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記憶の破壊者  作者: 天雨鳥
第一章 脱獄物語
10/11

第一章 010 記憶の破壊者

「そう簡単に君に死んでもらうわけにはいかないんだよね」

「それなら尚更お前は俺のことを助けなきゃならないってことだよな?」

「まーそうだねぇ」


 エルナリオの相変わらずの態度に段々イライラしてくる。こういうときは早めに本題を聞き出した方がいいな。変に機嫌を悪くして追い出されたら、それこそもう終わりだ。


「その記憶干渉だったか?その力を使ってなんとかすることはできないのか?あの組織のやつらの記憶を全部抜くとかしてさ」

「確かにね。そういうのもできなくはない」


 質問一発目にして解決策が出る。案外楽勝じゃねぇか。わざわざこんなところに来る意味はなかったかな。


「じゃあそれでいいか」

「それができると思ってる辺り君は僕をバカにしてるのかい?」

「は?」


 意味がわからない。

 そういうことができるといったのはエルナリオ自信だったはずだ。


「確かに僕はできなくはないとは言った。だがそれと同時にできるともいってないだろう?君には足りないものが多すぎる。そして記憶に関することもないがしろにしすぎだ」

「足りないもの?俺にはこのハサミだってあるから記憶に干渉することができる。ファズさんの時がそうだったように。そして万が一の場合、お前が助けてくれるだろ?何が足りないって言うんだ」

「そうだったね。君は異世界から来た、いわば訪問者だからこっちには疎いんだった。じゃあ説明しようか。君に足りないものはたくさんあるけど、今最優先で必要なのはLvと熟練度、そして記憶に対する考え方ってところかな」


 Lvと熟練度か。こういうワードを聞くとやっぱり異世界なんだなって感じがする。記憶に対する考え方って言うのはもう哲学だな。


「詳しく教えろ」

「やっぱり口が悪いね。いいけどさ。まずLvと熟練度に関しては君の世界にあったゲームとやらとほとんど同じだと考えてもらって構わないよ。君はまだLv.1で、そのハサミの熟練度も20ほどしかない。記憶を破壊するためには最低でも、Lv100は欲しいし、熟練度も1000は欲しいしさ。それだけ人の、物の、そして全ての記憶はお金に変えられない恐ろしいものなのさ」

「Lvは……まだみたことはないけど魔物的なのがこの世界にもいるんだろうからそいつらを倒して経験値ゲットしてたまればLvアップってところか」


 ん?ちょっと待て。

 今こいつはどうやって俺のLvと熟練度を確認したんだ?ここが特殊空間であるからというのはわからなくもないが、ここでしか見れないんだったらこの世界のやつらはどうやってそれを把握しているんだ?


「把握する方法は君でもある。さっきボルドーとやらがしているのを見たんじゃないか?」

「相変わらず人の心読んでくるのな。ボルドーがしていた?あぁそう言えば空中を操作してい……あ!そういうことか」

「そういうことだね。意識すればいい。そうしたら自分の目の前にそのステータスが広がるよ」


 意識を集中させる。

 すると目の前にパネルが現れた。そこには名前、Lv、装備中の武器とその熟練度が記してある。他にも多くのことが書いてある。



 《シルベ・アマカワ》Lv.1(人)     ▷習得魔法◁

  ジョブ :奴隷           ▷スキル◁

  装備武器:漆黒のハサミ       CT:----

  熟練度 :20            BP:----

  装備防具:           

  状態異常:吐き気

  

 しれっと状態異常をかけてやがったなあいつ。

 それよりもジョブってなんだ?装備防具は装備している防具があればなにか表示されるんだろう。CTはクールタイムの略でSPは……スキルポイントとかの略か。

 ジョブは職業とかを表すと思うから今の俺は奴隷が職業なの、か。笑わせてくれる職業だな、おい。

 スキルはLvか熟練度が上がれば増えていくんだろう。

 習得魔法もそんなところか。


「うんうん。君は物分かりが良くて助かるよ。無駄な説明を省くことができる。……それじゃあ本題に入ろうか。記憶に対する考え方が君の認識では甘い。君は人の記憶に干渉することができる。そんなこと他にできる人はなかなかいない」

「そりゃそうだろうな。こんなこと全員ができたらプライバシーなんてないと同じだろ」

「そうだね。そして僕が君に与えた力は、君の言葉に合わせるなら記憶干渉は人の記憶に干渉し、その一部を切り落とすことで相手の記憶を消すと言う能力」

「そうだな。それがどうした」

「つまり、君は人々が嫌な時間を消すことができると同時に、人々の幸せな時間、大切な時間、それらを含めた記憶を一瞬にしてこの世界から抹消することができる」

「っ……!…おい、その消された時間はどうなる?」

「きれいさっぱりなくなる。破壊されるのさ。例えばそこに20歳の青年がいるとする。その青年の記憶をすべて破壊する。するとその青年は見た目は青年中身は赤ん坊状態さ」


 例えがユニークすぎてシリアスさが伝わりにくい。しかもどこかの推理漫画と同じようなことをいってやがる。

 そんなことはどうでもいい。

 きれいさっぱり無くなるだって?冗談じゃない。人の記憶をそんな簡単に弄くりまわすなんてそんなのは…


「酷いじゃないかって?笑わせてくれるね。君はついさっき自分で組織のやつらの記憶をすべて破壊しようといったんだ。自分が矛盾の塊であることに気づいているのか?」

「…うるさい。あいつらは俺だけじゃねぇ。何の罪もない人々を捕まえ、遊び、そして売りさばいてるんだぞ?そんなやつらの記憶を壊して何が悪いっ!?この能力を手にいれたのは俺だ」

