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16 現代生活はスマートフォンとともに

「み、岬君……っ」

「なんだ」

「あ、あのね……」

「なんだ」

「おはよう……っ」

「あぁ、おはよう」


「あっ……あのね……」

「なんだ」

「その……っ……」

「なんだ」

「も、もしよかったら……」

「なんだ」 

「一緒に昼ご飯、食べない……?」

「いいぞ」


「岬君……っ」

「なんだ」

「あの……じゃあね。また明日」

「あぁ、またな」


―――――


「コミュ障かいっ!」

「なんだ」

「なんだじゃないよなんだじゃ!」

「なんだ」

「岬君……1つ質問いい?」

「構わない」

「今日、『なんだ』って何回言った?」

「詳しく覚えてないが……8回程度じゃないか」

「やばい!」


びしっと、人差し指を突きつけてくる夕凪。


「……何がやばいんだ」


最近気がついたが、現代の人間は「やばい」という言葉を多用する。

主語も動詞も述語も無しに「やばい」。これで会話が成立しているのだから、女子高生の言語能力はやばい。マジでやばい。やばい。


「今日の柳田さんとの会話っ! 君『なんだ』しか言ってないじゃん!」

「嘘をつくな。『おはよう』と『いいぞ』。あと『またな』もある」

「1つも3つも変わらないよっ。もっと……こう、語彙をだね」

「勘違いをしているようだから、1つ言っておく」

「な、なにかな」

「俺は語彙が無いんじゃなく―――効率性を追求した結果、『なんだ』を使っているんだ」

「……んー?」


イマイチ理解していないような夕凪の反応。

仕方がないので、説明してやることにした。


「『なんだ』という言葉はな、『俺はその情報を知らない』と『俺はその情報に興味がある』という2つの意味をたった3文字に落とし込んだ、超効率的な言葉なんだ」

「なんで会話に効率を求めちゃうのかな……」

「戦闘中に長ったらしく話すつもりか?お前……死ぬぞ」

「……岬君は何と戦ってるの?」


やめろ、呆れ果てたような目で俺を見るな。

夕凪は半眼でじーっとこちらを見た後、大きくため息をついた。


「はぁ……まあ確かに、普通に会話はできるもんね」

「だから言ってるだろう。効率性の問題だと」

「そこが問題なのっ」


机をばんばんと叩く夕凪。


「高校生同士の会話に効率性を求める必要は無しっ!」

「なぜだ」

「いい? 高校生っていうのはね、『会話に目的を求めてる』訳じゃなくて、『会話することが目的』なの」

「……?」


まるで、敵を殺すことよりも銃撃することが目的に変わってしまったトリガーハッピーのような話だ。

意思疎通が目的であるのに、その手段である会話に目的がすり替わってしまっているということなのだろうか。


「目的と手段を取り違えてる、ってことか?」

「ううん。意思疎通の優先順位自体が、会話より下ってことなの」

「あー……」

「意思疎通は二の次で、会話することを楽しんでるって感じかな……うーん、説明が難しいっ」

「……まぁ、なんとなく理解はした」


未来人には理解し難い感性だ。


「あっ、効率性といえばさっ」

「なんだ」

「岬君、LINEやってる?」

「ライン……?」


ライン……ライン演習作戦のことか?

合点がいかない。

なんでこいつは戦史の話を始めたんだ。


「お前って、戦史好きなのか?」

「いや……もしかして、LINE知らない?」

「あぁ」

「あのっ、もしかしてなんだけど……岬君、スマホ持ってる?」

「スマホ……スマートフォンのことか? いや、持ってないが」

「うわぁ……」


夕凪が絶滅危惧種の動物を発見したような表情でこちらを見ている。

なぜだ。


「……スマホ持って無いとか、どうやって生活してるの?」

「どうもこうも、普通に生活している」

「連絡とかどうするの? 伝書鳩?」

「俺の文明レベルを戦前に戻すな。普通に固定電話を使ってる」

「それじゃあ、インターネットは?」

「PCのブラウザがあるだろう」

「えー……」


多少は不便だが、高い金を払ってまでスマートフォンを手に入れたいとは思わない。

俺の手持ち金は未来から持ってきた200万円しか無いのだ。入学金やら家賃やらに使った結果、貯蓄は減る一方だ。

これは俺の生命そのもので、金が尽きたら最後、山に籠もって戦前レベルの暮らしを強いられることになる。伝書鳩だって冗談じゃ済まないぞ。

近々、バイトでも始めるかな……。


「絶対不便だよっ。買った方がいいって」

「お前が決めつけるな。それは俺が判断することだ」

「普通の高校生なら、スマホの1台や2台、持ってるはずなのになぁ」

「……そうなのか?」

「うん。親が厳しい人は持ってないかもだけど、ガラケーならOKな家庭もあるし。ほとんどの高校生は持ってるんじゃないかなぁ」

「……」


どうする……?

「普通の高校生」を引き合いに出され、心が傾き始めたのを感じる。

正直、出先で調べ物をするには便利そうだし……いやまて。幾らかかると思ってるんだ。


「調べ物もできるし、音楽とかも聞けるし。あ、動画とかも見れるよっ」

「全部PCで出来るな」

「運搬性の問題! 外にPC持っていく訳にはいかないでしょ」

「まぁ、一理あるな」


こくこくと頷く夕凪。

すると突然、何かを思いついたように両手を叩いた。


「それならさっ。私が案内するから、明日買いに行かない?」

「いや……まだ買うと決まった訳じゃない」

「えー、買おうよぉ。私、岬君と連絡取りたいし……」


夕凪はおずおずと上目遣いでこちらを伺う。


「PCのメールとか、固定電話でも連絡はできるだろ?」

「でも、家にいないと連絡とれないって不便だよっ」

「言っておくが、俺はアウトドアな人間じゃない。家にいる時間の方が多いぞ」

「えー、岬君の暇人っ」


家にいる=暇人という思考回路は如何なものか。家でなければ出来ないことも多いだろうに。


「という訳で、俺にスマホは必要ない」

「わかったけど……一応、連絡先渡しとくね」


ノートの切れ端に、すらすらと連絡先を書いていく夕凪。

手渡されたそれには、メールアドレスと電話番号が書かれていた。


「……こんな簡単に個人情報を渡してしまっていいのか」

「友人なんだから普通だよっ。岬君は、こういうのを悪用する人間じゃないでしょ?」

「決めつけるのは早計だ。俺がエロサイトに夕凪名義で登録する悪人という可能性もある」

「岬君、エロサイトって言葉知ってるんだ……」

「……俺も昨日知った」


ネットで個人ブログを見ていたら、怪しげなリンクに飛ばされたのが発端だ。現代に来てから最も大きなカルチャーショックだった。

つーか、驚くとこそこかよ。

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