Part11 魔族領へ行こう
げっほげっほ、ここはどこだろう。体を起こしてみる。周りは薄暗い明かりで照らされていて、小さな音が聞こえている。それはピッピッピッピッと一定の感覚で鳴っている。聞いたことのある音。
私は気づく、ここがあのゴーレムの中だと。
「ウル!」
急いで起き上がると前方の椅子の両隣に2人の女性がいる。
「エイラ、起きたか。今はアガレスの案内で魔族領に向かっている。」
「エイラ殿、あなたが1番怪我していたのだ。ゆっくり休むといい。」
いや、それは良いけどあの女だれよ。
「お、申し訳ない。自己紹介が遅れてしまった。私はバエル。君たちの王だ。」
「どういうこと、王?魔王は死んだわ。もういない。」
バエルと言った人物は首をかしげ顎に手をやる。
ゴーレム内部の角張ったとこに座っている彼女は真っ白いロングの髪に大きなヤギの角。目は8つあり主となる2つの目以外はギョロギョロと動いている。腰には虫の腹にあたる部位が付いていて大きなスカートに隠れている足は昆虫の足を束ねたようになっている。
胸は私より大きい…。
「魔王?魔王とはなんだ。王と呼べるものは私だけのはずだよ。私より上の地位は私の召喚者のみだ。」
おかしい、このバエルって魔族が言っている意味が分からない。アガレスも言葉の意味を理解出来ず、眉間に皺を寄せている。
「あなた、バエルって言ったわよね。たしかバエルって神話上の生物よ。」
「神話上?そんなわけない。史実の間違いだろう。でなければ君たち2人を救えてないのだから。私もね、バエルという存在が世界の脅威だった時代から何千年も時がたっているのは分かる。けれど、私の功績が神話だって?ハハハおかしな事もあるものだ。」
そう言い終わった時のバエルの表情は怒っているように見えた。
「確かにだ。アガレスやハーゲンティ。君たち2人から感じられる力は極わずかだ。まぁ、その僅かな力でも今の世界では十分な強さになる。我々72の血統は廃れつつあると思える。」
「そうだ。主君よ!先程頼んだ内容は理解してくれたかな?」
バエルは目を輝かせてウルの顔を覗く
「操縦の邪魔だ。どいてくれ。んで、世界の支配なんてやらないよ。俺はゆっくりと過ごしたいんだ。」
「そうか。それが主君の願いか。代償は何にする?」
「代償なんて払わないし、お前に叶えてもらおうなんて思ってない。それよりアガレス、道はこっちであっているか?」
「そうだな。あぁ、この辺りで部下が待っているが…。」
しかし、そこには誰もいなかった。だが剣や鎧、盾などの武具が転がっていて確かに軍隊がいた証拠はあった。みんな中身だけ無くなったようなそんな感じに見える。
異様な光景に俺は背筋が凍った。
「おかしい、ここに第三軍が…。」
アガレスは同様している。
「これは、珍しい。存在を消されたようだね。この量の消滅となると膨大なエネルギーとなっただろう。はぁ、まだ遺産所持者が残っているか。」
バエルがボソボソと話していたので、じーっと彼女の顔を見てあげた。
「はっ!しゅ主君。わかった。わかったよ。君たちにも教えてあげるよ。私が世界でブイブイ言わせていた時、我々に勝つための武器が作られたのだ。その武器は世界から魂の存在を消した時、正しくは世界に魂を返却するかな。に起こるエネルギーを必要とする。たぶん私の召喚に気づいた者がいたのだ。」
「へー、そんなものが。返却された魂は戻るのか?」
「いや、戻らないよ。」
その言葉を聞いたアガレスの顔が青くなる。
彼女は過呼吸になりエイラに寄りかかった。
その時、機体の警報がなる。
【ロックオン警報、後方に高熱源】
「きた。」
バエルが立ち上がり自分のお腹に手を突き刺す。
「お前何やってるんだ!エイラ、バエルの傷を」
俺は機体を旋回させ、後方を見た。そこにはバルドルと同じくらいの砲身を持つ武器がこちらを狙っていた。
さっきまでこんなものなかっただろ。
エイラがバエルに近づこうとすると彼女はエイラの手を拒んだ。
「はぁはぁ、さぁ主君よ。ここに手を入れて中のトリガーを引いて。」
バエルは俺の手を掴みお腹の傷に入れ込む。
中は暖かく、奥には金属のような固いものがあった。
「あ、あぁ。そんな掻き回さないで…しゅくん。さぁトリガーを。」
バエルの息が荒くなる。頬もあかくなり目は大きく見開かれ輝いている。
俺は言われるがまま金属を握った。
「ん!んぅ!」
バエルはそのままへたりこんで、ヨダレを垂らす。
直後、機体の前方にあった砲が歪みに巻き込まれて消えた。
なんだ、これ。空間をねじ曲げた?どういう原理の攻撃だよ。
アガレスもエイラも、目を丸くしている。
