Part10-3 王の帰還
帝都郊外
am.9:30
「はぁ!!」
アガレスが地面を踏み込み、跳躍する。突撃の速力も合わさり国喰の腰の高さまで届く。装甲を踏み越え、国喰の体を駆け上がる。アガレスは腕の接合部まで行き攻撃する。
その攻撃は通用しなかった。国喰が身動ぎしただけで彼女は振りほどかれてしまう。
「はっ!さすが国喰と言ったところか!この合金製の直剣が通らぬとは!」
アガレスは空中で一回転をし体制を整えて着地する。着地の瞬間、国喰の蹴りが彼女を狙うがそれを国喰の背後をとるように回避される。
回避後、もう一度跳躍し今度は頭まで登る。
「だいたい巨人は頭が弱点だと決まっている!」
アガレスが頭を捉えた時、国喰の目も完全に彼女を捉えておりチャージ済みの滅龍砲が炸裂する。
「ちぃっ!小癪な!」
アガレスは滅龍砲をギリギリで回避するが国喰の右腕で叩き落とされる。
今度は受身が取れず地面を転がった。
俺は国喰の周りで支援射撃をしていたがダメージの入った感じがしない。
「エイラ!ほんとに魔王ってやつはこいつを倒せたのか?」
「倒した!私が幼い頃この目で見たから!」
「どうやって倒したのか覚えているか?」
「それが、倒した時の記憶が曖昧で…それ以外は覚えてるんだけど。」
結局、分からないってことかよ。と思ってしまったが俺も幼い頃の記憶など鮮明に覚えてない。
「曖昧にさせる魔法が発動していたからだ…」
アガレスがこちらに転がってきながら回答する。
「魔王様は自身の命と引き換えに国喰を鎮めたのだ。」
「鎮めた?」
「そう、鎮めた。正確には倒せなかったのだ…。」
アガレスは悔しそうに言う。
「この装甲外鎧は意思を持っている。その意志が合意した時のみこの世界のあらゆる事象を鎮める力を持つ。」
「我はまだ、その意志と通じたことがない。」
「自分の命と引き換えに事象を治める魔法のドレスか。自己犠牲の権化みたいだな?」
俺は地面に伏しているアガレスに皮肉を言う。
最高戦力と期待したが今のところタフな騎士と変わりない。
ましてや俺に呪いまでかけている。
「うるさい…。」
アガレスが呟く。彼女自身分かっているようだ。
「ウル。やめて。争ってる場合じゃないのはあなたが1番理解しているでしょ。」
エイラが仲裁に入る。
「アガレスは最高戦力見習いなのよ。」
「はぁ?」
どういうことだ。
「彼女は確かに魔王から力を受け継いでいる。でもその力はまだ発動できてない。今までの動きはアガレス自身の物よ。」
アガレスは剣を再び構え跳躍の姿勢をとる。
「来るぞ!備えろ!」
アガレスが合図したとき大量の滅龍砲が降り注いだ。
その1粒は直径200m程の攻撃範囲を持つ。これがゲームだったら地面は危険地帯の表示で真っ赤だ。
俺はレイヴンに命ずる。
「シールド出力最大!ブースター点火!滅龍砲の範囲から出るぞ。」
【了解。シールド最大。ブースター展開。】
Arbiterを左方向に滑らせ、回避運動をとる。
数回直撃したがシールドでダメージを軽減する。当たる度、高度が落ちるが地面を擦ってでも機体を逃がす。
アガレスはその場に残り、発射された各滅龍砲同士の隙間に体をねじ込みながら回避しそのまま国喰の頭を再度捉える。
「今度は外さない!」
アガレスは剣先に魔力を集中させ鉄塊を出現させる。
「穿て!アイアンハウル!」
その鉄塊は国喰の頭の部分、元は城の制御室だったものに直撃させる。城の材質は大理石でできているためそれより硬い鉄塊があたり砕けた。
「見つけたぞ!お前の心臓!」
アガレスは制御室内の瞬く光るコアを確認する。
だが彼女自身に飛行能力はない為、落下してしまう。
