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2/18

2 世紀末救世主伝説、的な

今回は地の文が多めです。

楽しんで頂けたら幸いです。

今でもカレンダーを見ると、未来のことを思い出す。……なんとも不思議な言い回しだが、事実なんだから変えようがない。


――


俺の生まれた年は、不明だ。ただ、2018年よりは後。それしかわからない。

誕生日は知らないし、生まれた場所も分からない。両親の名前もわからん。

わからんわからんわからん。分からないことずくしだ。

唯一覚えていることといえば、『彼ら』に連れて行かれる俺を見つめる、両親のやつれた顔ぐらい。

確かあれは‥‥‥俺が5才の頃だったはず。記憶は定かじゃない。


『彼ら』とは、日本政府のことだ。

と言っても、2018年の日本政府とは別物。なんたって、クーデターで政権を乗っ取った、うっさんくさい宗教団体がその母体なんだからな。


まぁ、宗教団体が国を統制すること自体は、そう珍しいことじゃない。イスラム教やキリスト教なんて例がある通り、民族を纏め上げる上で、効率的な手段であることは歴史が証明しているしな。 


ちっぽけな宗教団体が、曲がりにも2000年以上の歴史を持つ日本を支配できたのには、理由がある。 


とある『粒子』――『A粒子』の発見だ。

それが、彼らの最も大きな功績で、世界にとっては最悪の事態の引き金であったことは間違いない。

それを応用した『新技術』とやらを使う彼らは、東京を中心に、じわじわと勢力を拡大。恐怖と暴力による支配。徹底的な管理体制を敷き、国民を統制し始めた。

他国の連中が干渉しようにも、『新技術』とやらを保有する日本には、迂闊に手出しが出来ない。


そうなれば当然現れるのが『レジスタンス』だ。東北を拠点に、各地に散らばる彼らは散発的にテロ行為を行っていた。

少数ならば、政府軍はどうとでも対処できるが――なまじ数が多い。推定人数だけで、レジスタンスは100万入を超えていた。

それらを潰すには、どうすればよいか。

東大京大早稲田早慶――とにかく高学歴を極めた『宗教団体』上層部が出した作戦はシンプルで簡潔で、単純だった。


『全地域から子供を攫って、尖兵として利用しよう』


兵隊不足。反乱分子増加の抑圧。理想国家の為の、『信者』の教育。

その計画は一石二鳥どころか、一石五千兆鳥をも超える利益を生み出した。

多くの子供は、度重なる戦闘訓練を経て、反乱分子殲滅に投入される。俺もその一人だった。


幼い体に鞭を打たれ、休む暇もなく戦闘訓練を積み続けた。やっとこさ、訓練過程を卒業したら、今度は実戦だ。

政府の編成した、対反乱分子隊。俺はそこに配属された。

幼い外見で反乱分子を油断させ、彼らを殺し、また次のアジトへ赴き――何回繰り返しただろうか。


生きてさえいればそれでいい。生き残りさえすれば、こんな掃き溜めみたいな世の中でも、楽しいことが一つぐらいはるはずだから。そう思って、日々の訓練も任務もやり過ごしていた。

娯楽は最低限、与えられた命令を忠実にこなし、人を殺すことを厭わない。

それが俺の生活であり、全てだった。

ただ、そんな生活は長続きしない。自分を偽り続ければ、いずれ限界が来る。


初めは10人いた小隊も、気がつけば俺を含めて3人まで減っていた。訓練中の事故、政府による粛清、反乱分子との戦闘‥‥‥死因は様々だった。残った隊員で人員の補充を訴えたが、それは受理されなかった。

そして、3人の内、1人が死んだ。

残るは2人。

戦友の死に打ちひしがれる俺。

しかしもう1人は……


『やっと2人きりになれたねっ!』


思い出すは、クレイジーな同期の少女の声。仲間の死を悲しむどころか、キラキラとした瞳でこちらを見てくることに背筋が震えた。


思い出すは、作戦行動の後。


『あ、あのね‥‥‥サンドイッチ、作ってきたの。食べて‥‥‥くれる?』


サンドイッチは好きだ。このご時世、まともな飯にありつけるだけ幸福なんだし。

でもな。

それは、レジスタンスの死体の横でする問いかけじゃないよな?