「別にそれは悪くない。そして君はまだ完全に能力を得た訳ではない」


 な?それはどう言うことだ。


「僕はまだ君にすべてを与えた訳じゃない。そして君も考えろ。記憶をすべて破壊するのに代償がないと思うのか?君が能力を酷使する度にまわりの人間は君の存在を忘れていく。それは力が大きければ大きいほどだ。まずは君と関わりの薄い人から君に関する記憶がなくなっていくだろう。そして最終的には君のことを覚えている人がいなくなるかもしれない。君はそんな力を使うことができるのかい?」

「俺が…皆の中から……消える?」

「そうさ。君がどんなに醜くあがこうが喚こうが君のことを覚える人は誰一人としていなくなる。それが破壊の力の代償だ」

「……別に構わない」


 そうだ。別に記憶からなくなってなにか悲しいことなんてあるか?この世界に来てから交流がある人物なんて少ないし、交流がある人々とも深いものがあるわけでもない。

 今の俺に失って悲しい記憶なんかない。それなら、自分が……ファズやセリアが長く生き延びるためにも能力を酷使してやるよ。破壊者にだって喜んでなってやるさ。


「やっぱり君は面白いね。君をこっちに呼んで正解だった」

「俺はお前の力を、破壊の力を受けとる。絶対に後悔する選択なんかしない。未来のことなんて気にしない。俺は今を生きるためにこの力を使ってみせるさ」

「合格かな。君は僕の力を受けとるのにふさわしい」


 すると突然エルナリオの手が光だす。それと同時にまわりの世界が崩壊していく。その光景はまるで、新たなる破壊の意思を継ぐものが生まれることを世界が祝福しているようだった。

 破壊の意思を継ぐものが誕生で祝福って笑わせてくれるね。

 そんなことを思っていたらエルナリオが口を開く。


「破壊の意思に魅せられし者よ。人々の根源たる記憶を破壊し、汝の意思たるものに己の記憶を捧げる力を受けとるがよい。我は記憶と破壊を司る神エルナリオ!」

「……ああ。勿論だ。使える手はなんだって使ってやる。破壊の意思?上等じゃないか」

 その瞬間世界の動きが止まる。そしてエルナリオの手の中にある光が俺に力を与える。

 沸き起こる感情。破壊の力。そして記憶を司る力。

 それらのものが体を心を支配する。

 今までの自分と融合し混ざりあい、新しい力が誕生する。






▶ジョブチェンジヲ確認…成功シマシタ。個体名“シルベ”ノジョブヲ奴隷カラ記憶の破壊者ヘト変更シマス。


 おお。奴隷から変わって記憶の破壊者とやらになったみたいだ。


▶ジョブチェンジノ影響デLvヲ10ニシマス。


 さらにLv.10になったみたいだ。


▶漆黒の剣

 漆黒の銃

 漆黒の弓

 漆黒の盾

 漆黒の刀

 漆黒の刃

 漆黒の斧

 漆黒の鎌

 漆黒の杖

 漆黒の槍

 漆黒の拳

 ノ解放条件ヲクリアシマシタ。一ツマデ解放スルコトガデキマス。


 なんかよくわからないものまで追加されたみたいだ。エルナリオに聞こう。


「エルナリオ。俺が…力の継承に成功したみたいなんだが、武器がたくさん出てきて解放条件をクリアしたと言うのが出てきたんだがこれはどうすればいい?」

「うん。それは君が好きなものを選べばいいさ。ハサミは仮の姿。君が選んだものが真の姿となるよ」


 俺が選ぶ、か。確かに全部俺は見たことがある。ゲーム内での話だが。何にするか悩むけど、何でもいいと言うならやっぱりここは王道のあれしかない。

 よし、これに決めた。

 ハサミだったものが光だし、形を別のものへと変化させていく。


▶漆黒の剣ヲ解放シマシタ。ソレニトモナイスキルモ解放サレマス。

 《漆黒の剣》500/500


「やっぱり君は凡人ってとこだね」

「うるせぇ。剣が一番しっくり来たんだよ」

「まぁこれでスキルも解放されるだろうし、君の破壊道を助けてくれるはずさ。あとは君の実力次第。お手並み拝見といこうか。」

「あぁ。やってやんよ。それと最後に聞いていいか?」

「なんだい?」

「俺をこっちに呼んだ理由はなんだ?」


 そうなのだ。エルナリオが俺をこっちの世界に呼ぶ理由なんてないはずだ。なのになぜ俺を選んだのか。


「面白そうだったからさ。君自身はかり知れていない力が眠っていそうだからね」

「そうか。じゃあな」


 答えようとする気がないなら帰るまでだ。

 この破壊の力を使ってなんとしてでもあの牢から脱け出すためにもな。



今日このとき。世界に記憶の破壊者が解き放たれた。



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