「主君よ。それを引き抜きなさい。」
「はぁ、どういう?」
しかし、俺の意思と逆に手はなかの金属を引っ張る。
バエルは汗だくになり荒い息をしている。その目は淫妖に光り、白いドレスの隙間から覗く肌にそそられる。
俺を喉を鳴らし、自身の心臓の鼓動が早くなる。
なかの金属を完全に抜いた時、その先端が俺に突き刺さった。
瞬間、俺の脳に電流が走り目がチカチカする。
バエルは体を痙攣させながら俺に抱きつく。
「こ、これで契約は完全となった。主君よ。私が想像した以上に君は素晴らしい。逸材だよ!この剣を抜けたのはウル、君だけだ。」
「ね、ねぇ。疼きが止まらないんだけど。う、ウル?私も触れていいかな。」
エイラとアガレスも肩で息をしていて体の震えを抑えている。
「君たちも悪魔の末裔だからね。契約の影響を多少受けてしまう。私のように主と繋がることができるけど、まだ剣が作られてないから無理だね。」
バエルは落ち着いたようで俺から離れ壁に寄りかかる。
俺は力なく座席に座り意識が朦朧としている。
エイラとアガレスが俺の両手を片方ずつもってお腹に当てている。彼女らはそれだけで体を震わせている。
「はぁ、剣もできてないのにしたって無理だよ。強引だなぁ。でも、我々の本望だからね。いくら血統が薄れたとしても受け継がれし魂に刻まれている。」
バエルは余裕そうに汗を拭う。
「ど、どうやったら剣ができるのだ!教えてくれ。」
アガレスが食い気味に言う。
「剣は元から持ってる物なんだけど、君たちは完全なる悪魔じゃないからできたとしても模造品。種族が魔族のままじゃ無理かな。というか、さっきのでだいぶ消耗したし、主君も魔力酔いしてるからさ。アガレス〜。魔族領の位置教えて。」
バエルを空中で円を描く。
「そうだな、本当は我の邸宅へ行きたかったんだが詳しい位置となると…」
「はいはい、大体わかった。」
バエルが円を指で斬るとアガレスが思い描いた場所へ転移する。
「私はなんでも知っているのさ〜。」
「あ!あなた、帝国の技術でも知らない土地に移動できないわ!」
エイラがバエルの肩を掴む。
それもそうだこないだまで帝国と戦っていたのだから、転移がどれほどの脅威だったかわかっている。
「あー、ハーゲンティ?私も知らない所へは行けないよ。だからアガレスの記憶を少し覗かせてもらった。そうすることで私も場所を理解出来る。」
「そ、そんなことできるわけが…」
アガレスとエイラは顔を見合わせ、少なくとも彼女がとてつもなく強い存在だと、敵に回してはならないと理解した。
「はぁ、そんなに気を張らなくていいよ。私たちは仲間なんだよ?それよりも早く外に出てあげたら?あれ、アガレスの家臣なんでしょ。」
突如、フェルディナンド邸へ転移してきた巨大ゴーレムにアガレスの家臣が臨戦態勢で待ち構えている。
「レイヴン、扉を開けてちょうだい。」
【了解、コックピットハッチを開きます】
家臣は見覚えのある顔をみて武器を収める。
アガレスとエイラは機体から降りフェルディナンド邸へ入っていく。2人の帰還を皆で祝っている。
俺はと言うとバエルの強大な魔力エネルギーとやらにあてられ体が動かなかった。
「はぁ、主君。そんな様子じゃこれから身が持たないよ。全くもう世話を焼かせるんだからぁ。」
バエルはウルを担ぎ降りる。アガレスの紹介もあって邸宅にはすんなりと入ることが出来た。
俺たち2人は客人と言うことで泊まらせてもらうことになる。バエルは俺をベットに寝かせたあとエイラと共にどこかへいった。俺の意識は次第に遠のき深い眠りへ落ちていく。
やっと、落ち着ける所へ来て安堵したのだろう。
目が覚めると翌朝になっていた。
霞む目を擦りながら体を起こそうとしたらお腹の辺りがやけに暖かい。
なんだと思って毛布を除くとフカフカの尻尾がのっかっていた。
「え、エイラ!」
彼女の体を揺すっても全然起きる気配がない。
添え膳食わぬはなんとやら…と言うしその行為を甘んじて受け入れた。
その尻尾からは焼きたてのパンみたいな芳醇な麦の匂いがする。
懐かしいな。兵役に着いていた時は露店のパン屋で昼食をとっていたものだ。
朝日に照らされた金色の毛は宝石のように輝いていた。掴んでも掴んでも、手から零れ落ちサラサラとしている。
俺は尻尾に顔をうずめ、深呼吸をした。昔飼っていたゴールデンレトリバーを思い出す。
懐かしいな。
この時点でエイラは起きていて彼が尻尾で遊んでいるのを見て少しの間、許していたがウルの方を向き
「おわり。」
といいベットから降り部屋を後にした。
入れ替わりざまにコーヒーを持ったバエルが入ってくる。