アガレスはダメ押しでもう一撃、撃つが制御室の傷は修復されコアに直撃しない。
滅龍砲は未だ降り注ぎ次の跳躍は難しい。
国喰、平面に対しての制圧力と驚異的な回復力、加えて極めて高い知能。ゆっくりとした動きに騙され過小評価しそうだがそれは間違いである。装甲が柔らかいのがせめてもの救いか。
アガレスは落下しつつ軌道を変え俺たちと反対側に位置をとる。
何度もレーザー兵器を照射しているが対帝都城塞の時みたいに上手くいかない。
「ウル!逆行で兵装を変えてもいいんじゃ?」
「変えたいのは確かだがあれに通用しそうな兵器が思い当たらない。」
何度か逆行して装備を試してもいいがその都度機体の時間が巻きもどる。巻き戻した時間は帰ってこない。ここに来て逆行のデメリットが刺さってしまった。
同じ兵装を何度も現界させて備えておくべきだった。
帝国がエイラを欲しがった理由がこれだったのかと理解出来る。
完全に管理し戦線に投入すれば長く利用出来るのだ。
「エイラ!今日の8:40に機体を戻してくれ!」
「わかった!逆行!」
今の世界が元の世界と同じ時間の単位と時間軸で助かった。
Arbiterの時計はそのまま使える為、この世界の知識がなくても時間を合わせることが出来る。
機体の修復が完了しレーザー砲バルドルも元に戻った。
国喰は滅龍砲の照準を最適化し発射の感覚と範囲のズレがなくなってきた。
既に隙が存在するのか怪しくなっており時間をかけるほどこちらの動きを学習しているようだ。
ブースターで水平移動しながらバルドルを照射する。装甲を焼き切って切断できるのだが滅龍砲で相殺され国喰本体まで届かない。
アガレスは回避しか行えず苦戦している。
こちらはもうジリ貧状態だ。
「2人じゃ埒が明かない。どこかであいつの度肝を抜かさないと勝機が見えないね。」
エイラがなにか思いついたかのように身を乗り出す。
「何するつもりだ!打開策があるなら早く言え!」
こっちは機体の操縦で手一杯だ。滅龍砲が常にギリギリを横切り、バルドルの照準もレイヴンの補正のおかげで何とか当てている。
「ウル、無茶な頼みだけど国喰に接近してほしい。あいつに1発お見舞いしてやるわ。」
「あ~。エイラのやろうとしたことが何となくわかった気がする…。死ぬなよ?」
「なに言ってるの?私の生死は、ウル。あなた次第よ。」
俺はArbiterを可能な限り国喰に近ずける。
「扉を開けて!ウル!」
「扉ってコックピットハッチのことか!?」
エイラを信じ、ハッチを開く。
彼女は外へ飛び出た。
「レイヴン1番解放!いくわよ!」
【了解、No.1 神槍・焔…展開】
Arbiterのボディに付いたレーザー砲がしまわれ、中からパーツが飛び出る。それがエイラの右手に集まりひとつの槍が完成する。
「行くよ!レイヴン、やつに見せてやろう。」
彼女は1呼吸おいて叫ぶ。
「プロミネンス・レイ!」
とてつもなく大きな火球。その膨大な熱量にハッチを開けていた俺は操縦根を離し顔を覆う。
火球は国喰の胴体に直撃し風穴を開けた後、頭部を焼却した。
国喰の再生を止めるため、火球は頭部の位置で留まり焼き続ける。
だがその技は使用者にもダメージが入る。
国喰の魂が尽きるかエイラが焼け死ぬか。
「レイヴン!バルドルのエネルギーを全部つかってコアを撃ち抜くぞ!」
照準を国喰の頭と胴のつなぎ目、ちょうど首がありそうな場所へ向ける。
【安全装置解除、出力全開放。砲身形状拡大。】
「すまない、エイラ!だがこれで終わりだ。消し飛べ!!」
バルドルの砲身が光る。コックピットに映る映像が一瞬真っ白になる。
映像の乱れが治った時、バルドルが爆発しArbiterの両腕も反動で吹き飛ぶ。
