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6.そうして

 その場はひとまず、サード王子周りとマキナたちが退場した後改めて卒業パーティが行われたという。ただし、話題はもっぱら退場した一同についてだったようだが。


「こちらが、指定された日時と場所の映像でございます」

「やめてえええええ」


 警備部隊から提出された映像には、階段の三段目からよいしょっと飛び降りて転んだふりをするテスの姿がばっちり確認された。他にも、テスの貴族令嬢らしからぬ言動をたしなめるマキナの姿などが映像として残っている。

 全員の白い目に見つめられてテス・バイカウントは、サード王子や取り巻きたちに伝えていた『マキナの悪行』が全て嘘であることを自白した。

 彼らはそのまま警備隊長に連れられて、事情聴取を受けたことは言うまでもない。容疑はありもしない事故・事件をでっち上げて学園内を混乱させたことと、マキナ・フュルストに対する誹謗中傷・名誉毀損である。サード王子たちもテスの言い分を鵜呑みにしていたとはいえ、同罪である故取り調べは厳重にせよ、とは卒業パーティの話を聞いた国王陛下からのお言葉である。


「で。ついでに、僕の作った制服について大演説してくれるマキナの姿もたっぷり見せてもらったわけなんだけど」

「だって、本当のことですもの。他国から留学されている方々も、フロウア先生の制服を着用したくて来られていることが多いのですよ」

「それは光栄だね」


 シャナン・ファクトリーが王都の外れに構えている工房、その社長室でマキナは、部屋の主であるファースト王子が手ずから淹れた紅茶の味を楽しんでいた。

 ファースト王子、ことフロウア・シャナンがデザインした学園の制服に関するフュルスト侯爵令嬢マキナの演説もまた、当然というか映像記録が残されていた。それをファースト王子は、照れくさそうに笑いながら全て見終えたらしい。


「しかしまあ、僕の弟子とはいえ素材の生産地までしっかり覚えていたもんだね」

「フロウア先生のご講義でしたもの。弟子としましては、全て覚えないといけませんわ」


 マキナはフロウア・シャナンの弟子を自認している。

 父親についてシャナン・ファクトリーの店を訪れたときに感銘を受け、是非にと望んでフロウアことファースト王子との交流の場を設けてもらった。十歳以上離れている二人であったが、服飾の話でとても盛り上がったという。

 もっともこの頃、既にマキナはサード王子との婚約が内定していた。そういった事情もあり、婚約者の兄であるファーストにはあくまでも服飾関係の師匠になってもらい、裁縫や刺繍などの手ほどきを受けていたのだ。


「サード殿下は、どうなるのでしょうか」

「マキナとの婚約は解消されたんだろう? お望み通り、バイカウントのお嬢さんのところに婿入りじゃないかなあ」

「そういえば、跡取りがおられないというお話でしたものね。バイカウント子爵も、それはお喜びでしょう」

「ただ、ちょっと面倒かもね。直接子爵家に婿入りなんて前例がないし……ま、伯爵あたりの称号で余ってるやつがあったと思うから、そちらに分家するって形で王族から切り離されるだろうね。サードは」


 マキナの疑問に、ファースト王子は苦笑しながらも答えてやる。自分を理不尽に捨てた男の心配までしなくともいいのに、とでも考えているのだろう。

 ファースト王子の言う通り、サード王子は王族がいくつか持っている領地を分け与えられ、それに付随する爵位を受ける。その上でバイカウント子爵家へ婿入りすることとなり、王族の籍を失うこととなるだろう。

 テスは王子妃、ゆくゆくは王妃の座を狙っていたのではないか、という推測が巷に流れているが、それが事実かどうかは分からない。卒業パーティの日以来、マキナもファースト王子も彼女には会っていないのだ。


「父からは謝罪を受けましたわ。サクスの教育を間違えたようだ、と」

「嫡男だものね。フュルスト家はどうするんだい?」

「親戚から、養子を受けることとなったようですわね。サクスは今から教育し直すようですが」

「ちゃんと立ち直れると良いねえ。他の子たちも」


 サード王子と共にテスを取り巻いていた中にいた、マキナの弟サクス。どうやら彼は、フュルスト侯爵家嫡男の地位を追われることとなりそうだ。『今から教育し直す』というのはおそらく、両親の最後の情けだろう。

 それ以外のテスの取り巻きたちも、それぞれの家に引き取られたという。

 プリムは父たる宰相に激怒され、既に結ばれていた公爵家との婚約を白紙に戻された。

 アッドは年老いてなお血気盛んな祖父マーシャル元帥の元で、一兵卒としてしごかれることになったらしい。マーシャルの名を使うことも今後は許されない、という。

 そして、マキナは。


「だけど、これで良かったのかい?」

「何が、です?」


 少し困ったようなファースト王子の問いに、爽やかに笑いながらマキナは首をかしげる。


「確かに僕は今後公爵の位を受けるけどさ、マキナはもともと王子妃候補だったんだよ?」

「サード殿下の婚約者では堅苦しいですけれど、フロウア先生の婚約者ならばかなり気が楽ですわよ?」

「年齢、結構離れてるよ?」

「先生はお若く見えますから、何の問題もありませんわ!」


 現在、マキナ・フュルストはフロウア・シャナンことファースト王子の婚約者となっている。どうやら、サード王子との婚約が白紙撤回されたことでマキナの中で何かが爆発したらしく、父母及び国王陛下に直談判してその地位を射止めたようだ。

 ファースト王子も、断らなかったところを見ると愛弟子たるマキナのことを憎からず思っていたようである。ただ、少々年齢差があるためにどこか後ろめたい部分もあったのだろう。


「弟子として、婚約者として、今後ともよろしくお願いいたしますわ。フロウア先生!」

「……ありがとう、マキナ」


 朗らかに笑う婚約者に、王子もまた微笑んで答えた。

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