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記憶の破壊者  作者: 天雨鳥
第一章 脱獄物語
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第一章 005 決意

今回はだいぶ会話多めです

 導は牢獄へと連れていかれた。その最中に複数の牢獄を目にしたが、その中にはすでに何人もの人々が収容されていて、その全員が体に烙印を押され、訳のわからない文字を刻まれていた。

 どうやら導の入らなければならない牢獄の前に来たらしい。手錠を乱暴にはずされると導を部屋の中へ追いやった。

 その部屋は薄暗く埃っぽい。導以外にも数名ここに囚われているようだ。

 導は新入りがボコボコにいじめられるとかいう展開も想像していたが、そんなことはなかった。

 それは導にとっては意外だった。これまで歩いているときに脇目で見た牢獄の中には、血と思われる赤い液が飛び散っている部屋もあったからだ。

 導にはこの部屋は他と比べて異様に広く感じられた。


ーーいや違う。人が少なねぇんだ。そりゃいじめられる訳もねぇか。


 他の部屋と比べると人数が極端に少ない。他の部屋は10人くらいいるのに対して、この部屋は二人だけだった。しかも、その内の一人が少女だ。逆にいじめられる方がおかしいくらいのバランスである。

 改めて部屋の中にいる人の顔を見る。一人は空色の長髪の少女。そしてもう一人は、


「ファズ…?俺を売ったお前が…どうしてここにっ!?」


茶髪に白髪が混ざった青年男性。ファズだったのだ。ファズもさっき着ていたちょっぴり高そうな服ではなく、導のボロボロの服よりも一回りデカイそれを着ていた。そしてその腕にはやはり読めない文字でナンバーと思わしきものを刻まれていた。


「よぉ兄ちゃん。確かシルベ…いやここでは0467か」


 そのなにもなかったかのようなファズの言い方に、導の崩壊しかけていた精神の原動であった“苦しみ”が“怒り”へと変わる。


「ファァァァズゥゥゥッ!てめぇぇぇ!」


 導は思い切りファズに殴りかかる。ファズはそれを避けようとしない。


バァキッ!


 ファズの顔面に導の拳がめり込み、抵抗もなにもしなかったファズは吹き飛ぶ。殴られたファズは導の全力を体全体で受け止めた。ファズの目は別の意味での悲しむ目をしていた。

 導にはもともと人を殴るような経験は一切ない。そんな導にとってファズのその悲しげな目は良心をズキズキ傷つける。


「おい…その目は反則だろ。俺を陥れたようなやつがなに都合よく悲しんでんだよ?」


「………」


「売ったあげくなんも言わねぇのかぁ!?」


 ファズの態度に苛立ち、導は良心など捨て、再度殴りかかろうとする。


「もうやめてっ!」


 今までの流れを黙って見ていた少女がそう叫び、導とファズの間に割って入る。

 その突然の行動に導は完全には対処することができず、ギリギリで少女に殴るのを止めることができたが、導の体は硬い床に叩きつけられる。おまけに足についていた鉄球が腹に落ちてきて相当なダメージが導に入る。


「いってぇ…。てめぇ突然なんなんだよ?危ねぇだろ」


「危ないのはあなたの方でしょ?今のパンチが彼に当たってたら間違いなくあいつ等が来ていたわ。そして何より、冷静じゃないよね?君。君たちの間にどんな理由があるにしても暴力はいけないと思うわ。そして私はてめぇなんかじゃない。私にはセリアっていう名前があるんだから」


