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記憶の破壊者  作者: 天雨鳥
第一章 脱獄物語
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第一章 002 襲撃イベント

「おいおい、どっか悪いとこでも打ったか兄ちゃん。見ない格好してるし迷子か?」


 何に驚いたのか。俺のことを不思議な目で見つめてくるおっさんにではない。導のいるこの場所に、だ。こんな場所は導は知らない。


ーーどういうことだよ…


 ただひたすら困惑するしかなかった。だが、自分のアニメ知識から考えるとこれはアニメの鉄板と言っても過言ではないあの状況にある。現実に起きるわけがない出来事。


「·······これって、異世界来ちゃった系か?」


 小さな声でそう呟く。そう考え出すといろいろと妄想が止まらなくなってくる。


ーーなんか特殊能力ついてるだろうな!異世界に来たらどんな主人公でも絶対になにか能力を持っている。俺の場合はなんなのだろうか。魔法か?死なないとか?…


「おぉ、兄ちゃん元気になったみてぇだな。じゃあ達者でな!」


「あ、え、いやちょ待ってください」


「んなんだ?」


 危うく親切なおっさんの存在を忘れるところだった。こういうときは情報を集めなければならない。なにせ導はこの街の名前すら知らないのだ。おまけに無一文かもしれないとなりゃ情報は命に関わってくる。


「見たところこの街はすごく栄えてるように見えるんですけど何て言うところなんっすか?」


 そう聞くとおっさんは怪訝そうな顔で、


「やっぱ兄ちゃん頭ぶつけたんじゃあねぇのか?この国のこと知らないやつなんてお前以外どこにもいねーよ。ここはマドレティア王国。この世界で一番でけー国だよ」


と、答えた。


「マドレティア…王国…」

 

 口の中でその言葉を繰り返す。


ーーうん。実に異世界らしい国名だ。


 導の心は最初の驚きと不安からうってかわり、異世界にやって来たという事実を噛みしめ、興奮している。


「親切にしていただき、ありがとうございました」


「おうよ!今度こそ達者でな!」


 そう言っておっさんと別れる。おっさんは人混みの中に隠れてすぐ見えなくなった。

 正直、最初に出会えたのがあの親切なおっさんだったことは超ラッキーだ。どこぞのチンピラに絡まれたら導が生き残れる確率はほぼない。そういうことを考えると、無傷で情報を得ることができたのは奇跡かもしれない。


「よし、俺の輝かしい異世界生活始めるぜ!」


 そう叫んだことで周りの人から睨まれながらも、天川導の異世界での生活は始まったのだ。


─────────────────────────────────


「……参ったな」


 一時間ほどが経過した今、天川導は完全に道に迷っていた。さすがこの世界で一番でかい王国なだけあってとてつもなく広い。お城を中心に広がっているみたいだ。みたいだというのはさっきからずっと歩いてはいるものの、どれだけ移動しても城が見えるからだ。


ーーしっかし参ったな…。言葉は通じるけどこの世界のお金をもってねぇし、文字もわからねぇ。


 導は興奮するあまり、他のことを忘れて国のなかを歩き回っていたのである。そのせいでお腹は減り、迷子になるも身寄りの人も誰もいない異世界では無一文と同じなのだ。


ーー話しかけたいが…姿のせいもあって話しかけづらい。見慣れない服を着た変人にしか見えないだろうからな。


「くっそ、さっきのおっさんにもうちょい話聞けば良かったな…」


 言ってもしょうがないことだ。確かにおっさんはいい人だったけど、急いでいたみたいだから迷惑にもなる。事実、今導には無い物ねだりをするような余裕はないのだ。

 学校から突然異世界にやって来たわけだから所持品もほとんどなにもない。あるものは教科書とガムとちょっとのお茶くらいだった。スマホやパソコンがないというのは導にとっては地獄のようなものでもある。

 

