:36 テイマー隊
捕獲作戦実行
「目標を確認 任務を開始する」
その将軍の姿は一見、武器を全く持ってないように見える
狐の耳としっぽがある褐色の獣人だ
将軍の傍らにいるのは副官でまだ未成年っぽかった
しかし全身がサイボーグで所々に刃がある
あの副官には注意しないとな
そう考えたウルは副官に目印を付ける
機体の足元にアンデッドが近づく
逃げる素振りもしないことから余程、忠誠心が強いまたは操られているか、それとも精神が麻痺しているのかだ
ウルは露払いをするためにArbiterの各所にあるレーザー砲を起動する
銃口が光ると狙った相手が焼ける
そういう武器だ、アンデッドや不死系モンスターは焼くに限る
ひたすら焼きつつ、前進し魔族軍に恐怖を与える
逆行は発動しない
やはり発動に時間がかかるか、代償があるかまたは回数制限だ
この大きさの機体だ 逃げる手段は瞬間移動か転送しかないだろう
それができないなら、怖気付いて動けないか
勇敢であれば死ぬ気でかかってくるか
俺はそう考えつつ、進む
思考を巡らしていた時
目印を付けた副官が武器に変形したのを見た
将軍がそれを掲げる
「隊長、少々厄介かもしれん」
「かもね…」
ユイ隊長は調子が良くなったようで身を乗り出してモニターを見る
「魔族でも機械科兵は珍しいわ 覚悟はしておきなさい」
隊長の表情が険しくなる
「そのつもりだ」
その会話を終えたすぐ、将軍が飛翔した
軽くArbiterの高さを越え、こちらを見据える
「まずい…上をとられた!」
「レーザー砲の射角が足りない 迎撃出来る範囲が!」
俺は咄嗟に機体を後退させ射撃体制をとりシールドを展開
唯一ロックオンできた砲が将軍の左腕を奪う
今作戦の要は相手の逆行をArbiterを対象として発動してもらうことだ
それ以外の武器で優位性をとられるのは危険だ
「ウル!?大丈夫よね」
「問題ない、このまま相手を弱らせる!」
将軍の軌道が早くなりレーザー砲が間に合わない
当たっても数発止まりで槍に防がれてしまう
「あたれぇぇぇ!!」
俺は機体の上半身を回しレーザー砲を強制的にぶつけに行く
槍の防御を掻い潜ったレーザーが右足に照射される
「これでどうだ、長く戦闘するのはもう無理だろ!」
辛い状況になった時こそ人間は単純になりやすい
焦りが出るからだ
それを制御できるのが戦闘のプロフェッショナルなんだと、以前教わった
システム
熱源反応増大 脅威度80 危険値デス
Arbiterがモニターに警告を示す
「釣れた!多重シールド展開 この期を逃すな!」
「誰に言ってんのよ?w」
隊長が少し笑う
「思惑道理ね 多少時間はかかったけどね」
「さぁ、虎穴に飛び込みなさい!」
隊長が興奮気味になって言う
俺はArbiterを防御に集中させ、捕獲の機会を伺う
将軍が火球に変化し周囲の熱を上昇させる
「あれが彼女の必殺か、かっこいいね」
俺も正直羨ましいと思った
そう、余裕をかましているとモニターいっぱいに相手が映る
数フレームで接近した相手に対応できなかった
「早すぎる!くそっ油断した!」
あれはただの火球ではない
操縦席に衝撃がきたと同時にシールドが剥がれていく
俺は正直いってこの世界を舐めてた
Arbiterがいればなんとかなる気がしたし、自分に自信があった
その余裕が嘘のようになくなっていく
しかし、隊長は余裕の顔でモニターを見ている
隊長のことは未だに理解できないとこがある
俺はすぐ、機体の腕を動かし捕獲しようとしたが風圧で中々腕が届かない
これはシールドが破壊され窮地に陥るか
先に捕まえるかどちらかの勝負だ
操縦根を持つ手が冷や汗をかく
操縦席にはビリビリと振動が伝わり衝撃の強さがどれくらいかわかる
火球の威力が上昇し、システムの警告が鳴り止まない
徐々に減っていくエネルギー
俺は操縦根を限界まで動かし、Arbiterの腕を少しでも早く移動させようとする
「うごけぇぇぇぇぇ!!!!」
その数秒後、爆発音と同時にモニターのシグナルが消えた
将軍を捕まえれたのかそれとも、捕まえ損ねて頭をやられたか
状況が把握出来ない
その時
モニターに警告メッセージが現れる
システム
強力ナ魔力反応検知 注意シテクダサイ
俺はそのメッセージの意図を咄嗟に理解した
「逆行が来る!」
「隊長!魔法を除去できないか!このまま逆行があたれば俺達も巻き添えをもらう!」
「そんなこと重々承知よ!障壁、発動!」
隊長の周りに光の壁が広がる
俺は嫌な予感がした
「隊長!障壁の発動範囲をあと3mほど広げてくれ!」
「今いう?それ!あーもう、間に合わせるわ!」
「任せなさい!」
幸い、逆行の発動まで少しの時間があったが結果は不明だ
逆行発生から5分後 モニターが復旧
それまでの間、俺はずっと目を閉じていた
「ウル…やったよ 私たち、作戦成功よ」
その言葉を聞き目を開ける
俺はArbiterの変化を確信した
そしてなぜ障壁の範囲を広げたのか
それはシステムOSを守るためだ
逆行という力がどういったものかおおよそ予想はついていた
範囲内の対象の巻き戻す時間を決めその当時の状態を可能な限り再現し反映する
例えば20歳の人間を逆行で20年前に戻せたとする
すると逆行を受けた対象は20年前の姿になり赤ん坊、もしくは産まれてこない状態になる
これは正直賭けでもある…逆行の最大巻き戻し時間がどのくらいか分からないことと、何回使えてクールタイムがあるのかも不明な点だ
だが、俺たちは賭けに勝ったのだ
その証拠にシステム音声が聞こえる
システム
兵装変更ヲ確認
【フライトユニットver.FA】
データ解析…5年前ノ装備ト一致
操縦席のモニターが全周表示に徐々に変化する
「ハハッ やったぞ」
Arbiterの手の中には、気絶した魔族が倒れている
「ver.FAか…よし 敵兵を全てロックオン」
「アンデッドを一掃する」
全周モニターにロックオン表示が無数に現れるが
積んであるミサイルはそれ以上の数ある
俺はスイッチを押し発射
第5軍の兵士を容赦なく殺した
将を無くした軍隊など生かす価値もない
システム
敵生体反応消滅
「人類連合は放っておきましょう どうせ魔族の反乱かなにかにしか見えてないわ」
「そうだな…そう思いたい」
人類連合の兵隊は自陣まで下がっており触らぬ神に祟りなしの言葉通り静かにしていた
懸命な判断だ…よほど、阿呆な上官はいないようだ
「ミッションコンプリート これより帰投する」
Arbiterのフライトユニットを起動させ飛び立つ
帝国に着くまで羽を伸ばしても文句は言われまい
Arbiterの背中に付いた大きな可変翼を動かし巡航形態にして少しの遊覧飛行を楽しんだ