国喰の胴体の上半分は焼失し、コア諸共消し飛んだ。
制御を失った巨体は崩れ落ちる。
「エイラ!」
落下中のエイラを捕まえようとしても腕がないこの機体では逆に怪我をさせてしまう。
「くっそ!アガレェェス!」
「わかっているぞ!必ずエイラを助ける。あの大馬鹿者め!」
アガレスは跳躍しエイラを受け止めたが国喰の崩壊に2人は飲まれていく。
崩壊した瓦礫が雪崩のように機体を襲った。
衝撃で姿勢を崩し仰向けに倒れる。
「どうなった?レイヴン、生体反応は?」
【生命反応を確認できません、センサーが破損しています】
そんな、嘘だろ。
俺はコックピットハッチを開け、自分の目で瓦礫を見る。
外には瓦礫の山ができていて、俺の機体も両足が埋まっている。
「エイラ!アガレス!どこだ!」
いくら叫んでも返事は聞こえない。
落胆し俺は膝から崩れ落ちた。
最悪だ。
任された命を救うことが出来なかった。
後悔の念に押しつぶされそうだ。俺が急に孤独になった気がして涙が止まらない。
「ちくしょ、ちくしょう…」
地面をひたすらに殴るが、その音は今の俺のようにとても小さかった。
「おい少年。何をそんなに泣いている。あー、少年という年齢ではないか。」
「俺は仲間を救えなかった。結局、最後は他人任せで。俺一人じゃなにも成し遂げれない。初めからこんな選択しなきゃよかった。ただ、帝国の言いなりになってベルナデッタといればよかったんだ。」
「ほぅ?お前しか生き残ってないのか。それは本当か?死体を見たのか?なにもわかってないのに勝手に決めつけて努力しないのはクソ野郎のすることだ。貴様はクソ野郎か?」
「少なくとも私にはクソ野郎と思えない。クソ野郎はこの場所にはいない。なぜなら今から貴様が助けるのだから。」
「どうやってやるのさぁ…」
「そんなに泣くんじゃない。貴様の綺麗な顔が台無しじゃないか。貴様は私に頼むのだ。救ってくれと、私はそれを拒わない。」
「救ってくれるなら悪魔にでも天使にでもなんにでも願ってやるよ…」
「ふふ、そうか。悪魔か。よくわかったな私は悪魔だ。」
「会話はもうたくさんだ!2人を頼む!」
俺は声の主に縋り付いた。
「あぁ、泣いてる子ってこんなにも可愛らしいのか。その願い叶えてやろう。代償は〜、その涙にしてやる。」
悪魔はウルの顔をあげ、涙を舐めた。
「今!ここに契約は結ばれた!この地に眠る、屈強なる魂よ!目覚めの時が来た。我が命に応え姿を表せ!」
そう、悪魔が唱えると瓦礫が爆発四散し、中からエイラとアガレスの2人が現れる。
「ほぅ、序列2位と48位か。君、2人を助けてやったぞ。こちらの2人は君の家来かそれともなにか?」
「家来でも、なんでもない。知り合いだ。」
「そうか、まぁいい。」
「すまない、取り乱してしまって。」
「いや、いいさ。君のおかげで再び世界に召喚されたのだから。逆に感謝すべきなのはこちらさ。」
「エイラとアガレスは大丈夫なのか?生き埋めになっていたから…」
「私の命で召喚した。体は再構築され怪我も癒えていよう。」
「そうか、安心したよ。すまないが名前を聞いてもいいか?」
「ん、あぁ。名乗りが遅れてしまい申し訳ない。私は71の悪魔をまとめる頂点にして王!序列1位のバエルだ。主君よ、よろしく頼む。」
「そうか、バエルさんというのか。俺はウルという。こちらこそよろしく頼む。」
「ば、バエルさん?ふふ、面白い呼び方をするな。さぁ、主君よ。ここには序列1位2位48位。世界を支配するのは少し力不足だが、許容範囲だ。行動を開始しよう。今すぐ始めよう!」
バエルは俺の手を握り、ニコニコと笑う。
また、ヤバい奴とあってしまったようだ。




