Part8 逃亡者
帝都 一番街 コックピット内
am.8:15
俺は虚ろな目で彼女を見た
彼女の両耳は倒れており、涙ぐんでいた
その悲痛な表情が愛おしく思える
外の景色はぐちゃぐちゃで操縦席の姿勢制御があったとしても振動が伝わっていた
操縦席周りには血まみれの包帯が転がっており、彼女の体に巻かれていた布も赤に染っていた
気絶してからそんなに時間は経っていない
俺はいまだ、ぼんやりとしていた
初めに口を開いたのは彼女だった
「ねぇ!?生きてるよね?」
俺はゆっくりと頷く
「悠長にしている時間はないの!この兵器は貴方しか操縦できない!」
「起きてぇ〜」
彼女が俺を椅子まで引っ張り、操縦根を握らせる
「はぁ…はぁ、外を見て…」
彼女がモニターの一点を指さす
それを見た瞬間、俺の脳が直接叩かれたかのように目覚める
「なんだあれ……?」
モニターが映し出したのは、巨大な砲台だった
それは帝都中心の城からこちらを狙いすましている
しかも1門だけじゃない、見えているだけで5門
城の外壁についていた
「さすが帝国…本陣の防御も桁違いね」
彼女が砲を見ながらいう
俺はやっとその魔族が誰か理解した
「エイラ・ハーゲンティ…」
俺はそうつぶやく
エイラはこちらを向き目を丸くした後、笑った
「今、気づいたの〜?ふふっ そうよ!」
「もう大丈夫よ、ウル…私たちがついてる」
彼女が腰に手を当て威張る
彼女の体はボロボロで傷が癒えておらず血塗れた包帯で所々巻かれていた
わかるのは白髪の獣人てだけ
エイラは再び、帝国の城を見て言う
「君のことはレイヴンから聞いたわ…」
「とりあえず、今はこの場所から逃げよう」
エイラがとても真剣な表情に切り替わる
俺はレイヴンのくだりを理解できなかったが今は共闘関係みたいだ
俺は操縦根を握り直し気合いを入れる
エイラが俺の肩に手を置き言う
「君の強さは知ってる、任せた」
エイラが無邪気に笑い、囁く
「私に勝ったのだから、失望させないで」
俺はその言葉を聞きビクッとする
その後急に、見知らぬ声が操縦席に響く
【真白の騎士よ…君に託す】
その声にいち早く返答したのはエイラだった
「レイヴン!貴方もよ、気合い入れなさい!」
【わかりました】
俺は何が起こっているのか分からなかった
「この件は後で教えてもらうからな!」
そう言い残し、アービターを前進させる
目標、帝都大門 まずは逃げる後はそれからだ
帝都 作戦会議室
am.8:00
「クソがぁぁ!あのガキ…」
王様が机を叩く
先程、テイマー隊格納庫にて異変ありと報告されたばかりだった
ベルナデッタ亭は執務室から見える高台に立っており、王様自身も爆発を見ている
そして急ぎ作戦会議と言うわけだ
「あの小僧がいつかは裏切ると予感していたがこうも早いとわ」
「やつを野放しにするのは不味い…魔族側につかれると脅威になりかねん」
王様は歯を食いしばった
「防衛大臣…内蔵型防衛装置滅龍砲を使え」
「よろしいのですか、あれは帝都外壁を越え侵入した適正勢力の為にだけ用いるはずでは?」
大臣が焦りつつ言う
「今がその時なのだ!聞けばあのゴーレムには魔族の肉体を入れたらしいじゃないか」
「ならあれは今や魔物!帝国の兵器ではない!」
王様が立ち上がり、巨大ゴーレムを指す
会議室にいた大臣達がざわつく
「ですが、今ここで破壊しては街が壊れます!」
財務大臣が叫ぶ
「王様はどれだけ被害がでるか理解できてるのですか!」
財務大臣が損害を計算し始める
「黙れ…今、倒さないと街ひとつ以上の損害が出るぞ」
財務大臣の手を止めつつ王様が言う
「今すぐ市民に伝達!一番街を放棄させ住民を他の地区へ移動、兵士はすぐさま招集させろ!全員だ!」
防衛大臣が部下に命じる
「閣下、滅龍砲の準備が出来次第報告致します」
防衛大臣はそう言い残し会議室から走り去る
「各大臣は各々の目的を果たせ」
王様は頭を抱えつつ会議室を後にした
残された大臣達は王様の後に続き、部屋から出ていく
王様が向かった先は滅龍砲の操作室で準備を始めていた大臣は驚く
「なぜこちらへ?」
王様が言う
「私がとどめを刺す…このケジメは自分でつける」
「そうで御座いますか…滅龍砲起動準備」
そう大臣が命じると城が揺れる
城の外壁が開き5門の砲台が現れる
そして帝都一番街には街を包み込むようにシールドが生成される
元々この砲は名前の通り空を飛び侵入するドラゴンを撃ち落とすために開発された決戦兵器である
「閣下、滅龍砲エネルギー充填を開始します」
「しばしお待ちを」
「この時間が惜しいな……無作為に兵士を犠牲に出来ん」
「先に向かわせた隊は壊滅したと聞く、帝都外壁の長距離砲も使用し足止めせよ」
「ここでやつを潰す」
王様が提案する
「それは良案ですな!早速部下に命じます」
大臣が制御室の電話をとり話す
「こちらA-0制御室、ガルトゥス大臣だ、陸軍省に伝達…転送陣を用いて砲兵隊を外壁防衛基地に移動させよ、基地内の兵士と連携し巨大ゴーレムの足止めを頼む」
大臣は部下の報告を聞き受話器を置く
「陸軍省は既に動いていた様子、やはり我が帝国兵は強者揃いですな!ハハハッ」
大臣が愉快に笑う
「魔王軍や人類連合とは何倍も違うということをわからせようではないか!ハハッハハハ!」
王様がそういい2人は滅龍砲の照準先にいる巨大ゴーレムを見て笑った
ゴーレムは大門に向けて前進を始めている
「エネルギー充填率30%、まだまだですなぁ」
大臣がぼやく
本当の使い方は充填MAXで敵を迎え撃つのが良いのだが今回は緊急使用であるため致し方ない
「一番街のシールドは張ってある、空を飛んで逃げるなどできないのだから時間は十分あるさ」
王様がにやけて言う
2人は制御室の計器と睨み合う部下と違い偉く余裕ぶっていた
この余裕はすぐに覆されるとは知らずに…