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12 ディストピア飯

「………」


制服のまま、畳に敷かれた布団にダイブする。

布団が汚れるとか制服にシワが付くとか色々考えたが、体を起こす気にはなれない。


『天上真理の会』。 


その名前が、頭の中を這いずり回っている。

現代に来てから、意図的に避けていた団体。関わりたくないし、出来るのならば耳に入れることすら避けたかった。


「くそっ……」


苛立ちのまま、布団を殴る。

ぼすん。間抜けな音が、室内に響く。 


レジスタンスの残したタイムマシン。その開発過程・結果が残された書類に書かれていたことを思い出す。


『過去の改変による未来の改変は不可能』


タイムジャンプデバイス――TJDの問題点。彼らの叡智を詰め込んだ機械が、決戦兵器に至らなかった最大の理由。

つまり、俺が今からあの組織を潰そうとしても―――それは失敗に終わる。仮に成功したとしても、いずれか彼らは復活し、日本を支配することになる。どうやっても俺は未来を変えられない。

どうしようもない、とはこのことだ。


「世界って、残酷だ……」


ぽつり、と思春期男子みたいな言葉を呟いてみる。当然、返事はない。

そもそも、思春期男子はこんなセリフを吐くのだろうか。謎だ。

そんなことを考えていると、ふと、空腹を感じた。


「飯、食べるか……」


人間、どんなにナイーブになっていても腹は減る。レジスタンスに包囲されて、体中の骨が折れ、傷口にはウジが湧き、感染症にかかっていても腹は減るんだ。ソースは俺。あの時は散々だった。思い出しただけで鳥肌が立つ。

というか、さり気なーくネットスラングに順応してる辺り俺には現代人の才能があるのかもしれん。

体を起こし、キッチンまでのそのそと移動する。


さて、何を食べようか。

冷蔵庫には、買い置きしておいた潤沢な食材がある。豚ひき肉。鶏もも肉。チーズ。キャベツ。トマト。じゃがいも。豆腐。etc......。調味料も一通り揃えてある。ネットでレシピを見ながらではあるが、簡単な料理なら作れるはずだ。


……いや、ここは敢えて外食という選択肢もある。

アパートから徒歩五分もない秋葉原には、無数とも言える飲食店が軒を連ねている。サブカルだけでなく、グルメ街としての面もある秋葉原。愛してる。


さて、どうする……?


葛藤。葛藤に次ぐ葛藤。

脳をフル回転させ、夕食について考えを巡らす。

目に映る景色が、モノクロ映画のように色を失っていく。思考に没頭すればする程、比例して色を失っていく感覚。

肉、野菜、米、パン。シチュー、カレー、ラーメン、ステーキ、ボルシチ。

濁流のように押し寄せる、夕食達のビジョン。無数の砂粒から一粒の砂金を掴み取るように、求める食事へと手を伸ばす。


――掴んだ!


無限とも言える料理の中から、俺が選んだのは――!




―――――




セブンやらイレブンやらが描かれたコンビニ袋を逆さにする。どさどさっ、という音と共に、それらは姿を表した。

カロリーメ○ト。ウィ○ーinゼリー。D○Cのビタミンサプリメント。 

それらを包装から取り出し、無機質な金属トレーに載せる。

調理終了、これで完成だ。

名付けて……


ディストピア飯 〜サプリメントを添えて〜。


「いただきます」


咀嚼したカ○リーメイトを、ウィダーinゼ○ーで流し込む。固形物と液体。乾燥と湿潤。相反する二つが調和し、確かな満足感を俺に与える。

コップに注がれた水で、DH○のサプリメントを流し込めば夕食は終了だ。


「御馳走様……ふぅ」


食事時間、30秒きっかり。


このレシピは、俺が未来で口にしていたレーションを可能な限り再現した物だ。

2018年に来てこんな飯を食べるのは、一見すると無意味かもしれない。


ただ、それは違う。


現代には、どんなに高級でどんなに美味な食材でも、勝ることのできない食べ物があるらしい。それが―――おふくろの味、だ。


食事は味が全てではない。味と、それに付随する思い出―――それらを総合したものこそが、『食事』の完成度なのだと俺は思う。


生産プラントが全自動で作り出した食材を、無人工場で効率的な形に成形。出来上がった無機質な食事は、各部隊へ配送される。

訓練生時代でも、作戦行動中でも、俺の胃袋を満たしてくれたレーション達。


彼らこそが、俺にとっての肉じゃがで、生姜焼きで、野菜炒めなのだ。


今だからこそ言える。

ありがとう、レーション達。

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