「おっと、おい!ハーゲンティ。顔を洗ってこい!緩みきっているぞ。」
「はぁ、君ってやつはとことん抜け目がないなぁ。」
いやそんなつもりは全く無かったのだが。
バエルは出窓を開け、椅子をそこに持ってきて座る。コーヒーをすすりながら外を眺めた。
「昨日の夜。魔国の首都、私たちが滞在しているこの場所だが。一通り探索してみた。人間界と同じように些細な争いはあるが殺人などの事件は確認されていない。どうやら戦争中のようで経済成長、目まぐるしい。と言ったところか。報告は以上だ。」
「そうか、ありがとう。」
「主君、君も顔を洗ってきた方がいい。緩みきっているぞ。」
それはあなたの服のせいでしょうよ!なんで肌着のまま来るんだよ。目のやり場に困る。
「なんだ?私の体に興味を示しているのか。うーむ。ではご覧あれ。」
バエルがスカートをたくしあげると中には6本の足を2つに纏めた足がある。それは螺旋状に束ねてあって先端は鋭利で尖っている。
「女性の生足をジロジロと見るな。」
左腕で下腹部を隠し、右足の先を俺の顎に当て持ち上げる。
「主君よ。アガレスからは3日ほど休暇を頂いた。実は昨日の晩、魔国の将軍を集めた臨時会議があってな。代わりに私が出席したのだ。主君も色々と大変だったのだな。」
「アガレスとエイラの処遇はどうなった?」
「あー、そうだな。2人とも自軍を失ったのだったか。ハーゲンティの方は主君の強襲のせいだが彼女の兵は素行が悪かったようで軍としての価値は少なかった。逆に主君を懐柔できた功績の方が上なため制裁は打ち消しになる。アガレスは未知の脅威、実際は私を狙った、旧世界の死に損ない達のせいなんだが国喰の件もありそっちもお咎めなし。」
「よかった。」
「主君、安心してはならない。君の記憶を覗かせてもらったがこの世界においてゴーレムと言うのは最強種に近いのだろう。魔国が帝国と同じように君を扱うかもしれない。くれぐれも私から離れるな。私がそばにいれば君は無敵だ。」
「確かにな。」
俺が肯定したとき、バエルは目を細めて口角を上げる。
その姿はそのまま額縁に入れたいくらい美しいかった。
彼女が異形の者であったとしても。
こんっこんっ
「入るぞ!ウル。朝食ができた!食おう!」
朝から耳をつんざくような大声の主が来た。
アガレス、そういやこんなやつだったか。
俺はベットから起き上がる。出窓を閉めバエルがついてくる。
食事場までは遠くなく、すぐに着いたが室内は巨大な大部屋で20名程度が一度に座れる巨大なテーブルがあった。
案内された席に着いて運ばれてくる料理を見て驚く。
主食はレーズン入のパンだがそれ以外が全部、魔物の素材だったのだ。小さい頃ゲームでRPGを遊んでいた俺には一瞬でわかる。
「ウル?食わないのか。美味しいぞ?」
アガレスはガツガツと朝食を平らげる。
「アガレス、ウルにだって好き嫌いはあるわ。ウル気にせず食べれる物だけでいいわよ。あとは私が頂くわ。」
「ハーゲンティ、何を言っている。主君は人間種なのだから食えないに決まってる。」
「え!!」
「そんな馬鹿な!」
2人して驚き、手に持っていた食器を落とす。
カチャン、フォークがテーブルに当たった時アガレスの目の色が変わった。
「クソだまりの害虫が1匹。」
「くそ、Arbiter!!」
俺が外の相棒を呼んだ時、バエルが思いっきりテーブルへフォークを突き刺した。
「黙れ!下級の存在で私の食事を汚す気か!」
その一言で、建物に突っ込もうとしたArbiterもエイラもアガレスも動きを止めた。俺はと言うとこういう時に動けるよう訓練をしていたため重圧には慣れていた。
と思っているが実はバエルの能力で召喚者以外に効果が適用されていたのだ。
「主君、隣に座りなさい。何が食べたい?なんでも出してあげるよ。」
俺だけ移動可能でエイラとアガレスの意識はあるようだが硬直している。
俺はお腹がなり、軍で食べていた定食を思い出す。
「ほぅ、これが主君が慣れ親しんでいた味か。ひと口だけ貰うよ。」
そう言って彼女は米を食べた。
「ふ、んぅ!なにこれ美味しいな主君!」
俺はバエルの隣でおずおずと朝食を済ませた。
2人は固まったままで、テーブルクロスは滴る汗でぐっしょりと濡れていた。
「恩人にさえ敬意も表せない不届き者が、私たちは先に客間に行く。しばらくすれば体が動くだろう。」
俺はバエルに手を引かれ食事場を後にした。
彼女たちが客間に現れた時には顔面蒼白でバエルを見るやアガレスは吐いた。
何を、されたんだ……。
俺はバエルの顔が暗黒そのもののように微笑しているのを見た。
これからどうなるのか、不吉な予感しかない。