Part10 災難最難
帝都 大門跡地 Arbiter操縦席
am.8:40
彼女の魔法で機体の全てが変わる。折れた両足も、壊れたブースターも、そして俺が望んだ装備に切り替わっていく。可変翼は消え代わりに大きなバックバックを背負う。手元には全長約60m幅10m高さ10mの兵器が現れる。
装備が再現されつつある中、機体の片膝をつかせ兵器の照準を合わせる。
超出力レーザー照射砲「Balder」
そう名のつくこの兵器は最大3000kwまで出力でき、照射した目標を焼却する。有効射程は6km前後である。それ以上の距離で使った経験がないため目標にあてれる自信が俺は無い……。
だが理論値では10kmを超えて射撃することが出来る。
モニターに表示されているレティクルが直線に揃う。
それを確認したエイラが身を乗り出し、言い放つ
「「「1番解放!プロミネンス・レイ!!」」」
その言葉に合わせトリガーを引く
超出力レーザー照射砲の銃口が眩しく光る。その光によって辺りが真っ白になり、熱によって周りの有機物が一瞬にして炭化する。
光が集束した頃には城の1部が爆発し崩れる。
無事、レーザー光は防衛兵器のひとつを破壊した。
超出力レーザー照射砲のバレルが冷却材によって冷やされる。
そして大量の蒸気が排熱バルブから吹き出す。
超出力レーザー照射砲の損耗率は残り90%である。
「みたか!これが超兵器の威力よ!」
「お前、大人しくしてなくて良いのか?」
「ずっと悲しい気持ちでいるなんて私の性にあわない」
エイラは苦笑する。
実際、体への負担は凄まじいのだろう。額の汗は止まらない。
「ありがとう…」
俺はエイラの手を握って言う
彼女は顔を俯かせて
「痛い…痛いんだよ……」
そういい涙を数滴、零した
【終わらせましょう…この争いを】
「そうだな。レイヴン」
俺はエイラの頭をそっと撫で…座席に戻りモニターを見る
彼女のすすり泣く声が少し強くなる
「レイヴン、安全装置を解除しろ」
【安全装置を外した時の損耗率は現在の4倍程度です。よろしいですか?】
「構わない。すぐに射撃体制へ移行…連続使用する。照準補正を頼む」
レーザー兵器の安全装置が吹き飛ぶ。それによって内部機構が現れ金属部分が赤熱する。
【温度上昇、推定上限1500℃…連続使用可能域です。】
金属部品が熱で白色に変化し、熱伝導の高い部品が徐々に溶けていく。冷却材は限界まで稼働しており甲高い音で悲鳴をあげる。
「速射開始!」
俺が合図しトリガーを引くと、撃ち出された高熱によって空気中の砂埃が燃え、本来は確認できないレーザー光の軌跡が見える
レーザー砲を横凪に動かし、糸状に見える光を順番に防衛兵器に当てる
熱で防衛兵器は溶解していく
滅龍砲の制御室は混乱で指揮系統が機能していない。帝都にいる国民は城を破壊している光線をどこからでも確認できただろう。
わずか数分で帝国最強の異名を持つ砦は崩壊したのだ。
制御室のガルトゥス大臣は歯噛みする。
レーザー砲の攻撃で防衛兵器と城の機能は完全に停止。
第1射の後すぐ、近衛を集め王様一行を転送陣で避難させたがそれ以降の避難誘導ができなくなった。転送陣に避難民が押し寄せ、むごい状態なのが予想できる。
「帝都の国民は100万以上いる…通信手段は機能していない。クソが!」
大臣が机を叩く
勇敢なる帝国兵ならあのゴーレムに今も攻撃しているだろう。大臣に決断が迫る。帝都全体を巻き込んでまで戦い続けるか、降参し見逃すか。
後者を選択し、あの捕虜が戦争をやめ隠居するのにかけるか?
大臣は髪をかきあげ、ひび割れたモニターを見る。
そこには情けない顔の自分がいた。
防衛大臣になって30年以上務め、過去にはいくつかの大戦に勝利した経験がある。だが今回は……
では攻撃をやめ我々は降参した。あなたは何処へでも行けと伝えるか?白旗をあげたら本当に終わるのか、私はそうではないと、プライドが許さない。
「良くないな……本当に。」
彼はとても重要な役割を任せられたからなのか、深い…深いため息をついた
「これでは、先代方に失礼であるな……」
歴代にわたって守り続けた城なのだ。ここで破壊されてなるものか。
彼は制御室の司令席に戻り、画面にコードを打ち込む。
「数百年の眠りから目覚めるがいい…」
打ち込み終わると制御室の中央の床が開き、中には赤く光るコアが存在した。彼はそれに近づいて手をかざす。
「私を贄としここに顕現せよ!国喰の帝王よ!」
ガルトゥスはそのコアに飲み込まれ消えていった。
その直後、帝都中に巨大な地震が起こる。地面に亀裂が走り、先程まで国の首都があったと思わせないほど荒れていく。
帝都の全区が崩壊していく。
城からの攻撃がやんだ時点で帝都から離れていたウルたちはその状況を見て絶句する。
「おいおい、何やるって言うんだよ!?」
「もう見逃してくれてもいいんじゃねぇか?」
機体の足を止め振り返る。
エイラが間髪入れずに操縦根をたおす。
「足を止めないで!!」
「きっとあれは国喰!ここから離れないと!」
機体が姿勢を崩して倒れる。
「わかったから、落ち着け」
操縦根を握り、Arbiterを前進させる。
「国喰とはなんだ?」
「あれは帝国が人魔大戦で使った最終兵器…」
エイラが青ざめた顔で言う
「人魔大戦?」
「今と同じように数百年前に人と魔族との戦いがあった。その時、魔族側を圧倒し後一歩で人の勝利が確定するとこまで戦況を覆した。」
「あれ、一体でね…」
「エイラはその、人魔大戦に参加していたのか?」
「そう、ね。正式には参加していなかったわ。なんせその頃はまだ幼かったもの」
今でさえ、若干20歳程度に見えるくらいの容姿をしているため、年齢がいくつなのか検討がつかない。
俺たちはArbiterを走らせ、行先も決めず逃げる。
後方には建物を破壊しながら前進してくる巨影。
その大きさはArbiterよりもはるかに巨大で、推定2000m以上はあると見える。頭は雲の上にあり確認できなかった。
Part10は長い戦闘なので一旦区切ります
1/22更新
国滅ぼしを国喰に変更、付け加えて1部セリフを変えました。