 セリアと名乗った少女はそうまくし立てると、ぺたんっと床に座り落ちる。そりゃそうだ。年上の男が喧嘩している間に入ってくるなんてよっぽどの覚悟がないと難しい。


「セリアちゃん。事情を知っている立場なら確実にこのファズさんの方が悪い。理由を聞いたら驚くよ?」


 今のセリアの行動でやや落ち着きを取り戻した導はセリアに対してそう言いながらその場に座る。


「そんなの聞いてみなきゃわからないじゃない」


「いや、そこのシルベが言っていることは正しいぜお嬢ちゃん」


 導とセリアの言い合いのなかに、ファズが重々しく口を開いて参加する。ファズは導の正面に座った。

 セリアはそれに不満を感じ、また言い返そうとする。その前に、ファズが正面から導の目を見てこう言った。


「シルベ…いやシルベ殿。先程は無礼な行動をしてしまい大変申し訳ない…」


 ファズはシルベに対して、誠心誠意を込めて謝罪をした。額を床に擦り付けている。

 これにはセリアだけでなく、謝罪された導自身も動揺していた。自分を売ったはずの人間がこんなにも謝ろうとするのが不思議でたまらないのだ。


ーーなんでファズさんが俺に謝ってるんだ?売った人間に対してこんなにも謝るなんてファズさんはあいつらの仲間じゃない、のか?いや待てよ。考えてみろ。ファズさんが敵の味方ならなんで俺と同じように服も没収されて牢獄に入れられてるんだ?その時点でなにかがおかしいことになんで気付けなかったんだよ…。


「ふぅ…はぁ…ゲホッゲホッ」


 深呼吸をして調子を整えるも、盛大に埃を吸い込む。


「なにしてるの、大丈夫?」 


「あぁ、大丈夫だ。そんなことより顔をあげてくれファズさん。俺が…いや、少なくとも俺をあいつ等に売ったのはファズさん。お前が悪い。でもなんか事情があったんだろ?」


 ファズは顔をあげその導の発言に驚く。


「なんで…そのことを知って…」


「もちろん全部知ってる訳じゃねぇよ。なんかあるんだろうなってことぐらいしかさ」


「そう、か。いやどんな理由があろうと俺がしたことはしたことだ。何度謝っても済むような話ではない」


 そう言ってまた謝ろうとするファズを導は焦って止める。


「だから、許す…わけじゃないけど今そんなこと言ってもしょうがないだろ?事実、何も話を聞かずに殴りかかったのは俺が悪い。冷静じゃなかった。ただひとつだけ条件がある」


「なによ?条件なんて…」


「条件はなんだ?」


 セリアの言葉をさえぎり、ファズが導に問う。


「なあに。そんな身を強ばらせんなって」 


「もったいぶらないでよ」


 導は苦笑する。


「セリアちゃんは怖いな。ファズさん、いやファズ。条件は俺と一緒にここから抜け出すことだ。つまり脱獄するってことだ。どうだ?簡単な話だろ?」


「簡単な話って…あなたここがどんな場所か知ってるの?」


「いや知らない。でも俺はこんなカビ臭いところになんかいたくない。理由はそれだけだ。生きるのなんてそれぞれの自由だろ?」


「そりゃ…そうだけど…」


「それにファズさんはここを抜け出せばいいことがあるんじゃないか?」


 それを聞いてファズは苦笑する。


「本当に何も知らないとは思えない口ぶりだな…。いいだろう。乗るぜその提案」


「え?ちょっファズさん!?」


 二人だけで話が進み困惑するセリア。


「じゃああとはセリアちゃん。君だけだけどどうする?」

 

答えは一瞬だった。


「わ、私も一緒にいくわ。一人にしないでよね」


 セリアもそれに同意する。


「じゃあまずは情報の交換からだ。そのためには…ファズ。一番最初に頼む」


「わかったよ。これは説明すべきだもんな」


ーー俺の異世界生活だ。自分の未来は俺が。俺自身がつかんで見せる。


 どっかのキャラクターもおんなじようなことを言ってたなと思いながらも、導は人知れずそう決意した。




───────────────────────────────────


「今日は上物が3も集まったな」


「こいつらを早く売りさばいてやろうぜ」


「そうあせるな。上物ははりつけにするだけで貧乏な奴等がストレス発散するのに格好の的だ。高く売れるには間違いない」


「あの女は俺がもらうぜ?結構イケテるしな」


「ちゃんと金払えよ?」


 こちらもまた良からぬことを企んでいるのであった。


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