 下手したら今日は野宿かもしれない。そう思ったときだった。


「お?さっきの兄ちゃんじゃねぇか!元気か?」


 さっきのおっさんが声をかけてきたのである。


「さっきの!その節はありがとうございました。今道に迷っちゃってですね…。」


「おぉそうか。なんなら今日うちに来るか?そこまで広かねぇが一人ぐらいだったら大丈夫だぞ?」


「本当ですかっ?」


 尋常じゃない限り都合がいい。導にとってそれは神が救いの手を差し伸べてくれたようにしか感じられない。


「おぉいいぜ。じゃあいくか」


「はい、あ、名前をまだ名乗ってなかったですね。僕の名前は天川導です。今日この世界に来ました」


「ん?意味わからねぇのもあるがシルベだな。やっぱ珍しい名前だぜ。俺の名前はファズだ。あと敬語はやめてくれ」


「あ、そう?じゃあよろしくなファズさん」


「シルベよろしくな」


「じゃあ早速いくか。家についたらここのこと教えてやるからよ」


 どうやら家に連れていってくれるらしい。導がすでに疲労困憊の状態だったのを見てそうしてくれたのかもしれない。


ーーやっぱ優男過ぎんだろ。


 そう思いながらもぐんぐん進んでいくファズを見失わないようにしっかりついていく。歩くにつれ中心の城から離れていく。

 30分程経ったときファズは足を止めた。そこは人が気づくか気づかないかもわからないような暗い路地だった。城もさっきよりだいぶ小さく見える。


「ん?どうしたんだよファズさん」


「……」


 ファズはなにも答えない。よく見ればファズは少し震えているし、汗をかいている。これくらいの距離でさすがに震えるまでは疲れないはずだ。


ーーなにかに怯えている、のか?


「なぁぐあいでも悪くなったのかよ?」


「……」


 明らかにおかしい。導の体が、心がそういっている。神経を通して全身に緊張の感覚が伝わってくる。

 暗くて目立たない路地。怯えているファズ。そしてこの感覚。導の記憶をたどるとこのシチュエーションは、


「おい、まさか襲撃イベントっ?」


「シルベ悪いな。俺には…やらなきゃならねぇ理由があるんだよ」


「ッ!?」


 とっさに身構える導。一応小学生の時にヒーローに憧れて柔道をしていたので構えだけは完璧だった。にもかかわらず、


「ゆっくり眠ってくれ。俺もお前に暴力なんざふるいたかねぇよ」


 ファズは襲って来なかった。それに安心する。それにしても


ーーなんだ?あいつが持ってる瓶は


 導はそう疑問に思う。普通こういうときに人を襲おうとするときはナイフや銃などの殺傷力の高いもののはずだ。でも傷つけたくないと本人がいっている。傷つけずに人を襲うもの。つまりあれは


「睡眠液か!?」


「眠れ」


 その一瞬の油断が導のおかした間違いだ。ファズはその瓶の蓋を開け、なかに入っていた液体を導の頭にかける。導の脳を強烈な睡魔が襲う。


「うっ、グァッ!……」


 もうたっているのもしんどいのだが、それでも必死に耐えようとする。


ーー負けてたまるかよっ!


 最後の気力を使い果たして繰り出した導渾身の一撃は、ファズの頭に届きそうな距離で止まる。脳が睡魔に負けたのだ。全身を込めた渾身の一撃は勢いを落とし、胸に


コツン


っと小さなおとを響かせた。

 導は体にのしかかる重みに耐えることはできず、導の意識は暗闇の中へと沈んでいく。


ーーくっそこんなところでッ!

 


 最後見たファズはどこか切なく、それでも安心しているように見えた。


─────────────────────────────────



 目を開けた導の前には小さい女の子とその母親だと思われる女性が複数の男につれていかれているという光景が広がっていた。そして、


ーーなんだよ?これ…


そこにはもう一人。必死に親子を守ろうとして、ボロボロになったファズがいた。

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