『明日も2人でお出かけだね。こんな日々が、ずっと続けばいいのになぁ……』


苛烈な戦場。狂ってる同期。

もう限界だった。

ある日、俺は単独任務にあてられた。クレイジーな同僚は、先日の戦闘で負傷していたから、単独任務だった。

確か‥‥‥秩父の山奥に根城を構える、レジスタンスの殲滅が任務だったっけ。

現場を知らないお偉いさんが、片手間で考えた任務だ。

肉体強化スーツと、一丁の機関拳銃。それに数発のグレネードを携え、俺はレジスタンスと戦った。

戦いは苛烈を極めた。

戦力比は1対50。しかもアウェー。肉体強化スーツが無ければ、一瞬で昇天していたはずだ。

最終的に、俺は全員殺した。


なんとかして勝つには勝ったが、俺はもう限界だった。

今日は運良く生き残れたが、明日、明後日はどうなる? いつかレジスタンスに殺される日が来るだろう。それも近いうちに。


仮に生き残れたとしても、あのクレイジーサイコ女にひっつかれる日々を送らなければいけない。

『明日から、また一緒に戦えるね!』

幻聴は鳴り止まない。心にピシピシとヒビが入るのを感じた。


『生きてさえいれば、いいこともある』

なんて、嘘っぱちだった。


制圧したレジスタンスのアジトでそう気付いた時、体から力が抜けて倒れ込んでしまった。殺したレジスタンスの血がべちゃりと顔についたが、気にもならなかった。


もう全部、どうでもいい。


いっそこのまま果ててしまった方が、楽なのかもしれない――そんな考えが頭をよぎった、その時だった。

床下に、空間があることに気がついた。


隠し部屋――その存在に気がつけたことは、奇跡のようなモノだった。

俺は何かに誘われるように、床下に隠された階段を下っていった。

体感で、50mは下っただろうか。厳重な鉄扉を破壊すると、機械部品の散乱した、6畳程度の開発室に出た。

そして、強化装備の暗視機能で照らされたそこに――それは、存在していた。

10センチ四方の、立方体。いくつものコードを生やしているそれは、生物の胎動のように、駆動音を鳴らし続けていた。


その形には、見覚えがあった。

政府軍に標準配備されている、肉体強化スーツの展開デバイス。体にかざしながらスイッチを入れると外骨格を出現させるそれは、『A粒子』を応用した装置だった。


――どっかの部隊からの鹵獲品を研究していたのか。


と落胆した俺だったが――足元に散らばる書類を見て度肝を抜かれた。


『タイム・ジャンプ・デバイス TJD-2』


散らばっている書類によると、行き先は2018年。初期設定済み。

レジスタンスとして潜伏していた、天才の発明品。

俺にはそれが、天から降ろされた蜘蛛の糸のように思えた。生き地獄を抜け出すための、蜘蛛の糸。この世界から逃げる為に、それを使わない理由は無かった。


……そして俺は、2018年へと飛んだ。戦いと、狂った同僚から逃げるようにして。


開発室には、戸籍を偽造するためのプログラムの入ったusbメモリ、2018年においての現金200万円、簡易的な生活マニュアルが置いてあった。

なので、平凡な生活を送ることは簡単だと高を括っていたのだが……俺には、『2018年の常識』が無かった。

幸い、ここはおおらかな2018年。

常識なんて無くても、なんとか暮らしていくことは出来た。


しかしこのまま歳を重ね、常識のないまま生活することは難しい。

『常識』という装備も無しに戦い抜くことは不可能なのだ。


そこで俺は、『高校』に入学することに決めた。常識を学べ、学歴も手に入り、人脈も入手出来る。夢のような場所だ。

入学料金の少ない高校を選び、『受験』とやらの対策に1ヶ月を費やした。幸い、英語や理系科目の知識は訓練生時代で必修だったお陰で対策は少なく済み、無事合格した。


しかし、俺はここで見落としをしていた。

『常識』を手に入れる高校でも、『常識』が必要だということ。

それに気がついたのは、入学手続きを終えてからだった。

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